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    春之助

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    春之助

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    幼い龍の藍忘機と、幼い狐の魏無羨のお話。
    書き途中です。
    色々捏造でファンタジー。
    ほんわか日常目指そうと頑張りましたが、まだほんわかしてないです。ここからほんわかな可愛い日常が始まるはず。
    魏無羨が泣きます。可哀想なすれ違い(?)がありますが、必ず2人とも幸せになります。
    まだ書いてませんがこれから、お腹いっぱいご飯食べて沢山二人でお話して沢山遊んで、二人で手繋いで寝ます。

    #MDZS
    #忘羨
    WangXian

    龍と冬眠の話龍には冬眠があるのだと、藍湛が目を覚ましてから教えてもらった。


    魏無羨は秋の支度の為に魚を狩り、雉をとり、と忙しなく動いていた。常であれば着いてくる幼い龍の藍忘機は眠たいのか目も開かないようだ。
    「藍湛、俺は行ってくるから、お前はちゃんと寝てるんだぞ。俺の布団使ってていいからな」
    藍忘機の頭を撫で、柔らかい頬に唇を落とす。いつもなら耳を真っ赤にして尻餅を着くぐらい驚くのに、今日の藍忘機はこくん、と一つ船を漕いだ。
    「藍湛、藍湛、そんなにお眠なのか?ねんねするの?ああ、待って藍湛、ちゃんと寝床に……藍湛、重たいよ俺一人じゃお前を持てないんだから」
    魏無羨がいくら声を掛けようと藍忘機は目を覚まさなかった。あまりの異常さに魏無羨は慌てて狩りに出るのをやめた。
    ひたすら藍忘機の頬を摩り、自身の尻尾を彼の腹に置く。魏無羨よりも低い体温に温度を与えようとしたのだ。
    「冷たっっ藍湛、藍湛、起きろよ。このままじゃ死んじゃうよ、藍湛」
    冷たい藍忘機を抱き締め、温い涙を押し付けた。
    「……うぇいいん、……」
    少し温まったあと、藍忘機は軽く目を開いた。弱々しく、冷えきった手が魏無羨の涙を拭った。
    心音は小さくか弱いが、それでも苦悶の陰ひとつ無く、ただ寝ているだけのような表情に魏無羨はほっと息を着いた。
    吐いた息が白くなり、消えていく。しんしんと降り積もる雪は魏無羨のお腹をくぅ……と鳴らせた。藍忘機を抱き寄せ、すりすり頬擦りをする。このまま藍湛は死んじゃうのかな。

    漸く独りから抜け出したところだったのに。

    狐の魏無羨はいつも一人ぼっちだった。両親を亡くし、人間の村で人間に化けて物乞いをする生活をしていた。
    時には大人の姿で働きもした。
    そんな生活の中で、藍忘機ただ一人が魏無羨の正体を見抜いたのだ。
    "人を化かす事は禁じられている"なんて事を言って魏無羨を村から追い出したそいつは度々山の麓の村に来ては魏無羨を見つけ出し、また山に帰れと言う。
    売り言葉に買い言葉で、"出てくから俺の飯を頂戴よ"なんて返せば本当に渡してきた。

    ぐぅぅ……また腹が鳴る。
    藍忘機と出会って数ヶ月は喧嘩ばかりであったが、今ではまあまあ仲が良い、と思う。最初のように失せろとは言われなくなった。
    藍湛を置いて狩りに行くのも心配。かといって行かなければ当分の飯は無いのだ。
    「……お腹、へった……」
    藍忘機の胸に顎を乗せ、一人で呟いた。次第に指先の感覚が痺れ、涙が溢れてくる。
    寒い、お腹減った、動きたくない、眠たい。
    くるくる、鳴るお腹に、つい、きゅーきゅーと鳴いてしまう。
    二日経っても藍忘機は起きなかった。ついに魏無羨は人の姿も保てなくなり、痩せ細った子狐になってしまった。このままではお腹が減りすぎて死んでしまう。藍忘機を置いて狩りに出掛けるしかなかった。
    人間の姿であれば簡単に掴まえられる魚も雉も狐の姿では全てが難しい。狐の姿では自分の手足と口を使って捕らえるため、かなりの忍耐力が必要だった。
    しかし、置いてきてしまった藍忘機を心配している魏無羨に忍耐力なんてものは無い。川に行き、どうにか弱った魚を一匹捕まえたが、それ以上は捕まえる事などできなかった。冷たい水は魏無羨の体温を下げ、ぶるぶる震えながら岸で取ったばかりの魚を食べるしかない。食べたところで、震えが止まることはなかった。
    重い足を引き摺りゆっくりと藍忘機の元に帰る。帰り道に、藍忘機が食べれそうな木の実を探し歩き、やっとの思いで両手いっぱいの木の実を拾った。お腹がまたぐぅーとなり、手のひらに乗った木の実に涎が垂れそうになるのを必死に堪える。
    「藍湛、ただいま」
    やはり彼は眠ったままだった。
    「……藍湛、木の実拾ってきたぞ。藍湛、起きないのか?起きないと俺が食べちゃうぞ」
    藍忘機を何度も揺すった。眠ったその日から心音は変わらず小さいまま。
    唇に口付けをしたって目を覚ましてはくれない。村で聞いた御伽噺のようにはいかないらしい。
    「藍湛、寂しいよ。起きてよ藍湛。俺、お前との約束で村に行ってないよ」
    眠ったままの龍に抱き着き、頬を舐め、藍忘機の手を頭に置いて撫でさせた。

