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    minegiku

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    minegiku

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    #ゾネリュウ
    elephantSeal

    唯一の居場所 ここは…どこだ。真っ暗な空間にポツンと一人突っ立っている。訳も分からず辺りを見渡すも何もないただの闇。その真っ暗な空間から抜け出そうとゆっくりと歩き始める。あたり一面何一つ変わる様子もなく歩き続ける。歩いても歩いてもどこまでも闇が広がっていて何も変わることがない状態に不安が募る。不安はその歩を速めていき、いつしか早歩きになっていた。何かないかとあたりを見渡し気持ちを落ち着かせようとするも、何にも見えない真っ暗な闇はさらに不安感を募らせた。次第に早歩きだった歩は走りだし、ひたすら訳も分からず走り続けていた。息を切らして、汗を垂らしながら、とめどなく続く長い闇の中を必死に走って、走って、走った。でもやっぱり何もなくて、不安で、怖くて…哀しい気持ちになる。何もない闇を走り続けるなか、体力の限界を迎えた俺はその場に立ち尽くしている。

    息も絶え絶えに何度も何度もあたりをがむしゃらに見渡していると、足元に違和感を感じた。ぬるりとした感触、まるでスライムのような感触に身の毛がよだつ。下を見るとみるみる内にそれは這い上がってきて俺の体を覆っていく。突然のことに驚く暇もなく頭まで覆われてしまい、反射的に目を強く閉じ、息を止めた。ただ、痛みなどはなくふと目を開けるとそこは水の中。ごぼっ、と息が泡となり上がっていくのを見た途端、急激に息苦しくなってくる。一気に空気を抜かれたように肺での呼吸が難しくなる。こうなってしまうとパニックを起こし、どうやって呼吸をしていたのかさえ忘れてしまう。

    「がはっ…っ!ふっ…っ!!」

    息が吸えない苦しさと水が体内に入り込んでくる感覚に意識が朦朧とする。もうだめだ、と意識が飛んでしまいそうになった瞬間、急にふわっと体が軽くなって次に目を開けるとそこは人ごみの中だった。今まで水の中にいたのに、どうしてこうなっているのか全く分からず、ただただ立ち尽くしていると、周りにどんどん人が押し寄せてくる。四方八方からの人波に押しつぶされ、揉まれてしまい体と体の密着や圧迫による呼吸苦を感じる。人のあらゆる匂いも嗅覚を刺激し体の奥深くまで浸透していく。俺はその場に酔ってしまい、頭もくらくらとしてきて、立っていられなくなった。しゃがみこみ、人の足の間でうずくまる。気持ちが悪い。けど、自分の力ではどうすることもできない。しばらく人波にもまれ続けて、胃の中の物が口から出てきそうになって、咄嗟に口元を押さえる。

    「ふーっ!ふーっ…っ…ケホッ…」

    口も鼻も強く押さえつけてまた息が苦しくなる。喉から這い上がる胃液のようなものを感じ吐きたくない、と強く目を閉じる。すると、ざわついていた周囲が一気に静まり返り、今度は嫌なほど強烈な匂いが嗅覚を刺激した。この匂いは…煙草。重度の喘息持ちであるため、煙草の煙は俺の体には毒でしかない。すぐさま俺は目を開けてあたりを見回すと、そこには複数の男たちが俺の周りを取り囲み、しゃがみ込んでいる俺を見下ろしている。顔ははっきりとは見えない。薄暗い部屋の中でちょうど顔だけに影がかかっているような感じだ。考えている間も煙草の匂いが俺の体中を巡っていく。黒く淀んだ煙が体内に入っていくと考えただけでもまた吐き気を催した。

    「ゴホッ…ケホッ…っ…ぅっ…」

    できるだけ息を吸わないように努めていたがそんなものはいつまでも続くはずもなく、空気を吸うために呼吸を繰り返す。楽になるために呼吸をしたというのに、入ってくるのは煙ばかり。それを吸っては咳込み、また吸っての繰り返し。その気がおかしくなってしまいそうなほどつらい時間は男の一言で一気に恐怖へと変わる。

