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    ムーンストーン

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    ムーンストーン

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    ダイの大冒険 本編終了後if世界です。
    息をするようにダイポプですが名ありのモブが少しでてきます。
    ダイを追いかけてポップが魔界に来てから1年位、1619の二人です。
    勿論二人はくっつき済み(重要)
    「柔らかい鎖」の少し前で同じ世界線です。

    19.太陽(ダイ&ポップ/魔界)〜最終兵器地上にあって魔界には無いものは沢山ある。
    例えば緑豊かな森や草原。遥か彼方まで続く海原。
    澄んだ水がたたえられた湖や川。
    冷たく凍える雪や氷に穏やかに季節の移り変わりを囁く風。
    地上の鳥や獣や虫、モンスターや人間といった生き物の数はきっと魔界の生き物の何千倍何万倍といるだろう。
    そして何よりも「太陽の恵み」が無いに均しい。


    「太陽」
    かの大魔王バーンを魅了し魔界の支配では飽き足らぬと渇望したもの。
    地上を破壊せんがため神々に匹敵する境地に至り更にそれを超えんとさせた神々の恩寵を象徴する存在にして力そのもの。

    魔界にも魔力で灯る太陽はあるが温もりや生命の恵みを齎す力はあまりにも乏しく、地を歩むもの空を飛ぶもの水を泳ぐものをはじめとして植物に至るまで魔界とは則ち強者のみが生き残る地獄に等しかった。
    昨日までは。


    大魔王バーンが支配していた辺境地イーピネゲイアは雷龍王ボリクスと干戈を交えるダイが竜騎将を名乗ってから最も早く支配下においた地域だ。

    バーンとの戦から約二年を経てまずクロコダインとラーハルトが彼の元へ駆けつけたことで、身一つで魔界に墜ちたダイを最初に受け入れてくれた魔族たちの集落、その砦一つを維持するのが精一杯だったダイは漸くボリクスに反撃する余力を得る事ができた。

    更に一年後ダイにとって思いもよらず大魔道士ポップが魔界の彼の元へ駆けつける前代未聞の「人間による魔界侵攻」により更に兵力を裏づけする地盤を整え支配地の拡大に着手することが実現し今に至る。

    力こそ正義。
    嘗てダイには越えられなかった壁であり竜の騎士にすら変える事が出来なかった魔界における真実だ。

    我こそは神に勝る力を持つ至高者と高らかに宣言した男、数千年にわたり魔界を支配し地上を指先一つで蹂躙してみせた大魔王をダイは勇者のサークレットという軛を双竜紋で破壊し竜魔人と化して更なる力で死に至らしめた。

    それは結局大魔王や歴代の竜の騎士と同じく更なる暴力で捻じ伏せただけで、敵対者であったクロコダインやヒュンケルのようにダイ達の心情に共感して仲間になった訳でも、ハドラーのように敗北すら己の総てを燃やし尽した証だと歓喜して潔く受入れた訳でもない。

    思えば神々とて三界のバランスをとる為におのが手を汚さず竜の騎士(代理人)を遣わせただけで、大魔王の思考と根は同じでは無いのかとさえ今のダイには思える。

    神々の恩寵から最も遠い証拠だと大魔王バーンは三界の有様そのものを憎悪し、憎悪の対象の「世界(システム)」を破壊する為に数千年の月日と努力、高みに到る研鑽を怠らずあと一歩のところまできていたというのに。

    「まさか一生を捧げた夢が現実になるまであと一歩って所からたった3ヶ月でぶち壊されるとは思って無かったろうな〜」
    魔界の仄暗い太陽に照らされた地表より更に地下深くまでメドローアで斜めに岩盤をぶち抜き造られた「制御室」でダイと肩を並べたポップがのんびりと曰う。
    口調は緩やかだが目まぐるしく変わる計器の数値と設計図や仕様書を見比べる目付きは鋭く、手は余白がなくなる程書込みを絶え間なく綴っていてその他まで気を回す余裕がないので、ダイはポップが携わる研究に対して知識が無いなりにできる精一杯の手伝いをしていた。

    集中と緊張の余り額や喉から滲み出る汗を彼の視界を遮らない角度からそっと手巾で拭ったり、ほどよく冷ましたハーブティーの入ったマグカップと一口大にしたサンドイッチを口元まで交互にもっていき食べさせるという重大任務だ。
    元々食が細い上に研究や実験が今回のように佳境に入ると文字通り寝食を忘れるポップが倒れないよう健康管理と毒味も兼ねている。

