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    しなはる

    葬式「本日はご多忙の中、父・マサハルの葬儀にご会葬いただきまして、誠にありがとう存じます。父は、先月の夜分に倒れ、そのまま眠るように亡くなりました。お見舞いにきてくださった、また、入院中にご尽力くださった方々に、改めてお礼申し上げます。.....」
     
     今日、面河は欠席した。
     皆勤をわざわざ頑張って狙うようなやつではなかった。欠席する理由がないから、土曜日でも、祝日でも、疲れた顔ひとつ見せずに面河は出席する。
     いない理由はみんな知らない。私も知らない。歴史の授業は、いま1900年代の中国についてやっている。面河は、授業をするまでもなく、あらかじめ教科書を読み込んでいるようなやつだったから、ノートを貸し出す必要はない。
     机の端っこは削れている。無性に爪で削った。

     授業が終わったあと、担任が私を呼び出して、封筒を渡してきた。「信濃さんね、面河さんと家が近いでしょう。だからね」この担任は要求を言語化しないで、察させるくせがある。
     なんの封筒だか知らないが、私に渡していいのだろうか。古い蛍光灯が音を立てて点滅した。教室内は薄暗い。外はぽつぽつ雨が降っているようだった。
     冬にかかる秋口なので、4時付近でももう暗い。

     面河について、私が知っていることは少ない。
     雑談をあまりしないからだ。いつも委員会の仕事とか、イベントごとについての打ち合わせとか、そういう話ばかりしている。
     女子高生の会話としては、あまりに彩度が低く、目的を定めすぎていると私でも思うが、面河は不思議と、いつも楽しそうな顔だった。
     というより、面河は基本的に、不機嫌にならないのだ。
     私がキレ散らかしても、地味に首を絞めようとしても効力がない。暴力が通じないのである。
     初めて会ったときから、面河は他の人間とは明らかに、何かが違っていた。
     
     面河の家は、高校のすぐ近くから出るバスに乗り、終点の3つ前のステーションで降りてから、15分ほど歩いて着く場所にある。郊外といえば、郊外で、しかしそもそも対して都会ともいえない県なので、特に中心部とまったく異なることはない。それでも、立地としては不便といえるだろう。バスを待っている最中、ずっと頭上の雲が気になっていた。
     面河の家へ向かって歩いている途中で、いやな予感がして、私は急激に自宅へもどりたくなった。なにか、小さな嵐のような、なぜか私の方へ向かってくる竜巻のような、そういうものに激突する気がしたのである。
     面河と会うときは、いつもそんな感じだ。
     
     私にとって、この地元は、特に愛着もなく、かといって強烈な恨みもない。いとこと争ったあとの夕暮れに見る、田圃のかかしがマジで怖くて、燃やしたいと思ったこと、集団登校という風習があったことなど、小学校の記憶は鮮明にあるのだが、中学からは県内で引っ越しをして、伯母の家に移ったので、それからは特に明晰な風景も覚えがない。
     いちおう、毎日日記はつけていて、だから読み返せばいくらか、まとまった思い出は作り出せると思うが、最近はほぼ明日の予定や、買い物メモと化している。
     今は高校2年生で、かねてからの望みというか、具体的な進路はあるのだが、このぼやけた場所だと、その具体もよく抽象に還っていってしまい、ああやはり、20代で結婚して子供を産むのが孝行娘なのではないかと、はっきりと思うことがあり、そしてそういうとき、しゃくにさわることに、まず面河の顔が浮かぶ。そして、すべての抽象も具体も爆発して、ただ目の前の風景だけが残る。
     これは本当に不可解なことである。
     なぜかというと、私は面河のことが、嫌いではないが、そもそも相性が合わないというか、それ以前に、会っていたら死ぬと本気で思うからだ。
     
    すると途中の電柱に小さな蛾がとまっていた。見てみると羽に粉がたくさんついていて、どうも気味が悪いが、それを吹き飛ばすほどに魅力はある蛾だった。面河の家に向かわず、これをこのまま見て、あわよくば飼ってやろうかと思った。しかしそんなことはしないのだ。私は理性によって司られている存在だ。無視して行くと蛾がついてきた。いくら美しくても蛾についてこられるのはいい気分ではない。私はかばんを振り回して蛾を追い払おうとしたが、失敗。3メーターほど間隔があいて私と蛾は面河の家へ着いた。
    面河の家は立派ではあるが静かで生気がない。今日は一段とそうであり、ベルにつながるひもを引いても寂しい音しかしない。がちゃがちゃと引くのも良識がじゃまするので一定の間隔をおいた。
    「あんた乱暴にうるさいわよいないわ今日は」
     隣の家のおばさんが出てきて蛾に驚いてそれだけ言って顔をしまった。
    ポストに封筒を入れて、私は帰った。
     
     家にかえって課題をすませるとポケベルに着信があった。
    「33414」これはポケベル特有のゴロ合わせだ。誰から送られてきたのかはちょっと見当がつかない。
    私は追求をあきらめて適当に寝る支度をすませて寝た。今日は夢に優しい生物が出てくればいいなと思った。高確率で面河が出てくるのだった。

    「おはよう信ちゃん!今日は一段と目つきがキレてるわね〜、すてきよ!鶴に似てるわ!」
    「あ〜」
     次の日、面河は登校してきた。
    「昨日はどうした?」
    「大したことないわ〜!大したことじゃなかったわ」
     面河の顔は健康そうだった。内側から生命力があふれて肌からしみでているようなピカピカぶりだった。こいつは芸能界に行っても、なんだかんだで名バイプレイヤー的な、そういう立ち位置をゲットして食っていくんじゃないかと思った。
     私にはどうしてそこまでピカピカしていなければならないのか、理解できない。
    「ねえ信ちゃん。昨日きてくれたでしょ?うれしかったわ〜、ごめんねおかまいできないで」
    「ああ、頼まれたからな」
     面河は物理の教科書を取り出しながら、目線をはずしていた。
    「ん?夜よ〜、夜の話。来てくれたでしょ?」
    「はあ?」
    「来てくれたのよ。ありがとうね」
     面河はにっこり笑った。腹が立つほど明るい顔だった。
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