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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    士官学校

    ニンアナンナ ゴリゴリ……ゴリ……ズ、ズズ……。

     壁の向こうから聞こえてくる鈍音で、何をしているのか察する。……今夜はすり鉢か。調合でもしているのか、と。
     昨夜も同様のことをしていた。その前は刺激のくる異臭を放っていた。その前の前は矢に何かの薬を塗ろうとして失敗したのか、悲鳴を上げて化膿止めの処置をしていた。その前の前の前はドォン! と爆発音を放って壁を燃やして消火作業をする羽目になった。
     部屋で何をしようと構わないが───夜中はやめろ!
     そろそろかと思って、舌打ちをしてからシーツを頭から被った。ほどなくして、廊下の扉と壁越しから怒声が響いた。

    「クロード、いい加減にしろ! 毎夜毎夜の怪しい活動をいつまで続ける気だ! 此処は君だけの箱庭の屋敷ではない。共同生活になる以上は規則正しく、品行方正に過ごして協調性と社交性を養うべきだと僕は考えている。夜間活動など他の者の迷惑になるのは明白で」
    「ああ、わーった! わかったから! その長ーいご高説は聞き飽きたって!」
    「なら、いつになったら僕の睡眠を妨げなくなるんだ? 大体、君は盟主の嫡子としての自覚が足りない。普段から貴族の在り方についてどう考えて……」

     うるさい……声が大きいから丸聞こえだ。元凶への追及は一向に構わないが、声を落としてほしいと騒音主の反対側の隣人に毎度思っていた。
     自身も彼のように何度か苦情を言っていたが、気まぐれの風のように飄々とした奴には改善の兆しが見られない。寮長や講師に苦情と部屋替えの嘆願をして久しい……未だ要望は聞き届けられない。……『お前さんだって、パルミラ産の剣を譲ったら懐柔されてただろ』と言われそうだが、それとこれとは話が別だ。
     とまあ、ここまでなら良い。良くないがだいぶ慣れた。さすがのクロードもローレンツの説教は堪えるのか、二〜三日は大人しくなるのが常だ。今から寝れば、朝起きるのが少し辛いくらいで済む……。

     目覚めは早かった。大体明け方だろうか。こんな早くに起きる予定はなかったが、目が覚めた……覚まされた!

    「遅かったな、シルヴァン」
    「んげっ!?」
    「朝帰りをするなと言わないが、今週に入って日付が変わってから帰ってきたのは何回だ? 今節に入ってからの寝坊、訓練のサボりは何回目だ? いい加減、俺も我慢ならない!」
    「い、いやー……最近のお嬢さん方は遊びたい盛りのようでして……」
    「シルヴァン!」

     朝帰りした人物の悲鳴と説教する声が木霊すれば、嫌でも覚醒する。廊下でするな、部屋でやれ! 朝に帰ってくるならもう少し隠れて来い! と、常々思っている。
     これも日常といえば日常、寮生活のよくあること。

    「なんだって、こんな日に……!」

     巻雲は重なる時は重なる。深夜と早朝に隣人トラブルで起こされる日もある。

     変に目覚めて二度寝する気が起きず、顔を洗いに行くことにすると、途中で偶然アッシュに出会う。

    「あの……フェリクス、具合が悪いんですか? 顔が酷いというか、目が凄いですけど……」

     アッシュに心配されるほど、朝のフェリクスは絶不調に見えた。何もなくても目つきが悪い方だが、この日は眉間に寄った皺と隈のせいでところ構わずガン付けているように見えた。

    「いつも通りだ」
    「全然違いますから! ……寝不足ですか? 夜更かししちゃったとか」
    「違う……騒がしくて起こされた」
    「あはは、寮ですからそんな日もありますよね」
    「……しょっちゅうだがな」

