職員達との飲み会でのことだ。食事を必要としない意識覚醒者であるルーシーは周りの会話や雰囲気に意識を傾けていた。
開始から数十分が経ち、各々の席が入り乱れるといつの間にかアルコールから顔が赤くなったアドラーが隣にいた。
「アドラー、飲み過ぎよ。アナタの体のアルコール許容量を大幅に超えているわ。」
開始直後はまだセーブしていたはずだった彼はもう十分に泥酔している。顔が赤く、所々呂律が回っていない。
「ああ、だいじょぶだ。人間はコレくらいじゃ、死なねえからな。」
「それでもよ。現にアナタは数年前に計算科学研究センターの六階から落ちたことがあるでしょう。」
「はは、もうそんなことにはなんねぇよ。それより、酔えない意識覚醒者は飲み会にいて楽しいのか?」
「楽しいかどうかは置いておいても、アルコールで明け透けになった人を見るのは面白いわ。」
「はは、そうかよ。」
アドラーはルーシーの回答に満足したように笑うとグラスに残った酒を煽り、しばらくぼーっとした後ルーシーの肩に頭を預け夢の中へ落ちていくのだった。
ルーシーは肩にかかる重みを気にしてアドラーの顔を見ると、どこか可愛らしく見えて不思議な感覚だった。普段見ることのできない所を見ることができる。ルーシーは改めて飲み会のこういった所が面白いのだと思った。そんなことは知らずに、アドラーはルーシーの硬いボディを枕にしているとは思えない程とても気持ちよさそうに眠っていた。
飲み会が終わると皆それぞれの帰路につく。だがアドラーは未だルーシーの肩にもたれてすやすやと寝息を立てていた。そんな彼をどうにか家に返さなければとルーシーは同じ意識覚醒者であるウルリッヒを呼び止めた。
「どうしたんですか?ミス・ルーシー。」
「アドラーを部屋へ帰そうと思って。ワタシだけで運ぶよりあなたがいた方が安定するから。」
「そうですね。ではボクは胴体の方を持ちますよ。」
そう言ってウルリッヒはアドラーの背中にまわり、わきの下に手を入れた。
「わかったわ。」
ルーシーが足を持ち上げる準備をすると「せーの」とウルリッヒの掛け声に合わせて持ち上げた。その様子は救助活動のお手本のようにスムーズで完璧だっただろう。二人は何事もないかのようにアドラーを部屋へ送り、親切に靴と上着を脱がせてベッドに入れた。その間もアドラーは目覚めることはなくぐっすりだった。
翌朝、アドラーは目を覚まして久しぶりの二日酔いからくる頭痛に襲われた。
そしてラプラスの中では昨夜の出来事が事実なのかと目撃した人や噂好きの間で議論が巻き起こったのだった。