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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    モブ視点お菓子屋。

    配達記録2 僕は今、家から遠く離れた遠方の地にいた。初めて訪れる大国……旧神聖王国ファーガスに!

    「遠いと聞いてたけど、本当に遠いな……」

     頬を撫でる風が冷たい。レスターってあったかいんだな、と交易商人が使う荷馬車に揺られながら実感した。
     積み荷の多い馬車と共に、ゆるりと時と道を進んでいく。ドラゴンやペガサスだと早いらしいが、そんな高度な飛行技能を持っている者は少ない。僕はない!
     何故、レスターで営む一介の商人がファーガスへ向かっているかと言うと、今後のために他国の商会と繋がりを持ち、交易を通して円滑な物流の確保を……とかなんとかは建前で、私的な配達を請け負ったからだ!
     まあ、この機会にファーガスの方とお見知りおきできたらいいな〜と思っているから強ち間違いではない。仕事に入るだろう。

    「……美人に頼まれたら断れないよなー」

     所狭し商品と荷物が陳列する狭い馬車の中でボヤいた。こうなった経緯を振り返りながら……。


     始まりは突然だったが、思えば素振りはあったと思う。数日間、ちらちらと様子を窺っていた気がする。

    「あの……すみません。そちらは色んな所にも配達をすると聞いたのですが……本当でしょうか?」

     通うようになったお菓子屋の美人店主から尋ねられた。不安そうに僕を見上げてきて……これで、心臓がぎゅっと掴まれた!
     この頃はだいぶ顔馴染みになって、雑談をするくらいの間柄になっていた。
     
    「ええ、できる範囲ですが配達を請け負ってます。戦争の後だと、けっこう需要があるみたいで」
    「そうですか。あ……あの、実はお願いしたいことがあるのですが」
    「喜んで引き受けます!」

     つい安請け合いしたら、店主──リシテアさんから『ちゃんと話を聞いてからにしてください!』と、叱られてしまう。ついでに『軽薄な態度は誤解を招きますよ』とも言われてしまうが、それならそれで僕は構わないんだけどな~。

    「フェリクスの故国……ファーガスに送ってほしい物があるんです」
    「ファ、ファーガスですか!?」
    「はい。……遠いですよね」
    「そ、そうですね……」

     遠い……此処はレスターのグロスタール領から北辺りだから片道でも数日かかる。商会はレスターを拠点にしているし、資源の多い旧帝国と主に取引しているからファーガスとは縁が薄い。現にうちは取引していない……元々、貿易は盛んじゃないし。
     いくら配達すると言っても遠方の縁のない地はお断りする。……けれど。

    「何か事情があるんですよね?」
    「ま、まあ……そうですね。個人的な理由ですが」
    「『顧客の信用を上げるために』ってことで始めたので、大半は個人的な依頼ですよ。あちこち出向く傍らでやってます」
    「ありがとうございます。……フェリクス、連絡はしてるみたいですけど、ずっと帰ってないみたいで。それは仕方ないのですが、せめてフェリクスが作ったお菓子を送れたらと思ってて……余計なお世話なのですが……」

     俯いて話す様子から昨日今日で考えたわけではなさそうだな。リシテアさんはけっこうハキハキ言う人だから、言い淀むくらい迷っているんだろう……。
     フェリクスさんとは何度か話した際に(ほとんど僕が勝手に喋ってるけど……)、ファーガス出身で元は傭兵だと聞いている。変わった経緯だったから覚えていた。

    「隣町に行けば、配達を請け負う業者がありますけど?」
    「できれば、フェリクスには内緒にしたくて。今のわたしでは隣町に行くのも大変なので……気付かれますし」
    「ああ、ちょっと距離がありますよね」

     田舎だからの悩みだな〜。たしか、リシテアさんは体が丈夫じゃないって聞いたな。詳しくは知らないけど、あの人に内緒で隣町まで行くのは無理そうかな? それなりに遠いし、心配して探しに行きそうだ……。

