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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    灼カバワンドロワンライ参加SS
    お題「山田駿」+90min ⚠️捏造要素あり
    205話のインタビュアー視点

    最果てのトロフィー ——誇れたのは一つだけ、とかカッコつけて言ってはみたけどさ。最年長プレイヤー目指して頑張ってたのなんか、この二年程度の話なんだよなあ、ホントのところ。あ、今のくだりオフレコね。せっかくつけた格好が崩れちまうからな。夢もへったくれもねえだろ。なに、今さらだって?
     んなことは置いといて。三年くらい前だったかな、こっちの馴染みの記者に声掛けられたんだよ。「最年長記録がいよいよ見えてきたな」ってさ、シーズン最終試合のあとに。「へえ、そんな記録があるのか」って、当時の俺の感想はこの程度のモンだったよ。考えてみりゃそういう類の記録くらいあるに決まってんのに、意識したこともなかった。最初はホント、その程度。そっからまた一年、プロの世界でなんとか生き延びて、いったい俺はこの暮らしをいつまで続けられんのかな、もーそろそろ終いかもな、とか考えてみた時にさ。最年長、目指してみてもいいんじゃねーかって素直に思えたんだ。その称号が特別欲しいってわけじゃなかったよ、でもきっと……俺が、俺個人が手にできるかもしれない最後のトロフィーって、「これ」なんじゃねーかって。気付いちまったんだよなあ。
     意識しだしてからはもう、前よりもっとキツい日々の始まりだったよ。体調管理も怪我防止も、それまで以上に細かく神経使ってさ。だからって試合で手ェ抜くなんざ自分が許さねーし、ナメた成績残せば来シーズンの契約に直結するし。試合じゃ最大限のパフォーマンス発揮しながら怪我には細心の注意を払う、ギリギリの毎日の繰り返し。更にはトシのせいで、リカバリーに人一倍の時間も手間もかかるときた。まさに綱渡り生活って感じだったな、ありゃ。一歩踏み外せば、手の届きそうな目標と永遠のサヨナラが待ってるんだぜ、シビアな現実以上の何モンでもないだろ? けど俺はさ、ここまで続けてこれたからには自分で決めたかったんだよ、引き際ってやつを。今さら怪我に引導渡されるなんて御免だって、記録どうこうよりそっちのがいつの間にか重要になってた。確固たる目標を与えてもらえたんだよ、記録っていう単なる数字の力でさ。キャリアの締め括り方を考えるきっかけになってくれたんだ。達成した今となっちゃ、自分の誇りだとか口に出したりもできてるけど……元々目指してすらなかったモンがそういう存在になるなんて、ちっとも予想してなかったよ、いやマジで。「何をもってして報われたと思えるか」ってさ、意外と自分にも予想できねーとこに転がってたりするんだよなあ。
     ——え、この話どこまでオフレコなのかって? んー……だってさ、なーんか格好つかねえだろ。せっかく引退と最年長記念のインタビュー組んでもらってんのに、最年長はたった二年前から意識し始めましたーなんてさ。若い奴らだって読むかもしれねーんだし、夢のカケラもない話は伏せちまった方が良くねえか? ……もう既にカッコ悪いって? 高校ん時のこと、失敗失敗って言ったアレが? いやいや、アレはむしろ若者にとっちゃ教訓になんだろ。「失敗したことが必ずしも『間違い』って訳じゃない」、っつーのかな。あの時の自分は正解を選んだはずだって、過去を無理に正当化する必要なんかないんだぜ、って。肩の力抜くための手助けくらいにはなれるかもしれねーだろ? ……あれ、俺今すげーいいこと言ったんじゃねーか? よし、今の台詞、記事にうまいこと組み込んどいてくれよ。頼むぜ、敏腕記者サン。もし取れ高に困ったら、オフレコのとこも使ってくれて構わねーし。NGとかない男だからさ、俺。

    §

     録音アプリの停止ボタンを、トンとひとつタップする。これにて今回のインタビュー収録は終了だ。
    「はい、たしかに録音止めました。お疲れ様でした、山田選手。ありがとうございました」
    「ん、お疲れ様でした。楽しかったよ」
     僕に向かって小さく会釈をするこの男性は、元プロカバディプレイヤーの山田駿だ。外国人選手ながら最年長記録を塗り替え、プロカバディ史にその名を刻んだ名選手。
     彼との出会いは、僕がまだ駆け出しのスポーツ記者だった頃に遡る。日本で開催されたアジア競技大会を取材したのがすべての始まりだった。カバディの基本ルールすら怪しかった僕を、その多彩なプレーで魅了した選手こそ山田駿——当時の日本代表でスタメンを張っていた彼だった。けして派手な活躍を連発するタイプのプレイヤーではない。しかし、相手の意表をつくプレーで得点のきっかけを彼が作る場面を何度も目にし、この競技とこの選手のことをもっと知りたい——そう思わされるまでになっていた。彼と初めて言葉を交わしたのは、その試合後の囲み取材でのことだ。そこから半年と待たず彼は本場インドのプロリーグへと活躍の場を移す。以来、現地取材やオフシーズンの帰国の度に彼の言葉を記事にさせてもらっている仲なのだ。
     出会った当初からずっとフランクな態度で接してくれる彼は、今日のインタビューでも非常にリラックスした状態で話してくれたように思う。まさかこれほどの長い付き合いになるとは予想しなかったけれど、山田駿の引退記念インタビューを担当させてもらえることは、僕にとっての「誇り」だと、そう断言できる。
    「……あ! すみません、もうひとつだけいいですか。読者プレゼントのポラロイド写真、撮らせてください」
    「へえ、最近はそんなキャンペーンまでやってんだな。けどよ、俺の写真に応募する奴なんかいるのかね」
    「またまたあ、謙遜しちゃって。似合いませんよ、山田選手には。撮り終わったら直筆のサインもお願いしますね」
    「へいへい、オッケー。……インタビュー中も思ってたけどよ、もう『選手』じゃねーんだって、俺」
    「……ハハ、なかなか慣れませんね」
    「長い付き合いになっちまったもんな、思ったよりずっと」
     なんだか照れ臭くなったのも束の間、ぎゅっと唇を噛み締めてから、僕はカメラを構えた。彼を撮るのはこれが最後になるかもしれない——そんな一抹の寂しさを抱えながら。
    「はい、チーズ」
     年月を刻んだその顔に、まるで少年のように屈託のない笑みを浮かべ、ピースサインを掲げて——現役生活という荷を下ろした「山田駿」は、まったく新しい輝きを放っているのだった。
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