    「押し付けろ」
    「ひっ!?ケホッ…ケホッ…」

    何を?と男の声がした方へ顔を向けると、火のついた煙草が目の前にあった。目からほんの数センチの位置にある煙草に恐怖した。情けない声を上げ、ジリッ…と後ろへ後ずさりする。何とか咳を押さえながら動くも、何かにぶつかり見上げるとまた煙草。火のついた煙草、害悪な煙の匂い。それだけでまた意識が遠のいたが、次の瞬間には目を見開きその恐怖と向き合うことになる。

    「ひぅっ!?ああぁっっ!!」

    意識が遠のきかけた瞬間、一人の男は俺の腕に火のついた煙草を押し付けてきた。熱さを超えて痛さに変わったその衝撃は、脳をショートさせる。強烈な痛覚に目を見開き、震えながら男の姿を見つめると、口角を上げ愉快げに笑っている。俺はジンジンを痛み出した腕を引っ込め両腕で抱くと、今度は後ろから太ももに熱くて痛い刺激が訪れる。

    「あああぅっ!?」

    またも大きな悲鳴をあげ、痛みに耐える。その男も愉快げに笑い声をあげていて、俺は何もできずにただうずくまることしかできなかった。そのあとも、足や手の甲、項などに次々と押し当てられ、神経もすり減っていく。「もうやめてっ…」と弱弱しい声を上げるも、男どもの笑い声でかき消され、うずくまりひたすら涙を流し続け、終わることを祈るばかり。ぎゅっと目をつむり、ジンジンを痛む体を強張らせて最後にポツリと漏れ出す。

    「苦しいよ…母さんっ…」

    スンッ…と笑い声の嵐が去り、物音ひとつ聞こえなくなった。ヒクッヒクッ、と泣いているところに暖かな光が差し込み、周りが白い光に包まれていく中に優しい声が聞こえてきた。

    「リュース…大丈夫…私がついているわ」
    「っ!」

    その声は紛れもなく母さんの声だった。母さんは優しく俺を抱きしめてくれている。久しぶりの母さんの匂いに安心した俺は、いつの間にか母さんに抱き着いてわんわん泣いていた。いい歳になって母さんに抱き着いて泣くなんて情けないとも思ったが、今までの訳の分からない出来事が本当に不安で怖くて苦しかったから、何も考えられないほどに誰かに縋りたかった。母さんがしばらく俺を抱きしめ背中を擦ってくれたおかげか少し落ち着いてきた。

    「母さんっ…俺、本当に怖かったんだっ…それにこれ……」

    さっき付けられた煙草の痕を母さんに見せようとすると、遠くの方から誰かが母さんを呼ぶ声が聞こえた。その声に反応した母さんは「あら、もう仕事の時間なのね」と言って俺の傍から離れていく。

    「母さん…」
    「ごめんねリュース。仕事に行ってくるからお利口にして待っていてね」
    「………ん…。いってらっしゃい、母さん」

    『待って』の一言も言えない自分に腹が立つ。でも、家族に迷惑はかけられない。俺が我慢すれば皆心配しなくて済むんだから。こんなことも母さんにいう必要ない。だって言ったら母さんは絶対に心配するし、それで仕事に支障が出るなんてことあってはいけないことだから。俺は笑顔で母さんを見送る。最後に微笑みかけてくれた母さんの背中名残惜しげに見つめながら、また広い空間に一人きりとなってしまう。俺は足を抱えて、三角座りになると膝に顔を埋めた。いろいろと巡りめぐってまた涙があふれ出る。なんで俺はいつも肝心なことが言えないのか。本当に情けない。俺なんてここにいる資格もないんじゃないか本当は。そうしたら皆幸せになれるんじゃないか。とどんどん負のループへと陥る。ダメだと思いつつもこうも気が滅入ることがあると人はだめになるものだ。その時、俺は、心の底から呟いた。

    「     。」

    ある言葉を呟いたとき、左手の薬指が輝き始める。何かと思い手をかざすとそれはリング状になっている。それは光の空間の中一番輝いていて、次第にその光は大きくなり、俺を包み込む。その光はとても暖かくて、心地が良くて、何もかもを忘れさせてくれるようだった。その暖かな光は俺の目でも眩しく輝きだし、ギュウ、と目を閉じる。そして微かに香る大好きな匂いが漂うと、

