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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    フェリリシ前提のカスベルかな。パックアップ代わり

    スイーツレシピ 士官学校の日常生活に担うものは、当番制になっている。食事、掃除、洗濯などなど多種多様だ。戦場には無関係かと思いきや、栄養や衛生管理に関わるため、存外そうでもない。建前上は。
     基本的に各学級から一名から二名選出されて事に当たり、学級毎にルーチンワークが構成されているが、遠征や負傷で交代することは多々ある。
     今回の食事当番は青獅子学級が野外演習で不在のため、黒鷲学級から二名出ていた。

    「ええ、えーとですね……まま、まずはお野菜を洗って」
    「おお、そうか!」
    「カスパルさん、お水使い過ぎです! そのお野菜は、さっとでいいですから!」
    「さっとって言われても、さっとってなんだ?」
    「水で濡らす感じで……こう、パシャパシャーってくらいで」

     ジェスチャー付きで野菜の洗い方を伝えるベルナデッタは、根気よく同級のカスパルに教えていた。素直に聞いて見様見真似で洗っていくが……野菜はみるみる千切れていく。

    「なんか小さくねーか、この野菜?」
    「あわわわ、力入れ過ぎですよぉ! もっと肩の力を抜いて、優しく触る感じで」
    「優しく……優しく……優し、あっ!?」

     ブチッと鈍い音を立てて、根本から真っ二つになった葉物野菜が出来上がった。
     その様子を三歩離れたところで、リシテアは呆然と眺めていた。

    「勢いの塊ですね……」
    「ははは、まあ腹に入れば一緒だろ! 俺は野菜より肉がいいな」
    「そうですね、野菜は少ない方が良いですね」
    「やっぱ肉だよな、筋肉を作るにはたくさん食わないとな!」

     噛み合ってない会話をする二人に、困惑しながらベルナデッタは次の行程を話そうと息を吸い込む。彼女は料理が得意のため、指示を出すリーダーになっているのだが、既に部屋に帰りたくなっていた……。

    「えーとですね……あっカスパルさんは、こっちの芋を潰してください。リシテアさんは洗ったお野菜を切ってください」
    「よっしゃあ! 全力で拳で突いていけば良いんだな!」
    「調理器具を使ってくださいいぃ!」
    「……前途多難ですね」

     今度は芋の潰し方を教えるベルナデッタ。厨房には耐えず、騒がしい声が響いていった。

     ようやく食事当番を終えた時、ベルナデッタの声は掠れていた。出来上がった料理を味見をすると、美味しく出来上がっており一安心。

    「美味い! これならいくらでもおかわりできるな!」
    「……よ、よか……たです……」
    「お疲れ様です、ベルナデッタ。おかげで助かりました」

     リシテアが労うと、ベルナデッタは歓喜の余りに半ベソになっていた。カスパルとの料理当番は、声量が必要だと新たな知見を得ていた。

    「良かったら食べてください。甘いものは癒されますよ」
    「えっ? ……お菓子。お菓子です!」
    「わたしには甘さが足りないので、たぶんちょうど良いと思います」
    「ふぇっ?! これって、リシテアさんの手作りなんですか! あの……お、美味しそうです〜!」

     貰った包み紙を開くと、甘い香りが漂う焼菓子が出てきた。吸い込まれるようにパクリと一口いただくと、バターと木の実のハーモニーが口の中で奏でられる。

    「おお、美味しいですう! リシテアさんって、お菓子作るの上手なんですね」
    「ありがとうございます。アネットやメルセデスは、もっと美味しいお菓子を作ってくれますよ!」
    「そうですか。あっ、でもリシテアさんのお菓子もとても美味しいですよ!」

     素直な感想を伝えて、笑顔で頬張っていくベルナデッタは至福のひと時を堪能しているように見えた。作った物をこうまで美味しそうに食べてもらえると、リシテアも嬉しくなる! ……美味しいなら美味しいとちゃんと言うべきだ、と改めて思うほど。

    「おっ、何食ってんだ? 干し肉か?」
    「違います! あんたは、まず肉から離れてください」
    「お菓子ですよ。リシテアさんが作ったんです〜! あっ、カスパルさんも食べますか?」

     やってきたカスパルに、ベルナデッタは口を付けていないお菓子の端を分けて渡す。お腹が空いていた彼には物足りないが、腹の足しになるなら歓迎だった。

    「へぇー美味いな! ちょっと甘いけど、リンハルトがよくこういうの食ってた」
    「ありがとうございます。……カスパルは、甘いものが平気なんですか?」
    「うん? 食うぜ、肉の方が良いけど。リンハルトがよくくれるんだ!」

