夏の思い出提灯の明かりが街を照らす。ぼんやりと橙に光る街中は着物や浴衣を着た人々で溢れている。今日はクガネの街で夏祭りの催しがあるとのことでルナとステラを連れてやってきた。
「すごーいすごーい!キラキラがいっぱいだ~!」
「ふふ…そうですね。すごく楽しそうです」
そう言って、浴衣を着たルナとステラは手を繋ぎながら歩いている。ステラは大きな花の髪飾りを付けはしゃぐ。ルナは片耳に髪を掛けながらステラの様子を微笑みながら見ている。通りすがる誰もがそんな微笑ましい2人を見ているように思える。そんな中、ふとお面屋にステラの興味が移ると、一目散に走っていくものだから、それをルナが慌てて追いかけている。その光景が愛おしくて仕方がなく感じ、自然と笑みがこぼれた。
「ステラこれがいい!」
「これは…チョコボのお面?ステラちゃんこのお面がいいの?」
「うん!チョコボかわいいよね!ルナくんはこれ!」
「これは……モーグリのお面?ありがとう、僕に似合うかな…?」
「うん!ルナくんはかわいいからモーグリがいいな!んで、とーちゃんはこれ!」
「これは…金のナマズオのお面…?」
「そう!とーちゃんはつよくてかっこいいからきんきらのナマズオ!」
「…いらん」
「おじさんこの3つのおめんください!」
「あいよ!元気だね嬢ちゃん!サービスで嬢ちゃんのお面はタダであげちゃおっか?」
「え!いいのやったー!」
「そんな!お金…きちんと払わないと…」
「いいんだいいんだ!持ってってやんな。こんなに喜んでんだ」
「…すみません。ありがとうございます」
「楽しんどいで」
「ありがとうー!おじさん!」
2枚分のお面のギルを支払い、ステラはウキウキとした様子で3枚のお面を手にすると、すぐにでもチョコボのお面を頭に付けようとしているようだったが、なかなか紐を結べないようだ。手を貸そうと近寄ったが、俺よりも先にルナがしゃがみこみ、慣れた手つきで綺麗に紐を結ぶ。頭にお面を付けたステラはとても嬉しそうに飛び跳ねていた。
「えへへ~にあう?」
「はい。とても似合っていますよ」
「ルナくんもつけて!」
「あ、はい……に、似合いますか…?」
「あぁ…よく似合っているよ」
モーグリのお面を渡されたルナは自分の頭に付ける。俺を見ながら少しだけ恥ずかしそうに笑うルナに微笑みかけながら伝える。
「とーちゃんもつけてよ!」
「俺はいい…」
「ダメ!みんなつけないといみないでしょ!ね?ルナくん」
「そうですね!僕達だけではダメです!」
「!…いや…俺は…」
「いいえ!ソルさんにもつけて頂きます!」
ずいっと寄せられ、そのまま金のナマズオを付けられる。なんとも恥ずかしい気持ちにはなったが、ルナとステラが満足そうな顔をしているものだからそれはそれでいいか、と自分も満足してしまう。それからステラは俺を手を引き歩き始めた。
「とーちゃん!ステラヨーヨーつりしたい!」
「あぁ…お金はちゃんと持っているだろう…?」
「うん!とーちゃんとしょーぶする!」
「勝負…?」
「そう!かったらね…ルナくんにぎゅーってだきしめてもらえるんだ!」
「えぇ!?」
ルナは驚いた様子でステラを見ていた。何も聞かされていなかったのだろう。ステラの思い付きに巻き込まれるのはいつものことだが…
「よし、乗った。その勝負受けて立とう」
「えっ!?ソ、ソルさんまでっ…」
「きーまり!じゃあいっかいしょーぶだよ!」
「もちろんだ」
「も、もう!二人とも勝手に!」
少し困っているルナも愛らしく、俺は気合を入れながら店主に声をかけギルを支払った。ステラは慎重にどれにするか選んでいる傍で俺は薄紫色の水風船を選ぶ。こよりが濡れないように慎重に針をゴム糸の穴に通そうとするもなかなか入らない。何度も何度も通そうとするも、ふよふよと浮かぶ水風船に翻弄される。まるで掴みどころないルナのように…俺が苦戦していると隣から「つれたー!」とステラの大きな声が聞こえた。隣を見るとピンク色の可愛らしい水風船を釣り上げている。それに気を取られた俺はこよりの部分を水に付けてしまい結局釣れずに針を落としてしまう。
「へへーん!ステラのかち~!」
