突然降り出した雨の中、クロウは駆け足でアジトへと戻っていた。カードを教えていた子ども達をマーサハウスに送り届けた帰り道だった。
「……あーついてねぇぜ。」
濡れて色が濃くなったジャケットが肌に張り付く感覚が不快だ。
こんなことになるならばマーサハウスで傘の一本でも借りてくればよかったかもしれないと独りごちる。
アジトの入り口が見え、足を早める。中に入っても全身が濡れた肌寒さからぶるりと体が震えた。
窓の外は相変わらずの土砂降りである。雷こそ鳴っていないが、遠くからゴロゴロという音が聞こえてくる。
これは近いうちに稲妻も見えるだろう。
ふぅ、と息を吐いてクロウは衣類が入ったケースの中からタオルを取りシャワー室へと向かった。
シャワーを終え、服を着替えてから共同スペースに戻るとジャックだけがソファに腰掛けていた。
「戻ったのか。」
「おう。」
ジャックの向かい側にどかりと座る。するとこっちにこいとジャックが隣を軽く叩いた。
また立ち上がるのも面倒だが言い合いをする気力もないと考え大人しくジャックの隣に腰掛ける。
「風邪を引くぞ。」
そう言って肩に掛けているタオルをとり、ジャックはわしわしとクロウの頭を撫でた。大きな手に撫でられる感覚が心地よくクロウはされるがままになっていた。
暫くして満足したのか手が離れていく。
「ガキの頃、よくお前にこうされてたよな。」
「ああ。未だに一人で髪も乾かせんとはな。貴様はあの頃から大して変わっておらんな、クロウ。」
ジャックの楽しそうな声色が腹立たしいが髪を乾かす手間が省けたため、うるせえよ、とだけ返しておく。
クロウはなんだかマーサハウスにいた時のことを思い出した。ハウス内で年長組であったジャックはなんだかんだ下の子の面倒を見ていたような気がする。
なんとなく懐かしい気持ちになりそのまま体をジャックに預けてみる。重いと避けられるかと思っていたが予想に反して見上げた時のジャックの表情は柔らかいものだった。