    藍忘機は春から度々魏無羨に食事を渡しに来ると、"私も一緒に行く"と狩りに着いて来たり、魏無羨の寝床を整えたり、玩具を持ってきたり、と魏無羨の隣にいるようになったのだ。少し手が触れるだけで固まる藍忘機に魏無羨は面白がって更に触れる。
    魏無羨の生活を知った彼は徐々に魏無羨を拒絶する事はなくなっていた。

    「……藍湛、寂しいよ」
    魏無羨は今日あった事を眠ったままの彼に話したが彼の「うん」が無いから途中でやめてしまった。
    拾ったどんぐりや、雪の中でも咲いてた花、綺麗な小石を藍忘機の周りに並べていく。数少ない木の皿に、冷たい川の水で洗った木の実も置いた。いつでも藍忘機が起きて良いように準備をしたのだ。
    「この花、藍湛は綺麗だから良く似合うと思ったんだ。それに木の実もさ、早く起きないと腹ぺこで、こんな木の実じゃ全く足りなくなっちゃうぞ」
    ふふん、と鼻を鳴らして藍忘機に褒められるのを待ったがやはり反応は無い。心配になって懐に潜ると彼の小さな鼓動が聞こえるから魏無羨はそのままそこで眠った。
    朝になると雪は止んでいた。けれど寒さは変わらない。
    魏無羨は藍忘機の懐から出て伸びをする。
    「藍湛、行ってくるよ。夜には帰ってくるから、良い子で待ってて」
    固い岩の上で眠ってしまった藍忘機を寝床に運ぶ為に、今日こそは大人の姿になりたい、と朝早くから飛び出した。
    大人の姿は疲れるから、沢山食べなきゃいけないのだ。最低でも魚五匹は欲しい。
    川に駆けた魏無羨はその勢いのまま川に飛び込んだ。雪よりも冷たく、凍ってしまいそうな寒さに固まる前に魚を捕える。毛が逆立った。取った魚を岸で食べると人間の姿になり焚き火をした。震えが収まるまで焚き火で温まり、更に数匹の魚を捕えて食べる。お腹が膨れてから、魏無羨は自身の住処に向けて歩き始めた。
    住処に戻るのが少し憂鬱だ。藍湛は居るのに、俺は一人のような気分。
    藍忘機を寝床に運び、本来の姿に戻った魏無羨は彼の手に頭を擦り付けた。

    「ただいま」

    一人は寂しい。
    藍湛と出会わなければ思わなかったのに。

    寂しいと感じた時、魏無羨は何度も藍忘機の懐に潜って彼の心音を聞いた。そしていつか起きてくれるかも、と何度も彼の唇に唇を押し付ける。ぺろぺろと頬を舐め、藍忘機に撫で撫でを要求した。藍忘機の唇に木の実を押し付けた事もある。
    「……藍湛、藍湛、起きてよ」
    どうやら魏無羨の涙声は藍忘機の形の良い耳には届かないらしい。
    藍忘機の瞼を押し上げても、彼の首にある逆さの鱗を触ろうとも、大切にしている抹額とやらに噛み付いても、彼は魏無羨の寝床で静かな寝息を立て続けている。
    雪は降り続けていた。
    魏無羨はただ一人、最低限の食料調達以外には彼の傍を離れなかった。冷たく微動だにしない藍忘機の上で寝たり、彼の唇や指先、角、そこかしこに勝手に触れたりと好き放題にした。起きない此奴が悪いのだ。
    「藍湛、俺、お前が起きるならなんでもするから、何がして欲しいか言ってみろよ。そうだ、姑蘇にも行くよ、お前の言う規則も守るから、頼むよ藍湛」
    雪が降る夜も、池が凍った朝も、川に落ちた日も、彼が目を覚ますまで魏無羨はどんな事でも試すつもりでいた。
    「そうだ!」
    魏無羨は大人の姿で働いていた時に貰った少量のお金のことを思い出した。このお金では薬は買えないかもしれない。それでも魏無羨は藍忘機との約束を破って人間の村へと降りた。
    久しぶりに魏無羨の姿を見た村人は、一様に哀れんだ目を向けてきた。その目は如実に語っている。この冬を越えられないだろう、と。
    「……おじさん、このお金で薬は貰えるか?」
    魏無羨が聞くと薬屋は首を振った。代わりに食べ物をくれようとしたが、魏無羨はそれならいいや、と首を振った。食べ物を買っても藍忘機は食べてくれないからだ。
    それなら、藍忘機を温める何かを買ってやろう、と市場を見て回った。本当は毛布なんかを買ってやりたかったが、そんな金はなく手袋を買って帰った。
    「帰ったぞ藍湛、お前にお土産があるんだ!」
    魏無羨は、自身の手を息で温めながら藍忘機に声を掛けた。少し温めてから藍忘機の手を取り、今度は懐で温めてあげる。自身の体温と同じくらいになってからやっと手袋を付けてあげた。
    「ずっと寒かっただろ?ごめんな、これで手痛くないからな」
    手袋を付けた藍忘機の両手で勝手に自身の頬を挟む。ほら、温かいだろ、と。
    住処にある唯一の寝床は藍忘機が使っている。だから魏無羨は、藍忘機の懐に潜り込んで寝ていたのだが、その日から潜り込むことをやめた。村で余った藁を貰った魏無羨は、寝床のすぐ隣に藁を敷くと、藍忘機の手に手を重ね、寝床に凭れかかった。
    「……藍湛、おれ、がんばるからな」
    そうは言っても、大人の狐でさえ厳しい冬を子狐が秋の蓄え無しに一匹で乗り越えれるほど甘くは無い。
    「羨羨はいるから、寂しがらなくていいからな」
    自身の毛で人形を一体作り、藍忘機の懐に詰めておく。いつ帰って来れなくなっても良いように。いつ自分が起きなくなっても良いように。

