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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    #いこみずワンドロワンライ
    第102回 お題【待ち合わせ】

    #いこみず
    freshWater
    #いこみずワンドロワンライ
    iso-mizuWandolowanRai

     一番先に彼らを見つけたのは影浦だった。
    「あれ、嵐山さんと迅さんと弓場さんじゃね?」
     祝日のショッピングモールのフードコートとなれば人は多く、だがそれでも長身だからと言う理由だけからではなく、コーヒースタンドに並ぶ彼らの存在は一際目を引くものだった。
    「強いな、存在感が」
    「ちゅーか、強いんは顔圧やろ」
     そんなやりとりをしている穂刈は野菜とチキンがぎゅうぎゅうにはさまった胚芽玄米のサンドウィッチを、影浦は石焼ビビンバと冷麺のセットを、水上は天かすが乗ったうどん(「言わないのか、たぬきうどんとは」「言わんし」)をと、統一感もなく好きなものをつつきながらだった。
    「三門の文字通りツラがいるかんな」
    「けどいないじゃないか、一番圧が強そうな人が」
    「いや、イコさんかて弓場さんの圧には勝てへんやろ」
    「こいつ一言もイコさんて言ってねーぞ?」
    「あー、俺ともあろう者が穂刈如きにだまし討ちされた!」
    「ひっかかってるんだろうが、勝手に」
     これだから神田といいコアデラといい黒江といい隊長好き好き勢はイヤだよ、と影浦が冷麺のトッピングのスイカをシャクシャクと特徴的な歯で噛み砕きながら告げる。
    「はー、自分が隊長様な余裕でんな」
    「しないんだ、否定は」
    「なんでせなあかんねん」
     好きだぞ、俺も荒船のことは、と胸の前で両手でハートマークを作りながら穂刈が告げる。
     それと意味はちゃうねんけどなあ、と水上はまだこちらには気づかない、一つ上の世代たちの集いを眺めやる。
    「お、さすがそのツラだ、サイン頼まれてら」
    「サービスええのう。だってあれプライベートやろ」
     呆れ交じりに呟いた水上だったが、さてその三人が注文したプラカップを手に座る場所を探しているのか顔をあちこちに向けていたが、眺めていた水上たちに気がついたようだった。
    「おう、珍しいじゃねェ―か、雁首揃えて。って立つな立つな座ってやがれ」
     真っ先に弓場がその有り余る長い脚で近づくと、反射的に立ちかけた三人を手で制す。
     ふうん、と面子を眺めて、どういう集いなのかすぐに得心したらしい迅が、
    「鋼はどうしたんだ?」と問う。
    「今日は買い出し当番とかで映画が終わったらさっさと帰ったっす」
     そう応じた影浦に水上も続く。
    「来馬さんにでも今ちゃんや太一にでも言うたら代わってもらえるやろに律儀ですわ、ほんま」
    「いいところだけどな、そこがあいつの」
    「しかし10キロの米袋を抱えて帰るとか普通ねーだろ。自転車だぞ???」
    「止められないぞ、あんなキラキラした目をしてたら。愛媛産の旨い米が積んであったらしいからな、売り場に」
    「あの米、NHKのゆるキャラみたいな名前しとったな、にこにこぷんだかはに丸だか」
     ※にこ◯るです。
     ともあれそんな風に言い交わしていると、仲がいいなと嵐山は微笑ましそうに告げながら、空いていた隣の席に腰を下ろす。
    「いやいやいや、そちらさんにはかないませんわ、って言いたいところですけど――ザキさんとイコさんは?」
    「ああ、そのうち来ると思うけど」
     その言葉に促されるように弓場がちらりと腕時計を確かめると、こちらには聞こえないような低声こごえで遅せェな、と呟いた。
     なるほどどうやらふたりとも遅れているらしい。
    (珍しいやん)
     柿崎はもとより、生駒だって自由で大雑把に見えても、約束に置いては誠実で軽率にたがえることはない。誰かを待たせる形になる待ち合わせなら尚、だ。珍しいやん、と水上がかすかな杞憂を胸裡に過ぎらせたその時だった。
    「待たせてすまーん」
     とフードコートのにぎわいの中を朗々と響き渡るその声が届いたのは、弓場のその呟きをまるで聴きとめたようなタイミングだった。生駒と柿崎がフードコートの出入り口で視線を巡らせていた。
    「こっちこっち~」
     手を上げて合図する迅の隣で、弓場がどうしてか今視線を落としていた腕時計に手をやった。
    「お、水上らぁもおるやん」
    「へえ」
    「悪い、遅れたな」
     走ってきたのだろう汗を浮かべ、息を切らせながら柿崎が申し訳無さそうに告げる。生駒も息を切らせていたが、何故か片手に木の棒を持っていた。ゲームスタート時点の勇者かいな、と水上は内心首を傾げる。
    「いや、遅れてねェーぞ。ほら」
     弓場が手首の時計をふたりに見せる。ちらりと水上もそちらへと目配せし、そしてテーブルの上の自らの携帯端末の時刻表示を確認する。弓場の時計より五分進んでいる。いや、弓場の時計が五分遅れているのだ。
    「うん、まだ三十秒あるな」
     几帳面やなあ、と生駒は嵐山にからからと笑いかける。同輩相手ならではの気のおけない笑顔も、己に向けたものでなくても悪いものではない。
    「いいからさっさと何かオーダーしてきやがれ」
     急き立てられた生駒と柿崎が注文カウンターへと向かうのを確かめてから、弓場は嵐山と迅に肘で小突かれながらも知らぬ顔で腕時計のリューズに指先を伸ばした。おそらくは正しい時刻に戻す為に。
     ほんまええなあ、と改めて水上はしみじみと恋人とその仲間たちを見つめた。


