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    ミプトレーラー三周年記念

    アゲラタム ラバサイフォンの建物の窓から真っ直ぐに飛んでいくレーザー光線の先を見遣みやる。
     だが、当然の事ながら、この場から遥か遠くにあるザ・ツリーとハーベスターの境にある線路の方向へと向けられた銃口の先に誰が居るのか、肉眼では確認のしようが無い。
     代わりに、強い輝きを帯びたオレンジ色のレーザーを次々と発射している出どころへと視線を移す。
     そこには、大して面白くも無さそうな顔でチャージライフルに取り付けられた4~8倍スコープを覗き込み、機械的に引き金を引いているクリプトが居た。
     先ほどから遠くの敵にかなりダメージを与えている筈だが、嬉しそうな顔一つしないのは、いかにもこの男らしい。
     「命中」
     これまたつまらなそうにクリプトが呟いたタイミングで、運営から支給されているボティシールドが赤い光を発し、与ダメージを蓄積させた事による進化を経て、シールド本体の耐久性をアップさせた。……全く、いつまでここに居なければならないのだろう。
     そう思いはするものの、クリプトのドローンによって次のリング縮小範囲は把握しており、ラバサイフォンの建物内は、次のラウンドでかなり有利な位置なのは分かっていた。
     ここに来る道中で何部隊かぶつかった敵達を全て倒してきたのもあって、物資も潤沢。
     つまり、この場に居た方が断然有利なのは、俺もちゃんと理解出来ていた。
     だからこそ、クリプトの提案通り、この建物で最終リングギリギリまで耐える事に決めたのだ。
     「ほら、アーマー寄越せ」
     「ん」
     スコープから顔を上げ、肉体に装備していたボティシールドを隣のクリプトが渡してくる。
     当然のように言われたその言葉に、自分の纏っていたボティシールドレベル3をクリプトへ交換するように渡せば、互いに何も言わずにシールドを装着しなおした。
     離れた場所で浮遊しているドローンにも異常は無さそうで、念の為に俺が入口周辺に配置しているデコイに引っ掛かる奴も居ない。
     他の部隊は離れた場所で戦闘をしているらしく、キルログだけが着々とアリーナ全体にアナウンスされている。
     そんな中で、俺はただやる事も無くクリプトの隣で座っているだけだった。
     「まだスナイパーアモあんのか?」
     しかし、暇なのは余り好きではないのもあって、クリプトへと声をかけてみる。ついでに何か必要な物があるなら、ザッと建物内を見てきてやろうと思ったのもあった。
     「ある」
     「促進剤は?」
     「お前のバックパックに放り込んでおいたのが残ってるだろ」
     「まぁ、ここまできたらそれだけで足りるか」
     あっさりとそう返してきたクリプトは、排熱によってプシュ、と気の抜けた音を立てたチャージライフルにスナイパーアモを装填してから再びスコープへと顔を寄せた。

     本当なら、俺だって敵を撃ちたい気持ちはある。
     だが、手持ちの武器はEVA8と2倍HCOG付きのフラットラインだ。いくら俺でもARであんな長距離を当てるなど不可能だった。
     それに今回はデュオ大会なのもあって、二人揃ってSRを持つのをクリプトが嫌がったのもある。まぁ、例え頼まれたとしても、俺は余りSRを使うのは趣味じゃない。
     何故なら中距離から近距離での勝負が一番、画面映えするし、自分のアビリティーはどれも直接相手に見せる事が何よりも重要だからだ。
     それに、眼前に居る敵がどの"俺"が本物なのか分からず、次々に騙される姿は、見ていて気持ちが良い。
     それこそ【ホログラフの幻術師】としてのし、……しん……、本領発揮といった所だろう。
     そんな事を考えながら、手持ち無沙汰に握ったままのフラットラインを撫でる。
     薄闇の中で光る銃身は、先の戦闘で少しだけ表面の塗装が削れていた。

