Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kszm_ota

    @kszm_ota

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    kszm_ota

    ☆quiet follow

    12/11新刊に載せるつもりで書いたsgoと幽霊の話。あまりに冒涜的で胸糞が悪いのでボツ。
    ※水子

    #杉尾
    sugio
    #sgo
    #ホラー
    horror

    蛭子「いついつ明けておけ、○○に行く」「絶対いやだ」という短いやりとりをするだけのメッセージアプリに、今朝は「お前の家で飲もう」と書いてあった。
     二度見した。
     尾形の親はとんでもない金持ちだ。「いつかこの研究を本にして大手へ持ち込む。絶対ウケて映画化されるから、自分で脚本監督したい。ゆくゆくはハリウッド」という夢語りに感激して、息子の悪趣味な自由研究に大金を出すタイプの親。しかも跡取りには弟がなると決まっていて、その弟も「私が生涯かけて兄様をサポートしますっ(尾形の裏声)」と言っているそうだ。だから尾形は生活を怪奇・心霊現象に全振りしている。しょっちゅうバイトを変えるし、引っ越すし、食事もほとんど外で食べる。
     そんなあいつが宅飲みだと? 
     怪しい。絶対に何かある。
    「変なもの食わされそうだからいやだ」と返信すると、尾形は写真を一枚送ってきた。
     木箱に入った霜降り和牛のすき焼きセットだった。
      しゅわー……
     土鍋に載せた牛脂が音を立て始めた。その上に斜めに切ったねぎを落とすと、溶けた脂肪とねぎの香りが立ち上り、鼻孔の奥を刺激した。
    「あ~、いい匂い……これだけで飯が食える」
     すき焼き鍋なんてものはうちにはない。愛用している土鍋でやることにした。豚、魚、鳥、きのこにチーズ……多くの出汁を吸わせて育ててきたが、牛肉は初めてだ。これでまた家宝レベルが上がってしまう。
     鍋底に油脂が広がったので、まずは一枚牛肉を敷こう。レースのように解けてしまいそうな霜降り肉を菜箸で慎重に取り上げ、ステージの上に裾からそっと寝かせる。赤いドレスを纏った淑女たちは数秒で蕩けだし、肌を艶めかせた。
     向かいに座った髭面を睨む。
    「お前は手を出すなよ。変なもん混ぜたら殺すからな」
     尾形はムッと唇を突き出した。家に来るなり腹が減ったと騒ぐから、冷蔵庫にあったちくわとビールを与えた。すでに少し酔ってる。
    「食い物を粗末にしたりしない」
    「いいや、お前ならやる。この粉を飲めば臨死体験が~とか言われたら、買うし、飲ませるだろ」
    「うん」
    「うんじゃねえよ……ったく、ふざけやがって」
     端の色が変わった肉をひっくり返すと、部屋の中の香りが一層濃くなった。そこへ割り下を注ぎ、とうふ、春菊、白滝などの具材を適宜追加してフタをする。
    ぐつぐつぐつ 
    ぐつぐつぐつ
     具材が煮えるまで、無言で過ごす。意外にも尾形は静かだった。普段なら歩いていても運転中でも割とペラペラ喋っているのだが。育ちが良いからだろうか。逆にムカつく。
    「そろそろ出来るぜ」
     フタを開けると、もわああと白い湯気。さとう醤油みりんの黄金比率に、野菜と肉の出汁が染みた匂い。思わず涎が溢れた。
    「おわあ! 頂きます! んぐ、んぐ……んっんっんっ」
     でっかい霜降り肉に卵の黄身をからめ、一口でいく。口いっぱいの肉をよく噛んで飲み込んだら、すかさず追いビール。頬に残った牛のうまみを、ビールが胃へ流してくれる。
    「っぷは~~! うめ~!」
    「お前、その調子で飯食ってて苦情は入らんのか」
    「いつもはもっとささやかなんだよ。お前は食い飽きてるだろうがな。おら、ボンボンはねぎでも食ってろ」
     碗にねぎや豆腐や白滝などの庶民具材を投げてやると、尾形は「甘くない」とかなんとか文句を言いつつ食べた。親が西の人らしい。肉は全部俺が食べた。 
     締めにうどんを入れて卵でとじ、さらにビールを二、三本開け、日本酒を開けたらもうへべれけだ。尾形にゲップ混じりで「ヤらんのか」と誘われて押し倒した。
     一時間ほど食後の運動をしたら、具合が悪くなった。
    「ぎぼぢわりぃ……」
     布団の上に裸でぶっ倒れた。吐きそう。吐きたい。でも勿体ないから吐きたくない。
    「あんだけ飲み食いすればな」
     尾形は「うちの犬と同じだ」と丸くなった俺の腹をぽんぽん撫でて、風呂場へ向かった。
     なんか……フツーだな、今日。飯食って酒飲んでヤって。超フツーのカップルじゃん。
    ふと見た自分の枕に、尾形の髪が落ちてたり。
