コンコン。突然背中のほうから響いた硬い音にフリスクは小さく悲鳴を上げかけて、必死にそれを飲み込んだ。
恐る恐る振り向くと、そこには大きくて見るからに重そうな扉がある。この扉を開けてはいけないとトリエルから厳しく言いつけられているため、日頃は近づくこともない。
ただ今日はたまたまトリエルが外に買い物に出かけている日で、留守番中のフリスクは本を読むことにも絵を描くことにも飽きてしまった。
ここで暮らし始めてからしばらく経つが、隅から隅まで探検しつくしたとは言えない。そう、本当にたまたま、今日は好奇心が勝ってしまったのだ。いつもはチラリと盗み見るだけの階段の下に行ってみようと思い立ってしまうほどに。
口を両手で押さえたままフリスクは慎重に後ずさる。確かに音が聞こえた。
この扉の向こうは外だとトリエルには教えられていた。外はとても危険で、フリスクの秘密を知られてしまえばあっという間に捕まえられて、もう二度とここへは戻って来られなくなるのだと。
ジャリ、自分の靴が砂を踏む音がやけに響いて、フリスクは顔から血の気が引くのを感じた。
今の音は絶対聞こえてしまった!
逃げ出したいのに震える脚がうまく言うことをきいてくれない。
「…ノック、ノック」
再び、コンコンという硬い音と、声。
低い、男の人の声だ。
「おばさん?」
それが随分と親しみのこもった呼びかけだったためか、フリスクは思わず扉を見た。「おばさん」とはつまりはトリエルのことだろうか。
それにさっきのは所謂「ノックノックジョーク」というやつだ。
「……どなたですか?」
思わず小さな声で返すと、扉の向こうの人物が少し驚いたのが気配で分かった。
「サンジィだよ」
「…サンジィ、さん?」
「そう、3時だ。オヤツの時間ってな」
タイミングよく階段の上からボーンボーンボーンと柱時計の音が3時を告げた。
「おばさんは留守かい?」
「あ、は、はい。ママはお買い物に…」
「ママ?アンタおばさんの子供なの?」
「……うん」
本当は違う。そう、それこそがフリスクの秘密だった。
トリエルは全身をフワフワとした白い毛に覆われた、大きなヤギのような見た目のモンスターだ。
対してフリスクは全身が黄色っぽい色の肌に覆われていて、たくさん毛が生えているのは頭だけ。
この地下世界には多種多様なモンスター達が暮らしているとトリエルから聞いていた。異質なのはただ一人。地上から転げ落ちてきた「人間」であるフリスクだけだ。