「……負けてしまった」
「はい!ルナくん!ごほうびのギュー!」
「え!え!?こ、ここで?今すぐ?」
「うん!はい!」
ものすごく恥ずかしそうにするルナを差し置いて両手を広げ抱き締めれるのを待つステラ。意を決してステラを抱きしめるルナにスリスリと頬を擦り寄せるステラが、腕の隙間から俺を見ながらニヤリと笑い勝ち誇った顔でルナに抱き着いている。
「このっ…!」
「きゃーやめて~!」
急に負けた気分にさせられた俺はルナの腕からステラを抱き上げ、顔に髭を擦り付けてやるとステラはやめてと言いながらゲラゲラと笑っている。
「とーちゃんの抱っこの方がいいだろう?」
「え~おひげいたいからやだ~!」
「嫌だは酷いな…泣いてしまいそうだ…」
「とーちゃんはそんなことでなかないよ!だってとってもつよーいもんね?」
「ふ…そうだな…」
「ふふ…」
頭を撫でてやると、今度は嬉しそうに笑いかけてくる。そんな俺たちを愛おしいと言わんばかりの表情で微笑みかけてくるルナ。俺は思わずそんなルナにも手を伸ばし頭を撫でた。
「ルナもありがとう」
「えっ!?何っ…えっ!?」
ボッ!と火がついたように真っ赤になり、言葉も出ない様子だった。
「あ〜とーちゃんルナくんのこといじめちゃいーけないんだ」
「いじめてなんかないぞ」
「そ、そうですね!なんだか暑くなって来ましたので、あちらのかき氷でもいかがでしょう?」
「かきごーりーー!ステラはねぇ…あおいシロップがいいなぁ~!」
「食べに行きましょうね」
先にルナが歩き始め、その後を俺たちが追った。少し早歩きをするルナに通りすがりの人の肩が当たる。
「危ねぇなァ…どこ見て歩いてんだ…」
「す、すみません…」
少しよろめくルナに言い放った男はルナの体をジロジロ見ると、ニヤついた表情を浮かべた。
「あたたた…さっきぶつかったところが痛くなってきたなぁ…どう責任取ってくれんだ?」
「それはいけない…急いで治療を…」
そんな2人の間に入り込み男を一瞥しながら、
「ルナくんをいじめるひとは…ステラのてき…」
「………治療が必要なら俺が治してやろう。」
「ひっ…なんか…気のせいだったみたいだなぁ…ははは」
ステラは鋭い目付きで睨みながら、俺は喉の奥底から声を捻り出した声で相手を威圧すると、情けない声を上げながら歩いて行く男。
「あの…ソルさん…?あの方の怪我は…」
「気のせいだったみたいだな。元気に歩いていったぞ」
「ルナくんはステラがまもるよ!」
「?…ありがとうございます?」
「俺が2人のかき氷を買ってきてやろう。ルナは何がいい?」
「あ、でも僕も…」
「いいから、そこにいてくれ。何がいい?」
「では…いちごでお願いします」
「分かった」
訳が分からないといった様子のルナにステラを抱かせながら、かき氷を買いに離れた。変なやつに絡まれるよりじっとしていてもらった方がマシだと思ったからだ。かき氷を買うついでに傍あった出店にクリスタルで仕上げた装飾品が売り出されていた。そこに一つ目を引かれるものを見かけた俺はそれを手に取り購入する。こんなもので喜んでもらえるだろうか…と一人悩んだが、購入してしまったものを渡さないわけにもいかないか、と自嘲しながらかき氷を手に2人のいる場所まで戻った。しかし、先ほどの場所に2人の姿が何処にもなく呆然としてしまう。一体どこへいったのかと周りを見回すもこの人混みでは見つからず、焦る気持ちもある中で聞こえてきた声に耳を傾けた。
「やめて!!!」
「っ!?ステラ!?」
急いで声のした方へ走って向かうとベンチに座っているルナとステラの姿があった。が、その周りには何人かの若い男が集まっている。
「お兄さん達が案内してあげるって言ってるだけじゃん?」
「お嬢ちゃんも何か奢ってやろうか?」
「やめてって!ルナくんにちかづかないでよ!」
「これは上玉になるなぁ…活きがいいのは嫌いじゃないぜ…?」
「お前守備範囲広すぎんだろ?」
「俺はこっちの方がいいけどな…」
下賎な笑い方でルナとステラを値踏みされ、我慢の限界だった俺は、ルナに手を伸ばしている腕を思い切り掴みあげた。
「……俺の番と娘に何か用か…」
