なにか、大事なことを忘れている気がする。
酔った頭じゃ記憶の引き出しを開け閉めして違和感の正体を探し出すことすら難しい。
「ねぇ、狗巻君。きいてる?」
「ん、ふぅ……っ」
「いぬまきくん、ねぇ」
ファーストキスはレモン味。それは青春の間に初めてのキスをした人だけの特権だと思い知る。だって酒の味しかしない。それに加えてほんの少し、俺の知らない他人の味。
憂太が何かを言っている。でも、理解できなかった。
抵抗できないよう扉に片手と欠損した左腕を縫い付けられながら、何度も何度も繰り返し唇を塞がれて。鼻でうまく呼吸できずに酸欠になりかけているのを見兼ねて、散々俺の中を嬲っていた分厚い舌がやっと出ていった。ふわふわした頭の片隅で警鐘が鳴る。でも、もう何もかも手遅れだ。
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