オーカイワンドロ「歌合戦」「酒」万雷の拍手が鳴り響き誰かが魔法で飛ばした紙吹雪が舞う中、皆にありがとうな!と手を振りながらカインは自分の席に戻った。今夜は賢者様の世界の文化を取り入れて、魔法舎歌合戦が行われていた。
なんでも、組み分けをし歌を歌い一年の終わりを締めくくるそうだ。賢者様からその話を聞いた魔法使い達が面白そうだから魔法舎でもやりたい!と皆に声をかけて12/31の今夜こうして集まって開催されている。
カインはシノとラスティカと3人で[闇宿す手のひら]というユニット名で参加した。3人とも黒い手袋をしているからという理由でムルが名付けてくれた。クロエが作ってくれた3人お揃いの黒いセクシーな衣装を着て、少しダークで妖しい雰囲気の曲をラスティカが作ってくれた。ダンスの振り付けもして3人で歌って踊ったら大好評だった。
カインは歌うのも踊るのも好きなので今夜は楽しい夜だなと思いながら、シャイロックが運んできてくれたビールを飲む。爽やかな喉越しと少しの苦味が最高にうまい。今年も厄災との戦いで色々あったけど良い一年だったなと振り返りながら、皆で盛り上がった。
夜も更け、まだ酒が飲めない若い魔法使い達が少しずつ部屋に帰っていく。残ったのは酒を好む大人の魔法使い達だった。皆酒が強いのでまだまだお開きにはならない雰囲気だ。カインは楽しい気分でいつもより盃を重ねすぎた。少し酔ったなと自覚をして、外の空気を吸おうと一人で中庭へ出る。
師走の夜は寒い筈だが、酔いで熱ったカインは夜風を涼しく感じた。庭の隅の方まで歩いていると、どこからか小さな歌声が聴こえた。
耳を澄まして、歌声の主を探ろうとする。低くて優しくて心地の良い歌声だった。もっとよく聴きたくて、カインは声のする方へと歩いていく。庭の隅のベンチに座り猫を膝に乗せて歌っていたのはなんとオーエンだった。カインの気配に気付いたのか、オーエンの歌声は止んでしまった。カインはその事を残念に思いながら声をかけた。
「オーエン。いないと思ったらこんな所にいたのか」
カインはオーエンの隣へと腰掛ける。
「馬鹿騒ぎがうるさくて、あんな場所にずっといられないよ」
オーエンは呆れた様子で呟くが、それでも甘いリキュールを飲みながら隅のテーブルで歌合戦を聞いていたのをカインは見ていた。
オーエンの膝で寛いでいる猫がカインを見上げて甘えた声でニャア、と鳴いた。オレンジのトラ柄の猫はオーエンに懐いていてよく一緒にいる所を見る。カインは微笑ましく思って猫の顎をそっと撫でる。すると猫はグルグルと喉を鳴らして気持ち良さそうに目を閉じた。
「それより、なんて格好してるの?騎士のくせにふしだら‥」
オーエンがカインの服装を見て、何故か怒っていた。素肌にファーのついた黒いエナメルのジャケットを羽織って、下は同じ素材のショートパンツ。編み上げのニーハイブーツを履いていた。
「ちょっと露出が多かったか‥?でもユニットの雰囲気には合ってただろ」
オーエンが不機嫌そうに自分のマントを脱いで、カインを包んでくる。
「あんまり他のやつの前でこういう格好するなよ」
オーエンが機嫌が悪くなる理由がわからずに、カインは曖昧に頷く。話を変えよう。
「ところで、オーエンって歌上手いんだな。初めて聞いたよ。オーエンも歌合戦に出れば良かったのに」
「は?あんな騒ぎに混ざるなんて絶対に嫌」
吐き捨てるように言うオーエンに、カインは提案した。
「じゃあ静かな場所で、俺だけの為に歌ってくれないか?それならどうだ?」
カインはまたオーエンの歌が聴いてみたくてお願いしてみる。
「僕にタダでおねだりできるなんて思ってないよね?」
オーエンが目を細めて、ニヤニヤとしながらカインに言い返す。
「う、そうだよな‥」
カインは何か対価になるものを考える。ケーキじゃいつもと同じだし、でもそれが一番いいのか?酒はオーエンは何杯飲んでも酔わないから支払いが嵩むな‥カインが思案していると、オーエンがグイっとカインの顎を掴んで口付けしてきた。
いつもの様に強引に口の中を掻き回される。体温が低いオーエンの舌は熱かった。舌を絡められて吸われると気持ちが良くて息が上がってしまう。カインの瞳がトロン、とした頃やっと開放された。
「今夜僕のベッドで騎士様のかわいい声を聞かせてくれたら、お前だけの為に後で歌ってやってもいいよ。まぁ気絶せずに起きていられたらだけど‥」
「‥ああ」
オーエンの誘いにカインは了承した。オーエンに抱かれるといつも感じすぎて訳が分からなくなってしまう。身体に灯った火をどうにかして欲しくて、カインはオーエンの背中に手を回した。