山姥切国広が恋をしているらしい。そんな噂を聞いて「偽物くんのくせに…ふーん」と何だか気分がはれない長義。
一目惚れしたらしい。ベタ惚れらしい。とても可憐で綺麗で菫の花が似合うような美人らしい。
そんな話だけ聞いてひとりで悶々とする。国広の好きな相手が誰なのかわからない。そんな長義の気持ちなど知らない国広はあいも変わらず長義に声をかけるけれど「うるさい。あっちへ行け」とあしらわれてしまう。
「あいつが誰と恋仲になろうがどうなろうが俺には関係ないのに」どうして素直になれないんだろうか。もしかして自分は写しのことが好きなのだろうか。妬んでいるのだろうか。長義は徹底して国広を避け続けた。
そうしてある日。出陣した長義が重傷で帰還した。それを目撃した国広は取り乱すも手入れ部屋で長義の目覚めを待つことにした。
「ほんか!ほんか!」
「お前はまた勝手に……あまり離れるな。打たれたばかりで形がまだ定まっていないのだから」
「ほんか!みて!おはな!きれいなおはなみつけた!」
「……本当だね。菫かな」
「ほんかみたいないろ!きれい!」
「……まったくこの子は」
「ほんか、あげる!ほんかのためにつんできたの」
「はいはい、ありがとうね」
「えへへ……ほんか、だいすき!」
とても懐かしい夢を見た。打たれたばかりの小さな小さな付喪神。きっと大きくなれば自分に似て美しくなるはずだと、この時は思っていた。
次の日。長義は目を覚ました。腹部が重い…と視線を移すと国広が長義のふとんに突っ伏してねむっていた。こいつ、なんでここに……と疑問に思いつつ、重たいので国広を起こすことにした。
「起きろ偽物くん」
「……ほん、か」
「重い。どけろ」
「……怪我は……大丈夫なのか……」
「手入れ部屋に入れたんだ。何を心配することがある」
「……心配した」
「俺のところに来る暇があれば想い人のところに行けばいいだろ。……いるんだろ、好いた相手が」
そう言われた国広は、黙って長義を抱きしめた。