     そういえば、こうやってクリプトと共に戦うようになって、随分ずいぶんと長い月日が経っているのを思い出す。
     出会った当初はいきなりこちらの手を捻り上げてきた男が、気が付けば肩を並べて戦う"仲間"になっているというのは何とも不思議なものだ。
     コイツと出会ったばかりの俺は、クリプトの弾の心配をしたり、アルティメット促進剤を代わりに持っていてやろうなんて考えもしなかっただろうし、昔のクリプトだって、俺の分のアーマーを育ててやろうだなんて、欠片も思ったりしなかっただろう。
     いや、でも、クリプトはなんだかんだいって、出会った初日も俺を助けてくれたんだったか?
     一度思い出してしまえば、あの日の記憶が鮮やかによみがえってくる。

     チャージライフルの銃口をこちらに向けつつ、キザったらしく投げられたウィンクの意味不明さだとか、爆発した列車から二人揃って投げ出され、結果的にそこそこ痛い目を見た事だったりとか。
     キル数で勝負しようなんてどちらも言っていないのに、互いに競い合うようにキルを狙っていた。それは今も昔もそんなに変わってはいないような気もするが。

     敵でも、味方でも、クリプトという男は厄介な相手だった。互いの手の内をある程度、知っているからだろう。
     絶対コイツにだけは、負けたくないライバル――なんて直接本人に言った事は無いが、少なくとも俺はそんな風に隣の男を意識していた。
     「おい」
     「あ?」
     「それ、消費してるぞ。早くリチャージしておけよ、小僧」
     また遠くの敵に弾をヒットさせたらしいクリプトがスコープから顔を上げる。
     そういえば、進化したばかりではシールドが削れたままだったと、持っていたフラットラインをホルスターに戻しがてら、バックパックからセルを取り出して回復を行う。
     全く、考え事をしていてシールドの回復をし忘れるなんて、何を言われるか分かったモンじゃない。
     「お前、暇だからって考え事でもしていたんだろう。敵の足音を聞き逃すなよ」
     ほら思った通りだと、予想通り飛んできた小言に内心苦笑する。
     「わーかってるよ。ちゃんとデコイも配置してるし、お前のドローンもある。それに、このミラージュ様の立派な目と耳も機能してるし」
     「どうだか。……最後に関しては時々ポンコツだからな」
     「……ったく、本当に昔っから生意気な"坊や"だよ。お前は」
     無意識に洩れた呼び掛けに、少しだけ不思議そうな顔をしたクリプトが俺を見つめてくる。
     昔の事を思い出していたから、近頃はおっさん呼びが主流だったのに、思わず"坊や"と呼んでしまった。
     そんな俺に向かって、出会った日に見せたような不敵な笑みを浮かべたクリプトが、片眉を上げて囁く。
     「お前こそ、相変わらず忙しなくて、うるさい"オッサン"だ」
     その呼び掛けに、まるで昔に戻ったようだと思わなくもない。
     けれど、あの時と大きく違うのは、俺達は互いに互いの実力を認めあっている、という点だった。
     背中を守る覚悟があって、その分だけ任せられる信用がある。重ねてきた年月が、それらを形作ってくれた。

     アリーナ全体に響き渡るリング縮小開始の合図と、残り三部隊になったというアナウンスが流れ出す。この【ゲーム】も、もう少しでチャンピオンが決まるだろう。
     セルを使いきり、そのまま自然と握った拳をクリプトの前へと出してみる。
     やっぱり不敵に笑ったままのクリプトは、そんな俺の拳に、チャージライフルから離した片手を握り込んで軽くぶつけてきた。
     言葉はいらない。今回も勝つのは俺達なのだと、重なる視線から伝わるからだ。
     そうしてまたスコープへと視線を戻したクリプトから目を外すと、俺も同じく背中のホルスターに携えていたフラットラインを両手で握り締め、どんな些細な物音でも聞き逃さないように耳を澄ませ始めたのだった。
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