     えっ、慢性的な睡眠不足? とアッシュは心配した。よく見るとフェリクスの隈は黒ずんでて色も濃い……一日やそこらで付くものではなさそうだ。

    「ミントティーでも淹れますか? 飲むと落ち着きますよ」
    「いや、好みじゃない」
    「そう言わず、一杯だけでも! 今日は実技訓練が多いから怪我したら大変ですし」
    「……そうだな」

     心配したアッシュが強めに促すとフェリクスは受け入れた。眠気は強いし、善意を無碍にするのは何だ。
     勧められるまま、淹れてくれたお茶を飲むとだいぶ頭がスッキリして気が晴れた。……のも束の間。教室で朝帰りした人物と早朝の説教主に会った途端、一気に機嫌が悪くなった。

     多少の寝不足くらいどうってことない。十代なら徹夜が続いても元気なものだ。
     しかし、度重なる睡眠妨害は知らず知らず、体を蝕んでいた。それほど神経質なフェリクスではないが、普段気にならないことまで気になるようになっていた。

    「……催眠効果。……山で採取できる毒草」

     書庫で『誰でもわかる野草入門書』を読みたくなったり、隣人トラブルによる傷害事件について考えてしまうほど……。ま、まあ寮生活を送る学生なら珍しくない。
     そして、眠気が強くても案外どうとでもなる。実技の訓練はちょっと動きが鈍いくらいで、元々鍛錬好きだから体を動かしていくうちに調子を取り戻していった。
     だが、昼近くの陽射しが良い教室。鳴りを潜めていたソレはやってきた!

    「紋章による定義は未だ不明瞭なことは多いのだが、こと魔道に於いての接点は密接であり、これまでの紋章論でも幾つか証明されている。しかし、定説となった紋章論も先日の学会で発表された新たな論文で、今日までの定理とはまた違った……」

     ハンネマン先生による仁長な説明が続く理学の授業は、潜んでいた眠気を呼び起こした。
     何を言っているのかさっぱりわからない……これを喜んで聞けるのは、どこかの紋章好きくらいだろう。大半の生徒が欠伸をしたり、ボーッとしており、フェリクスも例に漏れず欠伸を噛み殺していた。
     講師の熱い紋章語りは度々あるが、今のフェリクスには心地よい子守唄に聴こえた。瞼が重い……暖かい太陽の光が気持ちいい……ペンを持つ手に力が入らなくなってきた。

    「フェリクス、フェリクス……」

     理学は試験で必要だから取っているのであって、彼には興味のない苦手教科だ。魔法が使えなくても不便と思ってないのだから必要性も感じてない。
     未だ続く講師の長ーい紋章語りと時々自分を呼びかける声は、うつらうつらと船を漕ぎ出したフェリクスに安眠を促し続ける。

    「フェリクス……ちょっとフェリクス、聞いてますか!」

     大体理学の授業は聞いててもわからない。ハンネマン先生はよく授業から脱線するし、板書の字も細かいし、ノートを取っても半分以上理解不能だ。……時々、自分が何を書いたのか不明な文字もある。

    「……フェリクス? さっきから様子が変ですよ」
     
     理学の試験さえ合格できればもういいか、と考えるくらい意欲はない。しかし、その合格は遠く、授業でどうにかなるほど出来は良くない……後で教わらないと不可能だ。

    「まずいですよ! ハンネマン先生はああ見えて、ちゃんとみんなを見てますから……フェリクス? あの、聞いてますか?」

     ん? ……ということは、もう聞いてないのと同じではないか!?
     開き直った解を導き出すと、残ってた真面目な理性が溶けた。呼びかける声と袖を引っ張る気配を感じたのを最後に、フェリクスの意識は心地よい微睡みの中に落ちていった。
     ……ゴンと額をぶつけて机に突っ伏した様を目撃して、隣の席の者は目を丸くした。先生に気付かれるまで何度も声をかけたが、起きることはなかった。

     終了のベルで目を覚ましたフェリクスはハンネマン先生に呼び出された。滅多に居眠りをしない彼を心配して「何かあったのかね?」と尋ねられると、最近の悩みと昨夜の隣人のことを洗いざらい話していった。