     卒業旅行の打ち合わせをしようと思って、と神埼はひとつ年下の後輩たちに告げた。三月は合格発表やランク戦や進学準備や引っ越しやらで立て込んでたので、だったら秋のオフシーズンに行くことにしたのだ、と。
     大学で集まるとひとり入れない奴がいるからな、とも。
     その言葉を受けて、声にしないがはぁいの意思をこめて、迅がちゅるちゅるとストローでコーヒーを飲みながら片手を上げる。
    「迅がその気になれば俺のフリをして入れないこともないけどな」とは嵐山の弁である。
    「いやあかんでしょ。用があらへん人が勝手に入るんは」
    「ああ、いざそうしようとしたら殴って止めるぞ。ルールは基本的には遵守しなくてはならないものだからな」
     爽やかな顔で言ってのけるが、「基本的に」が入るあたり、この人も一筋縄ではいかない人物ではある。頼もしいといえば頼もしいが。
    「で、じぶんらは?」と、皆がコーヒーの手にしている中、腹が減ってしもうてん、とカレーをかっこみながら生駒が訊ねる。
    「俺らは映画です。第二月曜は高校生友情割でふたりで一六〇〇円で観られるんですねん、ここのシアター」
    「ほー、ええのう」
    「ところで」
    「何や」
    「生駒さん、なんで棒持ってるんすか」
     ツッコミたくてツッコむタイミングを図っていた水上の機先を制するように、速攻に長けた攻撃手はあっさりと問う。
    「公園に落ちとった」
    「……」
    「男の子は棒を持ってたら振り回したくなるもんやろ」
    「それは認める」「分かる」「だな」「当然じゃね?」「当たり前だ、男子なら」
     水上を覗いた一同がしみじみと頷く。
    (分かるんや…)
     絶句した水上を見かねてか、慌てて柿崎が言い添える。
    「こっちに向かう途中、公園で泣いてる子供がいたんだよ。どうやら迷子で」
     保育園に通っているくらいの男の子だったが、事情や住所を聞いても要領を得ず、もしかして家族が探しに来る可能性も鑑みて、生駒がその場でその子をなだめつつ、柿崎が近くの交番へ行って警察官を呼んでくることにしたのだという。
    「あやしても泣きやめへんから、ちょっと見ててみ?って公園の樹をゆさゆさして、落ちてくる葉っぱを全部叩き落としてやってん。アバ◯ストラッシュや牙◯で。ほしたらその子泣き止んでくれてな。もっともっとって言うから何度もやってあげてん」
     その挙げ句に通りがかった公園の管理者のおっさんにしこたま怒られた、というオチがついてきたが、きっとその子は涙でびしょびしょになった目をキラキラとさせていたに違いない。
     程なくして柿崎が警察官を連れて戻り、ちょうどその少し前に迷子の連絡が入ったところで、別の警察官が巡回に出たところだったと言う。鍵をかけそこねた勝手口から大冒険に出てしまったその子供の身柄を預け、いこしゃんばいばいという声に手をぶんぶんと振りながらその場を後にしたのが遅刻の経緯だった。
    「あの子の見てる前でこれをほかすんもなんや悪い気がしてな」
     そして捨てるタイミングを見つからずに今に至る、というわけだった。
     まったくもって水上からしたら、尊く羨ましい棒である。祭壇に飾ってくれてやろうか、と一尺五寸ほどの枯れ枝を見つめる。
    「ところで映画って何を見てきたん?」
     迅の質問に、影浦は指を折々答える。
    「『キラーオクトパスVSデスクラーケン2~サイコシュリンプの逆襲』『タピオカ・ザ・デッド』『ゾンビ寅さん柴又に還る』のZ級ホラー映画三本立て」
    「待って待って、どれも気になるけど、最後の何???」
    「帝釈天の敷地の片隅からゾンビが蘇るところから始まるんですが、埋められてたので当然着とった服はボロボロで腹巻きと帽子だけの姿で穴凹から這い出たところに通りすがった今作のヒロインの橋本環奈が素足じゃ歩きづらそうねって自分の着ていた靴下を貸してあげよるんですわ。ほしたらゾンビがお控えなすってお控えなすっててまえ没地と埋められますわと口上を……」
    「あ、言わへんで、言わへんで、自分で観たいそれ」
    「観るんだ」とぼそりと影浦。
    「あ、今週までですから」
    「え、マジ。なあ、この後行かへん」
     と生駒はワクテカ顔で同輩を見渡すが、
    「やだ。ろくな未来しか視えないし」「やなこった」「あ、うん、少し考えさせてくれ」「すまない、夜から広報の仕事がみかどケーブルテレビに行かないといけないんだ」
     申し合わせたように揃って視線を外す。
    「だったら誘えばいいんじゃないですか、人見を。全部人見のらしいですから、東隊の作戦室の戦慄コレクション」
    「いや、女の子と一緒は事案やろ、俺やったら」
     あかんてと生駒は自分の顔を手のひらで挟むと、ぷるぷると首を振った。
    「やったらマリオちゃんも誘って」
    「いこまっちそれ両手に花って言うんだよ」
    「せやった~」
     ぺしゃりと額を叩いた音が軽やかに響き渡った。


