アナ雪短編シリーズ「クリストフの身体って傷だらけよね……」
そう言いながらアナは無駄だと分かっていても、古傷と思われる場所に医師から処方された軟膏を塗りたくる。
「まあ、狼と戦ったりするしな」
クリストフはアナに背を向けたままそう言っては鼻で笑っているが、アナは真顔のまま彼の背中、肩、普段は髪で隠れて見えない首元を見ては口の端をぐっとつり上げた。
確かに狼に噛まれた痕とかあるが、それ以外の古傷もある。傷自体はよく見ないと分からない程に薄くなってはいるが、形状からして明らかに折檻で出来た傷だ。
「嘘でしょ?過去に誰かにいじめられたりとかしてない?」
「………さあ」
クリストフは自分の幼少期を一切語らない。聞いても語ろうとはしない。
トロール達と過ごした日々の事は言うけれどもそれ以外に関しては絶対に口を割らないのだ。
きっと思い出したくない事なのだろう。
それでもアナは知りたかった。彼の辛い過去を
彼の過去を知って、理解して、癒してあげたい。
そう思うのはワガママなのだろうか………?
だってクリストフは未だに時折夢に魘されているのだ。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ……、殴らないで』
固く瞼を閉じてそう呟いて魘されているクリストフはいつもの彼からは想像付かない程に弱々しくて子どもっぽい。
彼の過去を知らないアナにでも幼少期に辛い目に遇って来たというのは安易に想像できた。
魘されているクリストフを抱き締めて背中を擦るしかできない自分が情けなくて泣きたくなるけども、自分が泣いたところで彼の辛い過去がなくなるワケではない。
だからアナは涙を堪えて悪夢に苦しむクリストフを抱き締める。
きっと、これからもこんな日々はあるのかもしれない。だから────。
「クリストフ」
「ん?」
「私とクリストフはずーっと一緒よ」
「どうした?急に」
彼の指に己の指を絡めて背後から抱き締めれば背中越しから伝わる彼の力強い心臓の音。
心なしか鼓動が早くなっている気がしてアナは小さく笑う。
「……ねぇ、貴方を苦しめた人達にお仕置きしちゃダメ?」
「今があるから良いよ。今の俺は世界一の幸せ者だしさ」
「クリストフは優しいのね」
私は、どんな苦境な状況にいても絶対に恨み事を一切言わない彼の強い心に引かれたのかもしれない。