     『カスパルがお腹空いたって、よく言うから僕のを分けてるんだよ……』と、抗議の声が聞こえてきそうな返答をリシテアは興味深そうに聞いていた。

    「なるほど……。訓練好きでも、甘いもの嫌いではないのですね」
    「あの、それって関係ありますか……?」
    「いえ、こちらのことです。でも、カスパルがお菓子を食べるのは意外ですね」
    「あっ、そうですよね! ベルも意外に思ってました」
    「そうか?」

     ペロリとお菓子を平らげたカスパルは、不思議そうに首を傾げる。

    「別に嫌いじゃないぜ。甘いものは頭を働きをよくするんだろ? リンハルトがよく言ってた」
    「あら、良い心構えですね! ええ、お菓子は幸せの時間を与えてくれます!」
    「幸せになるかわかんないけど、食堂が開く前の腹ごしらえになるからな!」
    「そんな考え方しないでください! 食事の前に腹ごしらえして、どうするんですか!」

     カスパルのお菓子への価値観にリシテアは言及していく。甘いものに拘りのある彼女にとっては、許し難い見解らしい……。
     そして、傍らで二人の様子を見ていたベルナデッタの心は、忙しくざわめいていた。

    (リシテアさんとカスパルさんが……な、仲良くお話ししています……!?)

     仲良くかは疑問だが、彼女にはそう見えた。ハキハキと声を発していくリシテアは、しどろもどろになってしまう自分とは随分違う様に感じて、小さな葛藤を生み出していた。
     リシテアのようにハッキリ話せる子の方が良いのか……。たった数秒のことなのに、ベルナデッタに暗い影が落ちた。

    「そうだ、リシテア! 今度、菓子作ってくれよ! もっと食ってみたいからさ!」

     なっ、ななななんですとーーーーっ!?

    「ダメですっ!!」
    「うおっ?! どうしたんだよ、ベルナデッタ!」
    「へっ?! ……あああ、あの、つい声が出ちゃったというか! え、えーと……あっリシテアさんはお忙しいですから! お勉強の邪魔をしてはいけませんよ、カスパルさん」

     つい叫んでしまったのを誤魔化すため、ベルナデッタは懸命に取り繕った。彼女の慟哭に驚いたカスパルだったが、彼でもリシテアが常日頃勉学や訓練に励んでいたのは知っていたので納得した…………が。

    「いえ、構いませんよ。ついでですし、あんたなら……ふむ、参考になりそうですし」
    「ええぇっ??!」
    「おっ、いいのか! 助かるぜ!」
    「良い情報が得られそうですし。……なるほど、訓練後のお夕飯前が狙い時でしたか」

     勝手に二人で話が進んで、あわわわわ! と慌てふためくベルナデッタ。いつになくリシテアも乗り気な様子で、強い危機感を持ってしまう。

    (ま、まま、まさかリシテアさん……! もしかしてもしかして、カスパルさんのことを──!!)

     にわかには信じられないが、なんだか良さげな空気になっていく二人にベルナデッタは混乱する。……どう見ても、気のせいなのだが。
     どうしよう、何とか阻止しなきゃ! でも、どうやってえぇーー!? と、慌ただしく頭を悩ます。

    「リシテアさん……そのあの、できたら、やや、やめてくださると」
    「あっ、そうです! ベルナデッタ、よかったら一緒に作りませんか?」
    「……へっ?!」
    「ベルナデッタはお料理が得意ですし、今日の当番も手際が良かったので手伝ってくれると助かるのですが」
    「はっ!? ふ、ふえぇっ!!?」

     思わぬ鶴の一声にベルナデッタは奇声を上げる。一呼吸置いて、リシテアのお誘いを反芻して、徐々に理解していった。

    「そ、それって……カスパルさんへのお菓子を一緒に作る、ってことでしょうか?」
    「そうですね。せっかくですから、ベルナデッタにも味見をしてもらいたいですし。あっ、難しければ構いませ」
    「やります!! あたしもやる時はやります!!」
    「そ、そうですか……?」

     妙に意気込まれてリシテアは驚くが、手伝ってくれるのなら助かる。時間を大事にしたい彼女は効率良くできる方が御の字だ。

    「カスパルは甘いものは平気ですか?」
    「ああ、リンハルトほどじゃないけどな」
    「わかりました。じゃあ、今度ベルナデッタと作ります。ちゃんと食べて、感想を教えてくださいね」
    「おう! 腹の足しにするぜ!」
    「だから、お菓子をそんな認識しないでください!」

     棚からぼたもちと言わんばかりにリシテアが約束を取り付けてくれて、ベルナデッタの日程と合わせる運びになった。
     ベルナデッタは料理や裁縫が得意だが、お菓子作りはしない。したことのないものへの不安を覚えるが、リシテアと一緒ならば心配ないだろう。
     それに……これは、誰が見てもチャンスだ──!