     ★★★

     授業中の居眠りはよろしくないが、多少睡眠をとったことでスッキリした。その調子で昼食を取り午後の授業に備えようと思ったが、脳というのは大量の糖分を摂取すると血糖値も急上昇し、インスリンが分泌され(割愛)で眠気を誘発する。
     またしても眠気に襲われたフェリクスは中庭のベンチへ足を運んだ。いい感じに木陰が降りて日差しがちょうどよく、休息に適している。
     そのまま寛いでいると、微睡の中で聞いた声をかけられた。

    「さっきは、どうしたんですか?」

     ボーッとしてたので誰だかわからなかった。顔を向けると、陽の光を帯びた白い髪が目に入って、ようやく誰だか理解した。

    「お前か……」
    「なんで睨むんですか?」
    「睨んでない……眠いだけだ」

     今の彼の目には、光を浴びたリシテアが眩しく映った。いつになく目付きの悪いフェリクスを窺いながら先程の理学の授業での様子を思い返して、彼女は隣に座る。

    「珍しいですね、あんたが居眠りなんて。うとうとすることはあっても耐えてたじゃないですか。いくら声をかけても反応しなかったのは初めてですよ」
    「……そう、なのか?」
    「記憶にないのですか?」
    「覚えてない」

     教室に入ってからのことすら曖昧で、隣がリシテアだったかさえ朧げだ。誰かに呼びかけられてた気はしたが、その時にはもう微睡の淵に立っていた。

    「机に突っ伏した時は驚きました。具合が悪くなったかと思って、心配しました」
    「それは…………悪かった」
    「いいですよ、体調が悪くなったわけではないようでしたし。……穏やかな寝息を立ててましたから」

     見られたのは恥ずかしいな……と思うが、あの時は眠る以外どうしようもなかった。先生にも心配されたくらい抗えない睡眠欲だった。

    「……そんな日もある。……お前のところの級長が毎夜の如く、喧しいからな」
    「クロードが? ああ……そういえば、よくローレンツが言ってましたね。夜中に調合するなとか魔法の実験をするなとか」
    「異臭を放つ真似はやめろ、とかな」
    「……何をやっているんですか」
    「こっちが知りたい」

     フェリクスがげんなりしながら言うと、リシテアは気の毒そうな視線を送る。悲壮感が漂う彼の貧乏くじには素直に同情した。

    「……大変ですね」
    「朝方にも喧しいのがあったからな。……騒音で事件を起こす奴の気持ちがわかってきた」
    「そ、そこまでですか!?」
    「お前も気を付けた方が良い。夜中の音は意外と響く。続くと──」
    「やめてください! 怖い顔しないでください……」

     リシテアは夜遅くまで起きてたり、深夜に目が覚めることも多かったので他人事には聞こえなかった。夜中にお茶を淹れて、お菓子を食べたりしていたが……もしかして、まずかっただろうか?!

    「夜のお茶会はいけなかったでしょうか?!」
    「夜中にするな……」
    「だって、どうしても甘いものが食べたい時とかあるじゃないですか?!」
    「ない。そんな時間に食えば余計な肉が付くだろ」
    「そういうことは言わないでください!」

     お湯を沸かす音は響いていたかもしれない。フェリクスのように恨みを買っていても不思議ではないかも! とあらぬ事が過った。……リシテアの隣人はレオニーとメルセデスなので、大丈夫だと思うが。

    「もしかして、恨まれていたでしょうか! うるさかったでしょうか!」
    「……さあな」
    「お茶を淹れて寝ないようにしているのですが、どうしても眠たくなってしまうんですよね」

     そこは大人しく寝ろと思うが、眠かったので口には出さず険しい顔をして訴えた。
     そんなフェリクスは荒れてるように見えた。不機嫌を隠そうともしない態度は威嚇する獣の如く、近付くのを躊躇うほど。