    「だから、僕に頼みたいのですね?」
    「ええ。貴方はフェリクスが作るお菓子を気に入ってましたし」
    「いやー……そうですが。美味しいと思ってますけど、僕好みってだけですから」
    「ふふっ、聞いたら喜びますよ!」

     そう言われると恥ずかしいな……。リシテアさんの作るお菓子も好きだけど、あの人は僕が来る時に合わせて胡桃入りのを用意しているから、つい手が伸びてしまう。……意外だらけの人だよ、ほんと。

    「故国の人にも食べてほしい、ってことですよね?」
    「ええ。……フェリクスはきっと嫌がると思いますが、無事を伝える意味でも贈りたくて。随分上達しましたし、お菓子を気に入っている人もいるってお報せしたいんです!」

     それって、僕のことか……ちょっと微妙だな。
     戦後は色々な事情を抱えている人が多いから聞かないけど、リシテアさんの気持ちはわかる。ご家族に贈りたいのだろう……お節介だと思うけど、嫌いじゃない。親孝行したい時に親はなし、という。

    「もちろん、貴方にご迷惑はかけません。……わたしが無理にお願いしてますし、断ってくれて構いませんから!」
    「リシテアさん、そう言われたら断る方が難しいですよ……。商売柄、訳ありの方は見てきましたし、配達を通して家族や友達との縁を繋げたらと思っていますよ。なのですが……現時点ではお引き受けできません」
    「そうですか、そうですよね……」

     わかりやすく残念そうにするリシテアさんに胸が痛みつつ、別の提案をしていった。

    「配達で遠方には行けません。だけど、他の用事……例えば、仕入れ先の仲介や斡旋などがあれば検討します。簡単に言っちゃうと、ファーガスの商会やギルドへのツテがあるなら請け負えると思いますよ」
    「そちらの利益になる要件がほしい、ということですか?」
    「そうなりますね」

     頭の回転が早いな……地頭が優秀なんだろう。僕の言いたいことをすぐに理解してくれた。どことなく、元貴族の片鱗を垣間見た気がした。

    「……そうですね、ツテがないわけではありません。おそらく話を通せば、何かしらのご縁ができると思います」
    「一応お聞きしますが、どういった縁ですか?」
    「知人に辺境伯や伯爵家、商人の家の者がいますので、お伝えすれば紹介してくれると思います」
    「ぶほっ!?」

     さらっとすごいこと言ってる……。辺境伯? 伯爵? あんまり詳しくないけど、けっこう偉い人じゃなかった? 知り合いなんだ……元貴族だからかな、次元が違う!

    「たしか、ゴーティエ領は酪農が盛んでしたよね。そちらが取引するのなら、此処が適任だと思うのですが」
    「そ、そうですね。ゴーティエ産のチーズは人気ですし、他の乳製品も品質が良いですから……」
    「良かった! 急なので時間がかかるでしょうから、また日を改めてもらっても良いでしょうか? あっ、くれぐれも内密にお願いします」
    「は、はい」

     念を押されて、僕は首肯した。元よりフェリクスさんに話す気はないが、話が大きくて僕の頭が追い付かない……。
     この時のリシテアさんは、随分と理知的に思えた。貴族の人って博識じゃないといけないのか? ……しかし、ファーガスに辺境伯やら伯爵かー。そんな方々が身近にいるなんて想像が付かないな。
     考え込んでいるうちにチリンチリンとベルの音を立てて、出入り口の扉が開いた。話題の人物が戻ってきて、また来たのか……とボヤかれて我に返った。

     そこで一旦話は終わり、後日に詳細を詰めいき、最初に戻る。
     荷馬車は長き道程を経て目的地に辿り着き、遥か遠きファーガスの地に足を踏み入れた!