    「り、リシテアさん! あ、あたし、頑張ります! 何でも言ってください、ベルやりますから!」
    「えっ? あっ、はい。お願いします……」

     やる気に燃えるベルナデッタを不思議に思いながら、リシテアは作りたいレシピを頭の中で選んでいった。


     数日後──。厨房からは甘い香りが漂っていた。

    「はああぁ〜〜! 良い色に焼けましたね!」
    「そうですね。粗熱が引いたら分けましょうか」

     焼き立てのお菓子を見つめて、笑みを浮かべる少女達がいた。火傷しないように気を付けて取り出し、味見をして出来栄えを確かめていく。

    「あっ、ミルク風味で美味しいです!」
    「よかったですう〜! ……ベルが余計なこと言ったか心配でした」
    「そんなことないですよ。牛乳を入れたら、お砂糖を減らしても甘みが出るのがわかりましたし!」

     今回はリシテアが普段作る焼菓子にしたのだが、『えーと、カスパルさんは牛乳をよく飲むので……牛乳を入れてみても良いでしょうか?』と、ベルナデッタが申し出ていた。
     良い試行になるとリシテアも考えて、彼女の提案に乗ってみると良い感じのミルク仕立ての焼菓子が出来上がり、二人共満足していた。

    「いっぱい出来ましたね。えへへ、なんだか嬉しくなりますね!」
    「そうですね、お菓子がたくさんだと喜ばしいですよね! ……ふふ、ふふふふ」

     お菓子好きのリシテアは少々怪しい笑みを浮かべていたが、甘いお菓子の前では仕方がない。
     冷めた頃を見計らって、紙袋にお菓子を詰めていく。たぶん気にしないとわかっていても、目当ての人物へのラッピングをベルナデッタは鼻歌を歌いながら楽しむ。手先が器用なので、少ないリボンでも鮮やかに施していった。

    「見てください! うまく出来ました!」
    「え、えーと……き、器用ですね、ベルナデッタは」
    「ちょっと難しかったですけど、好きなんです! ──食虫植物」
    「なんで、それを……!? あっいえ、良いと思いますよ」
    「はい、可愛いですよね!」

     か、可愛い? ……かは置いておいて、リボンで食虫植物を表現する彼女に、リシテアは感嘆の声を漏らしていた。ベルナデッタの器用さは憧れているが、思わぬ方向性に驚いてしまう。

    「あっ! そういえば、リシテアさんが別に作ったお菓子はどうでしたか?」
    「はい、美味しいと思いますよ。……甘さが足りないので、よくわかりませんが」
    「ん? リシテアさんって、甘くないお菓子を作るんですか?」
    「えっ?! ま、まあそうですね……」

     ベルナデッタには意外だった。少しお茶すれば、リシテアが相当の甘党だとわかる。そんな彼女が、わざわざ甘くないお菓子を作るのは不思議だ……ましてや、味見してもわからないほどの物を。

    「この後、カスパルに渡しますか?」
    「えっ、あっはい。そのつもりなんですが……」
    「ついでなので、こっちのお菓子も渡してもらえませんか? 感想を聞いて参考にしたいので」

     一緒に作った物とは別の、リシテアが作った甘くない焼菓子を紙袋に詰めて、ベルナデッタに渡す。一緒に食べても良いですよ、と嬉しい一言を添えられて、つい顔が紅葉してしまう。

    「そ、そそんな、ふ、ふふ二人きりでとか……!」
    「せっかくですから、ベルナデッタの感想も聞きたいですし。少し時間おいた方が味が馴染んで、美味しくなりますからどうぞ!」
    「り、リシテアさんっ!!」

     素敵なアシストしてくれるリシテアに感謝が募る。彼女を少しでも疑ったことをベルナデッタは恥じた。……そもそもリシテアとカスパルの接点はほぼ皆無なので、疑う余地もないのだが。

    「今だと訓練所でしょうね。寄ってみたら、どうでしょうか?」
    「えっ……あの、リシテアさんは行かないんですか?」
    「すみません、わたしは最後の授業が入ってますから……」