    「帰ってこい、リュース。」

    と、聞き覚えのある、声が届いた。ハッとして目を開けるとそこには、ゾネンさんが本を読んでいる横顔が目の前に映る。ぼんやりする頭でゾネンさんを見つめていると、その視線に気が付いたように視線をこちらに向けてくれた。その顔に左手を伸ばし指輪の嵌っている薬指を見つめるていると、金縁の眼鏡越しから青白く鋭い目が俺の目を捉え、ドキリと胸を高鳴らせた。

    「起きたのか」
    「…ん……はよ…」
    「……うなされていたが…大丈夫か?」

    ゾネンさんが俺のことを心配そうに見つめていることに気が付きバッと体を起こす。髪や首元には大量に汗をかいた痕があり、服もびっしょり濡れていて相当の汗をかいたことを示している。

    「あ、はは…大丈夫大丈夫。ちょっと嫌な夢を見たんだ…」

    こんな姿見せたくなかったのに、見られてしまい焦る。そんな俺を見るや否や読んでいた本をパタン、と閉じ机の上にそっと置く。そして、俺の方へ向くと両手を手に取り諭すように告げる。

    「いいか。お前が『大丈夫』というときは、大概何かある時だ。それに何もない奴のことをわざわざ心配してやるほど、俺は暇ではない」
    「っ…」

    ゾネンさんには何もかもお見通しで、その青白く光る瞳にすべてを白状してしまいたくなる。さっきの夢の話をしなくちゃいけないのかな。でも夢の話だし…変なことで心配をかけたくもないんだけどな…としばらく渋っていると、ゾネンさんが握った俺の両手を自分の両手で包み込んで優しく撫でながら問いかけてくれる。

    「ほら、聞いてやるから言ってみろ」

    その優しい声と暖かい手のぬくもりに目の頭がジンと熱くなる。俺は少しずつさっきの夢を話した。忙しいのにわざわざ俺の話なんかを聞いてくれる優しい人。最後まで話すと、ゾネンさんは俺の頭を撫でて「よく頑張ったな」と言ってくれて、俺の瞳から大粒の涙が流れ出す。今まで我慢していた分が解き放たれたような気持になって、とめどなくあふれる涙に対してゾネンさんは、

    「だがな、これからは俺が傍にいることを忘れるな」

    と、口づけをするかの様に吸い取られる。あの時言った言葉が聞こえていたのかな、と思わすほど、優しくて、甘い甘い、口づけ。触れられた箇所から熱が体全体に広がって、俺を包み込んでくれる。まるで、あの左手の薬指の光の様に。きっとあの光はゾネンさんだったのだろう。俺を闇から照らしてくれる、光明。ずっと探し続けていた俺だけの居場所。俺の一番大切な人へ。やっと素直に言える。

    「…うん。傍にいてくれて…ありがとう、ゾネンさん。」
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    minegiku

    TRAINING
    雨が激しく降る日は大概悪夢を見る。シエルが亡くなる日の夢だ。俺はいつも情けなく泣いている。シエルを抱き柄にもなく声を上げながら。そして世界が暗転し闇に包まれていく。それからここが現実なのか暗転した世界なのかすらも分からずぼんやりと目を醒す。頭の中まで広がる鈍痛と体中汗でびっしょりとなる自身に、いつまでもあの光景がこびりつき考えしまう頭に、つくづく嫌気がさした。もちろん、シエルを忘れたい訳では無いが、あの出来事は相当堪えたのだ。そして、虚ろな眼を向けながら外に出る。雨はいつも俺の体に当たる度に、刃の如く鋭く痛みを感じさせる。まるで、シエルが痛みを訴えているのかと感じる。あの時俺がもっと早く見つけてやれば、シエルを死なせずに済んだかもしれない…ステラを1人にすることもなかっただろう…そもそもあの時に呼び出さなければ…雨の降りしきる中思いを馳せることしか出来ない自分に腹が立つ。強く握りしめた拳はいつしか、爪が食い込むくらいに握られ、うっすらと血が滲み出す。自分の行いは許されるものじゃないことは自分が1番よく分かっている。自分の罪をこの雨に懺悔していると目の前が少し陰り、バタバタという音が耳に入る。途端に冷たく痛い程降りしきっていた雨がパタリと止んだ。重たく下を向いていた顔を上げると黒色の傘が見える。
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