「とーちゃん!」「ソルさん!」
「いでででで!?」
「何だこのおっさん!」
「数で押しゃなんとか……」
「用がないようなら…失せろ。小僧ども」
怒気を含んだ凄みのある声に男達は怯んだように後ずさる。掴んでいる腕を振り払いルナとステラに近づいて安否の確認を急いだ。
「大丈夫か?何もされていないか…?」
「調子に乗りやがって!!」
「!ソルさん!!」
ルナが叫ぶと同時に一人の男が俺に殴りかかろうとしていた。俺はその腕をかわし、そのまま持っていたかき氷を顔面に叩きつける。声にならない嘆き声上げながら男は顔を押さえ尻もちをついていると同時に、傍にいた一人が殴りかかる体制となっていたことに気づき、その男の軸足を蹴りつけると、ものの見事に転ぶ様が拝める。次々に倒れていく仲間を見て怖気づいたもう一人の男は情けなく悲鳴を上げながら逃げていく。それを発端に、倒れた男どもも走って逃げていく。
「………大丈夫か…?」
「はい…すみません…僕がいるにも関わらず…ステラちゃんをこんなに危ない目に合わせてしまって…」
「いや…君にも大事がなくてよかった…」
「ごめんなさい…ステラがベンチにすわりたいっていったから…」
「いいえ…ステラちゃんは何も悪くありませんよ…」
「あぁ…二人とも無事でよかった…」
俺はルナとステラの手を優しく撫でた。どうしてこんなにも変な輩に絡まれるんだ…二人が可愛すぎるからか…?なんて悩んでいるとルナが床を見つめながらぽつりと零す。
「かき氷…無駄になってしまいましたね…」
「…すまない…もう一度買ってこようか…?」
「いいえ、今度は皆で行きましょう。その方が楽しいですし、ね?」
「うん!ステラもそうしたい!こんどはちゃんとステラもえらぶ!」
「あぁ…そうだな…」
今度は3人でかき氷を買いに並び、それぞれのかき氷を手にすることができた。ステラは間髪いれずに食べ続け、頭が痛みだしている様子だ。両手を頭に当てて目をぎゅっと閉じ地団駄を踏んだようにくるくるとその場で回り始める。それを見てルナと二人で笑っていると今度は頬を膨らせて怒って見せた。ルナは赤く染まったイチゴ味のかき氷が口の中へ入る瞬間は、何ともいえないほど煽情的で目が離せないでいた。そんな視線に気が付いたルナが子供の様に舌を突き出し「色、どうれふか?」なんて無邪気に尋ねてくるもんだから、危うくそのまま舌を吸い付いて深く口づけをしてしまうところだったが、俺はその衝動を何とか堪え、頭を抱えた。本当に彼は…俺を困らせることが好きなんだな…悩んでいるときにご機嫌斜めなステラがふいに服を掴んで俺を呼ぶ。何かと思い振り向くと、指差しをしていて、その先には射的があった。
「チョコボのおおきなぬいぐるみがほしい!」
「射的か…あのおっきなぬいぐるみは難しいぞ…?」
一番大きなぬいぐるみを指さして、ウルウルした目で見つめてくる。どうしようかと悩んでいると後ろからルナがステラに話しかける。
「ステラちゃん、この僕に任せてください!」
「ルナくん、てっぽうじょーずなの…?」
ふん!と力こぶを見せて、そのまま勢いに任せ店主に話しかけている。射的の構え方を教わり、目標に目掛けて構える。姿勢はとてもきれいな形であったが、パンッ!と音を立てながら銃口からコルク玉が飛ぶとともにルナも大きく驚いたように体を震わせていた。驚いた衝撃で少し浴衣が着崩れてしまっていたが、ルナはそれに気づいておらず、再び構えに入った。着崩れた浴衣の隙間からルナの胸元が見え隠れしている。その光景に思わず息を飲んだ俺は指導という名目で、ルナの後ろから抱きしめるように近づき、手を銃ごと包み込んだ。密着している体の体温、しっとりとした肌の感触、白く美しい項など様々な誘惑が襲い来るも今は銃に一点集中を決め込む。大きなチョコボのぬいぐるみめがけて気持ちを一つにして引き金を引いた。パン!とひと際大きくなり放ったコルクは大きなチョコボのぬいぐるみに当たる。しかし、倒れることはなくその場でゆらゆらと揺れるだけであった。その後も何度かチャレンジはしたが結局大きなぬいぐるみが倒れることはなく、その周りにあったものが落ちただけだった。俺はルナの着物を整えながら拗ねるステラに話しかける。