     あいつは昼間にほとんど出歩かないから、髪が全く痛んでいない。工事現場で働いてる俺の髪とは大違いだ。コシのある髪を拾ってクルクル回してたら、シャワーを浴びた尾形が戻ってきた。裸のまま俺のそばに座って「もう寝るのか」なんて、物足りそうに言うからなんだか胸までいっぱいになった。
     尾形も俺とフツーに過ごしたいとか思ってくれるようになったのかなあ、って。
    「どうしよっかなあ、まだ眠くはないな」
    「じゃあ怖い話をしてやろうか」
     そんなフツーの流れっぽく誘導されて、つい「いいぜ」と応えた。尾形は腹と腹がくっつくほど近くに寝そべると、事後には相応しくないギラギラした目で語り始めた。
    「言霊ってあるだろう。名は体を成すとか、忌み語とか。使役するまでは何の効力もない文字の羅列が、紙に書いたり口から発せられるだけで力を持ち、現実に影響を及ぼすとされる。もしくは思い込みで潜在能力を発揮するとか。言葉が発明された初期から現代まで世界中で続く信仰だ。先日、そういうのを研究してる知り合いから面白い話を聞いた。東南アジアのとある国のとある地方に、絶対に発声してはならない呪文があるそうだ。それを唱えると悪霊がやってきて、家に居る者を殺してしまう。その噂は植民地時代より前に存在していたが、数十年前に実証された……と」
    「実証? 実証って、実験でもしたのかよ」
    「山賊に襲われた村の子供がそれを唱えた。占領した連中はひどい有様だったそうで、接待をさせられていた女全員が呼び出された霊の声を聞いたと主張している」
    「おいおい、俺でも分かるぜ。家に居る人間を殺すのに、証人がいるのはおかしいだろ」
     尾形は大きな目玉でじろりと俺を見上げ、不気味に口角を上げた。
    「いい事を教えてやる。杉元佐一。この手の話には必ずといっていいほど、助かる方法が添付されているんだ」
    「なるほど。口裂け女のポマードみたいに、なんか弱点があるんだ」
    「ああ。そいつは目が悪くて、獲物を触って確かめるそうだ。布や布団を被って手触りやシルエットを誤魔化すと、見逃して貰えるんだと」
     いうやいなや、尾形は下半身にかけていた毛布をひっつかみ、俺と一緒に潜った。そして聞き慣れない言葉を唱えた。
    「█████████████」
     止める間も、人んちで何をしてくれるんだと怒鳴りつける間もなかった。尾形が呪文を唱え終わる前に玄関から声がしたからだ。
    ン――……
     小さな声だった。
     体が硬直し、全身が総毛立った。痣がビリビリと引きつれ、鳥肌が裂けそうになる。
     やばいやばいやばい。あれは絶対だめだ。全細胞が危険信号を発している。
     尾形はまだ余裕だ。小さく笑うと「距離は関係ないのか」と囁いた。
    「杉元。手足が出てるなら今のうちにしまえ。ひき肉にされるぞ」
    「っ」
     慌てて手足を縮め、尾形と密着した。尾形はクフフとくすぐったそうに笑った。
    「良かったな。悪霊に触ってもらえるなんて、そうないぞ」
    「っ、く、何も良くねえよ……っ、バレたら殺されるんだぞ……っ」
    「しぃー」
     尾形が耳を澄ませろと目線で合図した。
      ン――……
      ウ――……
      ガサ…… カタッ…… ペタ……ペタ……
      ン――……
      ン――……
      ガタンッ ペタ……ペタ…… カサカサ……カサ……
     尾形が呼びつけたオバケは玄関からこちらへ向かって移動している。途中、ゴミや雑貨にぶつかっているようだ。このまま直進するなら俺たちとぶつかる。
     どうするんだと視線で訴える。尾形は物音を立てないよう、ゆっくりと俺の首を抱いて耳元に吹き込んだ。
    「家の中を全て見たら帰っていくそうだ」
     殴れないし怒鳴れないしおっかないので、肋骨粉砕する勢いでぎゅうと抱き返した。
     分厚い冬用毛布の中で、尾形の心臓と、得体の知れない何かの物音を聞く。
      ン――――
      ン――――
      カーンッ……カカンッ……カランカランカラン……
     廊下の手前に積んでいた空き缶が崩れる。もう二メートルもない。
      ン――――
      ン――――
      ぺた……ぺた……
     足音が近づいてきた。鼻息も聞こえてくる。オバケはとても小さい。犬か猫くらいで、床を這うように移動している。
     俺と尾形が抱き合って潜る毛布の、端に、別の重みが乗った。尾形がひゅっと息を呑む。俺も息を止めた。自分か尾形か、どちらのものか分からない心音が体中に響く。
      ごそ ごそ ごそ
      しゃり しゃり ずん ずん
     衣擦れが伝わって、尾形の頬にぶわりと汗が噴き出た。触れられたようだ。
     俺のところにも、もう。
    「ン――――」
     間近で唸られ、跳ねそうになる体を精一杯律し、息を止めてその瞬間を待ち構えた。
      むにっ
     