    そんな生活が4ヶ月程続いたある日、魏無羨はついに起き上がれなくなった。手は霜焼けで痛くて痒くて、必死に舐めても治ることは無い。裸足の足はもう感覚もない。全身が冷えて震えているのに熱くて息がしにくく、立ち上がることもままならなかった。
    雪は降り続けている。あと少しで春がくる筈だが、その日は風が強く一寸先も見えないほどの吹雪だった。
    藍湛を置いて死にたくない。
    魏無羨は、藍忘機の為に置いていた木の実を一つ、二つ、と齧った。
    自身の食事はその日の分しか取れなかったが、藍忘機の木の実は毎日拾っていた為、かなりの量があった。
    起きてすぐの藍忘機が困らない為のものであり、魏無羨が今までそれに手を付けることは無かった。しかし、今、飢餓状態の魏無羨は目の前の木の実を泣きながら食べてしまっていた。

    住処を出ることなく一ヶ月が経った頃には雪がやんでいた。魏無羨が泣きながら食べた木の実はもう、探さなくても手のひらいっぱいに拾える季節が目前に迫っていた。きっと魚たちも沢山泳いでいるだろう。
    魏無羨はそのまま目を閉じていた。もう藍忘機が起きても魏無羨は生きられないだろうと悟っていたのだ。
    「俺の命、全部あげるから目を覚まして藍湛」
    朝、目を覚ますと魏無羨は藍忘機に口付けをし、夜の間に溜めた霊力を全て藍忘機に送った。人間の姿になることも諦めた。日に一度、木の実を齧り、長い一日を目を閉じて過ごす。一日でも長く、藍忘機に霊力を送ってやろうと決めたのだ。

    その日も、いつも通り藍忘機の傍で目を覚ました魏無羨は藍忘機の唇に唇を重ねた。
    「……っっ!!」
    久方ぶりに開かれた玻璃のような美しい瞳。
    魏無羨はその瞳が見れた事に驚き、喜んだ。
    その喜びも束の間、いつの間にか彼の尻尾で魏無羨は弾き飛ばされていた。

    体はもう殆ど機能していないのだろう。雪ではなく、青々とした茂みに囲まれ、魏無羨は目を瞬いた。
    冬を超えたのだ。魏無羨は自分は本当によく頑張った、と自身を褒めた。藍忘機が起きるのも見れた。これで両親に胸を張って抱き着きに行ける。
    「藍湛……やっと、起きた……」
    魏無羨に駆け寄ろうとした藍忘機は周りにある物を踏んでしまっていた。
    集めた木の実と魏無羨の毛でできた人形も、手袋も、藍忘機からしたら必要ない物だったのかもしれない。
    「ははは……、ちょっとくらい大切にしてくれてもいいのに……」
    魏無羨は笑った。藍忘機が起きてくれた。それが嬉しく、戯れ言が口から勝手に零れていくのだ。
    裂けた衣。腹から溢れていく血に、俺の体にもまだこんなに血があったんだと喜ぶほど、魏無羨は藍忘機が起きたことがたまらなく嬉しかった。
    「藍湛、藍湛、そんなに怒らなくても良いだろ?ほら見てみろよ、お前に口付けした分の罰はもう十分受けた。お前んとこの戒尺なんて受けたら俺は死んじゃうから……冗談だよ藍湛、罰は受けるからそんな悲しい顔するな。それに俺も男だし、口付けを数に入れる必要ないぞ」
    どくどくと溢れる血液の分、魏無羨は頭が冷えていた。眠った藍忘機に仕出かした罪の重さに今更ながら気付いて胸が痛くなる。
    龍族は永遠とも言えるような永い一生のうちに一人しか愛さないのだ。その龍族に口付けしていた。ましてやこの頑固で潔癖な藍忘機なんて絶対に初めての口付けだろう。
    そんな男の唇を、眠っているからといって幾度となく奪い続けた挙句初めてがいつかも魏無羨は思い出せないときた。真っ青な顔のまま立ち尽くした藍忘機にまた弁解を重ねようと、足に力を入れた。
    ぐらり
    視界が歪み、立ち上がることなど出来ずいつの間にか地面に出来ていた赤い水溜まりが跳ねる。
    「魏嬰!!」
    藍忘機の声が遠くに聞こえ魏無羨はやっと彼の顔が怒りではなく、心配で真っ青になっている事に気が付いた。
    ああ、本当に死ぬのか。やっと、藍湛が起きたのに。
    霞む瞳を閉じようとする。身体が浮遊感に包まれ、唇に何かがあたった。
    途端に視界いっぱいに金色の美しい世界が広がる。次第に身体が暖かくなり、魏無羨はやっと藍忘機に向けて手を伸ばせた。
    今、俺……藍湛と口付けしてる……。
    唇にぷつん、と水滴があたる。彼との銀糸が途切れ、呆然としていると冷や汗で張り付いた髪を拭われた。
    「……すまない」
    怪我をしたのは俺の方なのに、藍湛の方が痛そうな顔をしていた。
    「…………うわ!?」
    ただの狐。一本の尻尾しかない、寿命も精々十数年しかないただの狐だったはず。しかし、今の魏無羨は体中に有り得ないほどの霊力を漲らせていた。後ろに増えたもふもふに驚き、飛び跳ね、思わず掴んで数えてしまった。
    「一、二、三……九本!?!?」
    歩くことどころか、手を伸ばすこともままならない程に弱っていた体の傷が癒えている。衰弱も飢餓もない。身体も軽く、死んだと言われた方が納得してしまいそうだ。
    「私の霊力を送った」
    そう話す彼は申し訳なさそうにしているのに、どこか満足気に見えた。
    「なんで謝るんだ?」
    この冬の間にすっかり触り慣れた藍忘機の頬を撫でた。そのまま彼の顔を引き寄せ、唇を押し当てる。霊力を通わせることのない、ただの口付け。瞳を合わせながら口付けをするなんて、夢のようだとすら思えた。
    「俺は藍湛が起きてくれて本当に嬉しいんだよ。お前が起きてくれるなら俺は何を差し出したっていいと思ってたんだ。本当だぞ?」
    藍忘機をきつく抱きしめ、魏無羨は彼の髪を涙で濡らした。
    「……何があったの」
    藍忘機も魏無羨を抱き締め返した。悲痛に歪んだ表情はそのままだが、他人には触れないと言っていた彼が更に強く魏無羨を抱きしめる。
    「お前がずっと起きなかったんだよ」
    「すまない」
    先程まで血の流れていた腹の傷は、藍忘機の霊力ですっかり塞がっている。
    「藍湛、お前が起きて良かった……」
    まだまだ言いたい事は沢山あったが、魏無羨はもうとにかく疲れていてそれどころでは無かった。
    眠たくて眠たくて目も開けていられない。

