闇のバラは色褪せる 【能代正宗】俺は産まれた頃から恵まれた家庭に育った。
父親はゲーム会社社長であり知る人ぞ知る人物だった。
よく海外出張に連れてってもらっては異国の子供とよく遊んでいた。
色んな世界を見るのは好きだった。だけど…
だけどアイツと出会って何もかも狂い始めた。
"クロード・バルセロナ"その男に。
11年前、当時7歳だった俺は両親と共にバルセロナのとこの創立パーティに参加するため、パリへと向かっていた。
規模が大きいパーティと聞いて俺は沢山の友達が出来ると思っていた。
車で会場へ着き、煌びやかな雰囲気の空間に俺は目を輝かせていた。
「正宗、私達はあっちに行くからみんなと遊んでね」
「沢山のお友達ができると良いわね」
「うん、わかった」
両親は大人達がいる場所へと向かい、俺は子供が集まるエリアへと向かった。
「人が多いな…あの子達はいるのかな」
俺は沢山の子供がいる中、彼らを探していた。
このパーティの主催の子供であるバルセロナ兄弟がどこにいるか探していた。
特に4歳年上のアイツには特別視をしていた。
理由はパーティの前日に、ホテルのフロントでばったり会っていたからだ。
「…ぼ、ぼんじゅーる」
「あ、にほんご少しだけできるよ」
アイツは小さい頃から日本に度々来ていたからか、他の同学年より日本語が上手だった。
「明日パーティに参加するから来た」
「パーティって父上の?」
「えっと…バルセロナって言う会社の」
「それ僕の父上の会社だよ!」
「もしかして、クロード?」
「うん!クロード・バルセロナだよ。君は?」
「能代正宗。正宗って呼んでよ」
「マサムネ…マサムネ!」
アイツに何回も名前を繰り返されて周りが俺たちを見るから、俺は顔を真っ赤にしてしまった。
「そんなに大声で言わないでよ!恥ずかしい…」
「大丈夫!覚えたから!」
「おーいクロード」
「父上だ!じゃあ明日じっくりお話ししよ!マサムネ!」
「うん…!約束!」
その時は少しだけ俺の中では嬉しかったのだろう。
だが、それが今でも眩しくて俺がアイツを見る度にフラッシュバックしてくる原因の始まりだった。
昔も、今も。
約束を果たしにアイツを探して10分ぐらいたった時、ようやく見つけた。
わかりやすい人集りだった。
各国から来たであろう子供達に名前を呼ばれていた。
「クロード…!」
俺はアイツに声が届くように声をかけた。
「あ!マサムネ」
「Claude, ich habe ein Porträt gezeichnet」
「おぼっちゃま、こちらの方が似顔絵を描いてくださったみたいですよ」
「うん、ありがとう!」
「Ας παίξουμε」
「あー、後で遊ぼうね!」
様々な言語の子達から囲まれているアイツはやっぱり人気者だった。
そして声に気づいてくれたのか、アイツはこっちを見た。
「あ、マサムネ!」
アイツは人集りをかき分けて俺の前に来た。
「マサムネ!待ってたよ!」
「うん…僕も楽しみにしてた。あのさ…」
「そうだマサムネの為に絵を描いて来たんだよ!持ってくるから待ってて!」
そう言ってアイツはバルセロナ家の控室に走って行った。
俺はものすごく嬉しかった…その時までは。
「なんであの子が?」
1人の女の子がそんなことを言っていた。
「え?」
すると周りも続いて言い始めた。
俺は様々な言葉を自分なりに何を言われているか分かった。
「あの子、昨日クロードと仲良く話してたってパパから聞いたよ」
「ずるいなぁ、あの子だけ名前覚えられてて…」
囲っていた子供達から陰口を言われているって事だった。
「ちょっと待てよ!」
「酷いこと言いすぎだよ!」
長い髪の毛で目つき悪い奴と、メガネでおかっぱの奴が俺を庇ってくれた。
2人に続いて前髪が長い奴が俺を慰めてくれた。
「…君は悪くないよ」
多分3人はアイツの当時所属してたチームメンバーなのだろう。
フランス語で周りの子供達を叱ってくれてるのだろうけど、その子達の俺を見る目は冷たかった。
「シュプリームってそんな子も守るんだ」
「目立たない子なのに…」
味方側が3人もいるのに、相手側が多かった。
俺は…耐えられなかった。
こんな見ず知らずの奴らに陰口を言われ…恥どころか絶望感を感じた。
人気者に縋るクソみてぇな囲い共のせいで。
「マサムネ〜!これ見て〜!」
アイツは俺に声をかけた。
すると反応するかのように囲い共は静かになった。
「ほら、僕とマサムネの絵だよ!…マサムネ?」
「…こんなのいらない」
「だって僕は…」
「人気者なんか大嫌いだ!!」
俺は絵を振り払い、その場で絵を靴で汚くした。
「マサムネ……!?」
アイツは驚いていた。
アイツのチームメイトも、囲い共も。
「どうなっちゃったのさ!マサムネ!」
「…黙れ!!」
俺は囲い共を押し倒して親の元へ走って行った。
そっからだ、クロード・バルセロナを嫌悪するようになったのは。
現在、高校卒業間際の俺は進路をどうするかを考えていた。
父親のようにゲーム会社に入る為に専門へ行くか、就活して違う道を歩むか迷っていた。
そんな憂鬱な事を考えていた朝、テレビを観ていたらとあるニュースが目に入った。
【エトワールレーヴ、カフェオープン!】
アイツがテレビに映ったのだった。
しかもアイツは日本に移住してチームメンバーと夢だったカフェをオープンさせると発表した。
あまりにも衝撃的で驚きが隠せなかった。
「なんでだよ…なんでお前が日本に来るんだよ…」
そして、何故か涙が溢れていた。
アイツは嫌いなはずなのに、俺にトラウマを与えたのに。
「人気者なんか大嫌いだ!!」
あの日言ってしまった事と後悔が俺の胸を締め付ける。
新天地で頑張るアイツは…やっぱり特別だ。
だけど俺だって、過去を祓えるような奴になりたい、アイツに負けたくない。
「俺だって変わってアイツに見返してやる!俺がここにいるって分からせてやる!」
するとビュウ…っと風が吹いた。
「こんにちは。迷える羊よ」
そんな声がした。辺りを見渡すと自宅ではなく桜が満開している空間だった。
そして目の前には春色をした狼が立っていた。
「お前は…?」
「貴方の声は聞こえたわ。貴方の願いを叶えましょう」
「俺の願いを?」
狼は笑いながら俺にとある景色を見せた。
そこには明るい雰囲気の"ちゃれしす食堂"と書かれた店だった。
「貴方が彼を超えたいなら、私の親しい子と仲がいい食堂の面接を受けるのを薦めるわ」
「食堂?どうしてだよ」
「貴方を受け入れてくれる店長に会えば貴方は変わります」
狼は店長やら食堂やらよく分からない事を言っている。
だが、本気でアイツに超えられるなら…
「本当に変われるんだな?」
「えぇ、私が手紙を書いてあげます」
アイツにも俺にも嫌いな奴じゃなく、互いにライバルとしてまた会える機会があるなら…
「どうしますか?受けてみませんか?」
「…ちゃれしす食堂の面接を受けてやる」
俺は新しい場所でアイツを超えてみせる。