【仮題】夜の世界の話①【現代AU曦澄】この間妙な奴に声を掛けられた。その一言に足を止めた江澄は咥えていた棒付きの飴を口から出した。通りすがりの繁華街の裏通りだ、そこで屯しているのは休憩中の夜の蝶か営業用の笑顔を消した黒服くらいのものだ。視線を向ければ知らぬ仲ではない女達と目が合って、その中の一人の口が、あ、と形作った。
「狂犬だ」
「その名前で呼ぶなっつってんだろ」
よその奴らが言い出しただけだ、と吐き捨てて歩み寄る。ごめんねと笑う女達に悪びれるところはない。仕事でなければ表裏の少ない彼女達を江澄も嫌いではなく、だからこそ先程の言葉が気になって眉を寄せた。
「何だよ、また変な男に付き纏われてるのか」
「違うよ、ストーカーじゃないって。カッコよかったしお金も持ってそうなのに、変なこと聞いてきたんだよね」
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