    何よりダイの番(ポップ)に密着して世話を焼くなど例え彼の腹心だろうと任せられる筈もない。

    先日ダイが数日かけた地方討伐から帰った時でさえ、三徹目で目の下には黒々した隈を見せ足元もふらついているというのにそれでも笑顔で怪我はないか駆け寄りベホマをかけてくれたポップを思い出すと愛しさと等倍の心配がダイの胸を満たす。

    ダイは秘かな嫉妬の対象となっている十数人の魔族たち、制御室で今日も忙しく立ち働く彼らを気取られないよう横目で盗み見た。
    彼ら全ては厳選された妖魔道士であり今は技術文官と呼称されている者たちで、ポップの忠実なる部下だ。
    いや彼らの熱意は「忠実」では表現しきれないだろう。
    刻一刻と迫る「その時」へのプレッシャーの最中でも彼らのポップへ向ける眼差しは尊敬と崇拝に満ち溢れている。

    魔力より腕力が絶対的な価値を持つ魔界で、高度な知力はあれど力無き彼らは常に戦士や知恵ある竜の下働きに甘んじるしか術がなく、理不尽な搾取をされ続けていた所に彗星の如く現れたのが「竜の騎士の魔法使いにして大魔道士」ポップだ。

    妖魔道士と同じく脆弱な身体と魔族に匹敵する魔力と攻撃力を持つ人間は、魔界に現れるや否や難攻不落の城を独力であっさり落としたのを皮切りに華々しい武功をたて続け実力で竜の騎士の片腕におさまった後「武力以外の方法で武力以上の戦果をあげて」みせた。

    その一つが妖魔道士の文官としての登用だ。
    それに伴い武力や戦果だけを重視する評価を変え、サポート部門である内勤の功績・技術の有無も評価対象にした。

    戦士達にとって自分たちの面子を潰しにきたような大魔道士に反発し、余所者の癖に魔法使いの癖にと腕力に物をいわせ黙らせようと詰め寄った脳筋どもに対して強化型ベタンをかけながらポップは滾々と諭した。

    お前らが毎回ぶっ壊してくる武器や防具を修理するのは誰だ?悪魔の目玉を改良して無駄に斥候が死なねぇようにしてくれたのは?空きっ腹を抱えて戻って直ぐに飯が食えるのは誰のお陰だ?etc…
    まあ重圧下であえぎながら脳筋共がまともに聞いていたかは疑問だが。

    頭脳派の妖魔道士たちは有史以来初めて彼らに(正当な)評価をした「大魔道士」に平伏し、彼の手足となって大いに働いた。
    そして彼らが戦士と同等の評価と報酬を受けたのを知った他勢力下の妖魔道士たちも挙って竜騎軍へ、他ならぬポップの元へ馳せ参じるのは時間の問題だった。

    力無きが故に保身の為細く緩く繋がっていた妖魔道士達は竜騎軍へ鞍替えする前に自らの価値を高めようと、自勢力が交戦する前に機密情報を手土産に寝返る事すらして大規模な戦闘をせずにダイたちの傘下へ降る事で悪戯に戦力やインフラを消耗することが減ったことも竜騎軍の勢力拡大を助けていった。

    潮目の変わる時というのは誰が留めようとしても止められないものだ。
    ダイ率いる竜騎軍はポップがダイの元へ駆けつけた時点より半年足らずで数十倍の戦闘員とそれを支える経済力、軍民問わぬ技術者と領民を従え破竹の勢いで統率者を亡くし群雄争覇に明け暮れる大魔王バーンの旧領地を飲み込み冥竜王ヴェルザーの領土まで食い込んでいった。


    “ダイの片腕”の地位を実力で勝ち取った後ポップは地上より進んだ技術や化学を真綿が水を吸うように学びとった端からそれを利用していき、みるみる広がる竜騎軍の領土を‘地上風’に危なげ無く統治することでポップは魔族達は今迄知識を豊かさに繋げようとしなかっただけだ、とダイに教えた。

    大魔王バーンは何千年もの時間があったのにただでさえ乏しい食料や資源を暴力で領民から召し上げるだけで、せっかく手に入れた恵みを育てて分けあたえることをしなかったから太陽がどうとか言う前にいつになっても魔界は貧しいままだったんだと“大魔道士”は鼻先で嘲笑う。

