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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    手放したことなんてなかったよ

    前世記憶有り・現代世界転生・年齢逆転のアレルノ
    呟いたものをふわっと小説にしたふわっとした小話なのでふわっと読んでください。ふわふわ。

    #アレルノ

    千年隣に居させて欲しい、貴方の蒼と魂の ルノーの未練は永くアレインを独りにしたことだった。未練は後悔と混ざりあって執念に変わる。生きていた頃と同じように、ルノーの魂は熱く燃えて、魔法ではなく科学が蔓延り、馬ではなく低燃費軽自動車が走り回る世界に生まれる時に「今度こそ、あの方を置いていきたくない」と大層踏ん張った。その結果が、これだ。
    「ルノー……久しぶり」
    「陛下……」
    「はは、良かった。覚えていてくれたんだな。……もう陛下じゃないし、殿下でもないけど」
     いたずらっ子のように微笑む、かつての恋人は見るからに上等のスーツを着ていた。薄青のシャツに、あの紋章を思わせる濃い青のネクタイをしめている。目元には少し皺が寄っていた。慣れた着こなしと落ち着いた表情は、大人の男そのものだった。問題は、ルノーが着ているのが学生服だと言うことだ。県内でも有数の進学校の創立当初から変わらないレトロな学ランに、夏休み明けに新調したスニーカー。抱えているのは教科書が詰まったナイロンリュックで、これは高校入学の祝いに祖父母に買って貰ってから一年半と少し、大事に使っているものだった。
    「探したよ。……まさか今度は貴方が年下になっているとは思わなかった」
    「わ、たしもです。私は、私は、てっきり今度こそ貴方とは同年代になれたのではないかと……」
     アレインの指が、ルノーの頬を撫でる。ルノーはリュックを取り落として、愛しい恋人の顔を見る。出会った日よりも別れた日に見た顔に、ほど近い。ルノーはたまらずほろほろと泣いて、「私は貴方を置いて行くまいと……それがまさか待たせているとは……」と懺悔のように零した。
    「はは、俺も同じ事を思って……すまない、ルノー。……ルノー、顔を上げてくれ」
     そうしてルノーは再び、アレインに出会い、喜びの抱擁を交わした。あの別れの日より強く、優しく、また会えた奇跡に涙しながら。

     学生服の間、アレインはルノーに手を出そうとしなかった。身体の繋がりどころか、キスもなく。アレインの部屋で隣に並び、ルノーが頭を預けてみても、父のように優しく撫でるだけ。逆転してしまった年齢を抱えて、立場と時代が違う二人の逢瀬は恋人というよりも親戚付き合いに近い距離感で行われた。休日にアレインの車に乗って行くところは家族連れで賑やかなショッピングモールであったし、アレインの部屋で過ごす時も夕食までは共にしない。時計が6時を回るころ、アレインはいつでも優しく「そろそろお開きにしようか。親御さん達に心配かけないように」と声をかけ、ルノーを立たせる。来た時と同じように彼の運転する車の助手席に乗って、家に送り届けられる。
    (馬に乗りたい……)
     ルノーは助手席でアレインの横顔を見つめる時に、必ずそう思う。馬は良かった。馬でなら、アレインと共に同じ目線で手綱を握り、どこまでもどこまでも行けたのに。ルノーの目の前にハンドルはない。ブレーキも、アクセルも。革張りのシートは座り心地が良くて、なんだか少し眠くなる。
    「ルノー、寝ても大丈夫だ。着いたら起こすよ」
     幼い頃、今世の父に言われたのと同じ言葉がアレインの口から紡がれる度に、この方の中でいま、自分は、子どもなのだ……。そう、思い知らされる。伸ばし始めた髪はようやくくくれるようになったのに、大学受験の為にまた切った。アレインは短い髪も素敵だと言ってくれはしたが、ルノーは不安なのだ。アレインの愛したルノーの髪は長かった。アレインの愛したルノーの身体はもっと厚く、今より枯れていた。アレインの愛したルノーの心は狂うほどに熱く、前を向いていた。それが、今や幼く、薄く、若さに溺れ、前ではなくアレインの横顔を眺めることしか出来ない。ルノーは前世の自分が、どれほどアレインに求められていたのかを、愛されていたのかを感じている。
    (馬なら今の私でも乗れるのに)
     そうだ、馬になら今のルノーも乗れる。前世を引きずって、孤独に耐えられなくなった時、両親に泣いて頼んで通わせて貰った乗馬クラブになら、ルノーも乗れる馬がいる。でも、その馬じゃどこにも行けない。乗れるだけ。どこにも行けない。槍もない。盾もない。馬の上では愛し合えない。
    「殿下……」
     あの日々が思い起こされて、思わずアレインを昔の呼び名で呼んだ。アレインは少し間を置いて「どうした、ルノー」と返事をした。ルノーのほうは向かなかった。信号が青だったから。

