【フェヒュ】自信家に関する噂話帝国貴族エーギル公爵家の嫡子、彼の脚の間のモノがとてつもないという噂があった。
エーギル家に出入りする使用人の間での話があちこちに広まり、今ではその噂を知らない人が殆どいないと言う。
この噂話は情報の流れに敏感なヒューベルトの耳にも触れたことがある。 こんなに過度な情報を知って一体何に使うのか、初めて聞いた時は川で耳を洗いたかった。
噂の主人公がガルグマク修道院の士官学校に入学した時には様々な理由で注目された。演舞場や公用風呂場など、皆の前で脱衣することがある度、その噂を知っている人たちの大半の視線がフェルディナントの下半身に向かった。
ある日、着替えている途中、ある学生か修道院騎士かが彼に直接モノの大きさについて聞いた。単に大きさだけだったら、フェルディナントはちゃんと答えてくれたかもしれない。
しかし、その人は愚かにも入学前、社交界にフェルディナントと艶聞があったある商人の娘の名前を口にしたのだ。フェルディナントは顔を赤くして「無礼だ」と一喝してその場を立ち去った。好奇心で耳を傾けていた人たちは自分が恥ずかしくなったが、怒って歩いていくフェルディナントの脚の間で揺れるモノに、決して目を離さなかった。その場にはヒューベルトもいた。あの時、やはり無駄な騒ぎを目撃したんだと思った。
いつかそれが誰よりもヒューベルト自身にとって有用な情報になるとは想像もできず。
フェルディナントの太腿を手で弄ると短剣に触れ、ヒューベルトは自分の袖の内側や脹脛、腰などに隠していた幾つかの暗器を思い出した。ともすればフェルディナントを傷つけるか心配になり、体にある武具はあらかじめ解除しておこうと彼に提案した。フェルディナントは喜んでベルトを解いて、腰の剣を抜いてベッドの下に置いた。
「持ってるのはそれだけですか」
「うむ?私はこれだけだが。君は予想以上隠している物が多いね」
なら太ももの内側のそれは何かと聞こうとしたが、ヒューベルトは遥か遠い記憶の中の噂話を思い浮かべたのだ。
「貴殿こそ...ど偉いモノを隠していらっしゃって…」
ヒューベルトは再びフェルディナントの太腿の奥に手を伸ばした。
「ウッ...!別に隠したことではない。君も...噂ぐらいは知っているはずなのでは」
「はい、エーギル家の跡継ぎがものすごい自信家だという噂、私も聞き慣れています」
何故か、先触れた時より太腿のアレが更に大きくなっていた気がした。
「その噂なんだけど…一体どの様なの話が広がっているんだ」
「ええ、脚が三本あるように見えるとか、子供の腕ぐらいの大きさだとか、また…ある令嬢が寝床から逃げ出したとか、大きさはあるが実質的な役目は果たせないという悪意的な噂もありましたな」
フェルディナントはヒューベルトの言葉で顔を真っ赤に染めた。
「それは...事実ではない...」
「噂話というのは膨らむものです」
「しかし、一部は事実かもしれない」
「はぁ?」
「大丈夫、君に痛いことはさせないように努力するから」
ただ聞き流した噂の真相を後日、自分がどのような形で向き合うことになるか、誰が知っただろう。ヒューベルトは冷や汗をかきながら右足の内側で最後のナイフを取り出した。