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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    本編後

    千司とモズくん

    #千司
    chiji

    吸いたいものが別にある「司はやんないの、たばこ」
     火のついていない紙巻たばこを人差し指と中指の間に挟み、ゆらゆらさせているモズはずいぶん機嫌が良さそうで、司はスニーカーの紐を結びながら、その様子を微笑ましく見ていた。
    「うん。今日はずいぶんご機嫌だね……何か良いことでもあったのかな?」
    「ふふ、分かる?明日さあ、氷月が久しぶりに来てくれんだって、アイチから!」
     椅子の背もたれに頬をぺたりとくっつけて長い足を左右に広げ、モズは子どものように破顔する。司はスニーカーの紐から顔を上げ、モズの目をまじまじ見つめた。モズは黒目をくりくりさせて司を見つめ返す。この男の人懐っこさ、憎めなさは、生来のものなのだろう。ニッキーに言わせれば「永遠の少年ってやつだね」らしい。
    「……氷月、明日は来れなくなったはずだけど」
    「えっ!」
    「確かいつも留守を任せている、お弟子さんの家庭の事情で……急遽来れなくなったそうだよ。おかしいな。コハクや陽から聞いてない?」
    「……あー、それで、コレ?」
     くるり。たばこを一回転。司はなるほど合点がいったとひそかに頷く。嗅いだことのある匂いだと思っていたが、陽のものだったのか。大方氷月が来ないと知って機嫌が悪くなるモズに絡まれるのが嫌だったのではぐらかし、先延ばしにしたのだろう。モズはモズでまんまと陽に誤魔化されたのだ。二人の関係性に信頼や心安さがある証拠である。司は胸を撫で下ろしながら、話を逸らす。
    「モズは吸わないのかい」
    「氷月がさあ、肺がやられるからやんなって。あーあ、でも吸っちゃおうかなあ、氷月が約束破んのが悪いんだもんね」
    「でも、損するのは君だよ」
    「氷月の悔しい顔見れたら、俺は得だもん」
    「きっと、悲しい顔するよ」
     司が手を伸ばし、モズの手からたばこを奪う。そのまま口にくわえて、立ち上がる。モズも一度他人の……それも男の口に入ったものを取り返そうとは思わないだろう。もちろん、強がりだと分かってはいたが。
    「帰るの」
    「帰るよ。またね」
     部屋を出て、廊下を進む。警察署の裏口から出ると恋人が待っていた。にやりと笑って「浮気か?」と司の口元を指さした。司はたばこをくわえたまま首を振る。
    「ちょっと屈め」
    「ん……」
      千空の目線まで腰を落とすと、案の定たばこを取られる。そうして先程まで司がくわえていた部分に触れるか触れないかのキスをして、司自身の頬にもひとつ、ふたつ、みっつ。
    「口には?」
    「歯磨いてからな」
    「吸ってないってば」
    「どうだかなー?」
    「吸ってない。試してよ」
    「どっちにしろ、家に帰ってからな」
     たばこは千空のかばんのポケットに仕舞われた。空いた手が伸ばされて、司の手を取り指が絡む。ポケットの中のたばこは千空も司もどちらも吸わないのだから、勿体ないけれど帰ったらゴミ箱行きになるだろう。
    「誰から貰ったんだ、こんな悪ぃの」
    「成人してるよ」
    「アスリートにとっちゃ猛毒だろ」
    「吸ってないってば」
    「吸わないものをなんでテメェが咥えてくるんだか」
    「人助けだよ」
    「ふーん」
     歩いて、歩いて、家に向かう。唇をなぞり、千空を見る。
    「あ」
    「どうした?」
    「来週は来るよって言うの、忘れちゃったな」
     千空は不思議そうな顔をしている。司は一度、二度と振り返り、心の中でモズに謝りながら、歩を進めた。司は今、家に帰って早急に恋人とキスをしたいのだ。
    「お前があいつらと仲良く出来てんなら、何よりだよ」
     情欲も友達への気安さも見透かしたように、千空が言う。司はこくんと頷いて、歩く速度をほんの少しだけ、上げた。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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