     ナイロンリュックは卒業して、キャンパスには合皮のショルダーを持っていった。それがくたびれる頃にはスーツ量販店で購入したビジネスバッグで就職活動に励み、幼い頃からの夢だったコルニアの名を冠す大企業への内定が決まると、また祖父母がお祝いにとバッグを贈ってくれた。革張りのビジネスバッグは新入社員が持つには少し背伸びした、渋いデザインと風貌だったが、「あなたは老け顔だから、この位のがいいわよ」と母に言われ、父からも「そうそう、いやぁしかし、一揃えしてみたら、新入社員というより重役みたいだな、ははは」と笑われ、ルノーは彼らの子どもの顔で少しふくれてみせた。
    (10でも20でも……老けて見えたほうがいい。殿下と並んだ時に、周りから訝しまれないほうがいい……)
     けれど鏡に向かっても、目元に皺はない。父母はああいったが、ルノーがどれだけ大人びた顔だったとしても、スーツに着られている新入社員にしか見えない。悲しいかな、この身体は未だ若く、会う度にアレインの目元には波が増えていく。ざざーん、ざざん。ルノーは追いつきたくてもがいて溺れて、けれどキスもないまま、数年経って、今では期待するのが怖くなった。スーツ姿の自分にすら、あの手が優しく降ってきたら、もう耐えられない。追いつけない。置いていかれる。二度と置いていきたく無かっただけなのに、皺だらけの自分が棺にさっさと潜り込んだことを、あの人はまだ怒っているのだろうか?それとも花よりも老木がお好みだっただけか?ざざーん、ざん……ざざん……心が揺れる。

