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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    #ニノカゲ版創作60分勝負
    お題「誕生日」「デニム」

     なお、諏訪さんへのお土産は薄く削いだ樹皮を加工したブックカバーをふたりで選びました。

    #ニノカゲ

    「お前、ジーンズ似合わないな」
    「……悪かったな」
     放り込まれたユニク□の更衣室で、恋人から押しつけられた黒のデニムに足を通した二宮は本来の意味の憮然とした様子で応じる。
     もちろん困惑もあったが。
     そうさせた張本人が無碍な感想を吐き出すのも納得がいかない。
     せっかくの誕生日デートだと言うのに。
     しかも提案してきたのはその影浦だ。
    「裾上げ一切しねーで済むのとかどんだけ無駄に足長ぇーんだよ、腹立つ」
    「なんで股下の長さごときでおまえに悪態つかれなきゃならないんだ、俺は?」
    「モテルモノのゴーマンって言うんだよ、そういうのを」
    「そういうおまえが使いこなせてなさそうな言い回しを吹き込むのは水上か? 王子か? いや、加古だな?」
    「はっずれー、諏訪サン」
     無頼な言動を押し出すひとつ年上の男は、だが大学で目にする時は短いいとまにポケットから取り出した文庫本をめくるような人物ではあってなるほどおかしくはない。だが。
    「どうしてそう話の流れになったんだ?」
    「まーいーだろ、ひと手間省けて幸いだっつーの。さっさと行くぞ、さっさと」
     影浦はそのまま駅のバスターミナルへと二宮を追い立てて、ちょうど目的方面への一便が来たというバスへと乗り込んだ。


     行先はまだ内緒だけど動きやすい恰好で集合な!と言われたのは約束した日――要は二宮の誕生日――の三日前だった。
     とはいえ恋人とふたりきりでの外出でジャージというわけにもいかず、歩き回ったりするのには差し支えない程度の支度で待ち合わせの場所で待っていたところ、顔を見た途端に影浦から大きく舌打ちをされたのは二宮にとっては心外だった。ボトムはスキニーではなく腰回りにまだしもゆとりがあるテーパードを選んだのに。
     集合場所が駅前だったのを幸いとばかりに、駅ビルのユニク□でジーンズとTシャツばかりかスニーカーまであつらえる次第だった。
     だが二宮が財布を出そうとするとショルダーアタックでレジの前からどかされた。乱暴な。
    『何してんだ、ここは俺が払うつーの』
    『これが誕生日プレゼントか?』
    『違うわ! バカか』
    『だったらダメだろう』
    『は?』
    『今からおまえが連れて行ってくれることがプレゼントなんだろう?』
    『これは俺のワガママだから俺が払うのがスジってもんだろ。ホーレンソーがちゃんとできてなかったのが悪りーんだから』
    『だが』
    『だがもへったくれもねーっつーの。気が咎めるなら体で返せ、体で』
    『なるほど?』
     甘やかな期待で向けた感情に対して、こちらを白々とした目線で見てくる理由は現地についてすぐ判明した。


