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    mame

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    ハグの日忘羨
    ハグしかしちゃいけない部屋に閉じ込められた忘羨
    えっちはしてないけど、口付けを死ぬ程してる。

    #忘羨
    WangXian

    ハグの日「らーんじゃん!今日は何の日か知ってるか?」

    何の日か、藍忘機は愛しい道侶の笑顔にこれは碌でもない日を示しているだろうことは分かった。それでも腕の中に嬉しそうに魏無羨が飛び込んでくるならどんな悪戯を仕掛けられようと享受するつもりだ。

    「何の日?」
    「藍湛、もう少し考えてくれたってよくないか?例えば、俺達が初めて出会った日とか、俺達が初めてまぐわった日とかさ。」
    「それは別の日だ。」

    確かにそういうのは藍忘機の方が覚えているだろう。この前だって普段の数倍花でも咲かす勢いで藍忘機の雰囲気が柔らかい為に首を傾げていた魏嬰に三十年前に君と出会って争った日だとその時の分の天子笑を携えて夜分に屋根に登ろう、なんて言っていたのだから。

    「それで?なにか思い付いたか?」
    「……分からない。魏嬰、教えて。」

    耳元をすりすりと大きな掌で撫でてお願いをしてくる藍忘機に魏無羨は得意気になってしまった。藍忘機のこの大きく暖かで少し骨張った手。この手に撫でられ、握り締められるのが魏無羨はすごく大好きなのだ。

    「東洋の方で8月9日は89(hug)の日とか言うらしい。おかしいよな、東洋の読み方をして西洋の言葉を作るなんてさ。一体誰が考えたんだろうな。」
    「そう、抱擁の日か。」

    藍忘機がそう繰り返すのを聞き、彼の背中に手を回してきゅー、と抱きしめていく。藍忘機もまたぎゅうぎゅうと抱き締めてくるのだ。

    「なあ藍湛?俺達は一言九鼎、有言実行の含光君によって毎日してる訳だけど、たまには抱擁だけの日があってもいいと思わないか?」
    「……毎日は毎日。」

    藍忘機の背中を下から上へと撫でながら魏無羨はそう言うと思ったよ、と肩に顎を乗せた。ふわりふわりと尻を確かめるように揉まれ、腰を擽られる。その淫らに触れてくる手に愛しさが溢れ、頬を緩ませて面白い提案をするかのように藍忘機の唇に唇で触れた。
    唇に触れたまま、術を発動させる。
    途端に静室に外の光がなくなり、蝋燭が揺れた。そうしてがらがらと物が消えると、牀榻だけが残ったのだ。

    「含光君、含光君、これは大変だぞ?」

    悪戯に成功した、と魏無羨は満面の笑みで小芝居を開始した。にんまりした魏無羨の愛らしい顔に口付けをしようとすると、彼の手が間に挟まってくる。

    「藍湛、藍湛、ちょっとは驚いてくれたっていいだろ?聡明な含光君にはこの部屋の説明も要らないのか?」

    魏無羨の手にちゅ、ちゅ、と大人しく唇を押し当てながら先を促すように目を見つめた。そんな藍忘機の様子に機嫌を良くした魏無羨は指を藍忘機の口内に偲ばせていく。

    「藍湛、そんなに口付けを強請られたらしたくなっちゃうだろ?ほら、後ろ見てみろよ。なんて書いてある?」

    わざとらしく話す魏無羨の唇に己の唇を押し当て、舌を差し込んだ。そうしてくるりと向きを変えて、部屋にでかでかと書かれたもの見つめる。

    "抱擁までしかしてはいけない部屋"

    その字は明らかに魏無羨のものであり、彼が作った術の中にいるのだと分かる。

    「んっ……ちゅ、らんじゃ……んんっ、ねぇ、見ただろ?」

    濃厚な口付けにより、うっとりと瞳を潤して藍忘機の胸元にしがみつく魏無羨に口付けを再開しようする。しかし、またも彼の掌に邪魔をされ魏無羨の口内を味わえなくなった。

    「藍湛、この部屋はな、あっちょっと待ってって。藍湛藍湛、話聞いて。抱擁以上の事をするとこの部屋から丸一日でれなくなる仕組みになってるんだ。要するにここは丸一日抱擁までしかしちゃいけない部屋、だな。」
    「君がここに居るならでる必要は無い。」