    「種は蒔かなきゃ芽はでねぇし、水も肥料も与えずに実りを収穫できるほど世の中甘かぁねぇのにさ」
    生まれて二十年も経たないニンゲンにまた煽られているのを聞いてダイは流石にバーンが少しばかり気の毒になった。

    そもそも魔界には農耕ができるほど豊かな土地が碌にないのだから、大魔王に農業のノウハウは解るまい。
    俺もあんまり良く解らないと狼狽えるダイの癖毛を軽く撫で、物のたとえだよとポップは壁の一角を指差した。

    ダイは制御室に備えられた無数の遠視鏡の中の一群れに映る新たに開墾された畑の映像に目をやった。
    ポップが魔法筒に封じ込めて持ち込んだ地上の資源の一部は魔界を緑化する為に選ばれた毒や乾燥に強い植物で、主食になる穀物の種も数種類既に実験的に撒かれ地上の実りには程遠いが確実に魔界のそれ迄の数倍になる実りをもたらしていた。

    ある遠視鏡には竜騎軍の兵士や増え続ける領民を養う為に畑や牧草地で女子どもに混じり魔族や知能が高いモンスターの非戦闘員の男たち迄もが食料増産に従事しているのも映しだされていた。
    苟も成人した男が女子どもに混じって畑仕事に従事するなどこれ迄の魔界の常識から考えられない恥にあたるのだそうだけれど、竜騎軍では食物増産に関する労働の方がともすると戦闘より重視される。

    そもそもデルムリン島でブラスが細々と営んでいた畑を知っていたダイには戦士の力を戦闘以外に使うことも、戦闘に向いていない人にそれ以外の仕事についてもらうのも当然の事に思えたからポップの打ち出した政策である重農主義も技術革新推奨も、受入れを渋る頭の固い実力者たちに対してある時は実力行使をしてでも押し通す手助けをした。

    民が真に求める安住の地を与える代わりに、強制された服從でなく自主的な帰服を求める。
    地上流、ニンゲン流の甘さ加減を唾棄する魔族も居ないでも無かったが、毎日美味しい飯が食えるのも農作物の改良や土壌・水の浄化に勤しんだ妖魔道士や実際に作物を育てている領民たちのお陰だとダイは理解し殊の外感謝する姿勢を強調してポップの政策を支持した。


    ダイが魔界に墜ちたての頃は文字通り泥水を啜り毒草を死なない程度食べ、襲いかかってきたモンスターや竜を斃してその肉を喰らうしかなかった。

    デルムリン島にいた頃じいちゃんがつくってくれたお粥やポップが魔王軍との戦いの中なんだかんだ講釈を垂れながらつくってくれた少しでも温かい物を、固いパンや保存食を美味しくしようと工夫してくれた食事を思い出すと何もかも放り出して地上に帰りたいと何度思ったことか!

    「贅沢って癖になるよね」
    「まーな。それが狙いだから」

    最終調整が終わり書類を部下に手渡しながらダイからマグカップをヒョイと取り上げ残りのハーブティーを飲み干してポップはウインクした。
    如何にも上機嫌な笑みはダイにも伝染し肩の力が抜けて呼吸が楽になった。

    「腹減ってるとイライラすんだろ?腹に食い物入れるだけでも有り難ぇって時もあるけどさ」
    「行軍の時とかね」
    ……一人で魔界を彷徨ってた時の事はポップにはサラッとしか伝えてない。
    聞いてしまったらきっとポップはあの黒の核晶が爆発した時に俺についてきたらそんな目にはあわせなかったのにと泣くだろう。
    でも万が一あの時魔界へ二人で来たとしても魔法力を使い切った人間の魔法使いが数日でも生き残れたとは思えない。
    あの判断は間違っていなかったと、ポップの自分へ向ける想いを噛みしめる度にダイの胸に暖かくて柔らかい澱が溜まっていく。

    その澱は確かに父さんの胸にもあったもので、母さんの国が父さんに滅ぼされたように悪縁にも容易く変わるものだと、ダイの記憶を取り戻す為にメガンテを放ったポップをみた時から身にしみている。
    温かく柔らかいものをそのままに守っていくことのなんと難しいことか。

    ポップはダイが気をそらした僅かな時間でまたあっという間に書き込みを終えた図面を巻いて書類入れに使っている机の上の壺に放りこみ、代わりに新たに設計図を広げた。

    今回の設計図には暗号替わりに人間の文字だけで記載されている。
    魔界の文字は必要に迫られて読めるようになったがダイは今だに地上の言葉、人間の文字は苦手なままだったから気になる文字を見てポップにこっそり聞いた。

