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    palco_WT

    @tsunapal

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    palco_WT

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    いっそ恋なら

    弓場×嵐山。原作時間軸より一年~二年くらい前。
    Twitterに新書メーカーで流したやつ。https://twitter.com/palco87/status/1321870729906774016

    #ゆばあら

    知り合った高校の頃から、アポなしで遊びに来る時は、必ずメールなりメッセージアプリなり電話なりで連絡してくる男だった。
     嵐山准という人間は。
     だが今にして思えば、広報部隊という任を背負ったあたりのことだったろう。突然、独り暮らしの弓場の部屋を「少し、いいかな」と訪れて、途中のコンビニやファストフードで買ってきたらしいジャンクフードを手土産にして、その癖自分は全然それに手をつけず、弓場が淹れてくれた紅茶を黙って啜って、空になったら「また」と出ていく。そんなことが何度かあった。
     そして何度目かに気づいた。「突然悪いな」といつものボーダーの顔で見せているものよりもどこか影の薄い笑顔を浮かべて、玄関口に立つ嵐山の、僅かに濡れた襟足や彼が絶対まとわないコロンか、トワレか、とにかく高校生の男子には相応しくない香りに。
    「悪かねェーから、いい加減きっちり事情《ハナシ》聞かせろ。……迅や柿崎《ザキ》も呼ぶか、おい」
     それはよしてくれるかな、とそれでも笑顔を崩さないのは、いっそ立派と言えただろう。
     弓場が嵐山から引き出した「事情」はだいたい想像の通りだった。それだけ、陳腐な話ではあった。あくまでも弓場の中ではフィクションの中の出来事として、という前提ではあったが。
    「おれは、いいんだ。そんなの、実は、少しだけ覚悟してた。けど、そういうのもコミで、ボーダーの役に立てるんだったら構わないって」
    「そういうのを人身御供っていうんだよ、時代錯誤な」
    「でもおれが盾になれば、賢や充や綾辻たちは守れる。柿崎も逃がせた。上手くやれてると思う。それにおれはまだ高校生だから、年齢を持ち出せばかわすことだって出来る。だから、これは、承知の上で……」
     けど、と嵐山は言葉を詰まらせて俯いた。
    「副と佐補の顔が、見られなく、なった」
    「……っ」
    「そのうち、桐絵と目だって合わせられなくなる。迅や生駒や柿崎や、おまえとも。隊のみんなにもいつか気づかれる。それだけは、御免だ」
     自分の身体を抱え込むように、二の腕を掴んだ指が強く肉を食む。アウターを着ていなければ、皮膚を破ってしまいそうなほどに。
     それきり言葉は途切れ、辛抱強く待っていた弓場に、再び嵐山の声が届いたのは、アナログ時計の長身が四分の一周以上動いてからだった。
    「おれ、間違ってたのかな」
    「……そんなの決められる奴ァいねェよ。いたとしても、俺が」
    「ありがとう、弓場」
     弓場の答えを切るように嵐山は言う。そして。
    「おまえだけは、おれを許さないでくれ」
     難しいこと言いやがって、と弓場は苦虫を噛み潰したような顔で、その柔らかな髪に指を指しいれ、その背負ってるものすべてを今だけは預けてくれることを願うように嵐山の背を抱いてやった。


     何かを誤魔化すように、肌を合わせるようになってしまったのは、それから大して時間はかからなかった。
     相変わらず予告もなしに、ふらりと現れると、弓場の与える暖かな飲み物を飲みほし、そのまま帰ることもあれば、どちらからともなく差し出した手を取って夜を越えることもある程度の、いつ途切れても分からないほどの曖昧なルーティン。
     例えば、立ち寄った時に自分が不在だったのなら、どうしているのだろうとは弓場も気にはなるが、あえて問いはしなかった。嵐山も説明しようとはしなかった。
     この関係を何と呼べばいいのか、分からないまま、日々はゆっくりと過ぎていった。