    薄い玻璃色の美しく鋭い瞳が魏無羨を射抜く。
    あっこれ本気のやつだ……。
    魏無羨は自身の死を覚悟した。

    「でもな、藍湛、俺は辟穀なんて出来ないしお腹すいちゃうよ。それに酒だって飲みたい。」

    藍忘機の瞳が言ってくる。なら術を解けば良い、と。ぷくぅ、と頬をふくらませて藍忘機を睨み付け顔を俯かせて彼の胸に顔をぐりぐりと擦り付けてやる。

    「お前、今術を解けば良いって思っただろ。この夷陵老祖様がそんな事出来るようにこの部屋を作ると思うか?なんとなんと、含光君にも夷陵老祖にも術が解けないように全力で作っちまったんだよ。」
    「そう。」

    藍忘機はそっと魏無羨に霊力を与えて微笑んだ。こんなにも嬉しさのあまりに魏無羨を抱き締めてくるくる踊り出しそうな感覚に襲われたのは初めてだ。隠してしまいたい程に愛しい人が、自ら隠れ蓑を作り上げたのだから。
    含光君にも夷陵老祖にも解けない術であるなら、誰にも解くことは出来ない。

    「まて、藍湛そこは驚いて、なぜそんな事を?って言うところだろ?なんでお前はそんな、そんなニヤけた顔初めて見たぞ!!なにがそんなに嬉しかったんだ?羨哥哥に教えてよ。」

    藍忘機の首に手を回し、彼の珍しく喜色に歪んだ顔を見つめようとする。しかし、藍忘機に顔を隠すように濃厚な口付けをされ、耳を塞がれ魏無羨は目も開けれないほどに水音にいっぱいいっぱいになってしまった。
    ちゅぱっと唇が離れたと思いきや、銀糸が繋がり、切れるまでにまた唇と唇がくっついている。必死に鼻で呼吸し、息も絶え絶えになってる魏無羨を見て、藍忘機は思わずその小ぶりな愛らしい鼻を摘んでしまった。

    「んんっんっっんゔゔゔ!!!!!!」

    鼻を、口を、どうにか離して貰わなければ息が……、ぼんやりとする意識の中、藍忘機の吐いた息を吸い、どうにか意識を保つ。ぱしぱしと背中を叩き、暴れる足に力が抜けた頃、やっと唇が離れ胸いっぱいに息を吸った。
    そうしていつの間にか牀榻に寝かされている事に気が付いた。なんなら帯も解かれ、下衣も殆ど脱げている。

    「……さすが藍湛、手が早いな……。」

    腕に掛かっているだけの服で口元を拭い、恨みがましく藍忘機を睨んだ。涎でべとべとになった袖を抜き、裸になって藍忘機に向けて手を広げる。こんなにも濃厚な口付けをされて抱擁だけで満足出来ないのは魏無羨も同じなのだ。ちゃっとヤッて、明日外に出よう。そんなあけすけな考えで藍忘機に向けて既に臨戦態勢になっているそこも隠さずに股を開いた。

    「……絶景。」

    魏無羨のその様子にぴしりと固まった藍忘機が心を零した。魏無羨の瞳はうるうると光、口元は拭いても尚、涎で輝きぽってりと腫れた唇を彩っている。触れてもいないのに期待からか胸の頂きと、男の象徴である薄い桃色の愛らしい陽物も同様に上を向いていた。そして何よりも陽物の下にある受け入れてくれる後孔はてらてらと光る程に体液を濡らし、くぱくぱと穴を収縮させているのだ。
    これを絶景と言わずなんと言うのか。
    普段見ないほどに目を見開き、固まった藍忘機に魏無羨は首を傾げた。藍忘機の衣に手をかけ、ゆっくりと脱がすと目を瞬きながらその様子をじっと見つめてくる。

