夢小説 主人公×キース 主人公×キース 短編談
『心寄』
これは俺と先輩の何気ない日常のお話。
その日、先輩は寝坊した。こういう事は時々ある。先輩の普段の功績を鑑みると、肉体的疲労が蓄積されるのは当然と言えば当然…。
だからみんな特に気にする様子もなく、各々の身支度を済ませると、先輩を俺に任せて大部屋を出ていった。
「おはよう、先輩。みんなもう準備して行っちゃったよ?ほら、先輩も早く起きて!」
ベッドの端で軽く先輩の肩を揺する。俺の呼び掛けに先輩はむにゃむにゃとまだ夢見心地な様子だ。
「うーん、任務中の動きはキレッキレなのに、同一人物とは思えない程の隙の多さだなぁ。ユウゴが先輩のお母さんみたいなポジションなのも、なんか納得…」
体を揺すられて、先輩がもそもそと布団から起き上がる。
「ふわぁ〜、ん…キース…おはよぉ」
まだ少し寝ぼけた様子の先輩が俺を視界に捉えて、ふにゃふにゃと笑う。
思わずドキッと高鳴る心臓。自分よりも六つ年上の男性を可愛いと思ってしまうなんて、俺はどうかしているのかもしれない…
「おはよう先輩。今日の任務ユウゴと兄貴とだろ?遅れたらまたユウゴにお説教だよ」
「うぅん…ちょっと待って…」
対して気にする様子もなく、先輩はゴシゴシと目を擦りながら、次の瞬間、先輩を覗き込む俺を強引に抱き寄せた。
「うわ!ちょ、ちょっと、急に何!?」
先輩の匂いに包まれて、顔が熱くなるのを感じた。嬉しさで口元が緩むのを悟られないように、バタバタと抵抗しながら誤魔化す。
しかし、鬼神と称される先輩の腕の力に抵抗は虚しく、結局、俺はされるがまま先輩に背中を向ける形で、先輩の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
先輩の腕の中は暖かくて、程よいホールド感がまたこの上なく心地が良かった。
先輩に求められている
必要とされている───
そんな承認欲求がじわじわと広がって、先輩に対する愛着へと変わっていく。
…このまま、もっと…先輩の近くに…
「よし、充電完了!ちゃちゃっと準備して行ってくる!」
濃密な空気が一変。
それまで俺の背中に顔を埋めてゴロゴロと猫のように甘えていた先輩は、スッキリと爽快な朝を迎えた顔をして、言葉通りちゃっちゃと身支度を整えると、先程までの甘い余韻を一切残すことなく、ロビーで待機していた兄貴達と合流した。
「はは、俺だけの先輩から、あっという間にクリサンセマムの鬼神って感じ…」
出撃ゲートに向かう3人の背中を見送ってから、研究室へと足を運ぶ。まだ少しドキドキしている胸の焦がれをどうしてやろうかと、煩いつつも深呼吸をひとつ。
「さてと、俺も、感応領域のデータ解析、続きやっか!」
気持ちを切り替え、目の前の作業に取り掛かった。
本当はキスのひとつでも欲しかった…なんて考えてしまう俺は、先輩に求めすぎているのだろうか?
誰かを好きになるなんて事が初めての俺は、恋人との適切な距離感をまだ掴めない。このモヤモヤとは、今後も付き合うことになりそうだ。