    眠っている間、魏無羨は長い夢を見た。それは藍忘機と出会った時の夢。

    「人を化かす事は禁じられている」
    いつも通り、山を降りて村で約束していた屋根の修理をしていた魏無羨は突然白い衣を着た小さな子供に声を掛けられた。
    「化かす?一体なんのことだ?」
    その子供は大人の姿をした魏無羨を睨みつけ、すぐ近くに飛んできた。
    「君は狐だ」
    「そうだよ!あはははは!そんなの皆分かってる」
    魏無羨がぽんっと元の狐の姿になっても誰も驚きはしない。そもそもこの屋根の上にだって、狐の姿で登ったのだから。
    けらけらと笑った魏無羨は今度は少年と同じ歳頃の人間に化けた。
    「あれ?失敗したか?」
    どうやら変化が上手く出来なかったらしく、尻尾と手が狐のままだ。
    衣が尻尾で持ち上がってしまい、腰に風があたり心許ない気分になる。
    「君は!」
    「悪い悪い!ははは!」
    次はきちんと人間の姿になった魏無羨は藍忘機に笑いかけた。
    「あんた龍だろ?あの雲深不知処から来たのか?」
    少年は縦長の瞳孔を開いた。右の頬は鱗が隠し切れておらず、感情的になった為か美しい藍色が日光を反射している。
    「村から出ていけ!」
    「出ていけなんて酷いじゃないか。俺は此処で少し食べ物を貰ってるだけだよ」
    姑蘇の地は龍が住んでおり、人間と、人ならざる者との間に規則が取り決められているらしい。他所から来た魏無羨には知る由もないし、守るにも限度がある。
    「村に狐が現れる、と報告があった」
    龍の少年は腰に佩いた剣を手にとった。
    「狐?俺のことか?狐なんて他にもいるだろ?」
    魏無羨は彼から距離をとり、首を傾げた。
    「俺が一体なんの規則を破ったんだ?規則なんて何処に書いてある?」
    「人を化かすことは禁じられている」
    「皆俺が狐だって知ってるよ。どこが化かしてるって言うんだ?」
    魏無羨は彼の剣を避け、ひらりと違う屋根へ飛ぶ。
    「人と人ならざる者は生活を共にしてはならない」
    「そんな規則があるのか?」
    「土地を移動するなら、その地を管轄する家の規則を見なさい」
    「知らないよ!俺はまだ子供なんだから、知るわけないだろ?許してよ」
    少年の剣を軽々避け、魏無羨は屋根から飛び降りた。そのまま狐の姿に戻ると、素早く村から飛び出ていった。
    「しまった!今日の賃金を貰い損ねた!!」
    明日貰えばいいか、と修理途中の屋根の事を思い浮かべる。
    次の日、魏無羨が村に来るとそこには昨日の龍が居たため、屋根の修理はまた出来なかった。
    「村の人も許してるのに、なんで俺は村で稼いじゃいけないんだ?」
    龍の少年に見付かり、魏無羨は嫌々山に戻ることにした。どうやら少年も着いてくるようだ。
    「人ならざる者を捕える人もいる」
    「ああ……奴隷になるのは俺もごめんだ」
    村の人々も悪い人では無いが、魏無羨に対しての賃金は子供に与えるお小遣いよりもずっと少ない。その上、屋根の修理などの面倒で危険な仕事ばかりを頼むのは、魏無羨が狐だからだ。
    規則と藍忘機の行動に納得した魏無羨は彼の事をもっと知りたくなった。
    「俺、魏無羨!普段は山に住んでるんだ。魏嬰でいいよ。あんた名前は?」
    「藍忘機」
    「藍忘機!村で聞いた事があるよ!姑蘇藍氏の二の若君、藍忘機、藍湛だろ?どおりで強いわけだ!」
    魏無羨が名前で呼ぶと、藍忘機はまた魏無羨を睨んだ。
    「藍湛、どこまで着いてくるんだ?そうだ、昼ご飯は食べたか?まだだよな。俺がご馳走してやるよ!」
    睨まれた事などお構い無しに、魏無羨は住処で彼をもてなしてやろうと心を踊らせていた。誰かと飯を食うなんて何時ぶりだ?なんてわくわくしてしまう。
    「必要ない」
    「いいからいいから!お腹減ってるだろ?兎は好きか?俺は狩りが得意なんだ!あと少しで俺の家に着くから、お前はゆっくりしてて」
    魏無羨の楽しそうな声に圧されたようで、藍忘機は眉間を寄せながら渋々着いてきた。魏無羨がしっかり村から出ているのか確認しているのかもしれない。
    「……此処に一人で?」
    「そうだよ!藍湛は……ちょっとまっててな、よし、此処に座って!」
    住処の洞穴は大人であれば屈まなければいけないが、子供の姿なら屈む必要は無い。良い感じの岩や木を机と椅子にしている為、藍忘機がそのまま座れば衣を汚してしまうだろう。魏無羨は慌てて椅子を手で払ってから座らせた。
    「今度来る時は綺麗にしとくよ。俺は今から狩りに行くから、此処で待ってて!すぐに戻ってくるからさ」
    魏無羨は喜びを隠すこと無く、すぐ近くに兎を狩りに行った。すぐに兎を一羽捕まえたのだが、いつの間にか着いてきていた藍忘機の顔を見て口から兎を離した。
    「じょ、冗談だよ。そうだよな、あんなに可愛いんだから食べるわけない!そうだ、魚!魚を捕まえてくるよ!」
    雉よりもずっと捕まえやすく、丸々と肉付きの良い兎は魏無羨には非常に栄養のある良い食べ物であったが、藍忘機の前では辞めようと心に決めた。素早く人間の姿になり、近くの川に入ると魏無羨はあっという間に魚を十匹捕らえる。今日は藍湛がいるから、と張り切り更に数匹の魚を捕まえた。
    「どうだ?藍湛もやってみるか?」
    「やらない」
    魏無羨は今度は大人の姿になると十数匹の魚が入った籠を持ち上げ、住処に戻った。
    すぐに火を付け、串に刺した魚を焼くと村で買った貴重な塩を振りかけて藍忘機に渡す。
    「熱いから気を付けて食べろよ」
    自分の魚も焼き、はふはふと冷ましながら食べる。中々彼は口を付けなかったが、暫くして一口食べてくれた。
    「美味いだろ?この季節の魚はまだ脂がのってるんだ」
    二口目を黙々と噛み、飲み込んでから藍忘機は漸く魏無羨に返事をした。
    「……食うに語らず」
    「それも規則?」
    「うん」
    うへぇ、と魏無羨は舌を出す。折角、人と食べれてるのに、話すの禁止なんてつまらないじゃないか。
    「お前のとこは禁止ばっかりだ。ここはお前の家じゃないから、俺の好きにさせて貰うよ」
    もう一匹、魚を串に刺して火で炙る。それを見た彼は一匹食べ終わると、私のは良い、と首を振った。
    「もう要らないのか?」
    「うん」
    「口に合わなかったか?雉のが好き?」
    「いや……美味しかった」
    魏無羨は首を傾げたが藍忘機が食べないなら、と貴重な塩は大切にしまい込んでから急いで魚を食べた。
    「もう帰るの?また来る?」
    魏無羨はすっかり落ち込んでしまった。藍忘機はうんとも返事をせず、ご馳走様とだけ言って去ってしまったのだ。
    後に残ったのは取りすぎた魚だけ。

