ひゅ、と喉が鳴り、暗い部屋に怪物の気配を感じる。隣で寝ている雨の息遣いさえも信じられなくなって、数分悩んだ後に手を伸ばした。雨、雨、どうしよう。いつも起きてるのか分からないようなぼんやりした男が、こういう時に限ってすぐに目を覚ます。それが、申し訳なくて、怖かった。
雨は目を閉じたまま俺の手を取ると、ねれないの、ともごもご口を動かす。ごめん、起こして。なんか怖くて。べつになんもないんだけど。ごめん。矢継ぎ早にそう話して、それでも手を離してほしくなくて、だけどやっぱり怖かった。雨は片目だけ開いて、俺のおでこを触る。俺は涙がこぼれるのを隠す。ああ、だめだ、ごめん、明日早いのにな。雨が体を起こすのに合わせてもう一度謝る。
なにが怖いの。いや、怖くないよべつに。
眠れないの。もうちょっとで寝れそう。
背中に回った手が暖かくて、孤独を巣くう怪物はいなくなった。代わりに現れたのは、この場から逃げることしか考えられない罪悪感だ。へら、と笑って布団を被る。それでも追いかけてきてほしい。そう思う自分が不思議だった。
雨さ、嫌にならないの。いつもごめんな。俺、面倒臭くて。いや、雨も面倒だけど。でも、眠いよな。涙が染み込んでいくけれど、蛇口は締まらない。雨の表情も見えない。呼吸を整えようと口を塞げば、雨のため息が聞こえてくる。
「眠いですよ」
その言葉はやけにはっきりと聞こえた。
「けど、どうでもいいです、そんなこと。大地先輩ってべつに元々面倒臭いし」
「め……面倒臭いって……お、お、俺……」
「いいですよ、泣いて。一人で泣かれるよりよっぽどましだし」
くあ、と欠伸を隠さない雨の顔を見る。雨はいつもどおりだった。俺のことが面倒なくせに俺のことが好きな恋人のままだった。ぐずぐずの鼻をこすりながら、もう一度手を伸ばす。
「……れーちゃん、とんとんして……」
「いいですよ。歌いましょうか」
「いらない」