アナと山男アレンデールを襲う大雪を止める為に姉エルサを探しているというのに、散々な目に遇いすぎている自分の状況にアナは己の運の悪さに若干頭を抱えていた。
折角何十年か振りに王国の窓もドアも門も何もかもが解放されて、理由も無く自分を避けていたエルサともまともに会話できて、白馬の王子様であるハンスと出会えたというのに───
その日に会ったばかりのハンスとの婚約をエルサに宣言してから色々と歯車が狂ってしまった。
エルサが独りで己の魔力に苦しんでいたのには深く同情するし、察する事のできなかった自分の不甲斐なさと魔力に苦しんでた事実を自分に打ち明けてくれなかったエルサに少なからず怒りを感じてはいたが、本来真夏である王国に大雪が吹き荒れている現状を解決するにはエルサを探し出して一緒に王国の雪を止める術を探さなくてはならない。
それにはエルサが隠れているであろうノースマウンテンに行くしかないのだが、山を熟知している道案内役の山男は不機嫌な顔で暖炉の炎と睨み合っている。
後ろでは雪山での探索にに疲れた山男の相棒であるトナカイのスヴェンが丸まって寝息を立てている。
「そんな不機嫌な顔しないでよ」
アナは不貞腐れ気味に言うと炎を睨んでいた山男は自分の身体に巻かれた包帯と頬と額に貼られている絆創膏を指差して「ファンシーでキュートな絆創膏とピンクの包帯だぞ!?恥ずかしいったらありゃしねーよ」と毒づけば再び暖炉の炎を睨む。
「仕方ないでしょ?私はこういうのしか持ってないの」
女王の失踪&王国に訪れた寒波で何も準備できてなかったアナは偶然見掛けたオーケンの店で急遽物を揃えたのだ。
「いや、普通はこんなの持たないだろ……」
山男は今度は呆れたように言うと暖炉の前で干している己の衣服に手を伸ばすと溜め息混じりに「乾いてねー……」と呟くと渋々干し直す。
ふと、アナはこの時初めて山男の身体が平均男性よりも遥かに筋肉質で大柄な男である事に気付いた。
恥ずかしい話。異性として意識した男性はハンスだけなのだった筈なのだが、隣で不貞腐れている筋肉質な山男の身体に自然と視線が向いてしまう。
────てか、よく見ると味のある顔してるわよね。
ハンスみたいに美形パーツの集まりとかじゃなくて何処か印象に残り易い彼の顔にアナは妙な感覚を覚えると軽く咳払いして暖炉の火を眺める。
狼達に襲われた後は軽い吹雪に見回れたので山男の提案でこのボロい小屋で暖を取る事にしたのだが、思い返せば裸の男性と密室で2人きりである今の事態にアナは思わず顔を赤くする。
────婚約者の裸すら見た事ないのに初めて出会った男性の裸を見るだなんて……
毛布で下半身を隠してるとはいえ、雪で濡れた衣服を暖炉で乾かしている地点で彼が裸である事には変わりない。
裸の男性、密室
このパターンの危険さに漸く気付いたアナは今度は顔を青くさせると頬を膨らませると両手でで頬を覆うという謎の行動に出る。
「……フグの物真似か?」
アナの何気ない顔芸に山男は片方の眉を吊り上げるとアナの元に近寄る。
「く、クリストフ!近いわ!」
襲われる!そう思って固く目を閉じて身構えるも山男であるクリストフの大きな手がアナの額に触れただけだったので、アナは呆気に取られた。
「赤くなったり、青くなったり忙しいぞ。何処か痛いのか?」
先程の不貞腐れようとは打って変わって本気で心配してる様子の彼にアナは驚くも思わず彼の手を払い除けて座ったまま後ずさる。
「な、何でもないッ!私に勝手に触れないでよ」
アナの様子にクリストフは意味が分からないと言わんばかりの表情を向けるも自分自身の裸体に目を向けると何かを察したのかあからさまにアナから距離を離す。
「悪い。これは確かに嫌だよな」
でも、衣服が濡れてるからどうしようもないんだ。そう付け加えればクリストフはアナに背を向けると横になる。
これから自分は寝るから何もしないというアピールなのだろう。
アナはクリストフの不器用な気遣いに安堵の溜め息を吐くと同じく彼に背を向ける形で横たわると静かに目を閉じるのだった。