    次の日も、その次の日も、魏無羨は藍忘機との約束通り村には行かなかった。人にも藍忘機にも会えず、ぽっかりと胸に穴が空いたような気分だ。やはり危険だろうと人といた方がずっと楽しい。
    魏無羨はまた村に降り、狩った雉と魚を売った。非常に安く売った為か、余った藁と、破けて使わなくなった布団、芋を幾つか、あとはよく分からない春画というものを貰い、魏無羨はほくほくと住処に戻った。
    「あれ、藍湛!藍湛、来てたのか!」
    住処の前に立っていた藍忘機に喜び、今日はご馳走だぞ!と魏無羨は走り寄った。
    「……村に行っていたのか」
    「そうだよ!見て見て、布団を貰ったんだ!ふかふかだぞ!」
    魏無羨は両親と離れてから、初めて布団で眠るのだ。わくわくしながら、寝床として使っている岩の上の掃除を始めた。
    古い藁を落とし、雉の羽根で作った箒で細かい埃も落とす。そこにまた新しい藁を敷き、籠をひっくり返して布団を置いた。そして貰った紙の束である春画を枕としてそこに置く。
    「完璧じゃないか!」
    「……これは?」
    「春画って言うらしいぞ」
    「…………使うのか?」
    「うん!使わなきゃ勿体ないだろ?」
    藍忘機の声は震えており、なぜだか怒りを露わにしていた。
    「君は一体なんなんだ!」
    「なにって、なんでだよ!ああっ俺の枕!」
    藍忘機の手により春画は塵と化してしまった。
    「なんて事するんだよ!」
    「それはっ」
    「春画って言うんだろ?俺だって中身が何かくらいは知ってるよ。でも俺はただ枕に使おうとしてただけなのに、お前は一体何を考えたんだ?」
    魏無羨は頬を膨らませた。完璧な寝床だったのに、と怒るが顔を真っ赤にした藍忘機は魏無羨とは比べようもないくらいに怒っているようだ。
    「……失せろ!」
    「そんなに怒る事ないだろ?藍湛、落ち着けって……剣を取り出すな!!俺の家が壊れちゃうだろ!」
    仕方なく魏無羨は自身の家から逃げ出し、雉を捕まえて藍忘機が帰るのを待った。家が崩壊してないか心配になったが、どうやら崩壊は免れたようだ。
    藍忘機を揶揄うのは好きだが、生活に支障が出るのは良くない。そもそも今日は揶揄うつもりが無かったのに怒らせてしまったから、なんにも話せなかった。
    「藍湛はなんで怒ったんだよ」などとぼやきながら布団にはいる。
    あれ、おかしいな。この布団は破けてたから貰ったはずなのに、どこも破けてないぞ?
    不思議に思ったが、それ以上考えることはなく魏無羨は深い眠りについた。
    「うわっ」
    魏無羨が目を覚まし、伸びをしながら住処を出るとすぐそこに藍忘機が居た。思わず、うわっなんて声を出してしまったが、藍忘機は気にしてないようだ。
    「魏嬰」
    「えっこれ!これ枕か!?敷布団も!!!」
    藍忘機はこくりと頷く。昨日のお詫びだろうか。魏無羨はにっこにこで寝床に戻り、藁を落とすと布団を敷いてもらった。
    「最高じゃないか!」
    魏無羨は普段狐の姿で眠るため、そこまでの温かさを必要としないがふかふかの布団で寝るのは訳が違う。
    「魏嬰、朝餉もある」
    藍忘機がいそいそと机に重箱を置くため、魏無羨は目を輝かせた。住処に皿や食器なんてものは無い。塩以外の調味料もなく、火で炙って串か手掴みで食べるのだ。
    藍忘機はそれを知っていたのか、綺麗な木の皿と箸を魏無羨に渡した。
    「食べて」
    中身を見た魏無羨はげんなりとした。草ばっかりで、匂いも酷い。全てが苦そうだ。
    「味は良くないけど、食べれないことは無い……」
    魏無羨は自身に言い聞かせ、しっかりと腹いっぱい食べたが、藍忘機は考え込んでいるようだった。
    「藍湛藍湛、こっち見て」
    藍忘機は昨日、春画を粉々にしてしまった事をかなり申し訳なく思っており落ち込んでいるのだろう。魏無羨はそんな彼を元気づけたくなり、花を渡した。この季節に咲く、大きくて綺麗な桃色の花。
    「綺麗だろ?お前に似合うと思って昨日摘んだんだ」
    魏無羨が渡すと、藍忘機はそれを受け取った。
    「藍湛、髪に付けてやる。もっと可愛くなるぞ」
    非常によく似合っており、魏無羨は調子に乗って藍忘機の抹額を触ろうとした。
    「……触るな!」
    魏無羨が触れようとすると藍忘機は立ち上がり、魏無羨から距離をとった。藍忘機に避けられると思っていなかった魏無羨は楽しくなり、じりじりと彼に詰め寄る。
    「触るな?なんで触っちゃ駄目なんだ?」
    「他人には触れない」
    「他人だって!?俺たちもう友達じゃないか!」
    「違う!」
    魏無羨がわざと落ち込むと、藍忘機は口を閉ざした。そうして三度ほど彼は同じ場所を往復し、暫くしてから魏無羨をちらりと見た。
    「っ他人だ!!」
    ぷるぷると必死に笑いを堪える魏無羨に気付いたのだろう。藍忘機は怒って去ってしまった。
    「あはははははっ」
    魏無羨は暫く笑い、次に藍忘機が来た時は何をしてやろうかなどと考えた。

    「魏嬰」
    「おはよう藍湛!今日のご飯はなんだ?俺はすっかりお前のご飯が大好きになっちゃったよ」
    魏無羨の言葉に藍忘機は暫く時間をおいてから頷く。村での労働を禁止した為か藍忘機はあれから毎朝、魏無羨に食事を持ってくるようになっていた。
    「今日のはすごく美味しいよ!藍湛藍湛、俺好みの味付けなんてどうやって作ったんだ?大変だったろ」
    「……大変、という程では無い」
    口に含めば思わず笑みが漏れる程、魏無羨は辛い料理が大好きだ。藍忘機は魏無羨の事をよく観察しているようで、持ってきた料理で何が一番美味かったか、何を好んで食べるのかをよく把握するようになった。
    「藍湛、ありがとうな」
    「感謝は不要」
    いつの間にか藍忘機が来るのが当たり前になっていた。
    今日も来るかな、と待たずとも朝になれば住処の外に必ず藍忘機は来ている。魏無羨は毎朝、「おはよう藍湛!」と言えるのが楽しくて仕方なかった。やはり悪戯して怒られる事もあるが、剣を持ち出すことは無い。
    魏無羨は彼に剣を借り、笛や弓を作った。夏の間、藍忘機と共に合奏をしたり、弓で遊んだりと友達になったと思っていた。
    「藍湛、昨日はどうしたんだ?」
    夏が終わってすぐのその日。藍忘機は来なかった。
    藍忘機が来ないとは思わず、魏無羨はその日一日お腹を減らして彼が来るのを待っていたのだ。
    「……魏嬰」
    「俺、雉を取りに行ってくるよ!お前も来るだろ?」
    藍忘機は何か言いたげであったが、魏無羨はそれを遮った。聞いてしまえば、きっと来れなくなってしまうのだろう。
    聞くまでは来てくれるだろう、と思ったのだ。
    しかし、その日から藍忘機が魏無羨の住処に来る日はまちまちとなった。
    魏無羨も冬の備えに忙しくしていたが、村に行くことを禁止された魏無羨は食べ物の蓄え方を知らなかった。いつもは春から秋にかけて必死に貯えた金で香辛料を買えるだけ買い、食料の保存をしていた。今、その金は無い。
    藍湛が来たら、香辛料を貰えないか聞いてみよう。
    そう考えてから漸く藍忘機が来たのは一週間も経ってからだった。
    漸く来た藍忘機は非常に眠たそうであり、うつらうつらと船を漕ぐと瞼を固く閉ざしてしまった。