    「少し休んだ方がいいんじゃないですか? 隈が酷いですし、それだと勉強の効率が落ちますよ。……あっ、医務室のベッドは意外と寝心地良いですよ!」
    「世話になってる奴が言うと説得力があるな」
    「不可抗力です! なんでしたら、わたしの部屋で休みますか?」
    「休まるか!」

     なんで、女子の部屋で寝なきゃならない。大体自室じゃなきゃ落ち着かないし、何気に凄いこと言ってないか……? と、フェリクスは思う。

    「夜寝た方が良いのはわかっているんですけど……わたしが偉そうに言えませんね。そうですね、寝る前にココア飲むとよく眠れると聞きますよ」
    「なんで甘いものなんかを……ああ。寝る前に牛乳を飲むと背が伸びると言われてるからか」
    「──次言ったら魔法の練習台になってもらいますからね」

     頭が回らなかったので失言だと気付かなかった……。背丈が小さく、子どもっぽいことを気にしているリシテアにはよろしくない発言だったが、寝る前の牛乳は参考にした。

    「そうです。少しの間、部屋を替わってもらったらどうですか?」
    「替わりたい奴がいるか?」
    「…………難しいですね」

     リシテア自身、頼まれても断りたかった……。騒がしいとわかっているのに、替わってくれと頼むのも気が引ける。共同生活の悩みは一筋縄ではいかないよう。

    「もういい……寝る。十分経ったら起こせ」
    「ちょっと、人を目覚まし時計代わりにしないでください!」
    「菓子でも食ってればいいだろ」

     言うが否や、フェリクスの目は閉じられる。ちょうどいい目覚ましを見つけた彼は、これ幸いと休息を計っていった。
     都合良く使われてリシテアは不満に思うが、頼まれてしまった以上その場に留まる。先程の居眠りからして今のフェリクスには休息が必要と思えたし、放っておいたらずっと眠ってしまいそうだ。

    「仕方ないですね……。お菓子はまた今度にしますか」

     持ってきたお菓子袋の口を開いて、甘さ控えめの焼菓子を口にしていく。一緒に食べるつもりだったが、無理強いして食べさせるわけにはいかない。睡眠は大事だし、せっかく作ってきたのだから、ちゃんと味わってくれる時が良い!

     木漏れ日の中で揺れるそよ風は、心地よく頬を撫でる。遮られた陽射しとぽかぽかした陽気は、知らず眠気を誘う。目が冴えていたリシテアも、ついうとうとと瞼が下りようとしていた。
     ほんの少し微睡の淵に立った矢先、事件は起きた。

    「……はっ?!」

     リシテアの肩に重いものが乗った。何がのしかかったのか察して、ゆっくり首を動かして確認すると、体が一気に硬直した。石化させる蛇に睨まれたかのように……。
     肩に乗ったのは人の頭蓋骨──フェリクスの頭だった!

    「えぇっ! ……は、はぁっ?!」

     悲鳴に近い奇声を上げるが、彼は安穏な寝息を立てて目を閉ざしたまま。未だ夢の中で、起きる気配はなさそうだ。
     不可抗力でリシテアの方に体が倒れたのはわかっている……起きていたらするはずがない。──リシテアは、どうしたらいいか困った! 起こしたくないが、この状況は心臓に悪い。先ほどからバクバク心音が早くなって、体温が急上昇している。

    「ど、とど、どうしたらっ?!」

     放っておいていいのかもしれないが、このままではリシテアが保たない。小柄な体に人の頭は重く、何よりこの状況を誰かに見られたくない!
     首をキョロキョロ動かして、誰か見ていない確認する。今のところ人はいなさそうだ……だが、いつ目撃されてもおかしくない。少し考えて、リシテアはフェリクスを起こさないように重力と反対方向に体を押して、元に戻そうと試みた。
     ……体が熱く、早る鼓動の中で行動に移したためか、思うように力が入らない。力が抜けた人の体は重い。

    「あっ……!?」

     手を滑らせてしまうのは当然のことで、押し出されたフェリクスの体は重力従うしかない。──彼の頭はリシテアの足に落ちた。ちょうど太腿あたりに。

    「はっ!? え※△◯✖★☆♯!」

     言葉にならない絶叫が上がった。

    (な、なんですか?! 本当に起きてないんですか! ……と、とりあえず起こさないと。誰かに見られたらまずいです!)