    「今は冬じゃないから大丈夫って聞いてたけど、やっぱ肌寒いなー」

     持ってきてた薄手の上着を羽織って、暖を取った。初めての土地に訪れるから、それとなーくフェリクスさんにファーガスの気候や旅支度について聞いておいたのは功を奏した。ちょっと怪しまれたけど、仕事と言えば納得してた。

    「今は落ち着いているが、盗賊に襲われたらすぐに逃げ出せるようにしておけ」
    「ぶ、物騒なっ?!」
    「積荷は後から取り返せる。命あっての元種だ」

     傭兵らしい助言もくれていた……怖っ。使わないからって護身用の小剣までくれたけど、使わずに済んで良かった!


    「……本当に繋がりが出来るなら、商会としては願ったり叶ったりなんだけどね。

     未だに半信半疑だった。懐に入れてた紙を取り出して確認する……ファーガスでやることを記しているのだが、僕にはどれも滑稽に思えた。リシテアさんが先方に連絡してくれているらしいが、そんななぁ……公家と言われるフラルダリウス家やゴーティエ家と話を通した、なーんて信じる方がおかしいよ!
     べ、別に疑っているわけではないけど、絵に描いた餅みたいだなって。まだグロスタール家の方が信じられる……んー、あんま変わらないか?

    「まあ行くしかないか」

     目的は配達なんだ。僕としては、向こうの商会と面通しできれば十分。先に仕事を済ませておこうと、肩にかけた商人御用達の大きい鞄の中に入っている紙袋を見て、気合を入れる。
     内緒で申し訳ないと思うけど、きっと家族の方は喜ぶと思う! ……そういえば、フェリクスさんの家族構成知らないや。どこら辺だろ?

     ★★★

     人に道を聞いたり、幾つかの大通りを抜けて、ようやく辿り着いた。──フラルダリウス領の領主の元へ。

    「…………城?」

     でかっ! どう頑張ってもよじ登れない外壁があって、とどーんと建ってて、もう色々と大きい! 貴族の家に出入りしたことあるけど、こんな聳え立つ居城を見るのは初めてだ。

    「平民だよ! 行く機会なんてないよ!」

     つい声に出てしまった。しょうがないじゃん、お城を見たことも行ったこともないんだから! うちが扱うのは市場に出回る食材中心で、好事家好みの芸術品や茶器とかじゃないし! 今まで見た貴族の家って……ほら、ちょっといい感じのお屋敷って形で、お庭が自慢って感じのだし!

    「……なんで、僕ここにいるんだ?!」

     改めて、記したリストを見る。人に描いてもらった手書きの地図を何度も見比べたが、場所は合っているようだ。
     ……なんで? 本当に? どうして、此処に用があるの?

    「あの、どうかされましたか?」
    「えぇっ!?」

     城門の前で挙動不審でいたから門番の人が声をかけてきた。そりゃあそうだな……明らかな不審者だ。

    「す、すみません、此処ってフラルダリウス公爵家で合っていますか?!」
    「ええ、そうですよ」
    「本当に? ほんとのほんとうに?」

     幾度と疑心を答えを求めたが、門番の返事は変わらなかった。僕はしばらく放心した……予想と経験を遥かに超えた現実なのだから、ちょっとの不審行動くらい許してほしい。
     門番の人が心配しそうに窺って数分後、意識を取り戻して声を絞り出すように用件を告げた。──リシテアさんに頼まれて、フェリクスさんのお菓子を届けに来た、と。

     その後のことは、あまり覚えてない。現実離れした出来事は記憶に残らない、とはよく言ったものだ。
     どうしてか城の中に入れてくれて、フェリクスさんによく似た家族の方と話した気がするが、何を喋ったのかまで覚えていない……言葉遣いに気を取られてた。だって、平民だもん!
     頼まれた荷物がなくなっていたから、おそらく目的は果たしたはずだ。とりあえず、言いたい──…あの人、なんなんだっ!?