    「魏嬰」
    魏無羨は目を開ける。藍忘機に揺さぶられ、目を覚ましたのは人の家であった。村の家に入った事はあるが、両親とはぐれてからは牀榻で寝たことは無い。魏無羨は驚いて飛び上がった。
    「ここは?」
    「私の家」
    藍忘機に牀榻に戻され、額を撫でられる。藍忘機が撫でやすいように耳を下げ、顎を差し出す。耳の後ろを、顎を、頭を手で包むようにかしかしと撫でて貰え、魏無羨はうっとりと目を閉じていた。
    「魏嬰」
    藍忘機の手を舐め、すりすりと頬を寄せ、もっととねだる。もちろんすぐに藍忘機の手が撫で撫でを再開し、魏無羨はまた眠りそうになった。
    「……魏嬰」
    寂しそうな彼の声に観念し、魏無羨は目を開いてのそのそと起き上がった。
    「藍湛、お前は平気なのか?ずっと寝てただろ?」
    「うん」
    魏無羨が起き上がったことで行き場の無くなったらしい藍忘機の手に頭を押し付けてやる。また、かしかしが再開され魏無羨はすっかりその手の虜になっていた。
    「忘機」
    藍忘機に何かを求めるかのような声に、魏無羨はそっとそちらを見る。兄弟なのだろう。そっくりな顔立ちに、藍忘機の美しい玻璃のような瞳に深みを加えた目と慈愛に満ちた微笑み。
    「兄上、私の番の魏嬰です」
    藍忘機の端的な紹介では、魏無羨に兄を紹介したのか、兄に魏無羨を紹介したのかすら分からなかった。きっとどちらも正解なのだろう。
    「番?」
    一方、兄上と呼ばれた青年は微笑みを崩すことなく、藍忘機を見つめた。魏無羨もまた、番とはどういう事なのか、と藍忘機を見つめる。
    「はい」
    藍忘機はたったそれだけしか述べなかった。
    「狐の子に、龍と同じだけ生きる力はないよ」
    「いいえ。魏嬰は私と同じだけ生きます」
    藍忘機の兄は微笑みを崩し、驚いた顔をしていた。
    「叔父上には?」
    「まだです」
    藍忘機は会話中め魏無羨に触れて撫で続けていた。堪らなく気持ち良いが、結局肝心の会話の内容はよく分からない。きちんとした説明を求める間もなく、藍忘機の兄は慌てた様子で部屋から居なくなってしまった。
    「藍湛、番ってどういう事だ?」
    「……口付けをした」
    「それだけで!?」
    「それだけ……?」
    どうやら失言だったようだ。非常に重苦しい空気が流れ、魏無羨は今すぐここから逃げだしたい気持ちになった。
    「……私では嫌?」
    「嫌なわけない!」
    藍忘機を助ける為に己の命をも差し出したのだ。今更、友達から番になろうとどちらでも良かった。
    藍忘機からの霊力がなければ遅かれ早かれ死んでいたのだから文句はない。しかし、藍忘機は違う。
    「お前は俺でいいのか?」
    「君でないと駄目」
    食い気味の言葉に魏無羨は思わず口がにやけそうになった。番と友人に大した違いはないだろう。だが、番であればもう二度と離れなくて良くなる事だけは確かだ。
    「藍湛、番になったら一緒に暮らせる?俺は毎日お前が家に帰っちゃうのがつまんなくてさ」
    「うん。龍は大人になれば冬眠が必要なくなるから、大人になるまでは雲深不知処で共に暮らそう」
    「冬眠?ああ、藍湛が寝ちゃったの冬眠だったのか!病気じゃなくて良かった。すっごく心配したんだぞ」
    「すまない」
    「ううん、お前が無事で本当に良かった。でもなんで言ってくれなかったんだ?」
    魏無羨は自身の言葉で、眠る前の藍忘機が執拗に魏無羨に何かを話そうとしていたのを思い出した。
    当時、藍忘機が言いたいのは、もう此処には来れないだとか、そう言った話だと思った為、魏無羨は藍忘機の数少ない言葉を遮り、わざと忙しいふりをしていた。
    その為、藍忘機は言いたくても言えず、もしも言ったとしても魏無羨は聞こえていなかっただろう。
    「すまない」
    魏無羨にかなり非があるため、藍忘機の真面目な謝罪に胸が痛む。
