限られない時間をあなたと次の特攻で川を渡ってくる仲間を迎える際、マエの姿を見て何やら微妙な顔をするきーや。
「マエ、お前か」
不安な気持ちだけを残して、サァッと血の気が引いていく。
「お前にはもっと…少しでも長く笑って生きてて欲しかったんだけどな。来るのがはええよ」
仕方ないか、とか。
誰が来ても同じだけどな、とか。
照れ臭そうに笑う姿を見て、安心して肩の力がふっと抜けた。
会えるかもわからない死後の世界に体が緊張していたのだと今さら気がつく。
きーやの相変わらずに救われた。
分け隔てなく誰にでも優しい、そんな君だから好きになったのだと、涙が流れるマエに慌てふためく姿はたいそう貴重で。
「だから泣いてほしい訳じゃ…あぁっ!マエ!」
手をギュッと強く握る。
「もう、悲しいことなんて何もねぇよ!」
「……(ニコ)」
小さく微笑むしかできないけれど。
それを見て満足そうに顔いっぱいに笑うきーやが好きなのだ。
「はは、暫くは俺だけがマエを笑わせられるってこったな!」
そんなきーやを見て、不謹慎だけれど皆より先にタヒんでよかった、なんて。
「全然涙とまらねぇな?ほら、背中さすってやるから……って、お前それ!俺の写真握りしめてきたのか!?俺が迎えに来なかった時のためか?この人探してますって?」
大声で響く笑い声。
腹を叩くように響く低音の心地よさに、自然と涙が消えていく。
無口でいるのはタヒんでもすぐに直るわけではなかったけれど。
写真の意味を正確に読み取ってはもらえなかったけれど。
それでも、相変わらずの彼でいることに、ひどく安心するのだ。
なよついた指先で腕を掴めば、空いた片方の腕だけで抱き締めて背中をさすってくれる。
誰にでも優しいというそれを、いまだけは一人占めできる優越感。
「他の皆は、長生きしてくれるといいな」
本音には違いない。けど、暫くきーやを独占したい。
掴まれた腕を無理に動かして両腕がきつく背中を締め付けた。
「そうだな、他の連中を迎えにいくのはまだ先でいい」
心地のよい締め付けとは裏腹に心臓が苦しいと悲鳴をあげていた。動いていないはずなのに。
そんな矛盾にクスリと声が漏れた。
「マエは笑ってる顔が一等似合う」
ソノは困ってる顔が面白いし、ヒソーチョは怒ってる顔が強気な子犬みたいで良い。なんて、本人の目の前では決していえない事をいうその顔はイタズラ好きの子供のようだ。
「でもこんな綺麗に笑うなんて、初めて見たかも。なんて、何言ってんだろうな」
「……」
意識はしていなかったけれど、恐らくこの表情を向けるのはきーやにだけ。
ふと手元をみると、写真が光に消えていくのが見えた。
【もう必要ない】
ということだろうか。
答えはわからない。
けれど、目の前には写真と同じ笑顔で抱き締めてくれるきーやがいる。
いまはただ、それだけでいい。
もう離れることはないのだから。