     そして現地解散した二組がそれぞれ去り、意気揚々と向かった生駒がシアターのロビーで見つけたのは、コンセッションのポップコーンとドリンクのセットをふたつ抱えている水上の姿だった。
    「先にドロンしたと思うたら」
    「待ち合わせもええですけど、待ち伏せもたまには悪くないですやろ」
    「見たばっかやろ」
    「ま、世間には毎日同じ映画に通う剛の者もおる言いますし」
    「ああ、そう言えばちょっと前に羽矢ちゃんがそういう感じで隙あらば映画館に言っとったらしいで! えーとなんやったかな……ゴゴゴの謎?」
    「津波のティザームービー?」
    「さあ。今度聞いとく」
     気軽に生駒はそう言うが、さて素直に白状するやら、と彼女の趣味に関してうっすら聞き及んではいる水上としてはくすりと笑うしかない。上映開始まではまだ十五分ほどあって、ふたりはロビーの隅のベンチに腰掛けて、お互いのキャラメル味と塩味をつつきあう。
    「結局京都行きよるんですか、それ旅行やのうて帰省ちゃいます?」
    「盆に帰れんかったからちょうどええやろ?」
    「はあ」
    「何?」
     甘いはずのキャラメルのほんの少しの苦さが妙に気になる。それはただの気分の問題だと了解してないわけではなかったが。
    「俺より先に嵐山さんらぁがイコさんのご家族に顔見せしなはるんですか」
    「何や焼きもちか」
     イコさんびっくり、と生駒は目をまぁるくさせた。その緑色の目に映る自分はいつもよりも十倍くらいアホな顔をしているように思えた。だから少しばかりの虚勢をなんとかつくろう。
    「まさか」
     つくろうけれど、その緑色は呆れるくらいに鷹揚で、迷子で泣いていた子供の上に降り注いだ公園の樹葉はきっと同じ色を帯びているような気がしたから。
    「でもイコさんを育てはったご家族には俺もお会いしたいですわ」
    「そっか。けど、俺もやで。俺もこんなに賢くオモロい水上のご両親や兄さんにご挨拶しないとあかん思うとんねん」
    「イコさんちみたいにオモロくはないですよ、フツーのうちですよ、フツーの」
    「うちもそうやで」
    「そうかなあ」
     わざととぼけた顔で首を傾げてみせると、生駒が――外から持ち込んだものを関係ないショッピングモールのゴミ箱に捨てるのは道義に反するとアパートまで持ち帰ることが決定している――棒から離した手で水上の髪をくしゃりとさせた。
     幼い頃から剣を糧として育った彼と、盤上での戦いに耽けっていた自分ときっととても違って、とても遠くて、だけど今は近い。
    「やったら、さっさとお互い確認せえへんとな」
     申し合わせることもなく、同じ時間と場所で落ち合えている偶然。
     ねえ、イコさん、こないなんをもしかしたら。
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    kaiziru

    PROGRESS特殊部隊パロいこみず。
    敵はエイリアンとかそんな感じの地球人でない人型の何かを想像しています。
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    unknown その力は人様のために使えと幼い頃から祖父さんに叩き込まれた頭が体を動かす。恐怖で固まる幼子を腕の中に納めて、迫りくる敵影に向かうべく身を翻した。
     追手は5——いや、6体。足音ととも混じる駆動音を聞き取って、舌を打つ。この子を守りながら勝てるか?息を大きく吸い込んで、肺まで酸素を行き渡らせる。勝ち負けではない。生きるか死ぬかだ。限界まで空気を吸い込んだ状態で息を止める。腕に抱えていた少女を地にそっと下す。敵が近づいてきて、その手が武器にかかった。
     
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