     
     就職祝いにと、連れていかれたのはファミリーレストランでも、チェーンのハンバーガー店でも、話題のステーキ店でも、学生にはなかなか行けない値段の焼肉でも、カウンターで職人と向き合う寿司屋でもなく、有名なホテルに併設されたレストランだった。ルノーと違って、アレインにとっては馴染みの店なのだろう、メニューも見ない。
    「気に入ってくれると良いんだが」
     気に入るも何も。ルノーは目をぱちくりさせながら、皿に乗った料理を口に運ぶ。アレインはそれを愛おしそうに見つめながら、ワインを飲む。
    (こんなに良いものを頂いて……ああ、今日、私は別れを告げられるのか)
     会社に入り、数ヶ月が経った。その間にルノーは新人研修が始まって、アレインのほうはイレニアが現役を退いたことで引き継ぎに奔走していた。図らずもお互いの生活が慌ただしくなったため、こうして共に食事をとること自体が久しぶりなのだ。
     ルノーが仕事についてメモをとる横で、社員たちが話す話題は専らアレインのことだった。やっと若様が社長になった。遅いぐらいだ。あの若様なら安心だ……。ところで若社長、ようやく身を固めるらしい。仲が良い取り引き先の大企業の娘さんと?さあね、あの方は引く手数多だから。そういえば孫娘がそろそろいい歳だからお見合い相手を探しているってあの会社の社長が……。
    (それとも私のほうから言い出すのを、待っているのだろうか。……殿下は昔から、お優しい方だったから……)
     ドレスコードがある店だからと、今日の為にアレインから贈られたシャツも、スラックスも、ルノーの月給では到底手が届かない上質な生地と作りをしていて、ルノーはそれが悲しい。スーツのジャケットを羽織って追いつけたと思ったばかりなのに、また突き放された。
    (殿下はお優しい方だった……私の人生を照らしてくれた……。陛下は私を愛してくれた……貴方の傍にいつも居られたことは私の幸福だった……。アレインさんになってから……)
     フォークの先で小さな牛フィレ肉をつつきながら、昔のほうが良かった、と思う。何度も思う。昔のほうが良かった。ルノーが大鍋で作った白インゲン豆のシチュウを、木の皿に盛り付けて食べていたあの頃のほうが。城下町で貰ったバゲットに乾いたチーズをのせて、ホットワイン片手に夜明けまで国の未来を語ったあの頃のほうが。
    「……ルノー?」
     は、と顔をあげた。アレインが穏やかな目を細め、ルノーの顔を覗き込んでいる。
    「口に合わなかっただろうか?」
    「いえ、いえ!」
     思わず返事の声が大きくなった。周りの客がちらりとルノーのほうを見て、また自分たちの会話に戻っていく。ルノーは恥ずかしくて泣きたい気持ちを抑え、アレインから目を逸らす。
    「……仕事には慣れただろうか」
    「はい。良くして頂いております」
    「本当はもっと早く祝いたかった。こんなに遅くなってすまない」
    「いいえ……お忙しい中、私に付き合って頂き、申し訳ない程です」
     アレインが眉を下げて、ルノーの返事に黙り込む。ルノーはフォークを置いて、アレインを見た。目を伏せて、何かを迷っているようだった。
    「殿下……」
    「何だ、ルノー」
    「社内で噂になっている事は、本当でしょうか」
    「うわさ?」
    「はい……貴方の、婚姻について……」
     貴方はお優しいから、しがみつく私が手を離さねば。ルノーは拳は膝の上で固く結ばれて、瞳はぽかんと口を開けているアレインを見つめている。アレインの作った沈黙は、ルノーの心を何度も刺し貫く。いっそ一思いに!と祈る反面、この沈黙がいつまでも続いて欲しいと願ってしまう。ざざん、ざざーん……。耳の奥でルノーの苦しみが海になって、波打っている。この人を手放せというのか、なぜ!なぜ!悲しみが嵐になっている。貴方にまた会えたのに、なぜ……。
    「うわさに……なっているのか……」
    アレインの手からフォークが離れ、目を伏せて、頬をかく。ルノーが唇を噛み、涙が零れないように眉根を寄せると、アレインはため息をついた。
    「……貴方の前では格好良く在りたいのに、前も今も……上手くいかないな」
     ため息の生温さが、ルノーまで届いた……ような、気がした。そんな事ない、と口に出したら、涙も一緒に零れ落ちそうで、睨むことでしか思いを伝えられない自分を、不甲斐なく思う。
    「ルノー、これは食事の後に言おうと思っていたんだが」
     ああ、この瞬間、ルノーは石を投げられるよりも、惨めで!辛く!ひとりぼっち!
    「俺と人生を共にしてくれないか」
    「……え」
     アレインが手招きで呼んだウェイターが、ほろほろと泣くルノーには触れずに、恭しく小箱を持ってくる。
    「驚かせてすまない。待たせてしまったことも……申し訳なく思っている……。だけど貴方をいっとう大事にしたかったから……貴方が一人の大人になるまでと心に決めていた。ルノー、俺と一緒になって欲しい」
     小箱の中にルノーの給料では三ヶ月ではとても足りない、大ぶりの宝石がついた指輪が鎮座ましましている。
    「断ってくれてもいい。俺はもう、貴方の愛したアレインではないから……でもどうか、この指輪だけは受け取って欲しい。貴方の数年を独占してしまった俺からの詫びと思って、売り飛ばしてくれて構わない。ルノーが幸福でいてくれるなら、俺はそれが一番だから……」
    「陛下……?」
    「もちろん、受けてくれるのなら、俺は一生を掛けて貴方を幸せにする。貴方の欲しいものは全て手に入れるし、願い事は全て叶える。ルノー……、おじさんになった俺でもまだ愛してくれると言うのなら……」
    「アレイン……殿下……あの」
    「ルノー……!俺は……俺は今日という日を待ちわびて……」
    「待ちわびて……?」
    「最上階に……部屋を取ってあるんだ……」
     小箱の蓋が閉められる。アレインはルノーを見つめ、目を潤ませている。あの頃と同じ熱さで、あの頃と同じ真っ直ぐさで。
    「……そう、ですか」
    「そうなんだ……」
    「部屋を」
    「ああ、部屋を……」
     黙って寄せられた小箱を、ルノーは優しく押し返す。アレインは肩を跳ねさせて、ルノーの指先を見た。懇願するみたいに。
    「受け取れません」
    「ルノー……!」
    「受け取れません……今は。明日の朝まで、預かっておいて頂かねば」
    「ルノー、それは」
    「貴方の手から渡して頂きたいのです、今世も……」
    「ルノー!」
     アレインの大声に、店中の人間がルノーたちを見た。ルノーは涙を拭いて、アレインだけを見る。
    「そして、どうか来世も……」
     アレインが頷く。力いっぱい、頷く。彼の蒼い髪が揺れる。ルノーの頭の中で、コルニアの海が波打っている。ざざん、ざざーん……。寄せては返す、繰り返す。ざざん、ざーん……。今はもう、心は揺れていなかった。アレインがまた掬って攫っていったから。
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    ナンデ

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    呟いたものをふわっと小説にしたふわっとした小話なのでふわっと読んでください。ふわふわ。
    千年隣に居させて欲しい、貴方の蒼と魂の ルノーの未練は永くアレインを独りにしたことだった。未練は後悔と混ざりあって執念に変わる。生きていた頃と同じように、ルノーの魂は熱く燃えて、魔法ではなく科学が蔓延り、馬ではなく低燃費軽自動車が走り回る世界に生まれる時に「今度こそ、あの方を置いていきたくない」と大層踏ん張った。その結果が、これだ。
    「ルノー……久しぶり」
    「陛下……」
    「はは、良かった。覚えていてくれたんだな。……もう陛下じゃないし、殿下でもないけど」
     いたずらっ子のように微笑む、かつての恋人は見るからに上等のスーツを着ていた。薄青のシャツに、あの紋章を思わせる濃い青のネクタイをしめている。目元には少し皺が寄っていた。慣れた着こなしと落ち着いた表情は、大人の男そのものだった。問題は、ルノーが着ているのが学生服だと言うことだ。県内でも有数の進学校の創立当初から変わらないレトロな学ランに、夏休み明けに新調したスニーカー。抱えているのは教科書が詰まったナイロンリュックで、これは高校入学の祝いに祖父母に買って貰ってから一年半と少し、大事に使っているものだった。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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