     時間が経つにつれて、頭の中で整理されていった……と思う。現実感が湧かない。元傭兵しか聞いてなかったからさ、まさか公爵家の嫡子だなんて思わないよ! 家飛び出して傭兵やって、今は美女とお菓子屋を経営って意味わかんないよ! いいな!

     ★★★

     目まぐるしいファーガスでの一日目は過ぎた。
     ツテを得て、何個かの商会や行商人達と会えたのは嬉しい成果だ。……あんまり記憶にないけど。ほぼコネなんだけど、商売の世界では重要だからありがたく活用しよう。縁も運も実力のうち!

    「こんだけすれば、親父達も文句言わないだろう〜」

     ファーガスへの配達依頼を引き受けた時は散々言われてしまっていた……。「安請け合いすると痛い目を見るぞ」とか「お兄ちゃんは女の人と自分に甘過ぎ!」とか、耳が痛かった。弟だけは何も言わずに労ってくれたから土産は奮発するぞ!

     次の行く先は、ゴーティエ領だった。最北端に位置するから移動が大変だ。リシテアさんを通して、辺境伯様とお会いできるようだが……何がなんやら。
     ともかく、機会はありがたいと思ってる。ゴーティエ産のチーズは知らぬ者がいないくらい有名だ。この国の乳製品は市場でも人気で、うちとしてはこちらが本命。
     お菓子屋を営むリシテアさんもファーガス産のチーズやミルクは仕入れたいみたいだし。『チーズのお菓子も有名で、ずっと気になっていて……できたら食べてみたいと思ってまして。もちろん、できたらですが!』
     うん、断る理由がないな! こう言われて断る人がいるだろうか、いやいない!

     ……と、邪な理由は置いといて、ゴーティエ領の商会ギルドへは僕の方でも報せておいたので順番に顔を出していった。そう簡単に取引できるものじゃないけど、顔見知りになるだけでも価値はある!
     そしてそして、よかったら足を運んでほしいと頼まれたゴーティエ伯爵家に向かった。何でもフェリクスさんの昔からの旧友がいるらしい。へえ~……まあ、リシテアさんからのご縁だし、挨拶をしておくべきだろう。

    「…………やっぱ、次元が違う」

     まさか二日連続お城を見るとは思わなかったなー! 道中で予想していたけど、やはり放心してしまい、またも見かねた門番さんが用件を尋ねられた。だって、平民だもん!
     なんやかんやで、城内に通されて軽薄な印象を受ける次期伯爵様だかに歓待された。昨日に引き続き謎の状況だ!

    「……あの、何の御用でしょうか?」
    「そんな取って食べようなんて思ってないからさ! ちょっと話が聞きたくてね」

     社交的に笑いかける感じは親しみを覚えた。うまく言えないけど、話が合いそうな印象を受けた。

    「話って……何をですか?」
    「そんなに緊張しなくていいさ、男に興味ないし。……実は、まだ信じられなくてねー。君の口から、あいつの様子を聞いてみたいんだよ。」
    「そ、そう……ですか」
    「そうそう、ずっと音信不通で生きてるのかも死んでるのかも不明だったからさ。色々言いたいことはあるんだけど……まっ、無事に生存が確認できて一安心さ」

     そっか……そういうことか。便りがないのは良い知らせというけど限度があるもんな。
     高そうな香りがするお茶を飲みながら、今はリシテアさんとお菓子屋をやってることや持参してたフェリクスさんが作ったお菓子を分けたり、もっと胡桃を入れてほしいと言ったら後日胡桃とナッツ入れてくれたとか、買い出し先に偶然会ったら面倒くさかったとかを話していった。
     よくある日常の話なんだけど、何がおかしいのか伯爵様はお腹抱えて笑っていた。彼からすると、とてつもない変貌らしい。

    「なあなあ、そのお菓子屋って、何処にあるの? いやー、一回行ってみたいなって! ぷっ……は、ははは!」

     涙目で尋ねられて、正直に答えた。隠す事でもないし、お友達が来るのならきっと歓迎するだろう!