    「D……なんて書いてあるの?」
    「秘匿名(コードネーム)D・D。俺たちの最終兵器さ」
    ポップはニヤリと人の悪い笑顔を見せた。
    ここの所軍議や戦闘、調略といった場で見せてきたポーカーフェイスもかっこいいけど、ポップにはなにより笑顔が似合う。
    それが敵には悪辣外道に映ろうと、味方にとっては勝利の女神の微笑みに他ならない。

    「兵器じゃないだろ?」
    ダイは手にした設計図から頭上遥か彼方を映し出す遠視鏡に視線を移した。
    もし制御室の外から見たとしてもデルムリン島育ちで驚異的な視力をもつダイでさえこの距離では「D.D」は点にしか見えないだろう。
    訝しげに眺めるダイにポップは苦笑する。
    「何にでも複数の使い道はあるもんさ。黒の核晶だって大陸や地上を吹っ飛ばすことにも、(これ)の為にも使えるのさ」

    そうそう そうですとも!とやたら陽気なガリアードというポップの技術部門副官がいきなり割り込んできた。
    「えーっと ピラァ オブ バーンでしたっけ?地上を跡形もなく吹き飛ばすって触れ込みの大魔王バーンご自慢の兵器は」
    ニヤつく男はペンを振り振り自分の部下に指示をだしつつポップ達に近寄るが、ダイが本格的に威圧をかけてくるラインを侵す事はない。
    暫く前にポップに対し副官の立場を越えた馴れ馴れしいボディータッチをしてダイの逆鱗に触れ、文字通り踏み潰されそうになってポップに対してはUntouchableだと流石に学習したらしい。

    不機嫌そうに睨むダイの機嫌をとる気もない副官は大袈裟に肩を竦め続ける。
    「無理ですよ たった6本じゃ」
    「黒の核晶はたった一つでもヴェルザーの支配してた大陸を吹き飛ばしたそうじゃないか」
    ダイはポップに食べさせ終わった食器を側に控えるポップの部下に片付けさせてから嫌そうに副官にいった。
    「ええヴェルザーの拠点だった大陸(ここ)の表面をね。お蔭で大陸の住民は全滅、資源は今後採掘困難、食料調達に至ってはこの先数百年回復する見込みは無し!その上竜の騎士を始末できなかったんだから骨折り損のくたびれもうけですよ」
    竜の騎士(父親)を引合いに出されてダイの機嫌は更に低下する。
    「まるで竜の騎士が滅ぼされていた方が良かったみたいだな」
    「滅相もない!誤解ですよ竜騎将様」
    敢えて現在の名乗りでダイを呼び大袈裟に平身低頭して見せる魔族の男の目は隠しきれない笑みがある。
    「そんな冥竜王も見捨てた不毛の地をわざわざ手に入れたのは実験場にする為だったんですね」
    ガリアードはポップが制御室と共に設計した実験場を実際に設営した責任者だ。
    どんな無茶な実験をしても生き物に被害が及ばぬよう元々生態系が死滅した場所を選んだポップとダイに、「地上生まれ」は繊細な事だと最初は思っていたが。
    実験内容の数々を知った今では少々…いやかなり図太く感じてしまう。

    「ただね、冥竜王・大魔王ともあろうものが計算が甘すぎたって言いたいだけなんでございますよ」
    頬に手を当て気色悪い品をつくる副官にダイは鼻白んだ。

    「地上には大陸の他に“海”ってのがあるんでしょう?想像し難いですけど塩辛い水が大量に溜まっているという」
    バーン大戦で世界中を飛びまわった経験から大陸より海の方が広いというのはダイにも予想がついたが首肯くに留める。

    「そうだな大陸3割海7割って所かな」
    俺のポップは何でも知ってるなあと尊敬の眼差しで見つめた後、ダイは内心落ち込んだ。

    それを知っているということはポップがダイを捜索する為に文字通り陸地のみならず海原迄も遍く探してまわったことを意味するからだ。
    表情にはでなくとも気分の落ち込みが分かるのかポップは無意識にダイの癖毛を撫でて気を落ちつかせようとするから、もう15才なんだ子ども扱いするなよと思う反面竜の騎士である俺にこんなに無防備に触れてくるのはもうポップだけなんだとダイは少し淋しくなった。

