冬の小噺吐く息も凍りそうな冬の朝
食堂から部屋までの廊下をふみしめるたびに
足の先から鋼に戻る
「冬というのは冷たいねぇ」
「寒い、というのだぞ兄者」
「足も手の先も冷えてしまうね、ほら」
きちんと着ればいいのに肩に掛けただけの上着をかきあわせて
空いた片手を手袋からぬいて
ひやりと俺の頬に押しつける
「ひゃぁ!」
「ありゃ?」
ひやりとひやり。
「お前、ほっぺたまで冷たいじゃないか」
冷たいのと冷たいののはずなのに咄嗟の声がでたのは
兄の素手に触れられたから
「早く戻ろうね」
そうして長い廊下を足早に
半ば滑るように部屋をめざす
兄者の素手に手を引かれ
ああ俺も手袋を外しておけば…などと不埒なことを考える
「う〜〜っ寒い!布団、まだ上げなきゃよかったねぇ」
「……」
…布団。。
少しでも外気を入れたくない様子で
襖の僅かな隙間から身を滑り込ませた
「ほらほら弟、おまえ、頬が、。ありゃ」
じゅぅ。
真っ赤な鋼が水に浸かった音がした
「あはは、どんどん温かくなるよ、僕の手のひら」
あったかいねえ、と眦を下げる兄にどんどん体温を上げられて
二振りでいれば、冬もずっと暖かいのだと覚えた