    「……藍湛?どうした?」
    「魏嬰、続けて。」
    「湛ちゃんは脱がせて欲しいのか?甘えたい年頃なのかな?」

    まるで観察でもするかのようじっとりと見つめられながら藍忘機の衣を一枚ずつ剥いていく。引き締まった胸筋が顔を出し、力の入った腹筋に頬が緩む。藍忘機の我慢がそこに全て詰まっているようだ。ゆっくりと脱がしてやり、下衣に手を掛けようとした時、藍忘機の我慢がぷつりと切れてしまったらしい。
    がつん、と歯に藍忘機の唇が当たり、血の味が口内いっぱいに広がっていく。痛くないのか?と目を開ければ、舐めて、と言ってくるのだから誰がこんなにも藍忘機を変えてしまったのだろうかと心が踊った。
    ちろりちろりと彼の唇を舐めてやると、その舌を肉厚で大きな舌が絡め取っていく。ちゅぷ、ちゅっ、溢れる水音に気を良くして、藍忘機の耳を塞いでやった。
    耳を塞いだ手をそっと握られ、随分と長い間口付けをする。何度も何度も角度を変え、深く、もっと、と口付けをしていけば次第に頭はぼんやりと霞がかり、腰に駆け抜ける快楽に溺れていく。
    ぱたぱたっと腹に生温い液体を感じ、自身が口付けだけで達したのだと気が付いた。それでも口付けを辞めて貰えず、快楽に身を任せて瞼を閉じる。

    「……魏嬰。」

    まるで獲物を見付けた獣のような瞳で見つめてくるのに、触れる手は暖かく包み込まれるように抱きしめられた。このまま繋がるのだ。ぽやぽやとした頭のまま、藍忘機の太い上腕に指を這わせ、引っ掻いてやる。抱き締める力が強まり、口付けのしすぎで回らない酸素と温かさに眠気が頭を過ぎった。

    「魏嬰、抱擁まで、とはどこまで?」

    ふわふわと眠りそうになる魏無羨に藍忘機が体を撫でながら問いてきた。

    「抱擁までって言ったら抱擁までだよ藍湛、口付けも交合もだめだって。」

    藍忘機は頷くように魏無羨の鼻に鼻を擦り付け、頭を撫でて眠りに誘う。魏無羨が起きていれば藍忘機の我慢は効かないし、かといって彼に丸一日食事を与えないのは許せないのだ。
    魏無羨の体をそっと藍忘機の上に変え、背中を叩いてやればすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。これで約八時間は守られるだろう。すやすやと可愛らしく眠る魏無羨を見つめて熱くなった下半身に必死に家規を諳んじた。

    「らんじゃん……?おはよう、」

    寝惚け眼のまま魏無羨が目を覚まし、藍忘機の唇におはようの挨拶をしようとした。それをそっと手で躱された為、その手をぺろぺろと舐めてやる。異常に優しい瞳でその様子を観察され、悪戯しようとした自身の方がなんだか気恥ずかしくなってしまった。

    「藍湛、口が寂しいんだよ。」

    そう言ってちゅぽっと藍忘機よ指の先をしゃぶり付け根から先までゆっくりと舐め上げていく。まるで、彼のモノを口に含んでいるかのように。

    「魏嬰。」

    余裕ありげに微笑んでいたその顔が少し歪んで眉を顰めた。そうして藍忘機が忌々しげに見つめる壁の文字、抱擁までしかしてはいけない部屋、に魏無羨自身が頭を抱えたのだった。
    ああ、そうだった。俺がこの部屋を作って術を発動させたのだった。

    「……藍湛、あと何時間こうしてればいいんだ?」
    「あと十六時間程。」

    なんて事だ、暇だ、暇すぎる。お腹だって減ってきた。藍忘機とヤればまた一日待たなきゃ行けなくなる。かといって酒もなければ、外にも出られないなんて……。魏無羨は藍忘機の胸の上で絶望に打ちひしがれた。誰だ、誰がこんなくだらない術を作ったのだ。
    そんな魏無羨の様子を見て、藍忘機はそっと彼の腹に霊力を送った。温かな霊力で満たされ腹の減りは大して気にならなくなるだろう。

    「うぅ……お前とくっ付いてるとどうしたってやりたくなる……。」
    「うん。」
    「かといって離れるのも嫌だ。なあ藍湛、どうしたらいいんだ?」
    「……離れてはだめ。」

