人の気配はある。しかし、物音はしない。
立ち止まった廊下の曲がり角で、アルハイゼンは嘆息した。さっと一歩を踏み出せば、壁の向こうで身を縮こまらせている男と目が合った。
「あ、」
「……」
「その……石鹸あるか? シャワー、浴びたくて……」
畳んだタオルを抱いたままアルハイゼンから目を逸らして所在なさげにしている男の、頭のてっぺんからつま先までを視線で舐める。ゆっくりと一往復する頃には、男の視線はアルハイゼンに戻っていた。たった一瞬のことであるが、相手はすでに痺れを切らしている。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ。ないならないで別にいいし、」
「風呂場に出ているのがまだあるだろう。見ていないのか?」
「え? ……あ、あれはだって……きみの使いかけじゃないか。嫌だろ、貸すの」
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