    人に謝られる事など慣れておらず、更には藍忘機のような頭を下げることなど殆ど無い龍族からの謝罪だ。長い一生のうち数回しかない機会を、魏無羨は受け止めきれなかった。
    「ところでお前のお兄さんはどこに行ったんだ?」
    「叔父上のところ。後でまた話してくる」
    あからさまな話題の転換にも藍忘機は気にした様子はない。
    「……藍湛、番になることは悪い事なのか?」
    「どうしてそう思うの?」
    「お前のお兄さんが驚いてたからな。俺がお前と同じだけ生きるなんて嘘つくから、すっごく可哀想な顔してただろ?」
    「私は嘘をつかない」
    魏無羨は首を傾げた。確かに藍忘機は嘘をつかないが、狐の寿命ではどうしたって藍忘機と同じだけ生きることは出来ない。
    「俺がお前と同じだけ生きれるのか?」
    「うん。私と君は古い方法で番になった」
    「古い方法?もう使ってない方法なのか?なにか欠点がある?」
    「うん。古い番の契約。私の生命力を半分渡し、君はそれを受け取った。これで番の契約は完了した」
    魏無羨は開いた口が塞がらなくなった。
    藍忘機の実の兄が悲しむのも当たり前ではないか。龍の生命の千分の一にも満たない寿命の狐。それも今しがた死にかけだった魏無羨に半分もの生命力を渡したのだ。
    いくら半永久的と言える龍であっても、家族の寿命の半分も生きられないのだから。
    「藍湛、お前ってやつは……なあ、半分渡せるってことは返すこともできるよな?」
    魏無羨の提案に藍忘機は首を振る。例え方法があったとしても、藍忘機が受け取る気がないのであればその方法は無いのと等しいのだろう。
    「……番は嫌だった?」
    「嫌なわけない!ただ……お前が早くに死んじゃうのが嫌なんだ」
    親や兄よりも早くに死んでしまうなんて。早くに親を亡くした魏無羨は家族を喪う痛みを知っていたから、藍忘機の家族にそんな思いをさせる事が心苦しく感じたのかもしれない。
    非常に静かに藍忘機が立ち上がると一冊の分厚い本を手にした。
    「……龍は、一生のうちにたったの一人だけを愛する。その者が亡くなった瞬間、龍の生は地獄となる」
    子供にしては低く落ち着いた声で藍忘機は本に書いてある龍の生態を淡々と述べた。
    飾り窓の向こうで、風が花を散らす。
    魏無羨は強く唇を噛みしめた。
    魏無羨にとっての番と藍忘機にとっての番ではその重さが大きく異なる。まだ幼い魏無羨にとって番とは、一生共に遊べる友人という程度のもの。しかし、藍忘機は違う。何が違うかは分からないが、何かが違う。
    「藍湛、お前……」
    そもそも藍忘機のそのたった一度の愛がまだ分からないのに、俺を番にして良かったのか。それも寿命の半分もつかっての契約。
    目の前で死にかけた為に使わせてしまった苦肉の策は、藍忘機を地獄に叩き落としたのでは無いだろうか。
    「俺が他の人に渡すことは出来るのか?」
    「……分からない」
    酷く落ち込んだ声に、藍忘機の後悔が見えた気がした。しかし、魏無羨には藍忘機の寿命を貰った分、藍忘機への恩返しをする時間も十分にあるはずだ。
    「藍湛、お前の運命の番が見付かったら俺がなんとかしてやるから落ち込む必要は無い。そうだ、まずは旅に出ようよ。閉じ篭ってても出会いなんてないだろ?」
    魏無羨は慌てて彼の運命を探す計画を立てたが、藍忘機は眉根をぴくりと動かして静かに口を開いた。
    「……運命ならここにある」
    まだ伝わってないのか、とそう言わんばかりの瞳だ。黒く長い睫毛が玉のように美しい丸い頬に影を落とす。
    「私の運命の番は、君」
    「きみ……?」
    「うん。魏嬰」
    きっと今、人の姿になったら魏無羨の顔は真っ赤になっているだろう。魏無羨は頭を隠すように、藍忘機の手に頭を擦り付けた。
    相変わらず優しい手付きで撫でられ、魏無羨はとうとう仰向けになりお腹を見せていた。
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    Replies from the creator