    藍忘機の胸の上に転がり、暇を謳歌する。彼の上に重なって仰向けになったり、横を向いて藍忘機の長い髪を弄って遊んだり。それだって一炷香もすれば手持ち無沙汰になってしまう。

    「藍湛、暇だー。」
    「うん。」
    「暇だよ、暇。藍湛、なにかお話して。」

    ぐりぐりと藍忘機の胸に顎を押し付けて暇つぶしを強請った。風ひとつ吹かず、暗くも明るくもないこの部屋で響くのは魏無羨の声だけなのだ。

    「……昔、母上が生きていた頃。」
    「おぉ!!お前の小さい頃の話か、幾つぐらいだ?お前は生まれた瞬間から記憶がありそうだよな。俺なんて五歳ぐらいからしか覚えてないぞ。」
    「三歳頃だったと思う。月に一度母上の部屋でこのように過ごしていた。」

    言葉の少ない藍忘機の憧憬を瞼の裏で思い浮かべた。静室で戯れる母親と幼子二人。三歳の藍忘機はよたよたと歩き、兄と共に母親に抱っこでもして貰ったのだろうか。きっと彼の事だ、表情は今のように何も変わらず口も閉ざしたまま。それでもふっくらした頬っぺは母親と兄の体温を感じて幸せそうに赤くなるのだ。

    「お前の幼い頃の話、もっと聞きたいな。そういえば俺達、こんなに長く一緒に過ごしてるのにこうやってゆっくり話す事なんてあんまりなかったよな。」

    遠くを見つめる藍忘機に頬を擦り寄せて抱きしめる。これがこの部屋でなければきっと外に雨が降ってしっとりとした空気でも醸し出していただろう。

    「君の言う、面白い話が私には思い付かない。」

    俺は面白い話をしてくれ、だなんて言っただろうか。藍忘機の唇を指で撫でながら考える。こうもつまらない、暇だ、と叫んでいた時のこと。ああ、あの屠戮玄武の時か。

    「藍湛、藍湛、そんな昔に俺が言ったことも気にしてるのか?」
    「……君はあの時、江晩吟だったら良かったのに、と。」

    確かに言った気がする。だが、今それを蒸し返すのか。思わず魏無羨は藍忘機の顔に思い切り唾を噴き出してしまった。藍忘機の顔を手で拭いながら魏無羨は笑いを堪えるのに震えてしまう。

    「藍湛お前はそんな時から江澄にまで嫉妬してたって言うのか?俺はあの時お前に嫌われてるもんだとばかり思っていたんだ。それなのに、お前ときたら……はははっあはははっ!!」

    言葉にしようとしたらもう駄目だった。決壊した笑いは止まることを知らず、藍忘機の胸をばしばしと叩きながら大いに笑ってしまう。そんな魏無羨を藍忘機は健気に抱き留めてくれている。

    「魏嬰。」
    「はははっひーっ!!あははっ待って藍湛、今お前の顔みたら笑っちゃう!!!お前、だってあんなに怒ってっあはははっ」

    まさかこんなに笑われると思っていなかったのだろう。藍忘機の少し不機嫌な顔に思わず笑みが零れてしまう。だって仕方ないだろ。あの時、俺は完全に藍忘機に嫌われていて、話す事すらも嫌なのだと思っていたのだから。
    そういえばこの時に藍忘機はこっそりと魏無羨の身体のどこかからあの袋を探し出して財嚢として使っていたのだ。それを思い出してしまえばもう魏無羨の笑いは止まらなくなってしまった。

    「藍湛藍湛、俺はいつからお前が俺に惚れてたのか気になって仕方ないんだ。なあ、藍湛思い返してみろよ。いつからなんだ?」
    「……分からない。」

    どうにか笑いを落ち着け、藍忘機の耳朶を見つめると案の定、淡い薄紅色に染まっている。いつもなら魏無羨がからかえばその口を塞ぎ、そのまま蜜事に持ち込まれてしまうが今回は我慢をしているらしい。藍忘機の強ばった頬をぐにぐにと揉みほぐしてやりながら暇潰しを考える。

