愛してるゲーム昼下がりの談話室で、俺は賢者様と向かい合って座っていた。テーブルの上には美しい花が生けられた花瓶と美味しいクッキーと俺が淹れた紅茶が並んでいる。用事があって中央の街へ出たら新しい店に美味しそうなクッキーが売っていた。お土産に買ってきたら、一緒にお茶にしましょうと賢者様が誘ってくれたのだ。賢者様の目を見て、俺は言う。
「晶、愛してる‥」
微笑みながら見つめると、賢者様は真っ赤になった顔を手で覆って首を振った。
「カ、カイン‥それ以上無理です‥!格好良すぎて心臓がもたない‥」
ギブアップの仕草をした賢者様を見て俺は破顔した。
「俺の勝ちだな!」
「うう、カインには一生勝てそうにないです‥」
「はは。晶のこれからの成長も楽しみにしているよ」
別に俺は賢者様に告白していた訳ではない。話の流れで、賢者様の世界で面白いゲームがあると教えてもらってやってみようという事になったのだ。賢者様とその後も話に花を咲かせていると、フィガロが談話室に入ってきた。
「話し中にごめんね。双子先生が次の任務のことで賢者様に話があるって」
「わかりました。すみませんカイン、ちょっと行ってきます」
「ああ。ごゆっくり。いってらっしゃい」
賢者様がいなくなった談話室で紅茶を飲んでいると、クッキーを入れていた皿がフワフワと浮かび上がって後ろの方に飛んでいった。振り返るといつからそこに居たのか、オーエンが立っていた。晶に買ってきたクッキーを勝手に食べている。
「オーエン。お前の分のクッキーは別で買ってあるから。それは晶のだ」
そういうとオーエンは不満そうにテーブルに戻して、俺が座っているソファの隣にドカっと腰を掛けた。
「そんな事より騎士様。騎士が誰彼構わず愛の告白なんてしていいの?」
オーエンが甘いものよりもそっちの方が気に掛かっている様子に俺は驚いた。
「あれはゲームだよ。俺が愛を誓うのは本当に好きになった人って決めてるからな」
「ふぅん‥」
オーエンが興味なさそうに返事をしたと思ったら、突然俺の肩からサイドに垂らしている髪を掴んで口付けた。
「愛してるよ、騎士様‥」
普段のオーエンからは想像がつかない、王子様っぽい仕草にカインはドキドキした。至近距離で見ないと分からない、銀色の長い睫毛に目を奪われる。オーエンが本気で愛の告白をしたらこんな感じなんだ‥いつもの酷薄な笑いが消えた整った顔には真剣な表情が浮かんでいる。カインはブワッと顔が赤くなる。
「騎士様‥、本気だよ」
首筋をスリっと撫で上げられて身体がビクッと震える。カインは耳まで赤くなってしまった。これは俺の負けだ。
「ストップ、オーエン。俺の負けだよ‥」
カインはこれ以上耐えられそうになくてギブアップした。それと同時にオーエンはこんな告白を誰かにしたことがあるんだろうか、とモヤモヤする気持ちが湧き上がった。オーエンって女性の扱いにも慣れてる様に思うし‥。これではオーエンの過去の相手に嫉妬してるみたいだ。1200歳も年上の相手の過去を気にしたって仕方がないのに。
「騎士様、僕に愛してるって言われて照れてるの?」
分かりきってる癖にニヤニヤと笑いながらオーエンはわざとこういう事を言ってくる。
「ああそうだよ‥もう勘弁してくれ」
オーエンの顔の近さに耐え切れず、柄にもなく恥ずかしくなってしまう。
「ふふ。騎士様、真っ赤っかで美味しそう。‥騎士様の事食べてあげるから、ここで抱かれたくなかったら部屋に行こうよ」
オーエンの美声に囁かれて、カインは何度もオーエンの手で開かれて快感を植え付けられた身体が疼く。カインはコクン、と頷いた。