     やっぱり、リシテアさんはいつも忙しそうだな……と、ベルナデッタは思う。忙しい中で一緒にお菓子を作ったと考えれば、この機会を無駄にしてはいけない。一人で行くのは緊張するが、約束を果たすべく自分に喝を入れる。

    「べ、べべベル、が、頑張ります!!」
    「えっ、ええ。あの、そんなに緊張して、どうしたんですか……」
    「だだだ、大丈夫です! いつものベルです!」

     そう言われるとそんな気がする……か? 随分とぎこちないベルナデッタを不思議に思いながら、一緒に片付けをしていった。


     気合を入れて、深呼吸をして、震える足を抑えて訓練所へと向かうベルナデッタ。まるで、合戦に行く意気込みだ。
     引きこもりの彼女が、単身訓練所へ向かうのはかなり勇気がいる。しかし、今回のお菓子プレゼントアプローチ(仮称)を誰かと行く方が恥ずかしい! バレたくない! 絶対しどろもどろになるから、いっそ一人の方が良い! という乙女心が勝った。

    「り、リシテアさんとの約束もありますし……」

     退路が絶たれる理由を述べて、自ら奮い立たせる。……今渡しておかないと、リシテアからカスパルに渡すことになりかねないし。
     ──といった感じで、なんとか訓練所の大きい重たい扉を開いた。

    「あ、ああわわわわわ……!」

     入ってすぐに場違いに思えて、足がすくんでしまう。引きこもりには訓練するための場所はハードルが高い! 誤って異世界に落ちた気分になって帰りたくなるが、手にしたお菓子が入った包みと食虫植物を模したリボンを見て、なんとか踏ん張るベルナデッタ。
     目的を果たさないと! と気合いを入れて、震えた脚を動かして目当ての人物を探していった──。

     幸いにして、声が大きいのが特徴の彼なので、通りの良い掛け声を頼りに向かうとあっさり見つけることができた。果敢に拳を振るう姿を見て、ドキリと心臓を跳ねながら遠巻きで様子を窺う。

    (お、お邪魔しては……いけませんから!)

     邪魔をしたくない一心で、柱の裏に隠れるが……まあ、バレバレである。その場にいた者は珍しい人物の奇異な行動を目撃していたが、目当ての人物に気付かれてないので問題ない。
     様子を伺うこと数十分。汗を拭って一息入れるカスパルに恐る恐る、意を決して近付こうとする……。

    「さっきから何をしている?」
    「ふぇっ!? ああ、あぎゃあああぁぁぁぁ!!」

     足を一歩踏み出した途端、後ろから低い声をかけられて盛大に叫んでしまう。壁に反響する大音量で、声をかけた人物──フェリクスは耳を塞ぎたくなった。

    「い、いいいきなり、ここ声をかけないでくださいいぃ!! もうちょっと、時間をかけてですね、ゆ……ゆゆっくりと!」
    「……喧しい。通路の邪魔だから声をかけただけだ」

     面倒だと、舌打ちと態度で表して答える。
     さらに恐怖を煽られたベルナデッタは、ぶるりと背筋を凍らせる。

    「よお、ベルナデッタ! 珍しいな」
    「か、かかカスパルさん!!」

     聞き覚えのある叫びを聞いて、カスパルがやってきた。ベルナデッタはホッとするも、唐突の登場で一気に心臓が高鳴り出していった。忙しなく脈打つ鼓動音が、大きく聞こえる……。

    「ああ、あのですね……。前していた約束を、果たしにきたんです」
    「約束? 何かしてたか?」
    「ほら、あれです! 前、食事当番で一緒になった時の話です……」
    「……うーん、飯が美味かったことか?」
    「お菓子です! リシテアさんのお菓子が食べたいって、言ってたじゃないですか! だから、今日ベルと一緒につ、作って持ってきたんです!」

     すっかり忘れていたカスパルはベルナデッタの説明を聞くと、そうだった! と思い出した。ようやく作ったお菓子を渡せそうで、ベルナデッタは安堵ながら手にした甘い包みを震える手で渡す。
     ……そんな二人の様子を見物する気はないのだが、うっかり聞いてしまって立ち去ろうとした足が止まった外野がいたのだが、二人とも気付いてないので問題ない。

    「こ、こっちは甘さ控えめらしいです。えーと、食べたら感想を教えてくださいって、リシテアさんが言ってました!」
    「おお、そうか!」

     じゃあ早速、と言って大きな口を開けて一気に食べていった。この場に製作者がいれば『もっと味わってください!』と、言いかねない豪快な食べっぷりだ。

    「美味かった! なんかリンハルトがくれる菓子とは違ったな」
    「そ、そうですか。あの……他には、ありますか?」
    「ん? 美味かったは、美味かったしかないだろ」