     ★★★

     最後に立ち寄ったのはガラテア領だった。帰り道でもあるし、レスターから近いから此処の商会にも顔を出したかった。ファーガスと交易するなら、まずガラテア領からになるかな。
     先の二国より小国になるが、僕にはちょうど良く感じた。大国は賑やかで、人や物も豊富だけど競争も激しいからな〜。

     ファーガスに来てから仰天な出来事の連続だったせいか、あまり緊張せずに商会へ顔を出していき、この地の市場に足を運んだ。
     各国の名産を目や舌で感じたかったのもあるが、そろそろ家族への土産を買っておきたかった。……散々言ってたくせに土産の催促はしてくるんだよな。いいけどさ。

    「何が良いかな〜? 弟には奮発しよ!」

     商会の人からおすすめを幾つか聞いていたから順番に見て回っていくことにした。……親父は酒かな? 妹は化粧品や香水か? 適当にしようと思ってても、その適当が難しいんだよなー。
     ──ファーガスは滅多に訪れる機会がない。人の動きや街並みを見ていて、考え事もしていたから注意力散漫だった。
     だから、通りを横切る際に人とぶつかってしまった!

    「うわあぁっ?! ご、ごめんなさい!」

     相手がよろめいたから急いで支えようとした。けれど、相手の方──金髪の美女は、すぐに体勢を持ち直して、凛々しく佇んでいた。

    「いえ、大丈夫です。私もよそ見していましたからすみません」

     ピンと背筋を伸ばした姿は清廉の騎士のようだった。うん、美しい! 麗しい女性だ!

    「本当にすみませんでした。お詫びにお茶でもどうですか? ……と言っても、僕は此処に来たのが初めてだから何処に何があるのかわからないので、よかったら貴女のおすすめを教えてほしいです!」
    「……すぐに女の方を口説くのは改めた方が良いですよ」

     勢いよく誘ったら冷たくあしらわれた。ムッと眉を寄せる姿も美しくて見惚れてしまう。「話を聞いていますか?」と聞かれて、我に返った。

    「すみません、貴女があまりにも美しかったので魅入ってました」
    「……つい先程、会ってすぐに女性を口説くのは改めた方が良いと言ったのですが、聞いていなかったようですね?」
    「いえ、そんなつもりはないとは言いませんが、僕の正直な気持ちです! ……ですが、貴女にご迷惑をかけたくないので、これ以上はやめておきます。けれど、おすすめの店を教えてほしいという気持ちは本心です! 家族へのお土産を買いたくて……でも、ガラテア領にというか、ファーガスに来たのが初めてでして」
    「シルヴァンとは違うようですね……。そうですか、初めての土地なら知らないことばかりですよね」

     聞き覚えのある名前が耳に入ったが、まあいいや。よし! お誘いは駄目だったけど、美女との会話は継続できそうだ。ふっ、話術ができないと商人はやってられない!

    「ええ、レスターからやってきました。用事が済んだので、お土産を買おうと思ったのですが、何が良いのか迷ってたんです。よそ見をしていたから貴女とぶつかってしまって……すみません」
    「そうだったのですね。あまり豊かな地ではないのですが、美味しいものは幾つかありますのでお教えできます」
    「ありがとうございます! 親切で美しい貴女に出会えて良かったです!」
    「……話をしたいのですが、よろしいですか?」

     ちょっとでも口説こうとすると、すぐに嗜められた。きっと真面目なんだろうな……もしくは何度も口説かれたか、身近に女好きがいるのかな? 対応が熟練されているように思えた。
     大人しく話を聞いて、おすすめのお店を教えてもらった。現地の人、それも美人さんに聞けたのは幸運だな〜! 肉やお菓子など勧められて、行きつけの屋台まで教えてくれた。……何故か食べ物ばかりだったけど、まあいいか。