    「……こんなことなら、去年の体育の授業で使い回した六頴館高時代のジャージを持ってくれば良かった……」
    「へー、大学も体育あんだ? 寝巻にするつもりだったけど取っとくか」
     水の上から突き出した丸太の上を、ひょいひょいと飛び移りながらからからと影浦は笑う。ハーネスに腰回りをがっちりとサポートされているのがむしろ二宮としては動きが限定されているようで今ひとつ影浦のようにはいかなかった。
    「こーゆーの一緒にやってっとハラハラすんのを好きになっちまったドキドキと勘違いして惚れんのを吊橋効果って言うんだっけ」
    「よく知ってたな」
    「ヒカリとゾエの女子トークで言ってた」
    「女子……?」
     まあいいが。
    「俺たちにンなもんはいらねーけどな」
    「ほう」
    「いつもやってるほうが興奮すっからな」
    「どっちのことだ?」
    「バーカ!」
     アドベンチャーグリーン四塚の杜。四塚駅から直通バスで一時間ほど揺らされた先で着いたのは広大な森に温泉やコテージ、キャンプ地やグランピング、果物狩などを備えた体験型アウトドア施設だった。そしてそのメインのひとつはジップラインなど幾つもの設備を備えたアスレチック場。
     ワンデイフリープランが影浦が二宮へと用意した誕生日プレゼントだった。
     ロープをレスキュー隊員がするようにしがみつきながら渡ったり、網で作られたトンネルを四つん這いで進んだり、一本橋を吊るされた自転車で漕いだり等々ボーダー隊員とはいえあまりしない体験を、知り合いの目のないところでふたりだけ、てらいもまったくないわけではないが面白くないわけでもなかった。
     ましてごくごく当たり前の高校生の少年のようにはしゃいでみせる影浦を目の当たりにしているとなれば。
    「それにしてもなんでここなんだ?」
     大樹を模したオブジェのボルダリングで競った後、鳥籠のようなハンモックに揺られて休憩しながら二宮は訪ねる。仰臥して見上げる空は当たり前だが三門と多分同じだったろうが、こうして眺めることなどついぞなかったことに気がつく。
     近界の空はどんなものなのだろうか。そんなことをふと思う。
     そしてあの女は今頃その空を、ひとりか、それとも共に渡った誰かと見ているのか、推し量ることもできない。
    「二宮?」
    「なんでもない。で?」
     自らに向けられたものではなくとも何かを察したのだろう、訝しげに影浦が問う。だがそれ以上食い下がることはなかった。
    「ああ、ここな、来週からリニューアルで休園なんだってよ。ハロウィンウィークまでで」
     人の感情にさらされ続けた若者は存外人の気持にデリケートなところを垣間見せてくれる。
    「なるほどだから妙な恰好の連中もいるわけだ」
     背中に小さな羽をつけていたり、やたら顔色が悪かったりとアスレチックに挑むのは奇矯な人間が多いのかと怪訝な気持ちで眺めていたが、服装はレギュレーションに反しない限り自由だろうとスルーしていた。
    「その妙な恰好、俺たちもするぞ?」
    「は?」
    「コスプレ記念撮影オプション無料だとよ。どーせだから申し込んどいた。さすがにああいうナリで」と影浦が指さした先には犬耳ともふもふの手袋と尻尾をつけた装束で逆さづりになったままびょんびょんしている少年の姿が見えた。バンジーの客だろう。
    (ん?)
     付け耳が落ちた。
     固定が甘い、拾わされるスタッフが迷惑だな、と二宮は呟く。
    「コース踏破はしたくねーけど」
    「その程度の配慮はあったか」
    「あ?」
    「それにしても……」
     俺もするのか、コスプレを。
     と、改めて規定されていたらしき未来を反芻する。
    「するぞ?」
     二宮の葛藤を知ってか知らずかあっさりと影浦は告げるが、確かにどうせ他人の目があるでなし、彼がこの時期ならではのデートの記念にどうしてもというのなら二宮としてはやぶさかではない。
    (可愛いところがあるじゃないか。いや可愛げがあるのは知っているが)
    「あーそーだ、後で諏訪さんに渡す土産買っとかねーと。選ぶの付き合えよな」
    「どういうことだ?」
    「だから諏訪さんが誰かと行けンなら使えってくれたんだよな、ここの割引チケット。前に行きつけの本屋で貰ったんだと。で、忘れてたのが出てきたけど、期限が今年いっぱいだからって。ありがてー」
    「……そういうことか」
    「しょぼくれた感情でつつくなよ! せっかくだしもったいねーじゃん。第一ゾエなんか誘ったらハンモックが破けちまうだろ?」
    「いくら北添でも体重制限にかかるほどじゃないだろう?」
    「一一〇キロまでって書いてある」
    「微妙に要検討だな」
    「だろ? だったらおまえの無駄に長い手足が絡んであたふたするのを見るほうが面白れーと思って。あとついで」
    「まあいいがな」
    「てめーの誕生日をついで呼ばわりされてんのにニヤニヤすんな、きめえ」
    「きめえはないだろう、きめえは」
     経緯はどうあれ、影浦がセッティングしてくれたデートには違いない。
     好意には好意で報いるべきだ。もちろんそれは義務ではなく、当たり前の発露だ。
     きっと自分はいまだ他者が察してくれているということに甘えているのだろうけれど。
    「任務やランク戦で片っ端からなぎ倒すのもいいけど、たまには生身でバタバタすんのもスカッとするよな」
    「そうだな。こういうのも悪くない」
    「なら良かった。……俺はいいんだけどよ、最悪ムカつくことがあればぶんなぐれば済むんだから」
    「……済まんだろ。これ以上下がったら解隊だぞ」
    「あいつらはそれで構わないとよ。一蓮托生って言うんだろ、そういうの」
     けけけ、とタチの悪い、だが少年の屈託のなさを残した影浦の上に、木洩れ日がまだらの影を作る。夏のものと違って、光と影のコントラストはどこか優しい。
    「お前んトコもだろ、違うか」
    「違わないな」
     空を囀りながら鳥が過っていく。たぶん鳩ではない。渡り鳥だとしたらその旅路ができれば平坦であるように、と願って二宮は空の眩しさに目を細めた。