    地上ではデルムリン島の仲間たちにするように肩に飛び乗ったり大木のような腕にぶら下がることを許してくれたクロコダインも、魔界で竜騎衆を名乗りはじめた頃からはダイに対して上下の立場を弁える対応になったし、初対面から「貴方の部下です。さあご命令を!」ムーブだったラーハルトは言わずもがなだ。

    「黒の核晶とはいえあの破壊兵器の本質は衝撃波ですからね」
    敢えて空気を読まないガリアードが続ける。
    「大陸の六ヶ所に仕掛けて誘爆させて?開けた大穴から魔界に太陽の光をあてるってならまだ分かります」
    分かると言いつつこれだから素人は、とガリアードは嘲笑を隠さない。

    「大陸より広い海って水の集まりは魔界の天盤がある所に支えもなくそのままプカプカ浮いてる訳じゃ無いって分かりきった事じゃないですか。岩盤の厚みは大陸の部分よりは薄いかもしれませんがね、そいつをそっくりそのまま残してどうするつもりだったのやら」
    ポップも苦々しい口調になる。 
    「地上の大陸はまあ砕けたとして、その大穴から大量の海水が雪崩こんできたら魔界の生態系から何から壊滅的被害を受けるって想像がつかなかったんかねぇ 大魔王ともあろうものが」

    まさか想像上とはいえ「大陸の破壊」を話題にするとは思わなかったダイは硬直したがピラァ オブ バーンについて語るポップの表情は私情を廃した技術者のものに変わっていた。

    「衝撃波は水中では空中より伝わり難い。もし本当に‘地上全て’を消し飛ばすつもりなら海の中にも6本どころか数えきれないピラァ オブ バーンの投下が必要だったでしょうね」
    「それに気づいた頃には豊かな地上はなくなって魔界は岩盤の欠片と海水の一部の落下で壊滅的ダメージを受けてるときた。誰にとっても得にならねぇ作戦なんだ」
    「もしかしたら…」
    計測器が発する音に消されそうな細やきにポップとガリアードが揃って注目したのでダイは思わず赤面した。
    「もしかしたらさ、神様たちはそれを止めたかったんじゃないかなって。だって地上だけじゃなく魔界まで酷い目にあうことになりそうだったんだろう?」
    「三界のバランスを崩す者を討ち倒すのが竜の騎士の使命だもんな。確かにそうかもしんねぇな」
    ポップはダイに寄り添い戦いに際して竜の紋章が浮かぶ額にそっと自分の額を当て、バーンと戦っていた時より筋肉の厚みを増した背に腕を廻し抱きしめる。
    「竜の騎士さま。お前の比類なき力を俺たち…力無き者の為にお使い下さい」
    「頑張るよ。お前が俺の側にいてくれるって、どんな時でも一緒に戦って最期まで味方でいてくれるって信じてるから」
    「ダイ…」
    「力無き者ねぇ」
    ガリアードは地表からメドローアで「制御室」まで一直線に抉り取られた軌跡に目を向け、竜騎軍の火力No.2に言われてもねと呆れたが二人はまるで聞いていなかった。
     
    「盛り上がってる所申し訳ございませんがそろそろお時間でございますよ」
    咳払いまでされてやっと抱擁を解いたダイは照れ隠しにポップにもう一度D.Dについて訊ねた。
    「D.Dは黒の核晶に吸収されたエネルギーを一気に爆発させるんじゃなく、光と熱にゆっくりと変換する装置なんだ。理論上は地上を照らす太陽のミニチュアだ」
    魔界の昼夜を分けるだけの仄暗い疑似太陽より眩しく温かみを授ける物。
    地上生まれのダイたちでさえ狂おしい程に求めているのだから大魔王すら魅了した恵み(太陽)を一度でも肌で感じた者はもう知らなかった頃には戻れないだろう。

    D.Dがポップの設計通り正しく作動するならば作物の実りは更に増し、大地を汚染し続ける瘴気の浄化も夢ではない。
    そしてD.Dを創り出し維持する技術を持つのは竜騎軍(俺たち)だけだから、これは何にも勝るアドバンテージに一片の暴力も使わず竜騎軍が魔界の万物を平伏させる道具(兵器)になるだろう、とポップは締めくくった。