     俺の頬に触れたのは、小さな小さな手だった。
    「ン――、ン――」
     掌をおしつけ、感触や形を確かめる。あたたかく、しっとりとした手。次に柔らかい膝が俺の眼窩に乗った。俺の頭を這いずって乗り越え、ずんずん進んでいく。
     その感触に覚えがあった。
     恨みを込めて尾形を睨む。尾形は「知らなかった」と言いたげな表情をした。
     そいつは布団を横切って窓にぶつかると向きを変えて直進、壁にぶつかるとまた向きを変えて直進……と、部屋中を歩き回り、最後にカーテンをしゃらりと鳴らして……気配を絶った。俺たちは恐怖と罪悪感がないまぜになった、最悪の気分で十数分を過ごした。
     気配がなくなって部屋が静まりかえると、尾形が足を伸ばして毛布の外にジワジワと体を出した。下半身をまるごと出しても反応はない。俺はバッと毛布を剥いで起き上がった。
     何もいない。缶やゴミ箱が倒れているだけ。
    「……あれ、どういう意味の呪文なんだ」
     尾形はテーブルに放置していたスマホを取り、文字を打った。しばらく難しい顔で画面を睨むと、俺に向けて見せた。映っていたのは機械翻訳の結果だった。
     ███、███、███帰ってきて
     
     難しい言語らしく、謎のカタカナが残っている。大学で散々使ったから知っているが、辞書にない固有名詞はそのまま出てきてしまうのだ。おそらくあいつの名前とか、地名とかだろう。
     幼馴染夫婦の子供を初めて抱いた時の感覚が蘇って涙腺が緩んだ。あの、本能的な庇護欲を揺さぶられる感覚だ。
    「二度と使うなよ」
    「ああ……知人にも報告する」
    「……もう寝る」
     鳥肌が止まない体に毛布を巻き付けて横になった。尾形もその隣に倒れた。
     翌朝、目覚めると一人だった。尾形は俺が眠っているうちに帰ったようだ。詫びのつもりか、食器も部屋も片付いていた。
     さすがに今回は、もう会うのを止めようかと思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🎋🆗🅰ℹ✝♓🅰♑⚔❤😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works