突然ですが、クリストフが5才児になりました突然ですが、クリストフが5才児になりました。
自慢ではないが、幼い頃からトロールの谷で過ごしてきたせいかクリストフの特技は探索だ。人がまだ見付けきれていない未発見の地を発見するなり、好奇心のまま突き進むのが彼のポリシーだった。
義姉のエルサからはアナと結婚したのだから風来坊のように何処かに行くのは控えるよう注意は受けているのだが趣味が山籠りなせいか月に一度は山へ行ってしまう。
目的地に辿り着いたクリストフは座れそうな岩に腰掛けると持参した水筒の水を飲むと大きく深呼吸をする。
「やっぱ、山って良いよなー……」
山頂から眺められるアレンデールはいつ見ても壮大で美しい。町にいる時は分からないが、アレンデールの家々の屋根は色鮮やでアレンデール城はエルサが掛けた加護の魔法で更に美しく輝いている。
本当はスヴェンを連れて行きたかったのだが、城内に設置されている小屋の中で気持ち良さそうに眠っていたのでとても起こす気にはなれなかった。
スヴェンを連れていれば楽だったが徒歩となると流石に疲れるものだ。おかげで肩は重いし足も地味に痛い。
疲労が溜まった時は休んで食事をするのに限る。そう考えたクリストフはリュックからレタスとハム、ベーコンを挟んだサンドイッチを取り出すと勢いよくかぶり付く。
今朝適当に作ったヤツなのだが、やはりサンドイッチは美味しい。
こんなに美味しいのだからアナが病み付きになるのも無理はないだろう。
基本的にクリストフはどんな具でもいける派なのだが恋人のアナがトマトやベーコン、ハムにレタスが入ったサンドイッチをこよなく愛しているので彼も自然とこのラインナップで食べるようになってた。
(サンドイッチうまー……)
パン屑を溢しながら食べていたその時、クリストフの視界に凄い光景が写り込む。
信じられない事に誰かが急斜面を高速で転げ落ちているのだ。
その人物は服装からしてどこか魔女っぽい身なりをしており、凄まじい勢いで斜面を転げ落ちたのかと思えば岩にぶつかって、岩にぶつかった後に宙を舞って地面に落ちた。
え……?何?怖………。
クリストフの中にそんな感情が芽生えたが、怪我人を放置するワケにはいかないので携帯用の医療キットを片手に持つと足早に地面にぶっ倒れている魔女の元へと向かった。
「婆さん、大丈夫か?」
そう声を掛けたのだが、婆というワードが悪かったのか地面で延びていた魔女は勢い良く起き上がると皺だらけの顔面を更に歪ませてクリストフを睨み付ける。
「誰が毒リンゴ売りの婆じゃ!?」
「いや、毒リンゴ売りの婆とは言ってない。……って、毒リンゴ売りなの?怖……。」
魔女が毒リンゴ売りの婆だと察したものの、擦り傷(よく擦り傷で済んだな)は消毒しなければならないのでクリストフは毒リンゴ売りの婆に消毒液をぶっかける。
案の定、擦り傷に消毒液が沁みるのか婆は悲鳴を上げて地面を転げ回っていたが、次に何やら煙を上げたかと思えば婆の姿から化粧が濃い目のなかなかの美女にへと変貌を遂げたのではないか。
「………死ぬほど沁みたぞ」
「うわっ!若返った!?……え?浄化されたのか?」
おかしいな。ちゃんとした消毒液の筈なのに……と消毒液が入っていたビンと化粧が濃い目の美女を交互に見る。
「違う!色々と諸事情があって老婆に化けてたのだ」
化粧が濃い目の美女はそう言いながらマントを羽織ると地面に落ちていた毒リンゴを拾う。
その毒リンゴで何をしようとしているのか大体予想の付いたクリストフはその美女から距離を取ろうとしたが呼び止められてしまう。
「待て。扱いが酷かったとは云え手当てしてくれた事に変わりない。礼を言うぞ」
化粧が濃い目の美女はそう言うとローブから1つの金色の薬をクリストフに差し出した。
「コレ何?毒?」
「毒ではない。私が作った幸運の秘薬だ。本当は……愛娘にあげたかったのだが──」
「幸運の秘薬?何それ?毒?」
相変わらず失礼な態度を取るクリストフに化粧が濃い目の美女は口元を引きつらせているものの、どうにか怒りを堪える。
「…………お前は私を挑発してるのか?これは毒などではない。幸運の秘薬だ。飲めばその1日は幸運になる。だが……一つ注意点があってだな───」
どうやらこの秘薬は1日の運気が上がる幸運の秘薬、らしい。
これを飲んだ後に宝くじを買えば当選する確率とかが上がるのだろう。得たいの知れない金色の薬品だが飲む価値はありそうだ。
恐る恐る蓋を開けてみるとレモングラスのような香りが広がる。
ハーブティーみたいだな……。そう思いながら薬品を飲むと何とも云えない感覚が身体中に広がる。何と言うか痛いし痺れる……。
やはり、毒か??
因みに先の疚しい考えが仇となったのだろう。クリストフの耳には化粧が濃い目の美女の忠告が耳に届いていなかった。
「金絡みの疚しい考えをするとペナルティとして3日間は子どもの姿になってしまうのだ。まあ、それでも1日は幸運に………」
そう説明している化粧が濃い目の美女の目の前には5才児となったクリストフがいた…………。
「……………」
「……………」
化粧が濃い美女と5才児が無言で見つめ合うというシュールな光景から数秒後、クリストフが凄まじい叫び声を上げたので池の水を飲んでいた鹿達が飛び上がってパニックを起こす。
「おい!!!てめぇ!!こう言うのは先に忠告するべきだろぉおおおお!!!???あと服までちゃんと幼児サイズとかすげぇな!!??」
クリストフはそう叫ぶと化粧が濃い目の美女に掴みかかろうとしたが小さい足での歩行が慣れてないのか見事に転ぶ
「………まさか、金に関して考えるとは…:。どんだけ金に飢えているのだ……?」
「うるせぇよ!俺は貧乏な山男なんだよッ!!」
アナとエルサのシーンをチラッ↓
変わり果てた恋人の姿に嘆くのではなく逆に感激して抱き締めてくるアナの様子にクリストフは何とも云えない気持ちに陥る。
「やだ………!!可愛い………!!」
「………恋人の身を案じるんじゃなくてそう来るか」
「嘘?!凄く可愛いんですけど!?」
………頼みの綱であるエルサまでも5才児ビジュアルのクリストフがドストライクだったらしい。アナと同じように彼を抱き上げると幼児特有の柔らかい頬に自分の頬をくっつけて柔らかさを堪能している。
「………エルサの頬ってつめてぇ……」
全く頼りになりそうにない親友にクリストフは悔し涙を流すしかなかった。