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    もんじ

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    もんじ

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    ゲヘナAn『ドキサバ』

    ##TRPG

    攻略後SS▼アシェル
    血が、滾っている。
    その臭いが、感触が、色が、全てが。鮮やかに、鮮烈に、自分を狂わせてゆく。
    ここは戦場。血で血を洗い、血で路を切り開く場所。ここにオレは居た。初めから、何もなかった頃から。杯を空にしてからも、それからも。
    手に入れたものは分かりやすい力だった。だから、切り開いていった。それが一番単純で、わかりやすいものだったからだ。楽しかったから。それを望まれたから、そうした。
    そうして、オレは鍛え続けた。刀を、己を。
    だが、立ち止まった。立ち止まってしまった。そして、振り返ってしまった。
    「……あぁ、何もないじゃねぇか」
    今まで歩んだ道は、オレの人生は。
    その時、手にしていた刀は囁いた。契約の時に交わしたあの言葉を。今となっては呪いのように消えてくれない、あの言葉を。
    「弱きものを、見捨てない……か」
    呆然と呟いたそれは、血染めの修羅だった自分を殺すに充分なものだった。
    それからオレは、人間らしく生きようとした。まず、戦うのを止めた。上を説得して、地位を手に入れた。そして、支部という居場所を手に入れた。
    この支部には様々なものが流れ着いてきた。誰もが、何かを抱えていた。だが、拒みはしなかった。それぞれに、かつての自分を垣間見たからかも知れない。

    「支部長♪」
    そう呼ぶ声に振り返る。明るく、朗らかな声。その声に引き戻される思いがした。
    彼女が、マハが、自分を呼ぶその声に、きっと自分は救われている。隣に立つその存在に、安堵している。
    だから、きっと大丈夫だろう。確かなものが、そこにあるのだから。


    ▼サヴァシュ
    こぼれ落ちてゆく。すり抜けてゆく。
    時間の流れには、自分の両手など無意味なことだった。手を伸ばしても、届かない。自分だけまた、過去に取り残されてゆく。
    皆死んだ。寿命、病気、怨恨、事故、戦闘、様々な理由があった。ずっとそれらを見てきた。気がつけば、背を預けていたものは、笑い合ったものたちは、誰もいなくなってしまった。
    いつからか、人を殺すことに躊躇いを覚えた。だが、己を殺してそれらを続けた。続けなければ、かつての仲間達に面目が立たなかった。自分だけこうしてのうのうと生きているのだから。
    しばらくして、自分の手が動かなくなってしまった。殺すために必要な動きが、全くと言っていいほど取れなくなっていた。
    あいつに言うと、にんまりと笑いながら
    「せやなぁ、そろそろアカンかぁ。なら、任せときぃ」
    と言って、それ以降は前線に立つことなどなくなった。それが良いことだったのかは分からない。ただ、漠然と何かを無くしたような気がした。
    それからある日、あの少女を、アナーヒタを救った。いや、その表現はきっと正しくない。俺が、俺の勝手な行動で、ここに置いてしまった。そして彼女はこの支部で働き、享受者となった。それが望んでしたことなのか、そうでないのか分からない。
    俺は、そうしては欲しくなかった。ただ、平穏に暮らして欲しかった。だが、そんなものが無理とは分かっていた。そんな言い訳を繰り返して、10年という月日が過ぎていった。
    月日が経つに連れて、彼女に対する思いが変化していった。だが、それを見ないようにしていた。言えば、この関係が崩れそうな気がしたからだ。あの無人島に行って、彼女と、アナーヒタと向き合って、それが変わった。
    もっと傍に居たいと、願うようになってしまった。
    だから、告げた。『出来るだけ長く、傍に居て欲しい』と。彼女はそれを受け入れてくれた。それが、何よりも嬉しかった。いつか消えてしまうぬくもりだとしても、今はただそれを感じていたかった。
    「……アナーヒタ」
    そっと彼女の名前を呟いた。腕の中の彼女はまだ寝息をたてている。そっと彼女の左手を取った。白く、小さく、細い指先。その薬指に、そっと指輪を滑らせた。これは、きっと束縛の証。彼女を繋ぎ止める、自己満足だ。
    ああ、だからこの瞬間だけでいい。お前を独占させて欲しい。
    そう思いながら、彼女の手のひらにそっと口づけした。


    ▼ヨナ
    夢を見た。悪い悪い、昔の夢。誰かのことのような、でも実際にあった過去の出来事だ。
    僕をつくったひとは、一言で言えば狂っていた。「邪霊の方がまだ話が通じる」と評した人物も居たみたいだが、全くもってその通りだった。微笑みながら人を殺して、首を狩りながら「愛しています」と囁くのだ。そして、僕もそうされかけた。
    未だに忘れることのできないあの感触。首筋に絡みつく冷たい指。身体にのしかかる重み。頬にかかる吐息。あの微笑み。
    「どうして?」と問う僕に、あのひとは変わらず「愛しているからですよ」と一層微笑んだ。わからない。わからなかった。ただ、逃げ出したかった。だから逃げた。
    流れ着いたここは、僕みたいなよくわからないものでも受け入れていた。特に支部長のアシェルは何も言わなかった。口をきかず、ただ俯くだけの僕をみんなは待っていてくれた。

    だからあの日から、僕は別人になった。できるだけ、自分を殺してきた。あのひとと、同じになってしまわないように。
    笑って、戯けて、僕はあのひとの『ヨナカーン』でなく、ただの『ヨナ』になろうとした。そうすれば、僕はあのひとと同じじゃないんだ。って言える気がしたから。
    でも、きっと僕は誰かを愛することはないんだ。いや、愛しては駄目なんだ。僕の愛はあのひとときっと同じで、重たくて、歪んでいるんだ。だから、誰かを愛してはいけない。そう、ずっと思っていた。
    そう、思い込んできた。

    「ああ、でも……そうじゃなかったんだね」
    目の前で寝息をたてる彼女を見て、ぽつりと呟いた。
    僕は、誰かを愛することが恐かった。あのひとを恐れるあまり、あのひとがよく口にしていた『愛』というものが恐くなったんだろう。
    不思議と、彼女といると素直に振る舞うことが出来た。それこそ、本当の意味でただの『ヨナ』になることができたんじゃないかと思っている。
    「それに……君が好きだって気持ちは、抑えられなかったからね」
    彼女の長い髪をそっと撫でる。柔らかくて、さわり心地のよい、きれいな髪。このままずっと触っていたいけど、起きてしまうだろうから名残惜しいけどこれでおしまい。
    後は、君の寝顔を見ながら寝よう。今度はきっと、いい夢が見れるはずだから。
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