    ポップはダイを手招きして部屋の中心に独立するダイの肩の高さ程の発射装置の水晶玉を頂く黒塗りの柱を挟んで相対した。
    「一緒に打ち上げようぜ」
    「俺も?どうして?」
    なんで技術者でもない俺がと尻込みするダイにポップが目を細めた。

    「敵の手に落ちて悪意でD.Dを暴発させないよう安全装置(ダブルチェック)になってんのさ」
    「うぅ 緊張してきた」

    起動呪文を教える為に耳元で繰り返し囁くポップも無意識に緊張を解そうとしてダイの匂いを嗅いでいるのに気づいてダイは嬉しくなったが、今それを言うとポップが必ず照れ隠しに暴れるから努力して飲み込んだ。

    正確に呪文を覚えたと納得するまで復唱させてからポップは水晶玉に被せたカバーを外す。
    発射装置に魔力を送り込む為水晶玉にダイとポップの手が重なり起動呪文が唱和された。

    《光よ 我等と共にあれ》

    呪文の響きが消えると共に白煙の尾を引き「D.D」はダイたちの全身を揺さぶる重低音と衝撃を伴いながらピラァ オブ バーンとは反対に虚空に向けて打ちだされた。

    制御室の全ての者が固唾を飲んで見守るなかでD.Dは計算通り魔界の天盤近くの中空に留まりゆっくりと活動を開始する。
    弱々しい白光は次第に強くなり直接D.Dの光に曝される檻の中の実験体の背後にかつて無い黒々とした影がおちる。
    スライスは初めてあびる光に驚いたのか出来る限り丸く縮まっていたが直ぐに陽射しの暖かみを受けようと少しでも体表面を広くして温もろとしていく。
    D.Dの直下と同心円上の数か所に鉢植えされた地上から持ち込んだ植物たちは生き返ったように見る間に緑を濃くし、同じく魔界の植物も葉に力が漲るように風もないのにざわめいた。

    それなのに制御室では金縛りにあったかのように動く者はない。
    5分、10分と痛いほどの緊張が支配する中計測機だけが規則正しく刻まれ「数値安定」を報せている。

    ずっと黙り込んでいるポップが心配になりダイがそっと顔を覗き込むと彼の頬に光るものが伝っていた。
    「せ」
    「せ?」
    ポップはブルブルと震えながら両手を天に突き上げ絶叫した。
    「成功だーーっ!」

    広げた両指から十筋のイオが迸り、威力を抑え光と音だけになっているとは知らない周囲の打ち上げ成功に喝采していた技官達は右往左往する羽目になった。

    「見たかバーン!力が正義なだけじゃねぇ!これ(技術)も正義なんだあの世で吠え面かいてろ!」
    泣き笑いをしながら叫ぶポップを抱きしめながらもダイは脱力のあまり床に膝をついた。
    暴力(こんなもの)が正義であってたまるものか、と泣き叫びながらもバーンを殴打することしか出来なかった竜の騎士(俺)の嘆きに対する解決方法の一つがこれなんだとダイの本能が叫んでいる。

    神代から延々と続く、豊かで清浄な地上を欲する魔に属する者共を神の代理人(竜の騎士)が平らげるという、暴力を暴力で相殺する予定調和を演ずるのではなく彼等が望むモノを魔界に創りだし争い自体減らしていく。
    これは神々すら成し得なかった解決方法(理想)を現実にする一歩になるのだろう。

    魔界の生き物に比べれば脆弱な身体と瞬きの間に寿命を迎える人間である筈の大魔道士が齎したのは大魔王バーンが語った「神々の冒した過ちを償う」もう一つの冴えたやり方なのだ。
    なんと魅惑的で冒涜的な力なのだろう。

    ダイに流れる半分の血、竜の騎士の本能が今まさに己の腕の中で泣きじゃくるモノが三界のバランスを崩す怪物であり、バーンたち三巨頭より危険な存在だと警鐘を鳴らし続けている。
    竜の騎士としてのダイはポップを今直ぐ滅せねばならないと判断して竜の紋章が煌きだすが、人間としてのダイは歓喜の涙と共にポップを抱きしめ深く深くキスを交していた。

    竜の騎士(天罰)にとって神の怒り(雷槌)など大したことはない。
    ダイはバーンを倒す為に散々この身に落雷(おとした)ことさえある。
    ポップは俺が求めているものを今度も差しだそうとしているだけなんだから、もしも神々がポップに鉄槌を下す(雷槌で撃つ)としたら今度も俺が何度でも替わりにうけてやる。
    ポップが三界の敵として断罪されるのならば、父さんが冥竜王から守った人間を滅ぼすと決心したように今度は俺が世界を滅ぼしてやる。

