弟は僕の大地(初夏の小噺)僕達の顕現はその全てが審神者の霊力だけど、
僕達の始まりは土のその奥深くから。
溶けて固まって解けて固まって
そうして結びつきは強くなる。
「兄者、そろそろ行かぬと集合に遅れるぞ」
「んん、ありがとう。もうそんな時間かあ」
今日の午前は僕は遠征この子は内番、
最近やけに弟と仕事を分けられる。
どういう方針なのか主の考えはとんと分からないけど、
ちょっとつまらないな、と思ったのはほんの僅かの間だった。
「お前は農具当番だね」
「…その言い方はよしてくれ兄者…」
「あはは、ごめんごめん。今日も暑いから気を付けるんだよ」
真面目な弟をちょっと茶化して、逆らう産毛を撫でつけて。
着せかけてくれた上着の紐を結ぶ様子をじっと見る
「うっかり怪我などせぬようにな」
「お前も、膝まで田んぼに埋まったりしないでよ」
「!!」
春先の珍事に含ませてやったら、
―ぁぁぁ兄者!?いやあれはその…ではなくて兄者!!―
ふふふ、思ったとおりにジタバタどたばた。
仕事の間は離れ離れなんて意地悪!と思ったけど
あの子がどんな心持ちで別々の時間を過ごしているのか、それを思うと楽しくて。
帰ったよ、とか おかえり、とか
言って、見る弟の顔がいつもとびきりだから。
最近やけに弟と仕事を分ける主の考えはとんと分からないけど、こんなふうにワクワクすることもあるんだな、って知れたから。
もうちょっとだけ、この方針に付き合ってあげる。
「弟!帰っ…」
ぴょこっと振り返った麦わら帽子の主は、髪から履物まで白茶けた迷彩柄になっていた。
「お前、それ……僕言ったよね」
「う、、いやこれはその…草を取っていたら耕運機に土を巻き上げられてだな…」
短刀は逃げられたけど、自分は間に合わなかったらしい。速いと言っても太刀だからねぇ。
よしよしご苦労さま、って土埃をはたいてあげてたら、
―ぁぁぁ兄者!?ダメだ!白装束が汚れ…!―
ふふふ、思ったとおりにジタバタどたばた。。
「ねーぇ、弟」
「何だ、兄者」
お前がここ(傍ら)にいてくれるから、僕は背筋を伸ばして立っていられるんだってこと。
いつだってそうなんだってこと。
「、、聞きたい?」
「!?聞きたい!聞きたいぞ!?」
何なのだ兄者!?って、賑やかになった弟に
「ありがとう。お前のおかげだよ、いつも」
「え!?な、、何なの…だ…??」
いい子いい子、って頭を撫でてあげたくなったけど
なんだかもっともっと、甘やかしてあげたい気持ちになったから。
「じゃあまずはお前を丸洗いしてこないとね♪」
泥だらけの弟を両手で抱えて
叫ぶ悲鳴に尾を引かせながら
この子よりも速い駆け足が
溢れる桜を舞い上げた。