ジャックロSS スポンサーから新作のスポーツウェアが届いた。
ショートタンクトップとホットパンツの上下セパレート式。伸縮性、吸汗性に優れ、カラーも五種から選択できるとのことで「夏場のルームウェアにもオススメ」とは企業担当の弁。サンプルとしてもらった数枚の中から無難な黒のバストアップに手を伸ばし、……少し悩んでから別の色を選んだ。
テスト走行と軽い打ち合わせを終えた帰宅後の風呂上がり。イタリアの風は今日もカラリと乾いている。クロウはタオル拭きもそこそこにウエストの紐を締め、柔らかいゴム口に頭を通す。胸筋下のラインに布地を整えれば、上下のウェアは胸と腰下にぴったり沿い、かつ締め付け感はない。なるほどこれは確かに部屋着向けか、なんて納得の感想を浮かべつつ脱衣所の鏡を覗き込んだ。
「お、イイ感じ」
思わず喜色が漏れて出る。
最近ようやく筋トレの効果が出てきたのか、見慣れた胴体にうっすらと腹筋の筋がくぼんでいた。これでもう少し日焼けでもしていたらいいのだろうが、日頃はライダースーツで隠されなかなか焼けることがない。
「……にしても、これが誰のイメージで作られてるのか、なーんて無駄に分かりやすくてムカつくぜ」
オフホワイトの生地にラベンダーカラーの差し色。一体誰を意識してのカラーリングかなど、もはや言うまでもない。
今頃もどこぞの勝利者インタビューで高笑いしているであろう遠恋の腐れ縁に内心で吐き捨て、寝室に移動した鴉はベッドに倒れ込む。そしてふと何かを思いつきいそいそと起き上がると、サイドテーブルで充電中の携帯に手を伸ばした。
腕を天井に伸ばし全身が映るように調整して、インカメラをぱしゃり。
成長途中の腹筋とパンツの裾から覗く内太もも、日焼けの境と首の筋を見せびらかすように角度を変えて調整し、数枚シャッターを切った中からさらに厳選して、一枚。
「あ、そうか」
何か足りないと軽く首をかしげ大事なモノに気付き即座に手を打つ。部屋のムードを忘れていた。間接照明のみの怪しい薄暗さを演出してもう一度撮り直す。
「うん、ヨシ!」
内容確認もほどほどに、勢いのままイメージ原案の個人連絡先にアクセラレーション!
『オカズにしていいぜ』
『一発2000円な』
時差も何も知ったことか。たまたま思いついたえらーいコイビト様が提供してやったんだから泣いて喜びやがれ。
思いついたのは悪戯以外の何でもない、なんて水を差す理性に蓋をし、クロウは達成感のまま早めの就寝に落ちていった。
朝。
チカチカとボタンの光る携帯にショートメールが三件。
『貴様は』
『たまに連絡してきたかと思えばロクことをせんな』という苦言と共に。
「にま……⁉」
2万円分のデジタルペイが送りつけられていた。