     混乱しながらも頭を回転させて状況の打破を試みる。体を揺すって何度も呼びかけるが、眉間の皺が深まるばかりで起きる様子はない。

    「お、起きてください! そ……そろそろ授業が始まりますから!」

     と、同時に予鈴のベルが鳴った。
     生徒や講師達が教室や訓練所へ向かう気配を感じて、リシテアは焦燥感に駆られる。これで誰かに見られる可能性は減った……という安堵も抱きつつ。

    「フェリクス! フェリクス! も、もう本当に起きてください!」
    「……チッ。────死ね」
    「ちょっ?! どんな夢を見ているんですか!」

     寝言で殺意を向けられてしまう! とても不機嫌で無意識下で起きることを拒否しているのは伝わった。それほどまで眠いのだろう……地獄の底からの死の寝言はリシテアを呆れさせつつ、躊躇いを生ませた。

    (べ、別に嫌ではないけど……けど、起こさないとわたしもフェリクスも困りますし! 時間もないですし)

     勤勉だからこそ、開き直れず戸惑っていた。
     そうこうしているうちに始業開始のベルが鳴って、授業が開始してしまう。

    「えっ嘘……?! そ、そんなに時間が経ったんですか!」

     早い時の流れに心身を震え上がらせて、愕然とする。こんな形で人生初の授業サボりをするとは夢にも思ってなかった……。
     膝にいる男は暖かい陽射しを浴びて、呑気に寝こけているのが恨めしく、羨ましかった。自分もこんな風に寝れたら良かった! と、赤面しながら思い馳せる。

     ──ハッと目を覚ました時は、授業の終わり際だった。
     寝ぼけ眼でいたフェリクスは状況を理解する前に、急いで立ち上がったリシテアからの衝撃に気を持っていかれる。

    「馬鹿っ! 本当に馬鹿っ! あんたって最悪で、ずるいです!!」

     赤くなったリシテアに罵声を浴びせられてしまう。何のことだ? と巡らせている間に、彼女は校舎へと駆け出していった。

    「何故、起き抜けに怒られなければならない……」

     呑気なことを思いながらフェリクスも校舎へ戻った。教室に入ると自分が予想よりも眠っていたことを知り、無断欠席を理由にベレトから呼び出されてしまう。
     経緯はわからないが、この時も最近の悩みと隣人による騒音と今日の出来事を洗いざらい全て話していった。……リシテアのことは伏せて。

    「そうか、わかった。クロードには俺から言っておくよ」

     ここでフェリクスは閃いた。提案された助言を元に、信頼できる教師に切り出した。

    「先生、部屋を変わってくれ! 一週間でいい」
    「部屋をか?」
    「そうだ、実際に体験した方が話が早い」
    「まあ……そうかもしれないな」

     快諾してもらいフェリクスは拳を握った。先生なら何とかなりそうだ! と、たしかな手応えを感じて、久方振りの安眠が確約されて口角が上がった。
     ……予想通り、一週間も経たずベレトは事態を解決に導いた。
     説教とお咎めと『次やったら後はないぞ?』の警告は相当堪えたようで、クロードだけでなく、周囲の生徒達もしばらく大人しくなった。それでも"しばらく"なのだが、フェリクスの悩みは当面解消された。『先生は卑怯だぞ!』と非難されたが、それこそ素知らぬ面でほくそ笑んでいた。
     また、後日会ったリシテアに何故起こさなかった? と無神経に尋ねると……

    「覚えてないってどういうことですか!? ……記憶にない方が良かったかもしれませんが、人を弄んであんた何考えてるんですか! 」

     意味不明なことを言われ、盛大に不貞腐れさせてしまう問題が発生した。
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