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    たけち

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    たけち

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    年齢逆転のルチスパ書きてーなーと思いたって描き始めたのが何年前だったか既に記憶の彼方……最近読み直してこの内容だと逆転する意味なくね?と気付いたけど今更どうにもならんよなぁ。ルッチに長官をクソガキ扱いして欲しかっただけなのに何でこうなったのだ。

    ルッチ(29)×長官(18)の残骸「いっ……てェな! このバカ猫!」
    荷物を運ぶように肩に担がれていた体を長椅子へと放り投げられ、肘掛けに頭をぶつけた。
    それがいくらクッションの効いた柔らかなものであろうとかかる衝撃は中々のもので、後頭部が鈍く痛む。
    「お前、上官に向かってこんな──」
    司法長官の肩書きを持つ者に対しての粗略過ぎる扱いにスパンダムは眉を釣り上げ叱責の声を上げるが、のし掛かる黒い影の圧力に言葉が止まる。
    背凭れに手をかけ片膝を座面に突いた影は、長椅子に投げ下ろした薄い身体をその場に縫い付けるように鋭く冷淡な目で年下の上官を見下ろしていた。
    感情の見えない瞳の奥に金色の獣の気配が揺らめいて、その冷ややかさが伝播したかのように背から冷たいものがぞわぞわと這い上がる。
    ──やべえ……まずった。
    自分を見下ろす瞳から目を離せないまま、スパンダムはこくりと小さく喉を鳴らした。

    スパンダムが政府へ入ると同時に、何もかもをすっ飛ばして今のポジション(ともう一つの裏の椅子)に就いたのは、今から1年ほど前。
    成人したばかりのド新人にいきなり司法長官のポストを与えるという、常識的どころか非常識的に考えてもあり得ない前代未聞のその人事は、当然世界政府内で大きな物議を醸した。
    だが、その配置が最上位からの指示ならば周囲は黙らざるを得ず、異を唱えることのできない直接的な介入に、ごたついていた内部は極めて静かになった。それはもちろんあくまでも表面的なものだけで、奥底ではいっそ清々しいほどの明確な悪意がざわめき始めることとなる。
    辞令を受けたスパンダム自身でも異常と思えるその差配に、上の思惑がどこまであるのかその核心はおろか詳細すら本人には知らされてはいなかった。しかしそれがどういう意味を持つのか理解できないほどスパンダムの頭は花畑ではない。深く考えるまでもなく分かっていた、己の役割は悪意の標的……つまり、餌なのだと。
    政府の司法の長という立場は、現在のそのシステムを考えれば既に形骸化されている役職だが、だからといって成人したばかりのたかが18の若造を置くようなものでは断じてない。そのないはずの辞令が下りたことに対して政府内からは勿論のこと、軍部からの突き上げと反発も相当なものであったが、そこは鶴の一声……いや、五声というべきか。聖地からの最大限の強権が干渉し、全ての声をねじ伏せ人事は押し通された。結果、毒沼から溢れ出る瘴気のような害意は嘲笑や陰口に止まらず、確かな実体を持ってスパンダムの元へと届く。
    彼らの予定通りに。



