Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nu_jtu_

    @nu_jtu_

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    nu_jtu_

    ☆quiet follow

    暗い生存ifです。モブが喋ります。
    もうどこに配慮するべきかわかりませんえん

    邂逅 人を殺した。セフレの彼氏だった。
     セフレの家には無駄にでかい派手なキャリーケースがひとつあったから、そいつに無理矢理詰め込んだ。ガレージから勝手にスコップを取って、殺した男の古臭い軽自動車で山まで行き、ひたすら穴を掘ってキャリーケースごと埋めた。綺麗なビビットピンクに汚い土を被せるのには何とも言えない爽快感があって、もやもやしていた心の内も少し晴れたような気がした。
     大丈夫なの、と聞かれる。大丈夫だ、と返した。
     山には灯りがない。2人で空を見上げて、星が綺麗だねとはしゃいで帰った。





    「また手紙書いてんすか」
     場地さんは俺をちらと見上げただけで、すぐさま視線を白い便箋に移す。お前にはカンケーねえだろ、という有難いお言葉つきで。
     はいはい、どうせ俺にはカンケーないですよ。
     苛立ち任せに吐き捨ててしまいそうになった言葉を飲み込んで、床におろしていた鞄をもう一度肩に担いだ。
    「じゃあ俺、先に帰りますから」
    「おー、じゃあな」
     返事はしなかった。その時俺はもう場地さんに背中を向けていたけれど、場地さんが俺のことなどちっとも見ていないことはわかっていたから、返さなかった。
     教室のドアをぴしゃりと閉じる。透明なガラス越しの場地さんは、やっぱり便箋に夢中だった。
     3-2と書かれたプレートの下をくぐって昇降口へ向かう。ふと今晩集会があることを思い出して、途端に歩みが重くなった。
     今日の集会はおそらく、クリスマスに起きた黒龍との抗争の総決算だろう。起きた、と言っても俺はその実情を何一つ知らない。その日俺が家でぬくぬく過ごしている間に、総長のマイキーくんをはじめ、ドラケンくんや三ツ谷くん、タケミチ、そして場地さんが、黒龍を壊滅させたらしい。壱番隊の隊員が興奮気味に俺の家を訪ねてこなければ、きっと俺は今日まで何も知り得なかった。
    「千冬くんももちろん行ったんすよね!」
     悪いな。俺はお前に聞くまでそんなこと一切知らなかったんだ。笑えるだろ?
     乾いた笑いを零す俺に、そいつは気を遣ってか「場地さんはきっと千冬くんは巻き込みたくなかったんすよ」とかなんとか言っていたが、多分違う。連れて行こうとかそんな考え自体、きっとなかったんだろうなと思う。
     これが俺の被害妄想なんかではない、と確信を持ってそう言えるほど、場地さんは最近めっきり俺と話さなくなった。
     きっかけは紛れもなく、10月31日。通称、血のハロウィン。
     場地さんは奇跡的に助かった。一虎の刑期も殺人よりはいくらか軽くなったらしい。血を流した人は多かれど、死者を出すに至らなかったことを誰もが安堵し、喜んだ。俺だって当然そのひとりだった。場地さんが目を覚ました時は泣いて喜んだし、病院に飛んで行ってまた泣いた。場地さんが俺を抱きしめてくれて、ありがとうな、なんて言ってくれるものだから、さらに泣いた。泣きすぎてぱんぱんに腫れた俺の目を笑うその声にさえ、涙腺を刺激された。

     あの時俺が泣きすぎたせいで、俺と場地さんの間にあった何もかもはすべて、どこか遠くへ流されてしまったのかもしれない。
     目が覚めてから、場地さんとマイキーくんは病室で何日も何日も話し込んでいた。あまりにも空気が重く、ドラケンくんでさえ部屋の外で待っているくらいなのだから、俺なんかが当然入れるわけもなかった。病院へ行き、病室の前のドラケンくんを見つけて引き返す。毎日毎日、数え切れないほどその往復を重ねて、オレはとうとう入院中の場地さんと会うことはできなかった。明日退院、という簡素なメールは届いたけれど、迎えに行くのは俺じゃないことをもうわかっていたから、アパートで待つことにした。
     出迎えるつもりだった。おかえりなさい、待ってました、ペヤング半分こしましょうよ、そんな事を言おうと思っていた。いの一番に駆け寄るつもりだったから、窓に張り付いて外を見張っていた。けれど、タクシーが着いて、扉から場地さんと場地さんのお母さんが降りてくるのを見て、突然怖くなった。
    ――もし場地さんがあの時死んでいたら、俺は場地さんのお母さんに何と思われていたのだろうか。
     死んでいなくても何日間も昏睡状態になるほどの重症だったのだ。場地さんは親思いだから、東京卍會をやめてしまうかもしれない。もし本当にそうなってしまったら、俺はどうするのが正解なんだろう。
     そんなことを考え始めてしまったのが最後で、俺は俺の今立っている場所がどこなのか、さっぱりわからなくなってしまった。暗闇の中、突然、複雑な迷路に迷い込んでしまったような感覚だった。
     俺にとって場地さんは唯一だった。他の誰でもない場地さんに憧れて、場地さんの背中についていった。でもそれが場地さんにとって必要だったのかどうかは、多分、違っていて。
     邪魔になっていたらどうしよう。考えたこともなかった不安が胸いっぱいを占めて、俺はとうとう家から出ることができなかった。

