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    ouranos0517

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    ややほんのり微妙にマヨ……テリヰパロ
    https://youtu.be/gr-YYxUnm0U?si=LEXnO3a9M-k0YPTV

    妖怪パロの🌟・‪💧‬・🍑
    続きを書く気力が無くなってしまったので急に終わります。供養。

    「マヨイガ?」
     突然耳へ飛び込んできた単語を司は思わず復唱した。はて誰が発したのかと辺りを見回すも、半日講義も終わった昼時の飯屋では右も左も隣に座る者とぺちゃくちゃぺちゃくちゃ食べてるのか話してるのかという様相で分かりはしない。
    「司? どうかしたのか?」
     かく言う司も級友と飯を食っているところだったので、突然きょろきょろとしだした司に級友から声がかかる。
    「いや、少し気になる話が聞こえたものでな。誰が言ったのか気になった」
    「ふうん、そうか。どんな話だ?」
    「マヨイガ、というやつなんだが。何か知ってるか?」
     聞かれたから素直に答えたが、あまりこの友人がそういった知識に詳しいとは思えない。
     駄目で元々、そのつもりが意外にも友人は「ああ、最近よく聞く話だな」と事も無げに答える。
    「知っているのか?」
    「おれも詳しくは知らん。ただ、噂としてならあちこちで聞くぞ。なんでも、マヨイガというところからひとつ物を持ち帰れば、たちどころに富に恵まれるとか。……意外だな。お前もこういう博打めいたものに興味があるのか?」
     コツコツ愚直にが嫌になったか? と揶揄うように顔をのぞき込まれ、ばかにするなと怒ったふりをする。友人はわははと笑ってから「お前は騙されやすいのだから無茶はするなよ。怪しい輩にはついていくんじゃないぞ」とまるで幼子に刺すような釘を刺した。司のことをなんだと思っているのか。

     騙されやすいも何も、騙すのが本分だというのに。

     飯を食べ終え友人と別れ、さてと司はある屋敷へ足を向ける。先程の噂——マヨイガのことを相談しようと思ったのだ。
     目的地への道すがら、顔見知りを見つければ「マヨイガを知っているか」と声をかけ、通り過ぎる人々の話に耳をそばだて情報を集めたが、特に新しい情報は得られなかった。ものを持ち帰れば金持ちになれる、夢のような家。どこにあるのか、具体的なことは誰も知らない。そんな程度だ。
     そうこうしながら人混みを抜け横道へ逸れれば、途端に人が減り静かになった。もう少し進めば、人通りは完全に途絶える。
     そうしてひとりきりで歩く足音に、いつのまにかとてとてと小さな足音が重なっていた。辺りに人影は無い。司の影だけが黒々と伸びている。
    「なあ。マヨイガの話、ホンモノだと思うか?」
    「どうだろうな。もしホンモノなら大勝ちしたやつの話でも聞こえてきそうなもんだけど」
     どこからかそんな話し声が聞こえてきて、ゆらゆらと司の影の中で形の違うしっぽが二本揺らめいた。
     司はしゃがんで影の辺りに手を伸ばすと、何かをよいしょと抱き上げ、声に応える。
    「それをこれから相談しに行くんだ。ホンモノじゃないにしろ、そういう噂が流れるってことはその裏に何かある可能性が高い」
    「なるほどたしかに」
    「そうなるとただのマヨイガの方がマシかもしれないなあ」
     腕の中の二匹——狸と狐は司に抱えられしっぽをゆらゆらさせながらのんびりとそんなことを言った。