     王子がな、とベッドに寝転んだまま、弓場は切り出した。
     身を起こしながら、嵐山は視線で言葉の先を促す。
    「俺の隊を抜けて、自分の隊を作りてェーんだとよ。この分だと蔵内もついてくだろうな」
    「そっか。……そうか」
     嵐山は二度繰り返す。
    「……神田は?」
    「あいつは残留《のこ》る。今のところはな」
    「今のところ?」
    「……外《・》の大学に行くつもりらしい。三門を出る。ま、だから、ボーダーも辞めることになるだろうな。好きにすりゃァいい、あいつの人生だ」
    「弓場もさ、少しは弱みを見せたっていいと思うよ。おれを間に合わせになんかしてるんだったらさ」
    「……王子も、蔵内も、神田も、みぃんな、俺ンとこを巣立ってくよ。ひよっこだって思ってたのは俺だけだったみてェーだ」
    「素直に淋しいって言えばいいのに」
    「言えるか、ンな意気地のねェこと」
    「どうせおれしか聞いてないだろ。それに、言って欲しいじゃないかな、王子だって、蔵内だって、……神田だって」
    「言ってどうなるもんでもねェだろ」
     強情だなあ、と嵐山はなめらかな肌と、鍛錬を欠かさないしなやかな筋肉を兼ね備えた肩を軽くすくめて、ベッドから降りる。
    「おまえも俺と遊んでる時間があんなら、佐鳥を可愛がってやればどうだ」
    「はは! やだな。賢がおれに求めてるのはそういうんじゃないんだよな」
    「そうなのか」
    「たぶん、ね。シャワー借りるな」
     脱ぎ捨てた服を拾いながら、嵐山はぺたぺたと素足でバスルームへと向かう。
    「それに賢にはおれよりもちょうどいい奴がいるよ」
    「ふうん」
    (ちょうどいい《・・・・・・》、ね)
     その、言い様。
     嵐山のような男にだって屈託はあるのだと、知らない弓場ではないが、それでも多少思うところはある。もっとも自分とて人のことが言えるほど、何もかも割り切れているわけではない。
    『おれを間に合わせになんかしてるんだったらさ』
    ――間に合わせの代用なんかに出来るようだったら、苦労してねェよ、まったく。


     けどさ、とシャワーを終えた嵐山はタオルで髪を拭いながら、まだ寝そべったままの弓場を見下ろしながら口を開いた。
    「おれだって柿崎に逃げられたようなもんだけど」
    「部下と同輩じゃ違うだろ。第一、あいつは広報なんて柄じゃねェって理由で辞退したんだろうが」
     弓場のもっともな反論は、しかし、テレビやフリーペーパーで見る、内心を伺わせないかたちだけは整えられた綺麗な笑みで受け止められる。
    「そうだね。おれはそう受け取ることにはしてる」
    「何でェ、その奥歯に何か挟まったような物言いは」
    「さて、ね」と嵐山はころり、と弓場に並ぶようにして、ころりとベッドに寝転んだ。
    「でもさ、広報部隊だからこそ、今の仲間たちは出ていかないってこともあると思うんだよ」
    「それは自虐が過ぎねェか」
    「そうかな?」
     黒鳥色の髪をした男は羽毛のように柔らかに笑う。
    「……この心がどうしようもなく手が付けられなくなるような人に、いつか会えたらいいのに」
     天井に、いや、届かないものに焦がれるように嵐山は大きく手を伸ばす。
    「巡り会えるさ、おまえなら」
     その頬に弓場の広い掌が包み込むように触れる。その掌の温度に耽るように嵐山は瞳を閉ざすように、ゆっくりとまばたきした。
    「弓場がそう言ってくれるなら、安心だ」
     弓場を引き寄せて、嵐山からふんわりと唇を合わせる。
    「でも見つからなかったら責任は取って貰うよ」
     おっかねェな、と弓場は満更でもない表情で、A級部隊を率いる男の絡みつく腕から逃れた。
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    palco_WT

    DONEいっそ恋なら

    弓場×嵐山。原作時間軸より一年~二年くらい前。
    Twitterに新書メーカーで流したやつ。https://twitter.com/palco87/status/1321870729906774016
    知り合った高校の頃から、アポなしで遊びに来る時は、必ずメールなりメッセージアプリなり電話なりで連絡してくる男だった。
     嵐山准という人間は。
     だが今にして思えば、広報部隊という任を背負ったあたりのことだったろう。突然、独り暮らしの弓場の部屋を「少し、いいかな」と訪れて、途中のコンビニやファストフードで買ってきたらしいジャンクフードを手土産にして、その癖自分は全然それに手をつけず、弓場が淹れてくれた紅茶を黙って啜って、空になったら「また」と出ていく。そんなことが何度かあった。
     そして何度目かに気づいた。「突然悪いな」といつものボーダーの顔で見せているものよりもどこか影の薄い笑顔を浮かべて、玄関口に立つ嵐山の、僅かに濡れた襟足や彼が絶対まとわないコロンか、トワレか、とにかく高校生の男子には相応しくない香りに。
    「悪かねェーから、いい加減きっちり事情《ハナシ》聞かせろ。……迅や柿崎《ザキ》も呼ぶか、おい」
     それはよしてくれるかな、とそれでも笑顔を崩さないのは、いっそ立派と言えただろう。
     弓場が嵐山から引き出した「事情」はだいたい想像の通りだった。それだけ、陳腐な話ではあった。あくまで 2907

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