「また今度、ウルダハでなにか買ってやるから機嫌を直せ」
「いやだ!あのチョコボがいい!はちまきまいてるチョコボがいいの!」
「すみません…僕が頼りないばっかりに…本物であれば外しはしないのですが…」
落ち込む二人に少し困惑していると、アナウンスが流れ始める。
【お集りの皆様、お待たせ致しました!待ちに待ったボム踊りの時間です!そこのお兄さんもお姉さんも!皆でボム踊りを踊りましょう!参加される方はエーテライト前にお集りください!繰り返し申し上げます……】
「ボム踊り…ステラ、踊り大好きなんじゃないか…?」
「ふんっ…」
「僕もステラちゃんのボム踊り見てみたいなぁ?」
「!………い、いかないよ」
「いつも踊ってくれる優しいステラはどこへ行ったんだろうな」
「そ、そんなステラなんか…いないもん…」
「きっととーっても可愛くて誰よりも上手に踊るんだろうなぁ?」
「ふ、ふーん…そんなに踊ってほしいの?」
「あぁ」「えぇ」
「もう、しかたがないなぁ…じゃあおどりにいこう!」
機嫌を直したステラが俺とルナの手を引きながら案内があったエーテライトの傍までやってきた。周りにはカップルや親子が大勢いて、3人での参加はなかなかいなかった。ここはルナと踊ってもらうかと離れようとすると、ステラは「みんなでおどるの!」と頑なに俺の手を離さなかった。困った俺はルナの顔を見て助けを求めるも「僕も一緒に踊りたいです」とやる気に満ちているルナが目の前にいてどうにも逃げられる状況でもないと悟った。あまり踊りは得意ではないが、仕方なく踊ることにして、俺とルナでステラをエスコートしながらボム踊りで人波を進む。こんなに楽しそうなステラの笑顔をみられるならいつまででも踊っていられるだろう。それに、ステラと同じようにルナも楽しそうに踊っている姿を見ることもできたのだから、それだけの価値はあるだろう。俺たちはボム踊りの音頭が鳴り終わるまで一緒に踊り続け、気付けば打ち上げ花火が上がる時間となる。
【ボム踊りはいかがでしたでしょうか?この後はエオルゼア各地の花火師総出の打ち上げ花火が始まります。開始まで今しばらくお待ちくださいませ】
「うちあげはなび、たのしみだね!」
「はい。各地の花火師の方々が協力しているとおっしゃっていましたね」
「花火が見える高台へ移動するか。きちんと飲み物も持っていこう」
少し動いた後で少し疲れただろうと、ベンチに二人を座らせ、近くの出店でお茶とサイダーを買い手渡した。
「ステラ、サイダーだいすき~しゅわしゅわ~ってしておいしい~!」
「僕…飲んだこと…ないです…これはどうやって飲むのですか…?」
「ええ!?ルナくんのんだことないの!?ステラがおしえてあげる!まずは~…」
ステラにサイダーの飲み方を教わり、キャップで蓋を開けようとするルナ。力が足りず力んでいるもなかなかあけることができずにいる。蓋を押さえている手の上からそっと手を重ね、本体の瓶ごと掴んで持つ。触れたルナの手は少し震えているように感じた。そのままぐっと押し込んでやると、ポンッ!ビー玉が落ちるとともに炭酸があふれてくる。ルナはそんなサイダーの開け方に驚き、感激していた。
「おお~!すごいです!この玉で蓋をしてたのですね…」
「こうやって…かたむけてのむんだよ?」
ステラが隣で上手に飲んでみせるとルナはそれを真似するように瓶を傾けた。が、ビー玉がすぐに蓋をしてしまい、うまく飲むことができていない。何度も瓶を傾け飲もうとするもうまく飲めず、傾けた喉だけがコクコクと動く様は妖艶に俺の目に映る。すかさず、目を背けようとするも、その魅力に抗うことは出来ず遠慮がちに様子を伺うと、ルナはビー玉をのぞき込んでは、飲み口に舌を這わせて飲もうとしている。俺は持っていたお茶を握りつぶしながら、即座に止めに入った。
「っ…!?違うぞ、ルナ。ここのくぼみにビー玉をひっかけるんだ……頼むから、そんな飲み方はしないでくれ…」
「…?はい、すみません…?」
