桜の溢れる公園、植木のそばにあるベンチ。
この場所まで走ってきた俺たちは、暫しの休憩を取っていた。
「綺麗だな!」
呼びかけられて、同じ気持ちを相槌で示す。
はしゃいだ顔──仕事の時には見せない部分を見せてくれることが、無性に嬉しくてたまらなくなる。
少し子どもっぽいかもだなんて、俺には言われたくないかもしれないけど。
時間は穏やかに流れていく。
喋っていたり、風が花を揺らすのを眺めていたり。
この人とならどっちだって苦じゃないけど、今は声が聞きたい気分だ。
(俺から話を切り出そう)
プロデューサーは水筒を勢いよく呷っている。
いま声をかけるなら──
[Route1]
「すごくうまそうに飲むな、アンタ。」
思ったことをそのまま口にしてみる。なんとなく、今一番気になったことだったから。
「そうか? 自分じゃわからないけど」
「ああ。スポーツドリンクだよな?」
「うん、いつも事務所に置いてるやつだよ。確かめてみてくれ」
そう言うと、プロデューサーは手にしていた容器をそのまま渡してくる。
確かめてくれって言われたし、飲んでみれば良いんだよな?
「……いつものと同じ、だな」
「だろ?」
どうしてそう見えたかを探ってみたり、他愛もない話は弾んでいく。
……ごく自然に間接キスをしたことに気づいたのは、解散した後のことだった。
[Route2]
「飲み物、足りてるか?」
少し心配になる。
この人は俺たちと違って鍛えているわけじゃないから。
「大丈夫、まだまだいっぱいあるよ。」
「足りなくなったらいつでも言ってくれ。買ってくる」
「そんなにヤワなつもりは無いけど……。心配してくれてありがと。タケルは優しいな」
『優しい』って。普段もっと俺たちに気を回しているアンタが言うことじゃないだろ。
そう言ってやりたかったけど、まだ何か言いたそうにしてるのを見て引っ込める。
「でも、気を遣わなくて良いぞ。 ほら、吊り橋効果って知ってるだろ?
心拍数上がってるやつに優しくしたら危ないぞー?」
──なんだよ、それ。
俺の心を散々乱しておいて、やられっぱなしでいろって言うのか。
「うわっ!?」
プロデューサーの身体を引っ張って横に倒す。
頭は俺の膝の上。
「タケル……?」
「……アンタがそのへんのやつにうっかり惚れちまったら困るから。しばらく俺だけ見ててくれ」
弱点を教えられて何もしないほど甘くない。
だけど、どんな『優しさ』なら受け取られる? どうすればアンタの心に入り込める?
答えは出ないまま、俺とプロデューサーはしばらく見つめあっていた。