     集会はいつも夜だから星が見えるのだけれど、今日はあいにくの曇りだった。
     マイキーくんの大きな声が響き渡り、ある隊員の入隊を告げる。壱番隊、と聞こえた気がして場地さんを見上げるが、きっと彼はこのことをとうに知っていたんだろう、その精巧な顔を一切崩すことはなかった。
     ほら。また俺だけ、何も知らなかった。
     脱退を告げられた稀咲が狂ったように叫んでいることに、何の感情も湧かなかった。場地さんの野望はこれで達成され、俺は遂に何一つ場地さんの役に立てなかったのだと、痛いほど実感するだけだった。
     集会後、場地さんはマイキーくんに呼ばれてどこかへ行ってしまった。待っているのもウザイだろうと少しひねくれた感情をぶら下げたまま、俺はまた場地さんに背を向ける。
    「千冬!」
     早々と立ち去ろうとした俺に声をかけたのはタケミチだった。
    「おー、おつかれ」
    「おつかれ…って、お前どうした?顔色悪くない?」
    「別に…」
     わかっていたはずなのに、大したことなかったはずなのに、突然チクチクした何かが腹の奥からこみ上げてきて溢れ出さないように喉をぐっと閉じた。泣くことなんてないのに、目の奥がじわりと熱くなる。
    「どうした?場地くん呼ぶ?」
     ぶんぶんと首を振る。それだけは絶対に絶対に嫌だった。
    「なんでもねえから、マジで。じゃあな」
     そう早口で告げ、呼び止めるタケミチの声は聞こえないフリをして逃げた。適当な隊員に声をかけ、後ろに乗せてもらって家まで帰った。
    自室に入ったのとぴったり同じタイミングでメールが届く。差出人は場地さんだった。
    『具合悪いって聞いたけど、大丈夫』
     相変わらずそっけない文面。ベッドの上で、息を殺して号泣した。





     ダサい水色の軽自動車に乗るのは、今度こそ2人だけだ。行きは3人、帰りは2人。なんだかなぞなぞの問題みたいだと特に意味のないことを考えながらエンジンをかけた。
    「バレたら、どうするの」
    「バレないって」
     あんなでかい家に1人で住んでいるのだ。きっといなくなったことに気づくような身内はいない。加えてあいつは転職活動中という名の無職。アル中で、ひとたび酒を飲むと献身的な彼女にさえ暴力をふるうのだから友だちなどいないだろう。
    「でも、少しほっとしてる」
    「うん」
    「あのままじゃ、あたしが殺されてたから」
     そうかもしれない。実際、連絡を受けて俺が駆け付けた時、男は手に持った包丁を、彼女に向けていたから。
    「千冬くんがいてくれて、よかった」
     近くにあった重たい灰皿で、後ろからぶん殴った。あまりに呆気なく、男は息を引き取った。
     不思議な感覚だった。あの瞬間、確かに俺は、10月31日の場地さんと、どこか深い場所で通じ合ったような気がしたのだ。
     とにかく止めなければ、と、その一心だった。俺が迷いもなく即座に男を殴り殺してしまったのと同じように、場地さんは咄嗟に己の腹へと刃を突き立てたのだ。場地さんが刃を向けられる相手はあの場にいなかった。たったひとり、自分自身を除いて。
     場地さんは、とうの昔にマイキーくんたちと遠くへ行ってしまった。とうとうあの病室の扉よりも何倍も固く分厚い壁に阻まれて、少しも近づけなくなってしまった。
     けれど、今夜だけは、なんだかまた場地さんと同じ場所に立っているような気がしていた。
    「付き合おうよ、私たち」
    「馬鹿言うな」
    「なんでよ〜」
     場地さん。俺が捕まったら、お手紙書いてくれますよね。
     こんな時まで頭の中はあの人のことでいっぱいなのだから、相当イカれてるなと自分のことながら思った。




    終わり


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


    追記


    場地さんは本当に千冬を巻き込みたくないだけです。反社ルートになってしまった東京卍會に千冬はいないので場地の計画は成功というべきですね偉い!

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯😭😭😭💯👏💯💯💯💯😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works