     コメントし辛い感想だが、カスパルらしい素直さだった。そうか、カスパルさんは甘さ控えめのお菓子も好きなんだ……と、ベルナデッタは頭の中のメモ帳に記した。

    「こっちはベルナデッタが作ったのか?」
    「えっ、は、ははい! リシテアさんと一緒ですけど……」
    「ははは、なんだこれ! 魔物みたいだな!」
    「はい、食虫植物の形にしてみたんです! へへ、可愛いですよね!」

     可愛いか……? 聞いてた外野は疑問を持つが、ベルナデッタが作った食虫植物型の焼菓子もカスパルはぺろりと平らげていく。
     彼は見てくれよりも中身を重視するので、ラッピングのリボン創作に見向きもしなかったが、ベルナデッタは気にしなかった。

    「美味いな!」
    「あ、ああ、ありがとうございますぅ!」
    「けど、やっぱ足んねーな。腹の足しにはなったけど……」
    「……カスパルさん、リシテアさんが聞いたら怒られますよ。お菓子はご飯じゃないですから」

     確実に怒るだろうな……と、遠巻きで聞いてる者も思った。

    「でも、あの……ま、また作って、来てもいいでしょうか?」
    「ああ! 腹減ってる時は何だっていいさ!」

     喜んで良いのか微妙な返事だが、承諾を得てベルナデッタは破顔した。
     喜んで食べてもらえるのなら誰だって嬉しい。自分の作った物で眩しい笑顔を見せてくれるなら、いくらだって頑張れそう! と、ベルナデッタの心がポカポカしていった。

    「じ、じゃあ、また頑張ります!」
    「そうか、ありがとな!」
    「いい、いえ! こちらこそ、ありがとうございます。えへへ……初めてお菓子を作りましたが、カスパルさんに美味しいって言われると嬉しいですね!」
    「そうか? 美味いもんは美味いって言うだろ」
    「そうじゃなくて……美味しいって言ってくれるから作りたくなるんですよ! また頑張ろうって……カスパルさんが言ってくれるならって」
    「……うん? なんかよくわかんないけど、くれるなら嬉しいぜ!」

     思い切って胸の内を伝えたが、カスパルには半分も伝わらなかった。でも、それでいい。まっすぐで正直で、周りを元気にさせるのが彼の魅力なのだから! 
     お菓子が紡いだ甘いひと時は、ベルナデッタの顔に赤い花を咲かせていた──。

     美味しい時は、ちゃんと美味しいって言った方が良い。美味しいと言ってもらえると幸せな気持ちになるのだから。それは、万人共通の願いなのかもしれない。
     二人の和やかな空気に当てられたのか、周囲には誰もいなくなっていた……。


     後日のある日。
     ベルナデッタは自分の部屋を出て、懇願していた。

    「ああ、あのリシテアさん! また、お菓子作り……したいのですが、いいでしょうか?」
    「ええ、構いませんよ」
    「本当ですか!? じゃ、じゃあ、前作ってたリシテアさんの甘くないお菓子を教えてほしいです!」

     カスパルが美味しいと言っていたリシテアが作ったお菓子が気になっていた。作り方を教わって自分でも作りたいという気概は、彼女のひたむきな思いが窺えて、喜ばしく思う。リシテアもその意思を汲み取った……だが。

    「──そのお菓子は、やめておきましょうか」
    「えっ?」
    「ちょっと普通の人向けではないと言いますか……お菓子が嫌いな人用なので。前のは調整用で試作でしたし」
    「ん? じゃあリシテアさんは、甘いものが嫌いな人用のレシピを考えてたんですか?」
    「そ、そういうわけでは……! あっ、そうです。他の甘さ控えめのレシピを教えますね! メルセデスから教えてもらいましたので、美味しいですよ!」

     追及を避けたいリシテアは別の案を提案して、ベルナデッタを促した。ちょっと腑に落ちなかったが、カスパルが美味しく食べてくれそうなら構わない。お菓子に詳しい彼女を信じて、快く承諾した。

     何故、渋ったのか。──苦労して試行錯誤した甘くないお菓子のレシピを教えたくないというわけではありません! まだちゃんと完成と言えませんし、未完成のレシピを教えるわけにはいきませんから! ……らしい。
     何はともあれ、お菓子は幸せなひと時を作り出す模様。
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