    エニエスロビーから遠く離れた島で行われた会合は年に何度かあるもので、長官の職に就くスパンダムに宿舎として宛がわれた施設は星が何個か付いた贅沢なものである。
    「ル……ルッチ」
    長椅子に押し込められた形になったスパンダムは、自身を覆う影の名を呼んだ。
    年若い上官を無言で見下ろす平均値を大幅に超えて整ったその顔は、いつものように作り物のような無機質さで感情を見せないが、その身から漏れる不機嫌さは隠しようもなく、負のオーラを纏って圧力をかけてくる。
    「な、なあ、ルッ──」
    反応のない部下の名を再度呼びかけたスパンダムは、不意に自分の頬へと何かが触れる感触に思わず身を竦ませた。
    右頬の少し下を、一回り近く年上の部下の、ルッチの人差し指が拭うように撫で、そこにピリッとした鋭い痛みが走る。ゆっくりと視線を下に向ければ、部下のその指先が赤く染まっているのがぼんやりと見えた。
    一度止まったと思った傷口がまた開いたのかと、スパンダムは思い出したようにその疼痛に眉を寄せる。
    痛みは口角の辺りから耳へと向かって一直線に走り、自分では見えないので多分ではあるが、ルッチの指を見る限り滲み出た体液が赤い筋を作っているのだろう。
    「……人の急所というのは」
    低く抑えた声が、マイナスの温度を持って耳に届く。
    「眉間」
    上官を見下ろすルッチの厚みのある唇が開き、その言葉通り、スパンダムの眉の間が赤い指先で軽く突かれた。
    「眼球」
    瞼の上を撫でるように指が流れ、スパンダムは反射的に眼を閉じる。
    「こめかみ」
    瞼に触れた指が目と耳の中間点辺りに触れる。
    人体を容易に破壊するその指が自身の肌を滑って行く感触に、叫びたくなる衝動を何とか押し止めた。
    「耳裏、顎、喉……頸動脈」
    耳介の後ろにある突起した骨の辺りから下顎骨を辿り、正中のオトガイをくすぐるように掠めて喉頭隆起……喉仏へと降ろされた指は、スイと横へ反れて青白くさらけ出された首筋に。
    ルッチの指はそこで止まり、スパンダムの体温よりも少し高めの熱を持った指先で筋の内側を緩く圧迫され、その下を流れる赤い液体の脈動を殊更意識してしまう。
    「俺は部屋から出るなと、言ったはずですが」
    低く静かな、けれども確実に怒りを滲ませたそれがスパンダムの耳に届く。
    言われた。確かに聞いた。忘れてはいなかった。
    ただ、あまりにドアの向こうが静かだったので大したことはないのだろうと思ったのだ。今までも何事もなく無事であったから今回もそうだろうと考えたのが不味かった。

    スパンダムが長官職に就任してから約一年。まだ尻に殻が付いたままのひよっこ司法長官がその身を狙われたのは、直接的にも間接的にも既に両手の指では足らぬほど。
    元より恨みを買いやすいポジションゆえ代々の長官職に良くあったこととは言え、たった一年でその異常な頻度は歴代を見回しても群を抜いていた。
    あまりに強権すぎる暴挙とさえ言える人事が見え見えの罠だというのにもかかわらず、政府内部に潜む不満分子を追い立てるのに予想以上に機能したのは、スパンダムが餌としての役目を十二分に果たした結果だ。
    無論、部下達により全ては未然に塞がれており、本人がさしたる危険を感じることもなく世界政府の内部では、正義の名の下に粛々と浄化が行われていた……筈だったのだが。
    それが、若過ぎる司法長官に慣れをもたらした。
    優秀な部下達によって鋭い刃や毒がスパンダムに届く以前に、視界にも意識にも入ることさえなく、自身が標的にされているという自覚が薄れた。

    「これが」
    首で留まっていたルッチの指が頬に戻り、また、傷口を撫でる。
    「少し下にずれていれば、どうなったか」
    頬を撫でる指が再び首筋へと降りて、トクトクと脈打つ箇所に触れる。
    青白い頬にある傷は鋭いナイフにより作られたもので、暇を持て余したスパンダムがルッチの言いつけを破り部屋を抜け出し、シンと静まった館の通路を曲がったところでそれは音も無く飛んできた。
    運が悪いのか悪運があったのか、いつもの如く何もないところで躓いて体が少し落ちたところに銀色の光と風切り音が顏を掠めた。軽い音を立てて背後の壁へとそれが突き立ち、ふわりと落下していく切れた髪が自分のモノだと気付いた後、ようやく頬に痛みが走った。
    ああ、そうか、自分は餌だった。そう思い出した標的に、外したナイフに続いての確実な二撃目は────なかった。
    通路の先には人が倒れ込み、赤い絨毯の上にそれよりも濃い染みがジワジワと広がっていくのがスパンダムの目に映った。
    『部屋から出るなと、言ったはずですが』
    そうだ、そこでも言われたのだ。咎めるように。
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