Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    01771G

    @01771G

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 44

    01771G

    ☆quiet follow

    モブ時点です

    【フェルヒュー】夜の舞踏会「また忙しくなる前に、舞踏会見にいこう」

    数十人の来客のため、早朝から慌ただしい厨房にようやく平和がやってきた。今日この邸宅には貴族と富豪が集まっている。舞踏会とはいえ、踊り好きの人たちが集まったわけではない。舞踏会、ティーパーティー、キツネ狩り、舟遊びなど、さまざまな名前と形式で呼ばれる、いわゆる社交会である。一生顔を合わせることなく、雲の上の人たちのような、噂でしか聞いたことのない「貴族様」たちと、その贅沢な遊び文化を見物することは、平民たちの数少ない楽しみでもあった。一緒に洗濯場で働いていたロビーの手に引かれて報酬のいい仕事に就いたのは良かった。だが、フリッツは貴族たちがどんな顔であれ、パーティーの残りの食べ物を持って帰りたいだけだった。

    「いや、私はここで休むよ」
    「ここで休んでいると、メイド長に文句を言われるだろう。誰かが探す前にこっそり抜け出して来よう」
    「舞踏会場に忍び込むつもりなの?」
    「さっきいい所を見ておいたんだ」

    ロビーは厨房の後ろにあるくぐり戸を通じて邸宅の外に出た。建物をぐるりと回って舞踏会が開かれる宴会場と一番近い窓際についた。初夏の草虫の音が室内でかすかに鳴り響く木管楽器の音と交わった。

    「どうだ, 特等席だろう」
    「へえ…」

    興味がないとはいえ、明るい光の下で動く人々の華やかな外観ときらびやかな身なりは、まるであらゆる種類の鳥を一ヵ所に集めているように見えた。ビールの泡と豚油を唇につけて足を踏み鳴らしながら、にぎやかに笑って騒ぐ村の祭りの舞台とは、はっきり違っていた。それでもじっと見ていると、宴会場にはダンスを楽しむ人がいるかと思えば、ただじっと隅に立ってダンスを見つめている人、宴会料理を食べるのに余念がない人、会話の中で居眠りする人、多くの追従者に囲まれた人気者、寂しがる人、退屈がる人など、様々な人々が目に入り始めた。フリッツは窓に鼻を突っ込んで見つめているロビーをちらっと見た。

    「探す人でもいるの?」
    「うん」
    「顔は知ってる」
    「みんな見れば分かるんだってさ」
    「誰を?」
    「宰相閣下!」

    ロビーの言葉どおりだった。上流社会に関心のないといっても貴族の中の貴族と呼ばれるフェルディナント·フォン·エーギル宰相の秀麗な外見はアドラステアの人なら誰でも知っていた。夕焼けのような長いウェーブヘア、太陽を映えるように輝く瞳、端正で美しい顔、戦場で倒れた兵士たちも起こしたという力強い声…かなり誇張された話もあったが、宰相がすごい美男子であるということだけは、多くの人が信じていた。

    「まさか今日ここに働きに来たことも…」
    「うーん、別にそんなことはないけど、こんなチャンスなんてめったにないじゃん」

    フリッツはため息をついてロビーと一緒に宴会場を再び見回した。

    「踊る人の中にはいないと思うんだけど…」

    二人ずつペアを組んでぐるぐる回る人々が、フリッツとロビーが立っている窓際を通り過ぎたが、「エーギル宰相」らしい顔は見られなかった。宴会場の内側は窓からはあまりにも遠くて顔がよく見えず、誰が誰だか見分けがつかなかった。

    「もしかしてあの人じゃないの? あの奥の方に…」
    「どこ?よくわかんないな」

    窓際に寄り添い、あちこちを見ていた二人のひそひそとした声の後ろから、ふかふかとした芝生を踏んでくる足音が聞こえてきた。ひょっとして誰かの目に留まり、給料ももらえず追い出されるのではないかと恐れたフリッツとロビーは、息を殺して草むらに寄り添って座った。ザクザクする足音の持ち主がフリッツの視野に入ってきた。普通の人より頭一つは高い身長、日が暮れても目立つ青白い肌、短く黒い髪の間に輝く薄緑色の瞳…フリッツは初めて会った人でも、その人が誰なのか知ることができた。誰でも「一度見たら良くない意味で忘れられない」という悪名高いベストラ宮内卿だった。

