Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🐣 🐴 🐬 🐐
    POIPOI 84

    ナンデ

    ☆quiet follow

    #山市
    yamashiro

    私の彼氏は餃子を焼いてる 餃子を包む間、子どもは彼氏が面倒見てくれる。
    「また餃子?買ったほうが安いだろ、早いし」
    「キャベツまたもらったんだもん。ひき肉も安かったし」
    「また?隣のばあさん?」
    「そう。趣味でね、畑やってるんだって。いいなあ、そういうの」
     市村は言いながらも手を止めない。手元のボウルから餃子餡をスプーンですくう。すくった餡は皮にのせる。スーパーで50枚158円の餃子皮。特別モチモチもしてないし、パリッと焼けるようにもなってない、普通の餃子の皮。
    「ああーん、ああーーん」
    「ほら、山本さん。泣いてるよ」
    「あ、ああ。ほら……どうしたぁ?ママかぁ?ママにタッチ交代するかぁ?」
    「ダメ。ママは今餃子包んでるから」
     スタンダードな包み方だと破れてしまうから、半分に折って、端と端を持ってくるりと丸めて止めるだけの帽子型。これなら大して技術もいらないし、50枚包む間に子どもがオムツを濡らしても待たせないで済む。何しろ市村の彼氏は、子どものお守りと言ったら下手くそな抱き方でオロオロしながら揺れて、赤ちゃん言葉であやすことしか出来ないし、する気もないのだ。ましてやオムツ替えなんて「無理」の一言だ。汚い。人の排泄物に触るなんて無理。市村はそれを聞く度に、でもこの子って素は山本さんがいつもおしっこ出すとこと、同じところから出てるんだけど、と思う。思っても言わない。機嫌が悪くなるから。
    「そういえば、お義母さんからの電話なんだった?」
    「んー?いつも通りだよ。早く籍入れろって。子どものためにならないからって」
    「ふうん……」
    「入れたほうが子どものためにならないよねえ。山本さん前科あるんだからさー」
     ボウルいっぱいの餃子餡がすくっては包まれすくっては包まれ、どんどん減っていく。元手ゼロの貰い物のキャベツたっぷりで、ひき肉はちょっぴりだけの節約餃子だ。山本は市販品のが安くて美味いというが、そんなことはない。今日作った分は冷凍しておいて、三食分にはするんだから、こっちのほうがよっぽど安上がりだ。愛情だってつまってるし。
    「あと二人目早くって」
    「は?」
    「歳の近い兄弟がいるほうが良いんだって。しほだってさみしくなかったでしょ、一人なんてかわいそうよって」
    「はあ……なんていうか、変わらないな」
    「ぜんっぜん。本当に、嫌んなるくらい」
     最後のほうはいつも餡が余る。仕方が無いのでそのまま丸めて焼いて、山本の弁当にハンバーグとして入れる。山本は嫌そうにするけど、文句は言わない。ていうか、言えない。
    「たくさんのほうが、さみしかったのにね」
     皿いっぱいに餃子が出来る。振り向くと、市村の彼氏は困ったように眉を下げてる。そこにはもう敏腕気取ったアイドルマネージャーの顔も、テレビで報道されてた殺人事件の容疑者としての顔も、出所したての時の情けないおじさんの顔もない。毎日市村の作る料理を食べて、子どもを抱いて揺らしてパパぶって、雀の涙みたいな稼ぎをほんの少しだけ市村に渡す、情けない彼氏の顔しかない。もうこの男の人生に、二階堂ルイも三矢ユキもいない。市村しほだけがいる。
    「出来たよ。山本さん、焼いてよ」
    「お、おう」
     手を洗って、子どもを受け取る。しほは子どものお腹に顔を埋める。ふわふわの肌、ほわほわの産毛、この世の幸せを詰めて作ったみたいな生き物はミルクの香りがする。山本がこっちを向いてないのを確認して、今度は自分の手の平に鼻をつけて匂いを嗅ぐ。ハンドソープの匂いと、落としきれなかったニンニクの匂い。
    「ふふっ」
    「ん?なんか言ったか?」
    「んーん、なんでもない」
     それは地獄の先に待ってた、幸せの匂いにふさわしい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭❤❤💯💞💞😍☺💴💴❤💖😍😭💜💕💞💗💙💚
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンデ

