音楽探偵 最初の事件音大探偵 最初の事件
「お前が殺したのか」
魏無羨は首をぎこちなく動かし、声の方向を見た。座り込んだひざに濡れた感触。思わず膝を浮かすと、ぴちゃ、という水音がやけに大きく響いた。
「誰か! 誰か来てくれ!」
大声で人を呼ぶ声は、音としては聞こえたが頭の中で意味にならなかった。自分の手にべったりついた血のぬるつきと、目の前に横たわる人間の死体以外に意識を向けることができなかったのだ。
呆然自失の魏無羨を見て、彼はその場を離れる判断をしたらしい。ゼミ室の扉を開けたまま黙って走り去ったのは、人を呼ぶためだ。
魏無羨は血まみれの手でスマホを取り出し、数回タップしたが水分が多すぎて反応しない。音声認識でなんとか通話を始める。呼び出し音は1コールで途切れ、低く涼しい声が聞こえた。
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