    春之助

    MAIKING幼い龍の藍忘機と、幼い狐の魏無羨のお話。
    書き途中です。
    色々捏造でファンタジー。
    ほんわか日常目指そうと頑張りましたが、まだほんわかしてないです。ここからほんわかな可愛い日常が始まるはず。
    魏無羨が泣きます。可哀想なすれ違い(?)がありますが、必ず2人とも幸せになります。
    まだ書いてませんがこれから、お腹いっぱいご飯食べて沢山二人でお話して沢山遊んで、二人で手繋いで寝ます。
    龍と冬眠の話龍には冬眠があるのだと、藍湛が目を覚ましてから教えてもらった。


    魏無羨は秋の支度の為に魚を狩り、雉をとり、と忙しなく動いていた。常であれば着いてくる幼い龍の藍忘機は眠たいのか目も開かないようだ。
    「藍湛、俺は行ってくるから、お前はちゃんと寝てるんだぞ。俺の布団使ってていいからな」
    藍忘機の頭を撫で、柔らかい頬に唇を落とす。いつもなら耳を真っ赤にして尻餅を着くぐらい驚くのに、今日の藍忘機はこくん、と一つ船を漕いだ。
    「藍湛、藍湛、そんなにお眠なのか?ねんねするの?ああ、待って藍湛、ちゃんと寝床に……藍湛、重たいよ俺一人じゃお前を持てないんだから」
    魏無羨がいくら声を掛けようと藍忘機は目を覚まさなかった。あまりの異常さに魏無羨は慌てて狩りに出るのをやめた。
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