クリームイエローの至福。(レントキ)無性にクリーミーな甘いものが食べたくなった。とはいえ、彼も自分も普段食べないものだから、この家に甘味の類いは殆どと言っていいほど何もない。
材料さえあれば作れなくはないが、少量を作るにしろ余剰が出るのは目に見えている。さて、どうしたものか……と一先ず冷蔵庫の扉を開けてみると、そこには見覚えのない箱が目に入った。
「これは……プリン、?」
開封済みらしい箱の蓋を開ければ、赤紫のパッケージから季節限定物と推測出来る二色の黄色にカラメルと三層になった品が一つ、そして濃い黄身色をした通常のものの二種類が顔を覗かせる。
一つ取り出して目線のところまで持ち上げれば、プリンの底に沈んだカラメルがガラス容器越しにキラキラと照明の光を反射して美しい。
「おや、見つかっちゃったか」
ほぅ……とプリンを眺めていると背後から聞き慣れた声が聞こえ、振り返れば予想通りの人物が楽しそうに見つめていた。
「レン」
「プリンを眺めてるイッチーって、なんだか新鮮だね」
彼のその言葉に自然と顔に熱が集まる。
気恥ずかしさにレンから視線を逸らし、少し俯きながら手にしていたプリンを箱へ戻すと向かいから小さく笑う声が響いた。
「すみません、見慣れない箱だったのでつい開けてしまって」
「大丈夫だよ。それより、イッチーはどちらの方が気になる?」
先程箱に戻したプリンを今度はレンが手にして眺めている。買ったのか貰ったのか、どちらなのかは判断つかないが、プリンを眺めるその様子さえも贔屓目無しにこの男は本当に絵になる。……少し、羨ましい。
「そうですね……この赤紫のパッケージの季節限定だろうスイートポテト味は若干気になりはしますが、カロリーも高そうで」
「はは、確かにそうかもね」
あ、一個で300近いね、という声に若干顔が引き攣るのが自分でもわかる。
「でも、たまにこういうのって無性に食べたくならない?」
「まあ、確かにそうですが……」
さつまいもは食物繊維が豊富ではあるが、菓子にしてしまえば旨味を出す為に付属されるエネルギー量で気軽に手を出せるものではなくなってしまう。気になっても口にすることは憚られ、既にプリンの口となった今ではちょっとした苦行に近い。
そんなこちらの意図をこの聡い男は汲んだのだろう、美しく華やかな顔に柔らかな笑みを浮かべて。
「イッチーは一個じゃ多いだろ? だから半分こしよう」
そう言って彼はプリンの封を開け、食器棚から取り出した小さめのスプーンで一匙、甘露芋の乗ったプリンを掬って有無を言わさずに私の口元へと傾けて口を開くように促してくる。この一匙に約20キロカロリー……などと思いつつ意を決してぱくりと口に含めば、舌の上にふわりと広がる卵と芋の甘さにかんばせが綻んだのは二人の秘密だ。