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    ミ→←プからのミプ/ハロウィンイベネタ

    健気な犬への贈り物 「ドローンからもど……っ……!」
     手に持ったコントローラーのボタンを操作し、眼前に映し出していたスクリーンを消す。
     開けた視界の中心には、こちらを見ている爛々らんらんと輝くオレンジ色の瞳と、表情すらも分からない真っ黒な影が立っていた。
     毎年恒例となりつつあるハロウィン付近になると行われるイベント――ファイト・オア・フライト――というのは何度経験しても心臓に悪い。
     そもそも、レヴナントの別次元の存在であるシャドウレヴナントの世界にこの時期だけポータルを繋げて、イベント会場にしてしまおうだなんて、気が狂っているとしか思えなかった。
     この【ゲーム】を開催している奴らも、参加している連中も、軒並みイカれているのは今更な話なのだろうが。

     今年のイベントアリーナはオリンパスだった。
     普段は澄んだ青空が広がる世界は闇に包まれ、至るところで飢えた獣の声がする。
     同じ場所だというのに、時間と次元が違うだけでこんなにもおどろおどろしい空間になってしまうなんて、不思議なものだと思う。
     そんな風に俺が考えている合間にも、グルグルと微かな声をあげている影は俺を見つめたまま動かない。
     その姿を直視しているのも嫌になって、影から顔を背けた。
     先ほど軌道砲から見えるバナーを確認した限りでは俺達の周りに敵部隊は居らず、同じ部隊である筈のオクタン……だった影が走っていったイカロスの方へと向かう為に足を動かし始める。
     ここで待っていても構わないが、コイツと二人っきりなのもどうしたら良いのか分からなかったからだ。

     シャドウレヴナントが支配するこの次元では、一度ダウンしても、すぐにまたリスポーンする事が出来る。というよりも、無理矢理に復活させられるのだ。
     殺し合いと他人の苦しみを悦びとするシャドウレヴナントは、とにかく残虐なショーを望んでいた。
     だからこそ、通常の【ゲーム】ならば倒された時点でいったん戦場から離脱出来る筈なのに、それを許されずに影として延々と戦場に送り込まれる。
     意思疎通する手段や言葉を失い、どうにか人の形を保っているとは言え、もはや異形の化物と成り果てても戦わさせられる。最後の一部隊になるまで。
     それは正直、普通の【ゲーム】でも同じでは無いのかという核心には気が付かないフリをした。

     ジップを下り、整えられた芝生を踏み締めていく。
     俺の後ろに居た筈の影は、こちらよりも足が速いからか俺の前へと進んでいたが、一定の距離よりは離れていかない。
     軌道砲で他の二部隊とかち合った俺達の部隊は、どうにか俺以外の二人が影と化してしまったものの勝ち残る事が出来た。
     今回の部隊メンバーは、俺と、オクタン、そうしてミラージュだった。
     だから、目の前の影は黒い炎のようなベールにくるまれているものの、見知った男の形をしている。
     いつもなら、こうして歩いている間にも暇さえあればミラージュという男は何が楽しいのかもしらないが、ずっと話し掛けてくるのだ。取り留めの無い、オチも無い、そういう話を俺が止めるまでし続ける。
     それなのに、今は揺らめく背中が振り返る事は無くて、飛んでくる言葉もなかった。
     「……敵を倒しに行きたければ、行けばいい。別に俺を守らなくても、構わない」
     ついに沈黙に堪えきれず、思わずそんな言葉を投げ掛けていた。
     影になった時点で、味方の誰かが生き残っていれば何度だってよみがえる事が出来る。
     そうして、その行動原理は"敵を倒す"というのに一点集中していた。何故それを知っているかといえば、俺自身もまた、何度も影になった事があるからだ。