     妖怪。司はそう呼ばれるものの子孫だ。

     司の祖先は化け狸と化け狐。狸と狐は昔はあまり仲が良くなかったが、文化を発展させた人々に追いやられるにつれ、このままずっと諍いを続けているのも不毛だといつしか手を取り合うようになった。狸と狐という異種族でありながらも番になった司の祖先はその象徴で、以来司の一族は狸と狐の和平の象徴としてなんとなく大切にされている。
     ただ、敬われているとか奉られているとかそういったことはなく、本当にただ、「この一族が末永く幸せだと狸と狐も幸せでいられる気がするよね」というような雰囲気で見守られているだけだ。
     司の腕の中の二匹もそんな感じで、なんとなく司の周りをよくうろちょろとしている。二匹ともまだ妖怪としては半人前で人には長時間化けていられないので、人目につくところでは周りの目を化かしてこっそり司の影の中に隠れている。
     人に化ける化け狸と人に化ける化け狐の子孫である司はもともと人の見た目をしているから人に化ける必要はない。化ける必要が無いから化かす必要も無いので司の一族は年々妖力を失っていっている。いつかは人と同じになるだろう。それでもきっと、狸や狐たちは司の一族を見守り続けるのだろうと、腕の中の二匹をうりうりと撫でた。
     そうこうしているうちに屋敷へ着いたので、司は門の前に立つと二匹をそっと時点に下ろしてから「ごめんください!!」と声を張り上げた。以前抱き上げたままこれをやったところ、司の大声を間近で聞いた二匹に「たのむからやめてくれ」と懇願されてしまったことがある。それ以降は気をつけて事前に下ろすようにしているし、なんなら下ろさなくても勝手に腕から飛び出していくようになった。
    「はあい。ちょっと待ってね」
     遠くから澄んだ声が飛んできて、それからぱたぱたと小走りな足音も聞こえてきた。ほどなくしてからからと門が開けられる。
    「いらっしゃい、司くん。コンくんとポンちゃんも、いらっしゃい」
    「ああ、突然すまない。少し相談したいことがあってな」
    「邪魔するぞ!」
    「お邪魔します」
     空色の髪をさらりと耳にかけながら、屋敷の住人——日野森雫は穏やかに司を迎え入れた。それからセーラー服の裾を上品に折り畳みながらしゃがむと、狐と狸の頭を軽く撫でる。二匹のしっぽがご機嫌にぱたぱた振れた。
     日野森雫は司の昔馴染みである。と言うのも、雫と司にはそれぞれ目に入れても痛くないほどかわいい妹がいるのだが、その妹たちが大の仲良しであるために、自然と関わりが生まれたのである。
     雫の先導で客間へ通されると、「天馬くんごめんなさい、先にお邪魔してるわ」と声がかかる。見れば桃色の髪の少女がちょこんと座っていた。その膝の上ではおかっぱ頭に赤い着物の幼子が機嫌良さそうに団子を頬張りつつ、司へ向かって歓迎するように両手を振っている。
    「すまない桃井愛莉。邪魔してしまったな」
    「いいのよ、気にしないで。それにちょうど、天馬くんに聞きたいこともあったし……」
     幼子とは裏腹に、愛莉の表情はどこか憂いを帯びている。何かあったのだろうか。司で力になれれば良いのだが。
     団子を食べ終わった幼子——この家の座敷童子はすっくと立ち上がると、こちらへ突進してくる。
     がばり。幼子は狐と狸をその小さな腕の中に閉じ込めた。二匹はされるがまま大人しくわしゃわしゃと撫でられている。いつもの光景だった。
     「どうぞ」と雫が淹れてくれた茶に礼を言ってから口をつける。少し熱かったので一旦離してふーふー冷ましてからもう一度口をつけた。
    「それで、司くんの相談したいことって何かしら」
     司がこくりと茶を飲み込んだのを見計らって、雫がそう声をかけてくる。できれば先に愛莉の相談事を聞いてしまいたかったが、司の方がきっと瑣末事だからさっさと済ませるのもありか。
     そう思って、「マヨイガについてなんだが」と口にしたその瞬間。
    「何か知ってるの!?」
     バン! とちゃぶ台に手のひらを叩きつける勢いで愛莉が身を乗り出した。びくりと肩を跳ねさせたせいで、ピシャ、と司のズボンに茶がかかる。少し熱かったけれど、それよりも畳に染みなくてよかった、なんてついのんきなことを考えてしまった。
    「ご、ごめんなさい! その……ちょうどわたしが聞こうとしていたのも、マヨイガについてだったから……」
    「……何か、あったのか?」
     普段あまり取り乱すことの無い愛莉がここまで取り乱したのだ。きっと何か——誰かが巻き込まれたのだろう。
    「オレはただマヨイガの噂が流れていると聞いたから、何か知っていることがないかと思って相談したかっただけなのだが」
    「そう……そうだったのね」
     愛莉がふー……と額に手を当て息を吐き、「ごめんなさい、ちょっと落ち着くわ」と茶を一口すする。雫が「司くん、やけどしていない? 大丈夫?」と布巾を差し出してくれたので、ありがたく拭わせてもらった。
     お互い一呼吸おいて向かい合い、雫も愛莉の隣に正座する。座敷童は不思議そうに、狸と狐は真剣そうなまなざしでこちらを見ている。……最も、二匹とも未だ座敷童の腕の中なのだが。
     きゅ、と唇を噛み締めた愛莉を見て、雫が愛莉の手を握ったのが見えた。それからこちらに向き直ると、雫は「あのね」と口を開く。
    「実は……私たちのお友達が行方知れずになってしまったの」
    「なんだと……!?」