    DOODLEアレルノ 通常END後
    貴方の為に生まれた、これは運命 生まれは変えられない。ルノーは自分の生まれた家柄にも、立場にも何の不満も有りはしなかったが、それでも自分の生まれからくる宿命と憧れからくる仄かな夢とを天秤にかけて、夢を諦めたことがある。
    「ルノー、ありがとう。俺を信じてくれて……」
     戴冠式が終わって、夜。熱気の冷めない城下町と違って、グランコリヌの城にあるアレインの部屋にはしんとした夜の空気が満ち満ちていた。ルノーはベッドに腰掛けるアレインの頂きに窓から差し込む月明かりが反射して、天然の王冠のような煌めく輪があるのを、立ち尽くしたまま、見ていた。
    「アレイン陛下……」
     アレインの部屋、とは、呼ばれの通り、彼の自室であった。急遽運び込まれたキングサイズの天蓋付きのベッド以外は、アレインがこの城から去った日のまま、子どもサイズの椅子や、勉強机などが放置されていた。埃は、積もってなかったのだと言う。何も減ったり、増えたりしても居なかったらしい。それはガレリウスの中にいたイレニアが、存在を奪われて尚、最愛の息子の帰る場所を護り続けたのか、それともガレリウスがグランコリヌ城自体にはなんの執着もなく、維持を侍女たちに任せきりにしていたのか。今となっては、もう知る術もない。ガレリウスはアレインが討ち倒し、その過程でイレニアは魂だけではなく、姿形をもこの世から失くした。
    1878

    ナンデ

    DOODLE手放したことなんてなかったよ

    前世記憶有り・現代世界転生・年齢逆転のアレルノ
    呟いたものをふわっと小説にしたふわっとした小話なのでふわっと読んでください。ふわふわ。
    千年隣に居させて欲しい、貴方の蒼と魂の ルノーの未練は永くアレインを独りにしたことだった。未練は後悔と混ざりあって執念に変わる。生きていた頃と同じように、ルノーの魂は熱く燃えて、魔法ではなく科学が蔓延り、馬ではなく低燃費軽自動車が走り回る世界に生まれる時に「今度こそ、あの方を置いていきたくない」と大層踏ん張った。その結果が、これだ。
    「ルノー……久しぶり」
    「陛下……」
    「はは、良かった。覚えていてくれたんだな。……もう陛下じゃないし、殿下でもないけど」
     いたずらっ子のように微笑む、かつての恋人は見るからに上等のスーツを着ていた。薄青のシャツに、あの紋章を思わせる濃い青のネクタイをしめている。目元には少し皺が寄っていた。慣れた着こなしと落ち着いた表情は、大人の男そのものだった。問題は、ルノーが着ているのが学生服だと言うことだ。県内でも有数の進学校の創立当初から変わらないレトロな学ランに、夏休み明けに新調したスニーカー。抱えているのは教科書が詰まったナイロンリュックで、これは高校入学の祝いに祖父母に買って貰ってから一年半と少し、大事に使っているものだった。
    5267

    related works

    ナンデ

    DOODLE
    私の彼氏は餃子を焼いてる 餃子を包む間、子どもは彼氏が面倒見てくれる。
    「また餃子?買ったほうが安いだろ、早いし」
    「キャベツまたもらったんだもん。ひき肉も安かったし」
    「また?隣のばあさん?」
    「そう。趣味でね、畑やってるんだって。いいなあ、そういうの」
     市村は言いながらも手を止めない。手元のボウルから餃子餡をスプーンですくう。すくった餡は皮にのせる。スーパーで50枚158円の餃子皮。特別モチモチもしてないし、パリッと焼けるようにもなってない、普通の餃子の皮。
    「ああーん、ああーーん」
    「ほら、山本さん。泣いてるよ」
    「あ、ああ。ほら……どうしたぁ?ママかぁ?ママにタッチ交代するかぁ?」
    「ダメ。ママは今餃子包んでるから」
     スタンダードな包み方だと破れてしまうから、半分に折って、端と端を持ってくるりと丸めて止めるだけの帽子型。これなら大して技術もいらないし、50枚包む間に子どもがオムツを濡らしても待たせないで済む。何しろ市村の彼氏は、子どものお守りと言ったら下手くそな抱き方でオロオロしながら揺れて、赤ちゃん言葉であやすことしか出来ないし、する気もないのだ。ましてやオムツ替えなんて「無理」の一言だ。汚い。人の排泄物に触るなんて無理。市村はそれを聞く度に、でもこの子って素は山本さんがいつもおしっこ出すとこと、同じところから出てるんだけど、と思う。思っても言わない。機嫌が悪くなるから。
    1518

    recommended works