    「藍湛、時間はどのくらいだ?もうあと少しかな。」
    「まだ君が起きてから一時間も経っていない。」
    「うわ、じゃあまだあと十五時間もこうしてなきゃいけないのか?藍湛、悪かったな、お前も退屈だろ?」

    藍忘機はそっと首を振って魏無羨の髪を撫でた。魏無羨が傍にいるのなら、藍忘機は退屈などとは無縁なのだ。

    「藍湛が良いなら良いんだよ。たまにはこうやって息抜きするのも良いだろうしな。」

    頭を優しく撫でられ、体にむず痒さが走る。目を細めてもっと、と無意識に強請れば、頭だけでなく、耳も頬もすりすりと撫でてもらった。きっと自分が猫だったらごろごろと喉を鳴らしていただろう。

    「俺、藍湛に撫でられるの好きだな。ずっとそうしててよ。」
    「うん。」

    藍忘機は言われた通り、魏無羨の頭をまるで兎を撫でるかのように優しく撫で続けていた。魏無羨もそれに気を良くし、ふわふわとした気分をそのままに心を委ねていく。温かいお水の中にいるような、寝てるのか起きてるのかわからない感覚を漂って過ごした。
    ふと気が付くと藍忘機の手が止まり、ただじっと魏無羨の顔を見つめている。

    「……藍湛どうしたんだ?」

    心地良さにうっとりとしていた目を開き、彼の掌に頭を擦り付けると、藍忘機はふっと息だけで笑いやがった。

    「藍湛、羨羨は三歳なんだからな。ほらちゃんと撫でてくれ。左手はここに置いて。」
    「うん。ずっと撫でる。」

    藍忘機の左手を背中に置いてもらい、右手でひたすら撫でてもらう。ふわふわとした心地良さとは裏腹にむず痒さと気恥しさが体を這った。藍忘機の胸に顔を押し付けて、普段恥知らずで赤面もしないはずの頬の熱を隠す。
    良い子良い子、とするように撫でられ続け、じくじくと温かさが広がっていく。藍忘機の体温が魏無羨の身体を侵食するようだ。

    「ねえ藍湛、お前にそうやって撫でられてると気持ちよくて眠くなっちゃうよ。」
    「うん。寝てていい。」

    とろんと融けた瞳、上気した頬であどけなく魏無羨は笑った。ただただ優しさだけを乗せられた手は大きくて温かくて……。

    「ありがとう爸爸。」

    記憶の縁に引っかかったその感触をそのまま声に出して瞼を閉じていく。藍忘機はその言葉に数秒固まった。なんとも言えない感情に心を支配され、動けないでいると撫でられないことに不思議がった魏無羨の頭を撫でて自身の心を落ち着けた。
    そうして暖かな空気のまま時間が過ぎてゆく。何か話す訳でもなく、いつものように繋がるわけでもなく。ただの一人と一人が抱きしめあってるだけ。時折、ぎゅぅっと抱き締めあって頬を擦り合わせて手を繋ぐ。小さく微笑みあって鼻をちょん、と当てた。

    漸く術が解けたのだろう。ふわり、と静室に風が入ってくる。きらきらと光り輝く窓辺に、目を細めて抱き締めたままの藍忘機の唇を塞いだ。
    かぷり、ちゅぷ、ちゃぷ……、互いに何も言わずに何度も角度を変えて繋がりを深めていく。口内の体液を交換して、銀糸を繋げて、舌を絡める。

    「はははっ、抱擁の日が終わっちゃったな、藍湛。」
    「うん。」

    そんな日など関係ない、そう言わんばかりに藍忘機の腕に力が籠り、魏無羨の背中は小さく悲鳴を上げた。

    「ほらほら、もっと愛してよ藍湛。あんなに我慢させられたんだ、他にやる事があるだろ?」

    悪戯に微笑む魏無羨の身体を下敷きにし、鼻にかぷりと噛み付いてやる。煽りに煽られ、焦らされ続けたのはどちらか。
    藍忘機の瞳が物言いたげにギラりと光、魏無羨は謝り、泣き叫ぶほかなかった。
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