     こうしてファーガスへの配達紀行は終わった。懸念してた盗賊の遭遇も無く(遭ったら困るけど……)、向こうの商会と顔合わせできて、うちとの取引を考えてもらえそうだ。遠かった分、実りある収穫になったと思う!
     さて、とりあえず今回のことを親父に報告しなきゃいけないから、一先ず家に戻るか。僕が遠方に行っていた分、仕事が立て込んでいるだろうから手伝わないとな。……となると、リシテアさんの所へ行くのは間が空いてしまう。詳しい話は置いておいて、配達完了したよ! ってことを手紙で送っておくかな〜。


     そんな感じで、ひと段落してからお菓子屋を訪ねた。
     
    「少し──…話をしたい」

     絶対、少しじゃないでしょ?! なんで、そんなに不機嫌そうなの!
     久々の訪問だから楽しみにしていたのに、待ち構えていたのは心臓を貫く鋭き剣の視線だった。……前もあったな。

    「話は聞いた。それはいい、あいつの考えそうなことだ」
    「あの……でも、ものすごーーーく不満そうに見えるけど……フェリクスさん?」
    「お前、何を話した?」

     何って、何さ! 要点をまとめて、簡潔にわかりやすく話して! ……とは言えない。こわっ、なんなんだよ!?

    「もうフェリクス、落ち着いてください! いいじゃないですか、遠くから会いに来てくれたんですから! お互い積もる話もできたじゃないですか」
    「よく言えるな……」
    「フェリクスのお菓子を喜んでたじゃないですか。いっぱい買ってくれましたし!」

     睨みを効かせる彼の後ろから、可憐なリシテアさんが宥めていってくれた。おかげで獣の視線は逸れて、僕は安心を手に入れた。
     しかし、何が何だか……一体なんのことやら。

    「すみません、お忙しい中で配達を頼んだのにこんなお出迎えをしてしまって」
    「い、いえ……何があったのか知りませんが……あっ、そうだ! 無事に配達してきました」
    「はい、ありがとうございました! お陰様で心が晴れました!」

     にっこり微笑むリシテアさんと対照的にフェリクスさんは苦々しく、毒々しく悪態をついていった。居心地が悪い……温度差が激しくて風邪を引きそうだ。

    「お礼と言っては何ですが、良かったら新作を食べていきませんか? みんなにも好評だったんです!」
    「あっ、はい、いただきます!」
    「食ったら帰れ」
    「フェリクス!」

     今日の機嫌は低空飛行のようだ。だいぶ慣れたけど、近寄り難さがある。
     話を聞いていくと、どうやらファーガスで会った方々が店に来てくれたらしい。……行動力高いな。

    「良かったですね」
    「はい!」
    「良くない」

     ますます不機嫌になっていくフェリクスさんは拗ねてるように見えた。あー弟も褒めると嫌そうな顔するんだよなー……褒めれば褒めるほど、不貞腐れていくんだよ。

    「あの、みんな心配していましたよ。便りがない期間が長かった分、無事が嬉しいんですよ」
    「そうですよ、フェリクス。わたしだって心配していたんですから」
    「それはいいが…………なんで、余計な奴にまで」
    「余計な奴?」
    「心配していたんですからいいじゃないですか。手土産にチーズの焼菓子とミルクのお菓子を持ってきてくれましたし!」

     リシテアさん懐柔されたんだな……この手の回しようで、誰だかわかった。女性に贈るならお菓子と花は基本だな。
     どうやら僕が辺境伯様に色々話してしまったのが不味かったようだ。そんなこと言われてもー! ちょっと、すこーし喋り過ぎたと思わなくもないけど、仕方ないよなー? だって、昔からの友達だって聞いてたし、うんうん。

    「な、仲良しと聞いてましたから! ほら、小さい頃からの友達なら大切にした方が良いですよ!」
    「…………」
    「顔怖っ!」

     殺意を向けられた気がした……気のせいだと思いたい。
     ──しばらく僕のお気に入りのお菓子から胡桃が消えた。根に持つ人だ……。
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