     こちらの言葉に立ち止まったミラージュは、緩慢な動作で振り返る。
     やはり真っ黒な顔に浮かんだオレンジに発光する瞳。
     いつものコイツとは違う、別人のような姿。
     だが、その言葉を聞いてなのか、こちらに近付いてきたミラージュは俺の後ろに回ったかと思うと、グイグイと頭を背中に押し付けてくる。
     その勢いに思わずたたらを踏みかけて、ブーツを履いた足を動かした。
     「っなんだ?! 押すな! 分かったから。大体、なんで頭で押してくる……」
     そこまで言って、背中に擦り当てられていた頭が離れていく。
     視線を後ろに向ければ、うすぼんやりとした光の下で俺に手を当てないように両手を広げている姿が見えた。
     その指先は、衣服だけではなくこちらの皮膚や肉ですらも削り取るだろう鋭さを宿している。コイツは、それを自覚していて、俺を頭で押したのだろうか。
     相変わらず何の表情も無く、唸り声を時折あげるミラージュを見つめる。

     影に変化させられる時、この世界の王だと自称するシャドウレヴナントが何もかも見透かしたような声で己の脆い部分を容赦なく突き刺してくる。
     殆ど無い自我の中でも、その囁きはベッタリと張り付くタールの如く耳の奥に残っては、脳内で反響し続けるのだ。
     だから、影は敵を探し求める。早くこの地獄を終わらせてくれと願う本能のままに。
     でも、コイツはずっと俺に付き従ったままだ。
     影になったのだって、回復が間に合っていない俺をかばって前に出たから。
     「ウィット」
     そっと手を伸ばす。今度は逆にミラージュの影が怯えるように身じろぎをした。
     おそらく、首らしき場所をくすぐり、そのまま頬辺りを撫でる。
     触れられないかと思った俺の予想を裏切って、ひんやりとした揺らめきが掌の上で踊った。
     生きている温度では無いのに、これはミラージュなのだとハッキリと伝わる事実が複雑な模様を心に落としては消えていく。
     スリ、と撫でられるのを求めていた犬のようにミラージュの顔が擦り付けられる。
     その姿に、もっと早くこうしてやれば良かったと僅かな後悔の念がよぎった。
     「さっさと終わらせよう。隣に居るお前が話さないのは、……寂しいから」
     どうせ覚えちゃいないだろうと発した俺の言葉に、両目の下辺りがグワリと開く。
     尖った牙が生えた口らしき箇所が、三日月のように輝く様を見ながら、頬を撫でていた手を外した。

     □ □ □

     「お疲れさん! 勝てて良かったぜ! ま、俺は全然覚えちゃいないんだけどさ!」
     「……あぁ」
     そう言って風のように俺の横を通りすぎていったオクタンの背中を見送る。
     誰かがチャンピオンを取れば、影化も自然と元へ戻る。
     別部隊の影や敵と何度か接触したが、その度に俺を守るように、爪や銃弾の前に立ってくれたミラージュのお陰で今回はチャンピオンを取る事が出来た。
     そろそろアイツも戻ってくる頃だろうと予想していたタイミングで、聞き慣れたエンジニアブーツの足音がする。
     振り向けば、やはり影ではないミラージュが立っていたが、黙ってこちらを見ているだけだった。
     何故か気まずそうな顔をしているミラージュに、まだどこか不調な場所でもあるのかと一歩近付く。
     だが、俺よりも先に動いたミラージュがいきなりその頭を肩口に乗せてきたのに固まってしまう。
     ここは元の次元にある【ゲーム】用施設の廊下で、誰が来ても可笑しくない。それよりも、体調が悪いのなら医務室に連れていくべきだろうか。
     まさかの状況に止まりかけた頭を回す。
     「おい、どうした? どこか不調なのか? 医務室に行くなら連れていってやってもいいが……」
     「……なぁ」
     耳元で響く掠れた声に、クラクラとしてくる。混乱がさらに深まってしまうのは、ミラージュの雰囲気がいつもと全然違うからだ。
     そうして顔をあげたミラージュのヘーゼルの瞳がこちらを至近距離で見詰めてくるのに息を呑んだ。
     さっきまでのオレンジ色ではない、もっと穏やかな筈の瞳が、今は熱っぽく艶めいている。
     「……俺、凄い頑張ったから……もう一回撫でて欲しいんだけど……」
     飛んできた言葉に目を剥く。
     どうして、と問う前に、ポケットの中にしまいこんでいる両手と、ずっと隠し続けていた感情の終着点を探し始めるしか出来なかった。
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