    竜の騎士の誇りだの神から与えられた使命など知ったことか。
    〘バランに続いて俺にまで叛かれたくなければ黙ってポップの創る世界(最終兵器)を認めたらどうだ?〙
    制御室の天井遥か彼方の天界に竜闘気を通して意思をぶつけると潮が引いたようにダイにだけ響く警鐘がプツリと途絶えた。

    竜と魔族と人間の神が創りだしたのは所謂弱肉強食の世界だ。
    戦いに明け暮れる三族を引き離しながらもその強者適応(システム)を維持する為創りだした竜の騎士は最強でなければならないのにそれが今正に崩れさろうとしている。

    「最終兵器。だから俺のイニシャルと同じなんだ」
    神々の最終兵器(竜の騎士)は机に拡げられたままのD・Dの設計図に記されたタイトルをそっと呟いた。

    最終兵器、doomsday device。
    秘匿名 D・D。
    別名 人工太陽。

    精霊の寵児ポップによって創造されたD・Dに対し、神々の遺産であり双竜紋を額に懐く史上最強の竜の騎士は最終兵器の座を平和裏に譲り渡した。

    後に竜の騎士にして竜帝として魔界を統一したダイが制定した竜帝歴はこの日を以て元年と定められる事になる。
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    Replies from the creator

    ムーンストーン

    DONEダイの大冒険 リア連載時から疑問だったバルトスの敵討ちについて書き連ねました。
    以下バルトスファンとヒュンケルファンには申し訳ない話しが続きますが個人の感想なのでお許し下さい。

    ハドラー(造物主)のから信頼より子への愛情を取って責任追及された事をメッセージに残す=ハドラーへ遺恨を残すことになりませんかとか魔物と人間とは騎士道精神は共通なのねとか。
    ダイ大世界は生みの親〈〈〈育ての親なのかも。
    20.審判(ヒュンケル/ランカークス村)〜勇者来来「勇者が来るぞ」
    「勇者に拐われるから魔城の外に出てはならんぞ」
    懐かしい仲間たちと父の声が地底魔城の地下深く、より安全な階層に設えられた子ども部屋に木霊する。
    この世に生をうけ二十年余りの人生で最も満ち足りていた日々。
    ヒュンケルがまだ子どもでいられた時代の思い出だ。


    「暗くなる前に帰んなさい!夜になると魔物がくるよ!」
    黄昏に急かされるようにランカークス村のポップの家へ急いでいた時、ふいに聞こえてきた母親らしい女の声と子供の甘え混じりの悲鳴を聞いてヒュンケルとダイは足を止めた。

    ヒュンケルが声の主はと先を覗うと見当に違わず若い母親と4〜5才の男の子が寄り添っていた。
    半ば開いた扉から暖かな光が漏れ夕食ができているのだろうシチューの旨そうな匂いが漂う。
    2661

    ムーンストーン

    DONEダイの大冒険 ナバラによるアルキード滅亡の日の回想です。
    テランの人口が急減した理由の一つに理不尽すぎる神罰があったのではないかと思います。
    あの世界の殆どの人は結局アルキードが何故滅びなければならなかったのか知らないままだから神の力の理不尽さに信仰が揺らいだ人も多いと思います。
    夢から覚めた日〜ナバラ「あの日」のテランは雲一つない穏やかな陽気だった。

    暑くもなく寒くもなく、洗濯日和と言わんばかりの優しい風が吹きすぎる。
    そんなうららかな日だというのに何時にないむずがりかたをするメルルにナバラは朝から手を焼いていた。

    「いつもお利口さんなのに今日はご機嫌ななめだねぇ」
    女所帯のナバラ達を気にかけて何かと助けてくれる近所の若者、ドノバンがあやしてくれたが更に大声で泣いてメルルは家の中に駆け込んでしまった。 
    「全くだよ。せっかく忙しいお兄さんが遊んでくれたのに」
    悪いねぇと詫びるナバラに、たまにはそんなこともありますよと気の良い笑顔を向け、若者は花と香炉の入った籠を取り上げ竜の礼拝所へ朝の礼拝に向かった。

    「全く信心深い子だよ。テラン人の中でも朝晩欠かさず竜の神殿に詣でるなんてあの子位だ」
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