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    ナンデ

    @nanigawa43

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    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    龍司︎︎ ♀ 小話

    #女体化
    feminization
    #龍司︎︎♀

    君はここで何も失わない 新しく建てられた総合医療病院の待合室の長椅子で、龍水は座って足を組んでいる。司は何か言いたげにしつつも、自らの仕事の内容を思い出して口をつぐみ、長椅子には座らず龍水の隣に立ち続けた。
    「フゥン?座らないのか。立っていられるほうが俺としては居心地が悪いのだがな」
    「仕事だからね。座っていたらとっさの時に反応が遅れる」
    「そもそも病院内で何が起こる?この地区でたった一つの総合病院、ここを襲撃することの重みは、旧世界のそれとは比べ物にならないと馬鹿でも分かるだろう」
    「まだそんな馬鹿は復活していないとでも?」
    「違うと言いたげな顔だ」
     ヴ、ンとクーラーが動き出す音がする。龍水が出資したこの病院には冷暖房はもちろんのこと、まだまだ一般普及に至らない電気設備や医療設備がわんさか置かれている。おかげで患者たちから「ここに来ると旧時代に帰れたようで懐かしくなる」と口々に言われ、郷愁にかられた人々が病気でなくとも訪れることが増えたため、急遽カフェの設立を決めたところだ。
    「……千空たちから聞いているだろう。うん、俺が馬鹿の一人目だよ」

     人々から愛される病院、安心と健康の要、旧時代の人々たちの心と身体の拠り所に龍水は金を惜しまなかった。その事に対して獅子王司には思うところがあったようで、病院設立以来、司と龍水は個人的な付き合いが増えた。と言っても最初から二人でランチに行ったり、ピクニックに出掛けたりしたわけではない。龍水が司に護衛の仕事を頼み、司がそれを了承する、その時にかつての仲間としてではなく、七海龍水と獅子王司として向き合えるようになっただけ。お互いの見る世界を重ね合わせられなかった二人の、ほんの少しの歩み寄り合いは月日を重ねる毎に増えていき、濃くなって、とうとうある日龍水が帰り支度を始めた司に声をかけた。
    「今日はもう遅い。泊まって行けばいい」
     司は拒んだが、龍水は手を離さなかった。共に居たかったわけではなく、離れがたかったわけでもない。その時の龍水に宿っていた気持ちを表すならば、愛情という言葉が一番近いだろう。最愛の兄に対するのと同じ、奇跡のように出会えた科学の申し子に抱くのと同じ、西瓜の被り物をしてちょこまかと動き回っていた少女に感じていたのと同じ。恐らくそれは七海龍水という男の中で、最も清く澄んだ感情だった。夜闇は暗く、危なく、寂しい。自分よりも大きく、強い、司に対しても、龍水は心配した。
    「女性が夜に一人で出歩くもんじゃないぜ」
     言ってから、へにょりと眉を下げる。龍水自身、矛盾していることを分かっていた。獅子王司という女性の持つ力に頼っている身で、何を言うのだと分かっていた。そもそも龍水の護衛という仕事のせいで遅くなっているのに。
    「……そう、だね」
     司も困った顔をしていた。今の今まで、龍水の態度は獅子王司という一人の武人に対するものだったのが、急にレディの扱いに変わってはさもありなん。断るのも、好意に甘えるのも気まずいようで、そのまま黙って立ち尽くしている。お互い、そうして数秒、あるいは数分を過ごした。どうしていいのか、分からなくて。
    「貰い物のハムがあるんだ。どうだ、一杯」
     有り触れた誘い文句が龍水の口からようやく出る頃には二人とも背中に汗をびっしょりかいていた。司も慌てて頷く。何かを誤魔化すようにグラスを傾けた。その日飲んだ酒の味をお互い覚えていない。

    「頭が良すぎるのだろうな」
     ぽつり、と龍水が呟いた。はっとなって司が顔をあげる。
    「貴様は頭が回り過ぎる。身体もそれについてくる。稀有な人間だ、誇りこそすれ嘆く必要はない」
    「……詭弁だ」
    「どう受け取ろうと構わん。だが、俺はそう思うよ、司」
     遠くから、看護士が早歩きで向かってくる音がしている。司が振り向いて、龍水の後ろを見ている。ならば看護士は司が見ている方角から来るだろう。
    「そもそも、君が今日この場を安全と思うのなら、どうして俺を呼んだんだい」
    「俺の人生に関わる一大事があるんでな」
     ししおうさーん。ししおうつかささーん。年若い看護士が、カルテを抱えながら笑顔でやってくる。呼ばれた司は困惑をしている。なぜ自分の名を呼ばれたのか分からないと言ったふうに。
    「司、早く行け」
    「俺が?俺はどこも悪くない」
    「悪いことじゃないさ、船乗りの勘は当たるぜ」
    「どういうこと、説明して貰えないかい、龍水」
     看護士が止まって、ニコニコしたまま痴話喧嘩を始めた二人を眺めている。司は居心地が悪そうに肩をすくめる。龍水は座ったまま、言い放つ。
    「結果がどうあれ、貴様が獅子王と呼ばれるのは後数時間だ。この後は忙しいぜ、何せ俺からのプロポーズを受けなきゃいけないのだからな」
     その時の司の驚いた顔ときたら、なんと可愛らしかったことか。看護士に引きずられるようにして恋人が診察室に向かうのを、龍水も後ろからついていく。
    「……君も来るのかい、龍水」
    「俺が行かなくてどうするんだ。こういうのは二人で行くもんだぜ」
     歩み寄り、理解し合い、触れ合った先に。待っているのは幸福と安寧だ。診察室で穏やかな老医師から祝いの言葉を貰うまであとほんの少し。これは二人の世界が変わる日の、暖かな昼下がりの一幕。
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