    「ひぃっ…!」

    凄まじい宮内卿を実物で見た感想は言葉にできない恐怖に近かった。怖がってうつむくというのがかえってかさかさと音を出してしまった。間違いなく彼に気付かれた。ヒューベルト·フォン·べストラ宮内卿は暗殺に長けた鬼のような人だと聞いた。だんだん近づいてくる足音に心臓が震え、どうしたらいいか分からないフリッツが目をぎゅっと閉じるのを見て、優しいロビーが手を握ってくれた。

    「ヒューベルト!」

    どこからか清涼な声が飛んできた。すぐに、近づいてきた足がとまり、声が聞こえた方向に戻った。フリッツは平たく地面にうつぶせになったままゆっくり呼吸を整えた。

    「もう帰るのかい?」
    「まさか、フェルディナント殿を置いていくことなどしません。ただ、私の用事は終わったので、息苦しい宴会場を抜け出して散歩でもしようかと思って」

    フェルディナントという名前をはっきり聞いたロビーは好奇心にさらに耳を傾けた。

    「用事が終わったなんて、私とは踊らないの?」

    「貴殿とですか?くくく、フェルディナント殿は今日ダンスの約束がいっぱいで断るばかりだと、多くの令嬢の方々が残念がっていたことをご存知ですか?」

    今度は緊張していたフリッツの耳にもその名がついた。気になるあまり、そっと頭を上げようとしたが、ロビーを眺めて再び頭を下げた。

    「それは、君が一番目なのに...私のそばには来なくてダグザの貿易商とだけ話をしているから...」
    「さようですか。しかし、いくら貴殿と一緒だとしてもこの私が宴会場で踊ることはフォドラが崩れてもあり得ないことですな」
    「はぁ…まだ人の目が気になるの?」
    「私が冷酷で陰険で無慈悲な宮内卿という役割に満足するように、貴殿は万人に愛される宰相としての役割を忠実に果たしてほしいと思います。私たち二人の間の噂と真実はどうであれです。まあ、それよりも、私があんな派手な場所でダンスを楽しむ性格ではないということは、貴殿はもっともご存じでは」

    「....」
    「それなら、私は散歩を···」
    「誰も見ていないところなら大丈夫か」
    「は?」

    やや当惑した声が跳ね返った。

    「ヒューベルト、踊ろう。ここで一曲だけ」
    「はぁ…」
    「そんなにため息つかないでくれ!さあ、ふんふんふん」

    宴会場からのメロディーに合わせてしばらく鼻歌が聞こえた。やがて、そのリズムに合わせて芝生を踏んで擦れる音が入り込んだ。ロビーはまだ、しゃがんでいたフリッツを手でたたいた。

    「フリッツ...ほら、フリッツ」

    フリッツは勇気を出して草むらの隙間から頭を上げ、信じられない光景に口をぽかんと開けた。ベストラ宮内卿の手を取ってのびのびとした踊りをする人が、先ほど名前を聞かなくても、エーギル宰相であることがすぐにわかった。 邸宅の華やかな光は窓を経て薄れ、その代わり、夕空の青い光が二人だけの照明になっていた。踊りながら鼻歌を歌うのはきつかったのか、途中で何度もメロディが途切れ、笑いが出た。そういう時には、あの恐ろしい宮内卿のものとは到底思えない優しい笑い声が聞こえてきた。

    「フェルディナント殿」
    「ふん?どうした?」
    「ここだけでくるくる回るのではなく、庭の中に動いてみたらどうですかね」
    「あそこはあまり暗くない?」
    「ふむ···少なくとも"見物人"はいないと思いますので」
    「宴会場でここはよく見えないと思うけど…まあいいよ」

    ぼうっとしていたロビーとフリッツ二人は、宮内卿がずっと自分たちを意識していたことに気付き、心臓がドキドキした。元いた場所に戻れとお尻を蹴られたような気持ちで、フリッツとロビーは地面を這ってその場を離れた。


    「このまま踊りながら家に帰ろうか」
    「くく..暗いから足を踏まないように注意してください」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works