     影浦はミイラの、二宮は――影浦推薦の――吸血鬼のコスプレで撮影したツーショット写真はふたりで相談した末、データで残すことはなく、プリントアウトしたものを受け取るだけにしておいた。
     どちらが主張したわけではなく、自然ななりゆきだった。
     一葉だけの写真はお前が持ってろ、と二宮が押しつけられた。
     撮影エリアを辞去し、その写真を手帳の間にはさみながら、二宮は思い出したように呟く。
    「お前が体に布を巻き始めた時は、てっきり俺がプレゼント、とかいうやつでもしてくれるのかと思った」
    「しねーよ何期待してんだむっつりスケベ」
    「む……」
     冗談を言ったこちらが悪いのかもしれないが、言うに事欠いて助平呼ばわりは心外だった。性欲は常識の範囲内だ。比較したことなどないが。
    「ところでどこに行くんだ。帰るんじゃないのか」
    「ああ、しまいにコレな」
     と影浦は撮影の手続きを終えた後に受け取った、小さな箱をひょいと掲げてみせた。
    「なんだそれは」
    「希望者には、苗くれんだってよ。それこそせっかくだから貰ってきた。持って帰ってもいいし、記念にここが持ってる里山に植えてくってのあるってよ」
     どうする? と影浦は上目遣いで訊ねる。誕生日なんだからそれくれーは譲る、と。
    「だったら里山にしよう。もし」
    「……」
    「俺たちが近界あちらに行っても誰かが面倒を見てくれる」
    「だな」
     手元の箱を開け、まだ十センチほどの苗木を見下ろして影浦は頷く。添えられたプラントマーカーには、ドングリの森より、と記されている。
    「こいつ、どんくれーでちゃんとした樹になんだ?」
    「シイやコナラなら十年くらいで実をつけると聞いたことがあるが、種類や環境によって色々だろうな」
    「ふうん、だったらここに生えてるみてーないっちょ前に育つにはずいぶんかかっちまうな」
    「だな」
     はしゃぐ参加者たちの声や木々のはざまを行き交う小さな命の気配を感じながら、二宮は頷く。
    「お互いトリオンとか干からびちまってお役御免になるような爺さんになったら、こいつがどうなってるのか拝みに来るってのも面白えーと思わないか? ……ってどうした、目おっ広げて」
    「……特大のプレゼントを貰ったと思っていいんだ、な」
    「くすぐってーってやめろって。お前ホントに簡単な男だな、おい!」
     苦笑いしながら首筋を撫でる影浦の、小さな約束を宿した小さな苗木の携えた手に二宮はそっと自らの手を重ねた。
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