夢花火9霊幻の視界はぐるぐると回転し、芹沢の豪快な揺さぶりは霊幻の三半規管をこれでもかと刺激する。
き、気持ち悪い……や、やばい……。
意識を取り戻したというのに、また意識が遠のき出す。
声を出そうと口を開きかけるも、あまりにも酷い揺れのせいで舌を噛んでまともに喋れない
落ちつかせようと、バンバンと芹沢の肩や背中を叩きまくる。
最初は全く気づいてなかった芹沢だが、霊幻が繰り返し何度も叩きまくり、ようやく気づいたらしい。
鬼のような揺さぶりは止まり、地獄の時間から霊幻は解放された。
「よかった霊幻さん……あの、体とか大丈夫ですか?」
おそるおそると言った様子で容態を尋ねる芹沢。
普段の霊幻なら、笑顔で問題ない、大丈夫だと部下に心配させないよう気遣うが。
……ぜんぜん大丈夫じゃない。
ポーカーフェイス作る気力もなく、霊幻はよろめき再度倒れ、その場に手をつく。
霊幻の顔色は真っ青を通り越して、真っ白だった。
「……吐く……」
「は、吐く!?お、俺はどうすれば……は、そうだ!」
霊幻の言葉に狼狽えた芹沢だが、パっと閃いたらしい。
「霊幻さん!この中に!この中に吐いてください!」
そう言って芹沢が拡げたのは、空っぽの白いレジ袋。
もう霊幻に考える余裕はなかった。
拡げられたレジ袋にそのまま勢いよく顔を突っ込み。
「おうぇえええ」
勢いよく胃の中のもの全て吐き出し、床へ盛大にリバースする事態は回避した。
「はあ……なんとか落ちついた……」
芹沢が用意した水を飲み、
ふうと一息ついた霊幻に、芹沢は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
「すみません俺の対処が悪かったばかりに……そうか。呪いが強力だと例え呪いそのものを消したとしても、体に影響が残っちゃうんだ………次から気をつけます」
いや、俺が吐いたのは呪いの影響云々じゃなくてーー芹沢の本気100%の揺さぶりが原因なのでは?
そう突っ込みかけた霊幻だったが、出かけた言葉は飲み込んで、代わりに笑顔で「ありがとな」と芹沢にお礼を言った。
場の空気を読んで、相手を立てる。
社会人として当然のスキルである。
と、ここで霊幻はたと気づく。
「エクボはどこ行った?」
気絶する直前までいたはずのあの緑の悪霊がいない。
あの野郎、俺を放置して逃げたか。
何という人でなし、悪魔の所業。
……いや、あいつは悪霊だから俺にやった行為は悪霊目線で見るなら真っ当な行動になるのか?
後でモブにチクってやる。
霊幻が芹沢に悪霊のことを聞くなり、芹沢の眉はひそめ、表情が険しくなる。
二人の間に何かあったらしい。
よく見たら、あの木像、木っ端微塵になってるし。
粉々に砕け散った木像、消えたエクボ、不機嫌な芹沢。
霊幻は額に手を当てため息をつく。
俺が気絶してる間に一体何があった。