何もわかっていないような顔でこちらを見てくるが、いい加減に自覚してほしいものだ…とため息を漏らす。ヒントを得たルナは隣で「わぁ!本当に飲みやすくなりました!ありがとうございます!」なんて嬉しそうに笑ってるものだからなんだか気が抜けてしまう。そうこうしているうちに打ち上げ花火の上がる時間となっていたようだ。再度アナウンスがかかり、俺たちは急いで高台へと向かった。ついた先は少し歩いた先にある高台。先日、鍛錬中に見つけた場所だ。そこには誰も人はおらず、3人だけの静かな空間となっている。ステラは高台の端まで走っていき、よく見えるとはしゃいでいる。ちょうどついてしばらくしたころに花火が上がり始め、ステラは釘付けになっていた。その横にルナが並んで花火が上がる様子を眺めている。そんな様子を見ながら、俺はかき氷の買い出しのついでに選んだ装飾品を取り出した。真ん中に薄紫のクリスタルがついており、左右には黄色のクリスタルがつけられたネックレス。小さなクリスタルは花火が上がると、その光に合わせて輝いている。目を引かれたのは優しげに輝く薄紫のクリスタルがあまりにもルナの雰囲気に似ていたからだ。そう、今日はルナの誕生日でもある。プレゼントを用意することもできなかったため、即席での買い物だったが、似合うと思い買ってしまった。今さら、少し安すぎるか…?と手渡すことを躊躇してしまうと、なかなかタイミングがつかめずにいる。そんな中、ルナがふと振り向き、俺の方へ歩いてくる。
「そんなところで何しているんです?ソルさんも一緒に見ませんか?綺麗に上がっているのが見えますよ?」
「あぁ…そうだな…」
咄嗟に袖に隠し手を引かれるままに歩く。連続で上がる花火は大きな音を立てながらひと際大きな光を放つ。その光に照らされるルナの横顔は今日見てきたどんな顔よりも美しく思わず見とれてしまうほどだ。俺の視線に気が付いたルナは、片耳髪をかけ小首をかしげながら「どうかしましたか?」なんて問いてくる。俺はついに我慢の限界が来てしまい、そのまま唇に口づけた。驚くルナが少し離れようとするも、両手で頭と腰を押さえ深く口づける。緊張で体を強張らせるルナの目を見つめ、今度は首に手を伸ばす。袖口から先ほどのネックレスを取り出し、そのまま首をに付け綺麗に彩った。
「……誕生日おめでとう」
と、短く言い放ちネックレスにキスを落としてからスッとルナから離れる。少しキザすぎたかと照れに似た感覚を覚えながら花火の方を向くが、どうしても様子が気になり、横目に伺うとルナはネックレスを大事そうに両手で包み込んで、幸せそうに微笑んでくれた。その目には涙が浮かんでいるようにも見えたが、花火の光の加減かもしれない。花火はルナの綺麗な瞳とネックレスを輝かせながら、ラストスパートへと入る。今まで以上に大きな花火が上がると一面が明るくなる。すごくきれいだと腕を組み見上げていると、急に体が何かに引き寄せられた。気が付けばルナの顔が目の前にある。どうなっているかを考えるのにほんの一瞬、されどとてつもなく長い時間に思えるほどの感覚。柔らかなルナの唇が当たっていて、そのまま少し吸い付くと薄く開いた口に互いの唾液が交じり合う。ほんの少しだけ舌を吸ってやるとピクリと反応するルナの体。翻弄したい気持ちを押さえ、今はここまでだと自制をかけた。花火が打ち終わり周りの明かりが暗くなるとステラが向きを変えこちらに振り向く。
「ねぇねぇ!すっごー――くおおきなはなびだったね!」
「え、えぇ!本当に綺麗な花火でしたね…?」
ルナが急いで問いに答えるとステラの手を繋ぎ足早に歩いていこうとする。暗い夜道で真っ赤になった顔はステラには見えていないだろう。本当に可愛い俺の恋人。
祭りの帰りは船に乗り、疲れ切ったステラを背負いながらゆっくりと帰路につく。こんなに慌ただしくて楽しいと思える日が来るとは、出会ったあの日からは想像もできないな…と、考えながら今日一日を噛みしめるように思い返す。明日からはまた日常に戻る。少し寂しさを感じていると、
「また、来年も…一緒に過ごしましょうね……ソルさん…」
と、俺の肩に頭を乗せながら伝えてくるものだから、「あぁ…」と返すことがやっとで、来年も一緒にいていいのかと少し…ほんの少しだけ、目頭を熱くした夏の夜の話。