    「それにマヨイガの噂が関係しているかもしれなくって。……きっと今噂になっているマヨイガは本物じゃないと思うの」
    「誰かが人を集め攫うために流した嘘、ということか」
     雫は静かに頷いた。狐が小さく「やっぱりな」と呟く。
     マヨイガ——迷い家とは、本来特に害のあるものではない。いつの間にか現れ、いつの間にか消えていく、そんな霞のような現象。迷い込んだものが欲の無いものであれば富を与え、欲に囚われたものであれば何も与えず帰す。迷い込んだとて、行方知れずになることはない。
    「ちょうどマヨイガの噂が流れ始めた時期と、みのりや朝比奈さん……わたしたちの友達が行方知れずになった時期が同じくらいだったから、もしかしたらと思って調べていたんだけど」
    「ちょっと待ってくれ。行方知れずになったのはひとりではないのか?」
    「ええ。私たちも最初はみのりちゃんのことだけ探していたのだけれど……マヨイガの噂を集めているときに、朝比奈さんも行方知れずだって、絵名ちゃん……お友達に聞いて」
    「……ということは、おれたちが知らないだけでもっとたくさん被害者がいそうだなあ」
     狸が暗い声でぼやく。身近に把握出来ているだけでふたりも被害者がいるのだ。実際はもっとたくさんの人が巻き込まれているのだろう。
    「しかし、それにしてはそうした事件が起きているという話は聞かなかった。少し不自然じゃないか」
    「あれだろう、自分の身内が行方知れずになったとして、マヨイガなどという一攫千金に賭けた結果巻き込まれたなんて恥もいいところじゃないか。こっそり探すしか無かったんだろう」
     狐の言葉に愛莉が「でも」と反論する。
    「みのりも朝比奈さんも、一発当てて大儲けしてやろうなんて、そんなこと考える子たちじゃないわ」
    「実際の被害者がどんな人間かっていうのは関係ないんだ。要は事件が明るみに出るのが遅くなればなるだけより多くの人間を取り込めるってだけの話だから、探されにくくなればそれでいい。マヨイガの噂はそういう意図で流されたとは考えられないか?」
    「誘き寄せるためではなく、攫ったことを隠すための噂というわけか」
     狐の話は的を射たものに思えた。元々、マヨイガの話としては多少不自然なのだ。何かを隠すためのものと考えた方が納得がいく。
    「でも……そうだとしても、少しおかしいことがあるわ」
     全員が一度黙りこくった後、雫がおずおずと切り出す。
    「みのりちゃんがいなくなってから今日で四日よ。それなのに、ご家族があまり……心配されていないの。きっとどこかで楽しくやってるわよー、って仰って……」
    「そうね、そうだわ。その件があったのよね……」
     愛莉は「ちょっと糖分ちょうだい」と言って団子をつまむ。司も自分の前に置かれた団子に手を伸ばし、そのまま狸の方にほれと向けてやる。狸は座敷童子に捕まったまま「くれるのか! ありがとう!」と言って短い手足で串を掴むと大口を開けて頬張った。狐は「なんたるあほ面か」とでも言いたげな顔でそれを見ている。
     茶を啜り、一息。愛莉が口を開いた。
    「みのりのご家族はみのりのことを本当に大事にしているから、行方知れずになったら本来はもっと慌ててると思うのよ。それが警察に届け出も出していないみたいで」
     桃井愛莉がやけに必死だと思ったが、そういうことか。と、司の表情が険しくなる。
     警察への届け出は親族以外出すことが出来ない。つまり、警察に捜査してもらうことも出来ず、これと言った確信的な手がかりも無い状態で四日も経ってしまったということだ。
    「一緒にいなくなったという、朝比奈さんはどうなんだ」
    「朝比奈さんのお母様も似たような反応をされていたわ。ご心配なく、って」
    「そうか……」
     もっちゃもっちゃ。思考に沈んだ室内に狸が団子を咀嚼する音が響く。むぎゅ。座敷童子に頬をつぶされた。んぬんぬ。特に気にすることも無く団子を食い続けている。
    「もしかすると、犯人は血を使って家族を操ることのできる妖怪かもしれないな」
     司は昔、ひい祖母に聞いた話を思い出した。吸血妖怪の中には、吸った血から繋がりのあるものを洗脳できるものもいるらしい。
    「血の繋がりが無いから、雫や桃井愛莉は洗脳されず、彼女の不在に気がつけた」
    「なるほど……可能性はあるわね。まだ妖怪が犯人と決まったわけではないけれど……」
     一度その路線で詰めてみましょうか。愛莉の言葉で三人は立ち上がり、この家の書庫へと向かった。雫が「わらしちゃんのお守り、よろしくね」と二匹の頭を撫でる。
     実は、こうしてこの三人で揉め事に首を突っ込むのは初めてではない。
     最初は些細な妖怪の悪戯事だった。司がそれを諌めようとしたが上手くいかず、妖怪に縁のあるものとして雫に相談するも上手くいかず、雫が愛莉を参謀として頼り事を収めたのをきっかけに、たびたび妖怪絡みの小さな事件を解決してきた。
      その際、世話になっているのが雫の家の書庫だ。長年座敷童子と良い縁を築き続けているこの家——日野森家は、座敷童子に気持ちよく過ごしてもらうため、座敷童子に関する書物を大量に集めた。そこから次第に座敷童子に限らず妖怪全般の書物を集めるようになり、今ではこの地域で最も妖怪の情報の集まる屋敷となった。司は会ったことがないが、度々研究者が資料を求めこの屋敷を訪ねるほどらしい。

     


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