Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🌼 🌷 🌻 🌹
    POIPOI 79

    ナンデ

    ☆quiet follow

    出所した兄と成長した弟

    お兄ちゃんでした、過去形 オツトメから帰ってきたら、弟がメガネからコンタクトに変えていた。どうして。
    「兄ちゃん、ほら、唐揚げ好きだったろ?小戸川のとこでね、美保ちゃんに教わったんだ、今日はいっぱい揚げるからね」
     四十間近になるまで、刑務所の中で過ごした堅志朗には今現在、幸志朗が職場でどういう立ち位置で、世間様からどう評されているのか知らなかったが、ふたりで住んでいた部屋は引き払われていた。幸志朗は安くも高くもない、単身者の多く住む前の部屋よりも小ぢんまりとしたアパートに一室を借りており、ふたつある内の部屋の一つを寝室として、もう一つをリビングとして使っているようだった。
    「兄ちゃんの荷物はこっちにあるよ。早く部屋決めないとねえ。その前にお仕事か……。あのねえ、タエ子ママが知り合いの会社でお手伝いしてくれないかって言ってくれてるんだ。興信所のスタッフ。ねえ兄ちゃん……」
     唐揚げは肉によく下味がついていて、衣はサクサクで、噛む度に肉汁が出てきた。出来たての飯。大事な弟が自分のために作ってくれた唯一無二の愛情。でもそれは他人の家の味がする、自分のいない間の弟だけの人生から成る味だ。かなしい。くやしい。
    「兄ちゃん。ごめんね、いっぱい喋り過ぎたね。疲れてるのに、すぐ次って出来ないよね。よしよし、お疲れ様。よしよし堅志朗……いい子だね……」
     弟が抱きついて、背中を優しく擦る。近付いてきた顔にメガネはない。どうして?あのメガネは兄ちゃんが選んでやったものだったろう。どうして。コンタクトなんて必要ないだろ。コンタクトじゃ、メガネを探すお前に得意げに「放りっぱなしにするなよ」と鼻を鳴らしながら渡すことも、「ズレてるぞ」と直してやることもできない。
    「今日は俺のベッド使いなよ。明日、お布団買ってくるからね。小戸川が車出してくれるって。兄ちゃんも行くかい、久しぶりにラーメン食べに行こうか?牛丼でもいいよ、あのトンカツ屋さん移転したんだ。店内がキレイになったよ」
     ほろほろ、泣いている。目の前が見えない。弟と違って視力はいいのに。弟は泣いていない。微笑んでる。メガネのない顔は自分によく似てた。……昔の自分によく似てた。今の自分にはどうだろう。今の自分があのメガネをかけたら、他人は自分のことを弟だと思うだろうか。
    「痩せちゃったねえ、がんばったね、兄ちゃん。大丈夫だよ。俺がいるからね。またふたりで、がんばっていこうね」
     背中を擦る手が熱い。堅志朗は何となく、布団は買って貰えても、もうふたりで住む部屋を探す気が弟にはないんだろうな、と思った。仕事も一緒にするよって警察、辞めてくれたりしないんだろうな。兄ちゃんぶってもあの頃みたいに何でもかんでも信じてくれないんだろうな……なんて。本当は大人になる前に、そうなるべきだったんだよって誰かに諭されたかな、ひどいな、自分の弟なのに、自分だけが道しるべのはずだったのに。
    「兄ちゃん、おかえり……」
     堅志朗は泣いてる。帰れない。もう帰れない。あの頃にもう二度と帰れない。幸志朗が抱きついて泣いている。ひとつのたまごで居たかったのに、ふたりになってしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭💯💘😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
    1740

    recommended works